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リーングラードの学び舎より  作者: いえこけい
第四章
229/374

放っておけない赤いミスティ

 先代赤鉄位、【狂える赤鉄】アルベルタ・サヴァルシュバルツ。


 自分が確殺した相手です。

 それはもう、圧倒的に、蘇る手段があったとしても決して蘇ることがないくらい、微塵に砕いて殺しきりました。


 アレの悪行は【十年地獄】の中でも異彩を放ち、もっとも悪意を感じさせる制作物は【イコンの子供たち】――今ではサヴァルシュバルツの【遺恨児】と呼ばれている子供です。


 サヴァルシュバルツの遺恨児。


 【十年地獄】の中で、とある凄惨な殺戮がありました。

 革命軍の一部隊が全てペースト状になるほど刻まれ、すり潰され、まき散らされた事件。

 たった十人の子供たちによる犯行と知った者は己の頭を疑いました。自分もその一人です。

 皆、右腕に印が刻まれており、そこから【イコンの子供たち】と呼ばれていました。


 子供たちは脅威の戦闘能力をもって、革命軍を切り崩していきました。

 悪夢めいた術式に子供とは思えない膂力。

 感情を無くしたような赤い瞳は無垢という悪意を見るものに刻みこみました。物理的にも刻みました。


 包囲と各個撃破によってようやく子供たちの進軍を止められたものの、その結末は無残で残酷でした。

 誰一人として助からなかったうえに――


「先生?」


 ――牛車に乗った自分。

 マウリィ君が御者の位置と並んで歩いてきました。


「どうかしましたか? 何か不審なものでも見つけましたか?」


 夕暮れの森は薄暗いのでフロウ・プリムで周囲を照らしながらの行程です。

 行きは荷台に乗っていたセロ君とティルレッタ君は歩いています。


 あのままだと石材が載り切れなかったので、さらに八分割して一つ一つ積み上げていきました。

 ロープで石材を荷台に固定し、あとは牽引だけでした。

 懸念なんてなかったようにヤグーたちがらくらくと荷台を引いた時は少しホッとしました。


 これで馬の貸出だけではなく牛車の貸出も視野に入れられそうです。


「そろそろ学園に着きます」

「そうですね。あともう少しですから皆も油断しないように」

「……はい」


 自分と生徒たちは帰り道にいました。


 聞きたいことは聞き終えたのでニンブルは遠くへ放り投げておきました。

 色々と腹も立ちましたが、それ以上に話の弾みで生徒たちにアルベルタの名前を聞かせたくなかったからです。


 黒いのが自分にとって最強の怨敵であるのなら。

 アルベルタは最悪の怨敵でした。


「やっぱり先生、疲れているみたい……」

「問題ないと思う」

「だって、あの変な動物と話できるみたいなことは大体、わかったけど」


 特にあの女の残したものは生徒たちの毒にしかなりません。

 興味を持ってしまったら、どうしようもありません。

 押さえつけるのも何か違うでしょうし、教えないようするのも限界があります。

 やはり教えないのが一番なのでしょう。


「だったら問題ない」

「だって、段々と深刻そうな顔するんだよ? 動物相手なのに」


 しかし、教育とは教えることです。

 時には都合の悪いことすら教えなければなりません。

 たとえ悪いものでも正しく教えるべきだと分かっています。反面教師的な方法で。

 どうするべきか、杞憂かもしれませんがもどかしささえ感じます。


「違うのですっ。せんせいはおかしくないのですっ」

「おかしくなったまで言ってないと思うよ、セロちゃん」


 正直、自分はアルベルタのことを生徒に教えたくありません。

 あんなヤツの真似をする生徒なんていないと思っていますが、それでもです。


「そう、先生が動物と話すのはいつものこと」

「そうなのですっ。だからおかしくないのですっ」


 ドちくしょう……、真面目に生徒の心配もできないのですか。


 なんで自分は生徒たちに大真面目に心配されているんですか。

 しかも心配ないと説得に回ったエリエス君とセロ君の台詞だってもっとマシなものがあるでしょうに。


「ウルプールとも会話してた。最近だとモフモフとも話している。以上のことを考えると――」

「考えると?」

「先生は動物と話す力がある」

「本当ですか! ヨシュアン大先生!」


 初耳ですよ。

 どこぞの心がキレイな乙女が持っているような特殊な感じの技能なんて法国にだってありませんよ。

 あったら驚きですよ。


 いえ、可能性だけを考慮するとそうした【神話級】保有者がいてそうで怖いですね。


「そんなわけありません。少し考え事をしていただけです。先生はこれでも三日三晩、徹夜で野山を駆けて敵軍の追撃をしたこともありますからね。多少の疲れではどうってことありません」

「その話を是非! 詳しく!」


 食いついてきたのはフリド君だけでした。

 女子たちは『ふーん?』という感じでしたね。君たち、そういうのに冷たくありませんか?


「先生は動物と話せませんからね、エリエス君」

「疑わしいです」


 真正面から疑われました。


「動物の声なんて聞こえたら晩ご飯の支度なんてできませんよ。鶏やら豚やらを捌くんですから」

「先生なら悲鳴を聞いても処理できます」


 その信用が理屈に痛いです。

 できますよ、できますけどね?

 概ねエリエス君の言うとおり、悲鳴の中でもご飯を食べるくらいやってのけないと戦えませんしね。


「【神話級】保有者について一度、授業で話をしたと思いますが」

「聞いたことないです」

「ボクもないです」

「俺もありません!」


 あれ? マウリィ君とティッド君とフリド君のクラスでは話しませんでしたっけ?


「あります」

「ありますのです」

「うふふ……」


 ティルレッタ君はせめてあるのかないのかくらい、ハッキリして欲しいところです。


「もしかして先生はクラスで別の話をしていませんか?」


 エリエス君の推測は当たりでした。

 たしかにクラスで別の話をしています。ただし授業内容が違うとか貶めようとか、そんな意味はないんですよ。


 違います。ちょっと言い訳させてください。

 授業をしていると生徒たちに合わせなければいけない部分があったりするんですよ。


 例えばフリド君のクラスは術学の成績があまり振るわなかったのですが、ヨシュアンクラスとピットラットクラスは高かったりして個人差、クラス差があります。

 で、学習要綱という上限が決められている以上、そこそこクラス間で足並みを揃えていかないとならないんです。

 

 だから進みの早いクラスはその……、時間調整もありまして。


 決してエコヒイキしているわけじゃないんですよ? 本当です。


「【神話級】保有者というのはですね。【戦略級】【戦術級】【上級】【下級】、どの等級にも属さない特殊な力を持つ人のことです。【神話級】でしか再現できないような力を術式に頼らず、一つだけ保有しているんですね。例えば未来予知や気配遮断、人の心を読むなどの不思議な力です。代わりに【神話級】保有者は術式を使えません。なぜなら本来、陣を保有するための許容量が【神話級】の力によって埋められているから、と考えられているのが定説です」

「そんなことより、ヨシュアンクラスだけそういう話をしてるんですかー?」


 マウリィ君が下から覗きこむように窺ってきました。


 今の自分に説得力がない証拠です。


「もちろん、たまたま座学の進み具合が良かったり良くなかったり、色々と、ね。あるんですよ。でも良かった、良かった。こうして一つ、知識が増えましたね」

「本当ですかー?」

「え、えぇ、もちろん。ただこうした話は流れもありますからね。話す機会や時間というものもあります。先生はちゃんと皆に対して平等な教育を行なっているつもりです」

「……ふ~ん」


 マウリィ君の疑いの瞳が痛いです。


「本当ですよ? ピットラットクラスにもしていると思うので今度、聞いてみてください。あー、そろそろ森を抜けますよ。最後まで緊張感を維持しましょう」


 指を森の出口に向けるとマウリィ君もそれ以上は追求してきませんでした。


 少し、安堵して御者台にもたれました。


 あまり、こうした不平等な部分は生徒に見せてはいけません。

 いえ、不平等は当たり前なんです。


 貴族社会なんですから平等なんてありません。

 学園の中だけが特殊で不思議な平等がはびこっています。

 当然、それは自分たちが――自分やバカ王、そしてベルベールさんが企てた陰謀です。


 こうしてヤグーが乳を出し、荷台を牽引する家畜のように。

 貴族の下に平民が居て、平民は家畜を使って畑を耕す。

 なのにそんな仕組みを壊して、均してまで平等を課すのはやはり、これからのためなのでしょう。


 自分の貴族嫌いは否定しません。

 できれば全員、殺してやりたいところですが、そんなことしても同じように社会は作り直されるでしょう。

 もしも本当に変えようと思うのなら、思わせなければなりません。


 実体験し、試行錯誤し、思いやり、尊重し合う同士にならなければなりません。


 たったの一年でも、かりそめの平等意識を持ち、貴族は平民の気持ちを理解し、平民は貴族の教育と共に苦労を知る。


 そんな夢のような学び舎の中で、外を思い出すような行為は平等を思わせる行為から離れています。


 まぁ、どんな社会体制でも不平等はありますけど。

 ここではそうあって欲しい、それだけです。


 そんな企みとは別の理由に、教え子なのですから全員に教えていきたいという気持ちもあります。

 だからこそアルベルタの悪夢なんてものには触れさせたくないわけです。


 一人に教えると、全員に教えるという選択肢がつきまといます。


「帰ったら石材を【室内運動場】の隣に置いて、そこで生徒会は終了です。護衛依頼はそれぞれに七pです。今月から生徒会の月間優秀賞が実施されます。この四日で稼げるのなら稼いでおくと良いですよ。何せまとまって遠出できるのはこの四日か、参礼日くらいしかありません」


 今回の護衛依頼は戦闘が予想されながらも確実ではない、という理由で通常の採取や採掘のポイントより多く、討伐より少ない数字が妥当だとシャルティア先生の意見でした。


 自分も反対意見はありませんし、妥当な数字だと思います。


 つつがなく学園に戻り、牛車を【室内運動場】の隣に置くと石材を移す作業に入ります。


 フリド君の頑張りが大きかったですね。

 フリド君以外は強化術式でなんとか石材を動かせていましたが……、ティルレッタ君とセロ君だけは危なかしくって何度かハラハラしました。


「強化術式を使えば女性でも重労働もできるのですね!」


 額に汗を流したフリド君は目からウロコといった顔で言ってますが、先生、授業で言いましたよ?


「元々、術式のほとんどが施工業や土木作業などに使われることが多いと話したと思います。強化術式がもっとも使われているのが土木作業なんですよ」

「それじゃぁ、土木作業から強化術式が生まれたんですか?」


 ティッド君の素朴な疑問はなかなか良い勘違いです。


「いいえ。術式が生まれるのはいつだって研究施設です。もしくは在野で個人研究に没頭している引きこもりですね。生まれる場所とよく使われる場所は違います。土木作業に役立つように作られた術式を戦闘用にしたものが今、君たちが覚えている強化術式です。なので大元を辿れば確かにティッド君の言うとおりですが、その戦闘用の強化術式への変化、進化はやはり戦場なのです」

「えっと……、使い方が変わるから術式も変わった、ということですか?」

「えぇ。そうした変化を長い目で見れば歴史といい、どんなものも最初の一本から複雑化していくんです。状況にあわせてね。さて、そろそろ終わりですね」


 石材をあらかた置いたら生徒たちを並べ、一人ずつ依頼達成のサインを入れていきます。


「知っていると思いますが達成証はシェスタさんに持って行ってくださいね」


 今までは担当教師が予算から報酬を渡していましたが今は事務員のシェスタさんがいますからね。

 そうした雑務はシェスタさんが担当してくれています。


 おかげで自分も雑務から開放されてやりやすくなりました。


「あの! ヨシュアン大先生!」


 ぞろぞろと職員室に向かおうとした皆と違い、フリド君は自分の前で直立していました。


「このあと、お暇でしたら是非、ふがいない俺に剣術の稽古を――ぬわ!?」


 ハキハキと喋りながらお願いし始めたフリド君が急に足を抱え、痛みに堪えていました。

 いや、何故かなんて見ればわかるんですがね。


「えー、何故、いきなりフリド君に制裁を加えているのですかエリエス君」


 ちょうど膝の皿あたりを細い足で蹴ったのはエリエス君でした。痛そうなところを……。


「フリドはバカ」

「な――!? エリエス嬢! 蹴っただけでは飽き足らず暴言まで! 一体、なんのつもりなのだ!」

「筋肉バカ」

「ほ、褒めても詰問は変わらんぞ!」


 どうしましょうか。

 自分はエリエス君の凶行よりも『筋肉バカ』と呼ばれて褒めていると変換されるフリド君の頭の方が心配です。

 順調にヘグマントに毒されているんじゃありませんよ。


「先生。鍵をください」

「え、えぇ。特訓でしたね」


 小さな手のひらに鍵を置くと何故かセロ君とマウリィ君に目配せして、学び舎へと小走りで入っていきました。

 ティルレッタ君もふわふわと三人の後をついていきました。


 残された自分とフリド君、そしてティッド君はきっと共通して謎に支配されていました。

 狐につままれる、とはこんな気分なんでしょうね。


「……先生、俺は何か悪いことをしましたか?」

「見た感じ、特に何かしたようには見えませんでしたよ」

「フリドくん、エリエスさんに何か意地悪したの?」

「侮るなよティッド! ちゃんとピットラット先生に教えていただいたように女性への気配りは忘れたつもりはない!」


 ティッド君とフリド君はお互い、首を捻っていました。

 少し考え、答えらしきものに到達しました。


「おそらくエリエス君の『眼』の特訓でしょうね。ここでフリド君の剣術を特訓するとその分、エリエス君の帰宅時間が遅くなります。女の子を夜道、一人歩きさせるわけにもいきません。当然、自分が付き添うことになりますが、そうした配慮を考えたのかもしれませんね」

「……そうでしたか。すみません! 俺がわがままを言ったばっかりに!」

「いえ、フリド君が悪いという話ではありません。強くなりたいのはわかっています。これはエリエス君に非があります。後でちゃんと言っておくので許してあげてくださいね」

「はい!」

「……先生のそういうところがセロちゃん、好きなのかな?」


 ぼそりと呟くティッド君。

 その呟きはひどく大きく響きました。

 というか頭で考えていることは口に出ていますね。


「まずどの好きかをセロ君の様子から理解すべきですね。少なくともセロ君は先生を男女の好きで考えているように見えません」

「……うぇ!? ど、どうして先生がボクの頭の中のことを!」


 この子もうっかりというか、隙だらけというか。

 アレフレットみたいにわかりやすいですね。


「口に出していましたよ」


 顔を真っ赤にしてあたふたしても後の祭りですから。


「あの子は両親がいませんからね。男親というものに興味があるのでしょう。だからといってティッド君がそう振舞う必要はありません。親に恋心は抱かないでしょう? それと同じことです」

「……は、はい」

「今日は緑の生物からちゃんとセロ君を守ろうとしていましたね。偉いですよ。ですが、もう少し全体を考えてからセロ君を守る方法もあったと思います。陣形が崩されていたので乱戦気味でしたがセロ君はタンカーで物理結界が使えます。本当に守りたいのなら君だけの力でセロ君を守ろうとしないことです。セロ君にも守ってもらう形をちゃんと頭に入れておくのも一つです。一方的に守られても、どうでしょうね。もしかしたら心苦しいのかもしれません」


 消え入りそうなところ申し訳ないのですが、先生、まだ仕事が残っています。

 あまり時間をかけてはいられません。


「えー、先生はこのまま学園長に報告にいきますがフリド君とティッド君。悪いのですが牛車を牧場主さんに返してきてもらっていいですか? お駄賃をあげますから」

「え、あ、はい! もちろんです!」

「は、はい、大丈夫です」


 フリド君とティッド君は二人で頷いてくれました。


「それと明日も依頼を出します。次の依頼は入浴場の建設作業の手伝いです。力のある子や建築に強い子がいれば教えてあげてください。できればフリド君にはもう一度、参加してほしいですね」

「はい! 喜んで!」


 ヘグマントの教育は本当、何気ない一言にまで染み渡っていますね。

 銅貨を二枚、フリド君とティッド君に渡して、自分も学び舎に入りました。


 学園長室に入り、真っ先に報告したのは魔獣に遭遇したことについてです。


 さすがに生徒の相手に魔獣は厳しすぎました。

 少なくとも魔獣対策に内源素強化を教えていない段階で戦わせるわけにもいきません。


 これを術学でやるか、体育でやるかで授業内容も変わります。


「現状、強化術式の項目まで進めている自分が教えるのが得策だと思います。ヘグマント先生は騎芸の授業の段取りで苦心しているようですから」

「ヨシュアン先生も色々と大変でしょう。良いのですか?」

「……『水車を腐らせる』よりマシだと思いこみます」


 バナビー・ベイターの話に水車が動かないという珍事がありました。

 オチだけ言うと水車が動かないのは回転軸が腐っていたからで、その原因はバナビーだった、というお話です。

 自業自得、あるいは身から出た錆、という訓戒ですね。


「ところで学園長。この学園の基礎部分を作ったのはもしかしてアルベルタですか」

「えぇ。手つかずで放置してあったそうですよ。機材も何もない、ただの空き部屋しかなかったようですが」


 やはり学園長は知っていましたか。

 アルベルタがリーングラードに訪れていて、なおかつこの場に何者かが建てた建造物があった。

 となれば必然、アルベルタが作ったと考えるのが自然です。


「……隠し扉みたいなものはなかったんですか?」

「そうした類があったとしても危険しかない瓶詰めをわざわざ開けますか?」


 あったとしても埋めた、というところでしょう。

 あるいはなかったか。

 どちらにしてもアルベルタはリーングラードから手を引いているように思えます。


 あの狂人が手を引くほどの理由がここにあったと考えるのは、無理な推測でしょうか?

 なんにせよ情報不足です。


「報告は以上です。明日は入浴場の建設にかかろうと思います」

「えぇ。生徒たちに危険がないようにくれぐれも配慮を忘れないようにお願いしますね」


 ここで自分はあえて学園長に報告していないことがありました。


 そう、あの【囁くラタトスク】のことです。


 きっとアレらは学園とは関係ないものです。

 自分にだけ関係するものでしょう。そんな予感があります。


 しかし、あのニンブルが乗り移った緑の生き物。

 仮に長老と呼んでおきましょうか。


 あの長老、結局、大事なことだけは言いませんでしたね。


 【旅人】がなんであるかなど自分には関係のない話です。

 アルベルタと自分が同じ故郷を持っていたかなんてこともどうでもいい話です。


 問題は【旅人】であったら何故、重要視されるかです。


 懐かしいだけでは理由になりません。

 見ただけでわかるなんて言葉は原因としては二流です。


 あきらかにポルルン・ポッカは何かに期待しています。

 あきらかにモフモフは何かから自分を守ろうとしています。

 そして、あきらかに長老は何かを気づかそうと口を開きました。


 【旅人】である自分に、【旅人】である以上の何かを求めているのです。


 学園長室を出て、学び舎から冒険者の詰所に寄るとメルサラが椅子にもたれ、大口を開けて寝ていました。


「お前の先代のことだっていうのに……」


 寝ているメルサラに向けて、つい恨めしく言ってしまいました。

 メルサラにも因縁くらい、あるかもしれませんね。


 先代赤鉄位アルベルタ。

 死んでもなお傍迷惑なヤツです。死ねばよかったのに……、て、殺したのは自分ですが。


 ノンキなメルサラは放置したまま、ジルさんに魔獣の目撃と対策を考えてもらい、あとは帰宅するだけになりました。


 夕暮れと夜が混じった微妙な時間。

 誰も寄せつけず、星を一部を隠して浮く天上大陸。


 【旅人】が目指す場所。

 しかし、今はまだ届かない場所です。

 もしかすると歴代の誰も届かなかった場所かもしれません。


 薄暗い道を自分は一人、歩いて帰りました。


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