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エクストラバレット  作者: ほむら
1章 エクストラバレット

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第86話 観客達

静寂は、一瞬だった。


 巨大なスクリーンを埋め尽くしていた島の映像が、同時に暗転する。


 森。


 廃屋。


 海岸。


 参加者たちを追い続けていた無数の映像が、一つ、また一つと消えていった。


 最後まで残っていたのは、C-01で意識を失った佳子と黒田。


 そして別の画面に映る、蓮、詩織、葵。


 五人の姿だった。


 やがて。


 それらも消える。


 黒一色になった巨大スクリーンを前に、観客席がざわめいた。


「終わった……?」


「五人か?」


「五人残ったぞ」


「相馬は駄目だったのかよ……」


「最後に水野が撃つとはな」


「神谷、生き残りやがった」


 あちこちから声が飛ぶ。


 まだ結果は表示されていない。


 それでも、すでに端末を操作している者がいる。


 誰にいくら賭けたのか。


 どの条件へ金を入れたのか。


 最終的な払い戻しはいくらになるのか。


 ほんの少し前まで。


 画面の向こうでは人が死んでいた。


 それなのに。


 ここには血の臭いなどない。


 痛みに呻く声もない。


 あるのは。


 酒の残ったグラス。


 座り心地のいい椅子。


 そして。


 結果を待つ者たちの熱だけだった。


 不意に。


 会場の照明が僅かに落ちた。


 ざわめきが小さくなる。


 中央スクリーンに白い文字が浮かび上がった。


《EXTRA BULLET》


《FINAL RESULT》


 歓声が上がる。


「来たぞ!」


「結果だ!」


「早く出せ!」


 画面が切り替わる。


 最初に現れた文字は。


《GAME CLEAR》


 その下に。


 一人目の名前が表示された。


《PLAYER 01》


《神谷 蓮》


「よっしゃあ!」


 どこかで男が立ち上がった。


「神谷残った! 神谷だ!」


「マジかよ……あそこから生き残ったのか」


「こいつ最後まで首輪ついてただろ?」


「倍率どうなってる!?」


 次。


《PLAYER 05》


《夢篠 佳子》


 別の一角から歓声。


「間に合った!」


「最後危なかったな!」


「あと少し遅かったら終わってたぞ!」


「あれで首輪外すか!」


 佳子が両手を撃たれ。


 黒田とともにC-01へ走り。


 最後の最後で首輪を外した。


 その姿を。


 ここにいる者たちは。


 最初から最後まで見ていた。


 だが。


 誰も彼女の痛みを語らない。


 語られるのは。


 結果。


 確率。


 そして金。


 三人目。


《PLAYER 08》


《水野 葵》


 ざわめきが広がる。


「水野も残ったか」


「相馬を落としたのが大きかったな」


「最後まで分からなかったな、こいつ」


「俺、水野にも入れてるぞ」


 四人目。


《PLAYER 09》


《黒田 修司》


「やっぱり黒田は残ったな」


「堅かったな」


「最後まで死ななかったか」


「夢篠まで連れていったからな」


 そして。


 五人目。


《PLAYER 12》


《七瀬 詩織》


 一瞬。


 観客席の反応が変わった。


「七瀬……生きてる判定なのか?」


「首輪は外れてたからな」


「あの傷で?」


「帰還処理までは通ったってことだろ」


「その後は知らん」


 その言葉に。


 誰かが笑った。


 詩織がこの先どうなるのか。


 歩けるのか。


 元の生活へ戻れるのか。


 そんなことは。


 この場所では。


 大した問題ではないらしい。


 五人の名前が並ぶ。


《GAME CLEAR》


《PLAYER 01 神谷 蓮》


《PLAYER 05 夢篠 佳子》


《PLAYER 08 水野 葵》


《PLAYER 09 黒田 修司》


《PLAYER 12 七瀬 詩織》


 そして。


 画面が切り替わった。


《GAME OVER》


 空気が。


 少しだけ変わる。


 だが。


 悲しみではない。


 賭けが外れた者たちの。


 落胆だった。


《PLAYER 02 相馬 直人》


「くそっ!」


 一人の男がテーブルを叩いた。


「相馬に入れてたんだぞ!」


「惜しかったな」


「あと少しだったのに!」


 次。


《PLAYER 03 高橋 健吾》


《GAME OVER》


《PLAYER 04 桐谷 真由》


《GAME OVER》


《PLAYER 06 藤堂 蓮司》


《GAME OVER》


《PLAYER 07 白石 悠真》


《GAME OVER》


 名前が増えていく。


 すでに死んでいる人間たち。


 それでも。


 ここでは。


 一つの結果として処理されていく。


《PLAYER 10 橘 美月》


《GAME OVER》


「橘も駄目だったか」


「途中までは良かったんだけどな」


「夢篠を逃がしたところで終わっただろ」


「自分が残る方を選んだ時点でな」


 次。


《PLAYER 11 三浦 和也》


《GAME OVER》


 そして。


《PLAYER 13 神崎 莉奈》


《GAME OVER》


 その名前が出た時。


 会場のあちこちで。


 声が上がった。


「莉奈まで落ちたか」


「最後まで残ると思ったんだけどな」


「神谷が絡んでから変わったな」


「いや、あれが面白かったんだろ」


「七瀬を撃ったところ、最高だったじゃないか」


 笑い声。


 感想。


 興奮。


 誰一人。


 莉奈が最後に何を思って死んだのかなど。


 知ろうとはしない。


 次。


《PLAYER 14 佐伯 美咲》


《GAME OVER》


 そして。


 最後。


《PLAYER 15 古瀬 聡子》


《GAME OVER》


 十五人。


 すべての結果が確定する。


 巨大スクリーンが切り替わった。


 左右。


 二つに分かれる。


《GAME CLEAR》


《PLAYER 01 神谷 蓮》

《PLAYER 05 夢篠 佳子》

《PLAYER 08 水野 葵》

《PLAYER 09 黒田 修司》

《PLAYER 12 七瀬 詩織》


 その隣。


《GAME OVER》


《PLAYER 02 相馬 直人》

《PLAYER 03 高橋 健吾》

《PLAYER 04 桐谷 真由》

《PLAYER 06 藤堂 蓮司》

《PLAYER 07 白石 悠真》

《PLAYER 10 橘 美月》

《PLAYER 11 三浦 和也》

《PLAYER 13 神崎 莉奈》

《PLAYER 14 佐伯 美咲》

《PLAYER 15 古瀬 聡子》


 五人。


 そして。


 十人。


 たったそれだけの表示だった。


 誰が誰を守ったのか。


 誰が誰を殺したのか。


 誰が最後まで生きようとしたのか。


 誰が何を後悔したのか。


 そんなものは。


 結果画面には残らない。


 生き残ったか。


 それとも。


 終わったか。


 ただ。


 それだけだった。


 やがて。


 会場に柔らかな音楽が流れ始める。


 あまりにも穏やかな曲だった。


 続いて。


 天井付近のスピーカーから。


 落ち着いた声が響いた。


『皆様、長時間にわたるご観戦、誠にお疲れ様でした』


 観客たちがスクリーンを見る。


『以上をもちまして、今回のEXTRA BULLETは全行程を終了いたしました』


 拍手が起きた。


 最初はまばらに。


 やがて。


 会場全体へ広がっていく。


『最終結果の確定に伴い、ただいまより各種賭け金の集計および配当処理を開始いたします』


 いくつもの端末が一斉に点灯する。


『配当金の分配まで、今しばらくお待ちください』


「よし」


「いくら戻る?」


「神谷で相当つくぞ」


「俺は黒田が残ったからプラスだ」


「相馬で全部飛んだよ」


「次で取り返せばいい」


 笑い声が上がる。


 グラスが鳴る。


 席を立つ者。


 端末を覗き込む者。


 興奮したまま仲間と結果を語り合う者。


 彼らにとって。


 終わったのは。


 十五人の人生を狂わせた殺し合いではない。


 一つの催し。


 一つの賭け。


 一つの娯楽だった。


 巨大スクリーンの表示が。


 ゆっくりと消えていく。


 最後に。


 一つだけ。


 文字が残った。


《EXTRA BULLET》


《GAME COMPLETE》


 そして。


 その文字さえ消えた。


 島で流れた血も。


 死んだ者たちの声も。


 何もなかったかのように。


 会場ではすでに。


 配当金の話が始まっていた。

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