↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エクストラバレット  作者: ほむら
1章 エクストラバレット

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

86/176

第85話 ゲーム終了

最後の一歩を踏み出した。


 黒田と佳子。


 二人の身体が、ほとんど同時に境界を越える。


「――っ!」


 佳子は勢いを殺せず、数歩よろめいた。


 両手を撃たれているせいで、咄嗟に身体を支えることもできない。


「佳子!」


 黒田が腕を掴む。


 どうにか転倒を免れた佳子は、肩を大きく上下させながら顔を上げた。


「ここ……?」


「ああ」


 黒田も荒い息を吐きながら、佳子の端末へ目を落とす。


 地図上。


 二人の現在地は――C-01。


「着いたぞ」


「……ほんと?」


「ああ。C-01だ」


「間に合った……」


 佳子の顔から緊張が抜けかけた。


 その時。


 端末の画面が切り替わった。


《規定の条件を達成しました》


 佳子の目が見開かれる。


 続けて。


《首輪の解除が可能です》


「……達成した」


 震える声。


「黒田さん……!」


「ああ」


「達成したよ!」


「ああ!」


 黒田も頷く。


 だが。


 次の瞬間。


 二人は同時に気づいた。


 佳子の首には。


 まだ黒い首輪がある。


「……待って」


 佳子の表情が凍りつく。


「首輪……」


 黒田も見る。


 外れていない。


 条件を達成しただけだ。


 このゲームで首輪を外すには。


 条件達成後。


 自分の端末を首輪へ読み込ませなければならない。


 そして。


 ゲーム終了時刻までに首輪が外れていなければ――。


「黒田さん!」


「分かってる!」


 黒田が佳子の端末を持ち直す。


 佳子にはできない。


 両手を撃たれている。


 指を動かすだけでも激痛が走る。


「首、こっち向けろ!」


「うん!」


 佳子が身体を傾ける。


 黒田が首輪へ端末を近づけようとする。


 だが。


 髪が邪魔になる。


「髪!」


「私が――っ!」


「触るな!」


 動かそうとした佳子の顔が痛みに歪む。


「俺がやる!」


 黒田が佳子の髪を避ける。


 首輪の読み込み部分を探す。


「早く……!」


「分かってる!」


「時間が!」


「動くな!」


 黒田が端末を近づける。


 反応しない。


「……くそ!」


「なんで!?」


「位置が合ってない!」


「もう一回!」


 離す。


 角度を変える。


 再び近づける。


 佳子の呼吸が荒くなる。


「早く……」


 条件は達成した。


 なのに。


 死ぬ。


 このままゲーム終了時刻を迎えれば。


 条件を達成していても関係ない。


 首輪が残っている限り。


 爆発する。


「お願い……!」


 佳子の声が震えた。


「ここまで来たのに……!」


「動くな!」


「死にたくない……!」


「死なせん!」


 黒田が叫ぶ。


「ここまで来て死なせるか!」


 もう一度。


 端末を首輪へ近づける。


 ――ピッ。


 二人が止まった。


 端末の画面。


《PLAYER TERMINAL》


《AUTHENTICATION》


「……きた」


 黒田が呟く。


「認証してる」


「じゃあ外れる!?」


「待て!」


「でも――」


「まだだ!」


 画面から目を離せない。


 佳子の首にも。


 まだ首輪がある。


 認証が終わらなければ。


 意味がない。


《AUTHENTICATING…》


「お願い……」


 佳子は目を閉じた。


「お願い……間に合って……」


 ほんの数秒。


 それだけの時間が。


 あまりにも長い。


 そして。


《AUTHENTICATION COMPLETE》


 直後。


 カチッ。


 佳子の首元で。


 小さな音がした。


「……!」


 首輪の接合部が開く。


 黒い輪が緩み。


 首から滑り落ちた。


 ごとり。


 地面へ落ちる。


「……」


 佳子は。


 動かなかった。


 黒田も。


 しばらく地面の首輪を見つめていた。


「……外れたぞ」


 佳子の唇が震える。


「……ほんと?」


「ああ」


「もう……ない?」


「ない」


「私の首……」


「ああ」


 黒田は大きく息を吐いた。


「何もついてない」


 その言葉を聞いた瞬間。


 佳子の脚から力が抜けた。


「……っ」


「おい!」


 黒田が支える。


 佳子はそのまま地面へ膝をついた。


「外れた……」


 涙が落ちる。


「外れた……!」


 死なない。


 少なくとも。


 時間切れと同時に、あの首輪に殺されることはない。


「黒田さん……」


「何だ」


「ありがとう……」


「礼は帰ってからにしろ」


「……帰れるのかな」


「帰るんだよ」


 黒田は言った。


「そのためにここまで来た」


「……うん」


 佳子は涙を拭うこともできないまま。


 小さく笑った。


 その時。


 端末に表示されているゲーム時間が。


 最後の数字へ入った。


 黒田と佳子は。


 何も言わず画面を見つめる。


 そして。


 ゼロ。


 遠く離れた森のどこかで。


 爆発音が響いた。


 佳子の肩が跳ねる。


「……今の」


 もう一つ。


 さらに遠くから。


 鈍い爆発音。


 ゲーム終了時刻。


 その瞬間まで。


 首輪を外すことができなかった参加者。


 あるいは。


 すでに死亡していながら、首輪を残していた者。


 島の各所で。


 ゲームが最後の処理を始めていた。


 佳子は地面へ落ちた自分の首輪を見る。


 あと少し。


 ほんの僅かに遅れていれば。


 自分も。


「……間に合ったんだ」


「ああ」


 黒田が答える。


「間に合った」


 やがて。


 佳子の端末が切り替わる。


《ゲームが終了しました》


《30分で帰還します》


「……終わった?」


「ああ」


「ほんとに……?」


 黒田の端末にも。


 同じ表示が出ている。


《ゲームが終了しました》


《30分で帰還します》


「終わったみたいだな」


「……そっか」


 佳子は。


 地面に座り込んだまま空を見上げた。


「終わったんだ……」


 *


 同じ頃。


 葵の端末にも。


《ゲームが終了しました》


《30分で帰還します》


 その文字が表示されていた。


「……終わった」


 葵は小さく呟いた。


 そばには。


 横たわった詩織。


 少し離れた場所には。


 意識を失った蓮がいる。


 葵は二人を見る。


「……帰れるよ」


 返事はない。


「蓮」


 眠ったまま。


「詩織」


 詩織も。


 僅かな呼吸を繰り返しているだけだった。


「……みんなで帰ろう」


 その時。


 葵はゆっくり瞬きをした。


「……あれ」


 急に。


 瞼が重くなる。


 身体から力が抜けていく。


 ただの疲労とは違う。


 抗おうとしても。


 意識そのものが沈んでいく。


「……なに……これ……」


 端末を見る。


《30分で帰還します》


 文字が滲む。


 葵は詩織のそばから離れまいとした。


 だが。


 身体が言うことを聞かない。


「……詩織……」


 やがて。


 葵も地面へ身体を預けた。


 視界が暗くなる。


 *


「黒田さん……」


「何だ」


「……眠くない?」


 C-01。


 佳子は何度も瞬きをしていた。


 急激な眠気。


 黒田も異変に気づいている。


「……ああ」


「これ……普通じゃないよね……」


「だろうな……」


「戻らないと……」


 佳子は立ち上がろうとする。


 だが。


 脚に力が入らない。


「蓮と……詩織……」


「分かってる……」


「葵も……」


「ああ……」


 黒田も。


 もう立っていられなかった。


 二人は。


 その場へ座り込む。


「黒田さん……」


「……何だ」


「私たち……帰れるんだよね……?」


 黒田は。


 重くなった瞼を開けながら。


 佳子を見る。


「……帰るんだよ」


「……うん」


「全員でな」


「……うん……」


 佳子の瞼が閉じる。


 最後に見えたのは。


 地面へ落ちた。


 自分の首輪だった。


 もう。


 自分を殺すことのできない。


 ただの黒い輪。


 そして。


 黒田の意識も。


 ゆっくりと暗闇へ沈んでいく。


 島から。


 銃声が消えた。


 悲鳴も。


 足音も。


 もう聞こえない。


 長かったゲームは。


 ようやく。


 終わりを迎えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。