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エクストラバレット  作者: ほむら
1章 エクストラバレット

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第51話 壊れた端末



《SIGNAL DETECTED》


 小さな黒い装置に表示された文字を見つめながら、蓮は息を潜めていた。


 少し前まで画面にあったのは《SEARCHING……》という表示だけだった。それが突然変化したのとほぼ同時に、森の奥から足音が聞こえてきた。


 詩織も緊張した様子でそちらを見る。


 莉奈はすでに腰を落とし、いつでも動ける姿勢を取っていた。


「近づいてくる」


「ああ」


 蓮は装置から視線を外した。


 一定の間隔で、落ち葉を踏む音が近づいてくる。参加者なのは間違いないだろう。


 問題は誰なのか。


 そして今の状況では、知っている相手だったとしても安心できるとは限らない。


 やがて木々の間から人影が現れた。


 蓮はすぐにその顔を確認した。


「……古瀬さん」


 現れたのは古瀬聡子だった。


 聡子も3人を見つけ、驚いたように足を止める。


「神谷さん……七瀬さんも」


 それから莉奈へ視線を向ける。


「一緒だったんですね」


「今のところはな」


 蓮が答えると、聡子は少し安心したように息を吐いた。


「よかった……ずっと1人だったから」


 その言葉を聞いても、莉奈は警戒を解かなかった。むしろ聡子をじっと観察している。


 蓮も完全には気を抜いていなかった。


「古瀬さん、怪我は?」


 詩織が訊く。


「私は大丈夫です。途中で何度か転んだくらいで……」


「そうですか」


 詩織の表情が少し和らいだ。


 その時だった。


 ピッ、と足元から電子音が鳴る。


 4人の視線が黒い装置へ集まった。


《SIGNAL DETECTED》


 蓮は聡子を見た。


「古瀬さんが近づいてきた頃に、これが反応した」


「私に?」


「たぶん」


 聡子は戸惑ったように装置を見る。


「でも……こんな機械、見たことないです」


「何か持ってない?」


 莉奈が訊いた。


「何かって?」


「これが反応するようなもの」


「分からないです」


 聡子は自分のバッグを確認したが、それらしい物は出てこない。


 莉奈はまだ疑うように聡子を見ていたが、蓮は装置へ視線を戻した。


 やがて画面が切り替わる。


《SIGNAL VERIFIED》


 続いて表示された文字を見て、詩織が小さく声を漏らした。


《SPECIAL SUPPLY》


「特殊物資……?」


 さらに簡単な方向と距離が表示される。


 蓮は周囲を確認した。


「ここからそれほど遠くない」


「行くの?」


 莉奈が訊く。


「確認だけする。危険だと思ったらすぐ離れる」


 この島で特殊物資という言葉を無視することもできなかった。武器かもしれないし、放置すれば別の参加者に取られる可能性もある。


 蓮は黒い装置を拾い上げた。


「古瀬さんも来る?」


「はい。1人でいるよりは……」


「分かった」


 4人は装置が示す方向へ歩き始めた。


     *


 特殊物資は地中に隠されていた。


 不自然に並んだ石の下から防水シートが見つかり、それを取り除くと細長いケースが現れた。


 周囲に人がいないことを確認してから、蓮がケースを開く。


「……刀?」


 詩織が呟いた。


 黒い鞘に収められた日本刀。


 装飾品には見えない。


 蓮が触れるより先に、莉奈が手を伸ばした。


「莉奈」


 刀を持ち上げ、両手で重さを確かめてから、僅かに鞘を引いた。


 金属の光が覗く。


「本物みたい」


「抜くな」


 蓮が言うと、莉奈は素直に鞘へ戻した。


 だが刀そのものを返そうとはしない。


「それ、俺が持つ」


「私が持つ」


「扱ったことないだろ」


「蓮もないでしょ?」


「だから危ないって言ってるんだ」


 莉奈は刀の柄へ触れた。


「置いていったら、他の人が拾うよ」


「それはそうだけど……」


 詩織も不安そうに刀を見る。


 莉奈は蓮へ視線を戻した。


「大丈夫。蓮には使わないから」


「俺だけの問題じゃない」


「分かってるよ」


 莉奈は笑った。


 だが蓮には、その言葉をそのまま信じることができなかった。


 以前から莉奈には危ういところがあった。そこへ、ナイフよりも確実に人を殺すことのできる武器が渡った。


「莉奈」


「大丈夫だって」


 莉奈は刀を持ったまま歩き出した。


 結局、蓮は取り上げなかった。無理に奪おうとすれば、その場で揉める可能性がある。


 今はそれを避けたかった。


     *


 特殊物資の場所を離れてから、しばらく4人で歩いた。


 日はかなり傾き、森の中は急速に暗くなり始めている。


 その途中、莉奈が突然立ち止まった。


「蓮」


「どうした?」


「私、ここから1人で行く」


 蓮が振り返る。


「……何で急に」


「1人で考えたいことがあるから」


「今じゃないと駄目なのか?」


「うん」


 莉奈の手には日本刀がある。


 蓮はそれを見た。


「その刀を手に入れた直後に言われても、心配になるんだけど」


「心配してくれるんだ」


「当たり前だろ」


 莉奈は少し嬉しそうに笑った。


「じゃあ大丈夫」


「何が大丈夫なんだよ」


「私は蓮を傷つけないから」


「だから俺だけの話じゃないって」


 莉奈の視線が詩織へ向く。


 ほんの数秒。


 詩織もその視線に気づいた。


 次に莉奈は聡子を見て、再び蓮へ視線を戻す。


「分かってる」


 蓮には、やはり分かっているようには思えなかった。


「莉奈。少なくとも夜になるまでは――」


「また会えるよ」


「待てって」


「蓮は死なないでね」


 それだけ言って、莉奈は森へ入っていった。


 蓮が追おうとする。


 だが詩織が腕を掴んだ。


「蓮」


「放っておけないだろ」


「今追ったら余計に駄目だと思う」


「でも刀持ってるんだぞ」


「だからだよ」


 詩織は莉奈が消えた方向を見る。


「無理に止めたら、何するか分からない」


 蓮は何も言えなかった。


 やがて莉奈の姿は完全に見えなくなった。


 残ったのは蓮、詩織、聡子の3人。


「……行こう」


 蓮はそう言うしかなかった。


     *


 さらに森を進んだところで、蓮が異臭に気づいた。


「待って」


 詩織が足を止める。


「どうしたの?」


「臭わないか?」


 詩織も鼻を押さえた。


「……におう」


 聡子も周囲を見る。


 風に乗って漂ってくる臭い。


 蓮には覚えがあった。


 嫌でも覚えてしまった。


「こっちだ」


 慎重に進む。


 少し先で、地面に何かが見えた。


 蓮の足が止まる。


「……美咲」


 詩織が蓮の横から覗く。


 そして息を呑んだ。


 佐伯美咲だった。


 だが、以前見た姿とは違う。


 頭部と胴体が完全に切り離されていた。


「……いや」


 詩織が後ずさる。


 顔から血の気が引き、足元がふらついた。


 蓮がすぐに腕を支える。


「詩織」


「いや……何、これ……」


「見なくていい」


 蓮が前へ出て視界を遮ろうとする。


 だが一度見てしまった光景は消えない。


 詩織の呼吸が浅くなっていた。


「美咲さん……だよね……?」


「ああ」


「なんで……」


 詩織が口元を押さえる。


「なんでこんなことするの……?」


 蓮にも分からなかった。


 美咲はすでに死んでいた。


 それなのに、その遺体にさらに手が加えられている。


 蓮は詩織をその場に残し、慎重に近づいた。


 そこで気づく。


「……首輪がない」


 詩織が顔を上げた。


「え?」


「美咲の首輪がなくなってる」


 切断された首元。


 そこに首輪は残っていなかった。


「誰かが……取ったの?」


「たぶん」


「死んだ人から……?」


 詩織の声が震える。


 蓮は答えなかった。


 誰かが首輪を必要としている。


 少なくとも、そう考えるのが自然だった。


 だが誰なのかは分からない。


「蓮……もう行こう」


「ああ」


 蓮も長居するつもりはなかった。


 その時、聡子が美咲の遺体の近くへ視線を向けた。


「待ってください。端末があります」


 血と土で汚れた黒い端末が落ちている。


「美咲のか」


 蓮が近づこうとしたが、聡子の方が先だった。


 美咲の遺体のすぐそばまで行き、しゃがみ込んで端末を拾い上げる。


 詩織が僅かに顔を背けた。


 聡子は表面についた汚れを拭い、電源を入れた。


《EXTRA BULLET》


《PLAYER 14》


《TERMINAL:O》


 蓮が画面を確認する。


「持っていこう」


「はい」


 聡子はO端末をバッグへ入れた。


 その場を離れようとした蓮だったが、少し離れた木の幹に妙な傷があることに気づいた。


「……待って」


 近づいて確認する。


 木の表面が深く抉れていた。


 蓮は指先で触れずに、顔を近づける。


「銃弾か……?」


「撃たれた跡?」


 詩織も少し離れた場所から見る。


「たぶん」


 さらに周囲を調べると、別の木にも似た痕が残っていた。


 1発だけではない。


 蓮が視線を下げる。


 落ち葉が大きく乱れていた。何度も踏み込んだような跡があり、ところどころ土まで露出している。


「ここで誰か戦ったのか……?」


 そのまま数歩進んだ時だった。


 聡子が別の木を見て足を止めた。


「神谷さん。あれ……」


 蓮がそちらを見る。


 木の幹から、細長いものが斜めに突き出していた。


 近づいた瞬間、蓮にはそれが何なのか分かった。


「……矢」


 木の幹に深く刺さっている。


 蓮はその形を見つめた。


 普通の弓矢ではない。


「ボウガンの矢だ」


 詩織が蓮を見る。


「ボウガン……?」


「ああ」


 蓮の頭に、すぐ1人の顔が浮かんだ。


「葵だ」


「水野さん?」


「前に見てる。葵がボウガンを持ってた」


 蓮は周囲をさらに見回した。


 木に刺さっている矢だけではなかった。


 少し離れた地面にも1本。


 さらに落ち葉の間に、もう1本落ちている。


 いずれも同じ形をしていた。


「じゃあ……水野さんがここにいたってこと?」


「可能性は高い」


 蓮は銃弾で抉れた木を見る。


 その近くにはボウガンの矢。


 地面は激しく荒れ、折れた枝も散らばっている。


 少し先には、暗い染みのようなものまで残っていた。


 詩織も気づく。


「あれ……血?」


 蓮はしゃがみ込んだ。


 だが日が落ちた森では色まではっきり分からない。近づいて見ても、それが誰の血なのかなど判断できるはずもなかった。


「分からない。でも……」


 蓮は立ち上がり、もう一度周囲を見渡した。


「葵がここで戦った可能性は高い」


「誰と?」


「そこまでは分からない」


 蓮は銃弾痕へ視線を戻した。


「ただ、葵がボウガンを使ったなら、相手は銃を持ってたのかもしれない」


 詩織の表情が強張る。


「水野さんは……?」


「分からない」


「この血、水野さんのかもしれないよね」


「そうかもしれないし、相手のものかもしれない」


 矢の数。


 銃弾痕。


 乱れた地面。


 折れた枝。


 血らしき跡。


 かなり激しい戦闘だったことだけは想像できる。


 だが、それ以上は分からない。


 葵が無事なのか。


 誰と戦ったのか。


 どちらが負傷したのか。


 戦いの後、2人がどこへ行ったのか。


 そして美咲の首輪を持ち去った人物が、この戦闘に関係しているのか。


 暗闇の中に残された痕跡だけでは、答えに辿り着けない。


「もう暗すぎる」


 蓮は立ち上がった。


「これ以上調べるのは危険だ」


 詩織もすぐに頷いた。


 美咲の遺体がすぐ近くにあることもあり、これ以上ここにいたくないのだろう。


「戻ろう」


「どこへ?」


「最初の建物」


 蓮は詩織を見る。


「ここからなら戻れる。外で夜を越すよりいい」


 聡子も頷いた。


「工具もあったと思います」


「工具?」


 詩織が訊く。


 聡子はバッグに入れたO端末へ目を向けた。


「七瀬さんの壊れた端末。これの部品を使えば、直せるかもしれません」


 詩織が自分のバッグへ手を触れた。


 ゲーム開始直後に壊したA端末。


 ずっと持ち歩いてきた。


「……本当に?」


「やってみないと分かりません。でも、同じ端末なら使える部品があるかもしれないです」


 詩織の目に僅かな希望が戻った。


「じゃあ……お願いします」


「行こう」


 蓮たちは美咲の遺体を残し、その場を離れた。


 詩織は最後まで振り返らなかった。


     *


 拠点へ戻った頃には、完全に夜になっていた。


 ゲーム開始から2日目の夜。


 建物の中へ入り、蓮が一通り安全を確認する。


 人の気配はない。


 入口を警戒できる状態にしてから、3人は作業台へ向かった。


 以前から置かれていた工具。


 ドライバー。


 ペンチ。


 細かな部品を扱うための器具。


 聡子はその中から必要な物を選んでいく。


 詩織がバッグからA端末を取り出した。


 割れた画面。


 傷ついた外装。


 ゲーム開始直後、自分で踏み壊した端末だ。


 その横へ美咲のO端末が置かれる。


「直るかな……」


 詩織が呟く。


「やってみます」


 聡子が椅子に座る。


 まずO端末を裏返し、外装を確認する。


 ネジの位置。


 接合部。


 工具を選ぶ手にほとんど迷いがない。


 蓮は壁際に立ったまま、その様子を見ていた。


 聡子がO端末の外装を外す。


 内部が露出する。


 次にA端末。


 割れた部分を慎重に外していく。


「古瀬さん」


「はい?」


「こういうの慣れてる?」


 聡子の手が僅かに止まった。


「少しだけ」


「少しには見えないけど」


 聡子は小さく笑った。


「仕事で機械を触ることがあったんです。簡単な修理とか、部品交換とか」


「へえ……」


 詩織は純粋に感心している。


 蓮はそれ以上聞かなかった。


 だが見ている。


 聡子は迷わず内部の部品を確認し、O端末とA端末を見比べている。


「ここが駄目になってますね」


 聡子がA内部の一部を示す。


「踏んだ時に?」


「たぶん。それと電源周りも少し」


「Oの部品で直せそう?」


「形は同じです」


 聡子はO端末から必要な部品を外した。


 それをAへ移す。


 細かな作業が続く。


 詩織は隣で黙って見守っていた。


 美咲の遺体を見た時から、まだ顔色が戻っていない。


 蓮が隣へ立つ。


「大丈夫?」


「……うん」


 少し間があった。


「でも、頭から離れない」


「無理に忘れなくていい」


「誰があんなことしたんだろう」


「分からない」


「首輪のため……なのかな」


「可能性はある」


「死んでからも、あんなことされるんだね」


 詩織は俯いた。


「このゲーム……どこまでやらせるつもりなんだろ」


 蓮は答えられなかった。


 作業台から小さな金属音がする。


 聡子は黙々と修理を続けている。


 しばらくして。


「一度、試します」


 聡子がA端末の電源を押した。


 反応しない。


 詩織の表情が曇る。


「駄目……?」


「まだです」


 聡子は落ち着いていた。


 再び外装を開き、接点を調整する。


 別の部品をOから取り外す。


 Aへ移植する。


 蓮はその手元を見つめていた。


 やはり手際がいい。


「古瀬さん」


「はい?」


「本当に仕事で覚えたの?」


 聡子が顔を上げる。


「疑ってます?」


「そこまでじゃない。ただ、詳しいなと思って」


「こういう細かい作業、昔から好きなんです」


 聡子は少し困ったように笑った。


「今は直ることを祈ってください」


「……そうだな」


 蓮は引いた。


 聡子が最後の接続を確認する。


「もう一度」


 電源を入れる。


 何も起こらない。


 数秒。


 詩織が諦めかけた、その時。


 ピッ。


 小さな電子音が鳴った。


「……え?」


 画面が明るくなる。


 ノイズが走る。


 そして。


《EXTRA BULLET》


 詩織が目を見開いた。


「ついた……」


 蓮も作業台へ近づく。


 表示が変わる。


《PLAYER 12》


《TERMINAL:A》


「……私の端末」


 詩織が恐る恐る手に取った。


 ゲームが始まってから、ほとんど何も確認できなかった端末。


 自分のアルファベットすら、壊れる前に十分確認できていなかった。


 それがようやく戻ってきた。


「古瀬さん、ありがとう」


「まだ完全に直ったかは分かりません。衝撃は与えない方がいいと思います」


「うん」


 詩織は大切そうにA端末を持った。


 その画面が切り替わる。


《2nd STAGE》


 詩織の表情が変わった。


 蓮も気づく。


「……条件」


 これまで確認できなかった。


 詩織だけが知らなかった、自分自身の2nd STAGE。


 画面に新しい表示が現れる。


《NEW CONDITION》


 詩織の指が止まった。


「……見る」


 自分に言い聞かせるように呟き、画面へ触れた。


 数秒後。


 詩織の顔から表情が消えた。


《24時間以上行動を共にした参加者を1名殺害してください》


《該当する参加者が存在しない場合、現時点で最も長く行動を共にした参加者を1名殺害してください》


「…………」


 詩織は動かなかった。


 蓮はまだ画面を見ていない。


「詩織?」


 返事がない。


「どうした?」


 蓮が近づこうとした。


 詩織は反射的にA端末を胸元へ引いた。


「……待って」


 蓮の足が止まる。


「分かった」


 それ以上近づかなかった。


 詩織はもう一度画面を見る。


《24時間以上行動を共にした参加者を1名殺害してください》


 頭の中に浮かぶ。


 ゲーム開始直後。


 山の中。


 目を覚ました自分。


 壊れた端末。


 そして最初に出会った人。


 神谷蓮。


 そこから何度離れかけても、また合流した。


 何度も助けられた。


 怖い時。


 逃げたい時。


 誰を信じればいいのか分からない時。


 気づけば蓮を探していた。


 詩織はゆっくり顔を上げる。


 蓮がいる。


「……詩織?」


「…………」


 殺さなければならない。


 24時間以上。


 自分が最も長く行動を共にした参加者。


 条件を満たす相手。


 それが誰なのか。


 詩織には、確認するまでもなかった。


 A端末を握る指が震え始める。


「大丈夫か?」


 蓮が訊く。


 詩織は答えようとした。


 だが声が出なかった。


 自分の首には、まだ首輪がある。


 生きて帰るには、これを外さなければならない。


 そのためにゲームが要求してきたのは、ここまで自分を守ってくれた人間の死だった。


「……蓮」


「ん?」


 詩織は蓮を見た。


 そして、何も言えなくなった。


 蓮は知らない。


 今、自分の目の前にいる詩織の端末に、自分を殺せと表示されていることを。


 詩織はA端末を胸元へ抱え込んだ。


「……ごめん」


「何が?」


 蓮が眉を寄せる。


 詩織は首を横に振った。


「なんでもない」


 その言葉とは裏腹に、端末を握る手の震えだけは止まらなかった。

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