↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エクストラバレット  作者: ほむら
1章 エクストラバレット

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/176

第38話 崩壊



 翌朝の拠点には、昨日までと変わらない時間が流れていた。


 少なくとも、表面上は。


「……何してるんですか?」


 詩織が呆れたように尋ねると、白石は壁際に座ったまま、拾ってきた鍋の蓋を布で磨いていた。


「整備」


「それ、鍋の蓋ですよね?」


「盾だよ」


「鍋の蓋です」


「昨日から厳しくない?」


 真顔で返され、白石が不満そうに眉を下げる。


 そのやり取りを聞いていた美月が、ほんの少しだけ笑った。


 美咲が死んでから、美月が笑ったところを蓮はほとんど見ていない。だからこそ、その小さな変化に少しだけ安心した。


 三浦は部屋の隅で腕の包帯を交換している。藤堂は昨日回収した防弾ベストを点検し、黒田は入口近くから外の様子を窺っていた。


 葵は相変わらずF端末を手放さない。


 相馬もいる。


 自分以外の13人全員の死亡確認。


 そんな異常なクリア条件を公開したことで、彼の周囲には目には見えない境界線ができていた。誰も露骨に避けてはいないが、無防備に背中を向けようとする者もいない。


 そして高橋は、壁にもたれたまま誰とも話さず、ぼんやりと白石を見ていた。


 いや――見ているのは白石ではない。


 その首元だった。


 白石には、もう首輪がない。


 黒田、美月、三浦も同じだ。


 そして死んだ美咲も、生前に首輪を外していた。


 5人。


 高橋の頭に、自分のクリア条件が浮かぶ。


《参加者の首輪を5個回収してください》


《回収した5個の首輪を指定地点D-02で認証してください》


 すでに外された首輪を探せばいい。


 それで済む。


 高橋は何度も自分にそう言い聞かせていた。


 だが――もし見つからなかったら?


 視線が無意識に動く。


 詩織。


 佳子。


 藤堂。


 葵。


 蓮。


 相馬。


 聡子。


 その首には、まだ首輪がある。


 必要なのは人間じゃない。


 ――首輪だ。


 外せないなら。


 首ごと――。


 そこまで考えた瞬間、高橋は我に返った。


「……何考えてんだ、俺」


 慌てて視線を逸らすと、胃の奥から吐き気が込み上げてきた。


 そんなことができるはずがない。


 できるわけがない。


 少なくとも、この時の高橋はまだそう思っていた。


     *


「蓮」


 佳子に呼ばれ、蓮は振り返った。


「今日、どうする?」


「昨日の話どおり、真由を探したい」


 少し離れたところにいた葵が反応した。


「私は行く」


「分かってる」


 目的は、真由が持っていった2つ目のアップグレードデータだ。


 もし真由があれを自分の端末に使っているなら、葵以外にもアップグレード済みのPLAYER TERMINALが存在することになる。


 それは葵のクリア条件にも直接関わってくる。


 藤堂が防弾ベストを置いて立ち上がった。


「俺も行こう。今は3人以上で動いた方がいい」


「じゃあ――」


 蓮が答えようとした時だった。


「あ、あの……」


 小さな声がした。


 聡子だった。


「私……ちょっと外に行ってきます」


 全員の視線が集まると、聡子は困ったように目を伏せた。


「外って?」


 佳子が尋ねる。


「その……ちょっと……」


 頬を赤らめ、言葉を濁す。


 白石が「あ」と声を漏らした。


「はいはい。聞かない。行ってらっしゃい」


「す、すみません……」


 聡子は小さく頭を下げると、逃げるように建物を出ていった。


 その背中を見送った白石が、小声で言う。


「女の子にああいうこと聞いちゃ駄目だって」


「お前が一番大きい声で言ってるけどな」


 高橋が冷たく返し、小さな笑いが起きた。


 誰1人として疑わなかった。


 怯えがちで、いつも誰かのそばにいた古瀬聡子が、自分たちに何かを仕掛けようとしているなど、考えもしなかった。


     *


 聡子は森の中を歩いていた。


 10メートル。


 20メートル。


 さらに奥へ進み、木々に遮られて拠点が完全に見えなくなったところで足を止める。


 振り返る。


 誰もいない。


 それでも、すぐには動かなかった。


 木々の隙間を確認し、葉の揺れを見て、耳を澄ませる。自分を追ってきた人間がいないことを確かめると、ようやく聡子の表情から怯えが消えた。


 肩から力が抜ける。


 震えていた指も止まる。


 古瀬聡子。


 15人の参加者の1人。


 それは、ゲームの中で与えられた彼女の立場にすぎない。


 本当の聡子は、ゲームマスター側の人間だった。


 参加者の中へ紛れ込み、ゲームの進行を監視する。


 必要ならば、流れを変える。


 それが彼女の役割だった。


「……やっぱり、こうなったか」


 先ほどまでとは違う、落ち着いた声が森に溶ける。


 1st STAGEでは、参加者たちは予想以上に協力した。


 疑いながらも情報を共有し、条件を達成し、まとまり始めた。


 2nd STAGEへ移行しても、それは完全には崩れていない。相馬が13人全員の死亡確認という条件を公開してさえ、彼らは即座に相馬を排除しなかった。


 話し合い。


 監視。


 協力。


 それで乗り切ろうとしている。


 聡子は小さく息を吐いた。


「それじゃ、進まないんだよね……」


 服の内側へ手を入れる。


 取り出したのは、手のひらに収まるほどの小型の金属製の物体だった。


 ゲームを止めるわけにはいかない。


 誰か1人を狙う必要もない。


 必要なのは、彼らを散らすこと。


 安全な場所をなくし、互いに守り合えない状況を作ること。


 そうすれば、あとはそれぞれのクリア条件が参加者を動かす。


 聡子は金属の物体を握りしめ、静かに拠点の方角を見た。


     *


 その頃、葵はF端末を確認していた。


 【特殊物資情報】の地図上にあったマーカーは、すでにいくつも消えている。


 自分たちが回収した防護装備。


 誰かが回収したB-03。


 そして、武器に分類されていたF-01。


 誰が何を持っているのかは分からない。


「なあ」


 突然、相馬が声をかけた。


 葵は端末から顔を上げる。


「何?」


「それ、やっぱり便利なんだな」


 相馬の視線はF端末へ向いていた。


「……何が言いたいの?」


「普通の端末じゃ見えないものが見えるんだろ?」


「だから?」


「いや。それだけだよ」


 相馬は肩をすくめた。


 だが葵は、すぐにF端末を閉じた。


 今までは、自分だけが持つ情報を武器だと思っていた。


 しかし、情報を持っているということは、それを欲しがる人間から狙われる可能性があるということでもある。


「葵?」


 蓮が声をかける。


「……何でもない」


 葵はそう答え、F端末を服の内側へしまった。


 その直後だった。


 カラン――。


 硬い何かが床を転がる音がした。


 全員の視線が、一斉にそちらへ向く。


 白石の足元。


 小さな金属の塊が転がり、止まった。


「……え?」


 白石が見下ろす。


 藤堂の表情が一変した。


「伏せろ!」


 藤堂が白石へ飛びついた。


 次の瞬間、凄まじい轟音が建物を内側から引き裂いた。


     *


 森の中にいた聡子は、その爆発音を聞いていた。


 爆風に驚いた鳥たちが一斉に空へ飛び立ち、拠点の方角から黒い煙が立ち上り始める。


 聡子はそれを無言で見つめていた。


 1度では足りない。


 全員が同じ方向へ逃げれば、また集まってしまう。


 少しだけ間を置き、手元に残していたもう1つへ手を伸ばす。


 そして――2度目の仕掛けを動かした。


     *


 蓮の視界が一瞬、白く染まった。


 身体が浮いたような感覚の直後、床へ激しく叩きつけられる。


 耳鳴りが頭の中を埋め尽くしていた。


 割れた窓。


 吹き飛んだ木片。


 煙。


「佳子!」


 返事が聞こえない。


「佳子!」


「蓮!」


 煙の向こうから声が返ってきた。


 生きている。


 立ち上がろうとした瞬間、藤堂に腕を掴まれた。


「外へ出ろ!」


「何が――」


「手榴弾みたいな物だ! 次が来るかもしれん!」


 蓮の背筋が凍る。


 事故ではない。


 誰かが仕掛けた。


「詩織!」


「こっち!」


 佳子が詩織の腕を引いて現れる。


 詩織はバッグを胸に抱えていた。


 その中には、壊れたA端末が入っている。


 その時だった。


 再び、硬いものが転がる音がした。


 藤堂が振り返る。


「走れ!」


 2度目の爆発が起きた。


     *


 壁の一部が吹き飛び、天井が崩れ落ちる。


 炎と煙の中で、悲鳴と怒号が重なった。


 もう、誰がどこにいるのか分からない。


「外へ!」


 蓮は佳子の腕を掴み、佳子は詩織を引っ張った。


 3人で建物から飛び出した直後、背後で屋根の一部が崩れ落ちる。


 爆発。


 炎。


 煙。


 崩れた壁。


 それらすべてが、参加者たちを強制的に別々の方向へ追いやった。


 蓮、佳子、詩織は東へ。


 藤堂、白石、高橋は西へ。


 黒田、三浦、美月は北へ。


 葵は南へ。


 相馬も混乱の中で別方向へ逃れた。


 そして聡子は、最初から拠点にはいなかった。


 参加者たちが安全だと思い始めていた場所は、ほんの数十秒で失われた。


     *


 西側の森。


「クソッ、まだ耳が……!」


 白石が片耳を押さえながら走る。


 もう片方の手には、例の鍋の蓋が握られていた。


「捨てろ! 走りにくいだろ!」


 高橋が叫ぶ。


「嫌だ!」


「こんな時まで何言ってんだ!」


「こんな時だからだろ!」


 その直後。


 乾いた音が森に響いた。


 パンッ!


 藤堂が2人を地面へ押し倒す。


 ほぼ同時に、近くの木から樹皮が弾け飛んだ。


 銃弾。


「撃たれてるぞ!」


 白石の顔から笑みが消えた。


 反射的に鍋の蓋を身体の前へ構える。


「どこから!?」


「分からん!」


 2発目は来ない。


 藤堂はすぐに立ち上がった。


「移動するぞ。同じ場所にいるな!」


 3人は身を低くしたまま、近くの岩場へ走った。


     *


 北側では、黒田が負傷している三浦の速度に合わせて走っていた。


「腕は?」


「問題ない!」


「美月!」


「大丈夫!」


 返事をした直後、美月の足が木の根に引っかかった。


「あっ!」


 身体が前へ倒れる。


「美月!」


 三浦が引き返し、手を伸ばした。


 その瞬間。


 何かが木々の間から飛んできた。


「下がれ!」


 黒田の声に反応し、三浦が咄嗟に身体を引く。


 次の瞬間、鋭い刃物が地面へ突き刺さった。


「……誰だ!」


 黒田が叫ぶ。


 返事はない。


「行くぞ」


「でも誰が……」


「後だ」


 黒田は美月を立たせた。


「ここに残る方が危険だ」


 3人は再び森の中を走り始めた。


     *


 少し離れた木陰。


 真由は、3人が遠ざかっていくのを見ていた。


 手が震えている。


 自分が投げた刃物は外れた。


 いや――本当に外れたのか。


 最後の瞬間、当たりそうになった時、自分で軌道をずらしたような気もする。


 真由はM端末を開いた。


《2nd STAGE開始時点で首輪が外れていた生存参加者4名全員の死亡を確認してください》


 その下に並ぶ4人の名前。


《橘 美月》


《三浦 和也》


《黒田 修司》


《白石 悠真》


 殺せとは書かれていない。


 自分で手を下す必要もない。


 誰かが死ぬのを待っていればいい。


 そう思っていた。


 だが、待っているだけで自分は生き残れるのか。


 真由は自分の首輪に触れた。


「……死んでくれれば、それでいいのに」


 自分の口から出た言葉に、自分自身が怯えた。


     *


 南側。


 葵は1人で森を走っていた。


 胸元にはF端末。


 何度も後ろを振り返るが、誰の姿も見えない。


 それでも足音がする。


 自分が止まれば、相手も止まる。


 走れば、少し遅れて再び聞こえる。


「……誰?」


 返事はない。


 葵はF端末へ手を伸ばしかけて、やめた。


 今は立ち止まれない。


 そして、自分が狙われる理由には心当たりがある。


 【特殊物資情報】。


 【PLAYER INFORMATION】。


 通常のPLAYER TERMINALには存在しない機能。


「……これが欲しいの?」


 誰かがF端末を奪おうとしているのか。


 それとも、破壊しようとしているのか。


 葵は進路を変えた。


 数秒後。


 背後の足音も方向を変えた。


「……っ」


 間違いない。


 誰かが、自分を追っている。


     *


 岩場まで逃げた藤堂たちは、そこでようやく足を止めた。


「怪我は?」


 藤堂が尋ねる。


「ない」


 高橋が答える。


 白石も身体を確認してから頷いた。


「俺も。それと盾も無事」


「盾の心配はしてない」


 白石が鍋の蓋を見る。


 爆発で飛んだ細かな破片を受けたのか、表面には新しい傷がいくつか増えていた。


「ほら、役に立った」


「銃弾を防げるわけじゃない。勘違いするな」


「分かってますよ」


 藤堂と白石の会話を聞きながら、高橋は無意識に白石の首元を見ていた。


 首輪がない。


 その首輪は、どこにある?


 拠点に置かれていたのなら。


 さっきの爆発で失われたら?


 自分は条件を達成できなくなる?


 高橋の頭に、再びあの考えが浮かんだ。


 必要なのは、人間じゃない。


 首輪だ。


 視線が藤堂へ移る。


 首には、まだ首輪がある。


 もし外せないなら。


 首輪だけを回収できないなら。


 ――首ごと。


 今度は朝よりも、はっきりと想像できてしまった。


「……っ」


 高橋は口元を押さえた。


「どうした?」


 白石が心配そうに見る。


「何でもない」


「顔色悪いぞ」


「何でもないって言ってるだろ!」


 思わず声を荒らげる。


 白石が黙った。


 高橋は俯いた。


 違う。


 俺はそんな人間じゃない。


 ゲームには首輪を集めろとしか書いていない。


 誰かを殺せとも、首を切れとも書かれていない。


 なら、今の考えは――。


 ゲームに命令されたものではない。


 自分自身が考えたことだ。


 その事実が、何よりも恐ろしかった。


     *


 東側。


 蓮たちは拠点からかなり離れたところで、ようやく速度を落とした。


「ここまで来れば……」


 佳子が息を整える。


 詩織は膝に手をつき、苦しそうに呼吸していた。


「みんな……大丈夫でしょうか」


「探す」


 蓮は答えた。


「でも、今すぐ戻るのは危険だ。仕掛けた奴がまだ近くにいるかもしれない」


 蓮は知らない。


 それを仕掛けた人間が、自分たちと一緒に怯え、一緒に食事をし、同じ拠点で夜を過ごしていたことを。


 パキッ。


 背後で枝が折れた。


「誰だ!」


 3人が振り返る。


 木々の隙間から、1人の女が姿を現した。


「……やっと見つけた」


 神崎莉奈。


 佳子の表情が強張る。


 だが、莉奈は佳子を見ていない。


 詩織にも興味を示さない。


 最初から、蓮だけを見ていた。


「蓮」


 嬉しそうに微笑む。


「迎えに来たよ」


「迎え?」


「一緒に行こ」


「どこに」


「G-02」


 蓮の表情が変わった。


「どうして俺なんだ?」


 莉奈は不思議そうに首を傾げた。


「蓮だから」


「意味が分からない」


「分からなくていいよ。私についてきて」


「断る」


 即答だった。


 莉奈の笑顔が止まる。


「……どうして?」


「お前についていく理由がない」


「あるよ」


「ない」


「ある」


 莉奈の視線が、ゆっくり佳子へ向いた。


「この人がいるから?」


「関係ない」


「あるよ。蓮は優しいから」


 莉奈が1歩近づく。


「いらない人まで守ろうとする」


 佳子の眉が動いた。


「いらない人?」


 莉奈は佳子を見つめる。


 そこに激しい怒りはなかった。


 ただ、自分には必要のないものを見るような冷たい目だけがあった。


「蓮以外」


 静かに言う。


「私には、いらない」


 莉奈の手が背後へ動いた。


 金属が光る。


 刃。


 佳子が身構えた。


 蓮は即座に2人の間へ入る。


「やめろ、莉奈」


 その一言で、莉奈の手が止まった。


「……蓮がそう言うなら」


 刃を下げる。


 そして、微笑んだ。


「今はね」


 佳子の背筋を、冷たいものが走った。


     *


 森の別方向。


 聡子は走っていた。


 先ほどまでとは違う。


 わざと足取りを乱し、息を荒くする。


 服には土をつけ、頬には煤を擦りつけた。


 呼吸を整える。


 目元に涙を浮かべ、身体を小さく震わせる。


 そして――いつもの古瀬聡子に戻る。


「誰か……!」


 声を震わせる。


「誰か、いませんか……!」


 走った先で木の根につまずき、そのまま地面へ倒れた。


「いった……」


 思わず素の声が漏れる。


 一瞬だけ顔をしかめた聡子は、すぐに表情を戻した。


 首輪を握る。


 身体を震わせる。


 もし今、誰かが彼女を見つけても。


 拠点を崩壊させた人間だとは思わないだろう。


「怖い……誰か……」


 聡子は再び走り出した。


 参加者たちは散った。


 拠点は失われた。


 ここから先は、それぞれの条件が彼らを動かしていく。


 条件を優先するのか。


 誰かを守るのか。


 それとも、自分が生き残るために他人を切り捨てるのか。


 ゲームマスター側の聡子にも、その答えまでは分からない。


 だからこそ、意味がある。


     *


 さらに別の場所。


 相馬は、爆発音がした方角を見ていた。


 遠くからは銃声も聞こえた。


 何が起きているのかは分からない。


 少なくとも、自分がやったことではない。


「……俺じゃねえぞ」


 誰に言うでもなく呟く。


 端末を開く。


《TARGET:13》


 13人。


 2nd STAGE開始時点で生きていた、自分以外の参加者全員。


 その死亡を確認する。


 相馬は画面を見つめ、奥歯を噛んだ。


 その時。


 森の向こうに人影が見えた。


 1人。


 何かから逃げるように走っている。


 誰なのかは分からない。


 助けるか?


 以前なら、迷わなかったかもしれない。


 だが今、別の考えが浮かぶ。


 このまま戦闘が続けば。


 誰かが死ぬ。


 そうすれば、自分の条件は進む。


 だったら――それを止める必要があるのか?


「……」


 自分の中に生まれた考えに気づいても、相馬は立ち止まらなかった。


 人影の後を追う。


 助けるためなのか。


 それとも別の目的なのか。


 相馬自身にも、まだ分からなかった。


     *


 黒田、三浦、美月。


 藤堂、白石、高橋。


 蓮、佳子、詩織。


 1人で追われる葵。


 正体の分からない人影を追い始めた相馬。


 首輪を外した4人を標的にし始めた真由。


 蓮だけを求める莉奈。


 そして――参加者のふりを続けながら、裏側からゲームを動かす聡子。


 全員が散った。


 もう、話し合うための安全な拠点はない。


 誰かが銃を持っている。


 誰かが特殊物資を持っている。


 誰かは、他人の死によって条件が進む。


 プレイヤーたちはまだ知らない。


 最初の爆発を引き起こした人間が、ゲーム開始時から15人の中に紛れ込んでいたことを。


 1st STAGEでは、協力すれば全員で生き残れる可能性があった。


 だが、2nd STAGEは違う。


 条件が人を疑わせる。


 武器が人を変える。


 そして恐怖が、最後に残った理性を少しずつ削っていく。


 ――やらなければ、やられる。


 その考えが参加者たちの中に根を張り始めた時。


 『エクストラバレット』は、本当の意味で次の段階へと入った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。