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エクストラバレット  作者: ほむら
1章 エクストラバレット

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第33話 2nd STAGE



 ――ピッ。


 島の各所で、14台の端末がほぼ同時に電子音を響かせた。


 画面には、これまで一度も表示されたことのない文字が浮かんでいる。


《1st STAGE 終了》


 数秒後、表示が切り替わった。


《ゲームルールを更新します》


《個別クリア条件を再設定します》


 そして最後に、新たなゲームの開始を告げる文字が現れた。


《2nd STAGEを開始します》


     *


「……2nd?」


 佳子が呟いた。


 蓮、佳子、藤堂、聡子の4人は、まだ森の中にいた。


 ついさっきまで、蓮の個別クリア条件を進めていたのだ。


 A-01。


 最初の認証を終えた直後、拠点の方向から銃声が聞こえた。


 そして今、参加者の死亡が通知され、ゲームそのものが変わった。


「な、何……これ……」


 聡子は青ざめた顔で首輪を押さえている。


 藤堂は自分の端末を操作し、眉を寄せた。


「条件が消えた」


 蓮もすぐに確認する。


 A-01、C-03、F-04。


 さっきまで表示されていた3つの指定地点は、すべて画面から消えていた。


 A-01で認証した《1/3》という進行状況さえ残っていない。


 代わりに表示されているのは、


《NEW CONDITION》


 という文字だけだった。


 蓮は一瞬迷ってから、その項目を開いた。


《2nd STAGE 個別クリア条件》


《AとEのPLAYER TERMINALを破壊してください》


「……破壊?」


 思わず声が漏れた。


「どうしたの?」


 佳子がこちらを見る。


「いや……」


 蓮はすぐに端末を伏せた。


 A。


 そのアルファベットに心当たりがある。


 七瀬詩織。


 島で最初に出会った少女の端末に、一瞬だけ表示されていた文字。


 そして、その端末は壊れた今も詩織が持っている。


 すでに画面は割れ、まともに起動することさえできない。


 だが、それで条件を満たしているとは限らなかった。


 ゲーム側が求める「破壊」とは、どの状態を指すのか。


 すでに壊れているものをさらに壊せば認識されるのか。それとも、システム上で何らかの判定が必要なのか。


 何も分からない。


 そしてもう1つ。


 E。


 こちらは誰の端末なのか、蓮には心当たりがなかった。


     *


「私も変わってる……」


 佳子が自分の端末を見つめていた。


《2nd STAGE 個別クリア条件》


《2nd STAGE開始時点で首輪が外れていた生存参加者1名を指定地点C-01まで同行させてください》


《対象者が生存した状態で到達すること》


 読み終えた佳子は、しばらく何も言わなかった。


「人が……条件になってる」


 その言葉に、蓮も表情を険しくする。


 1st STAGEで与えられていた条件は、物資の回収や指定地点への移動、認証、一定時間の待機などだった。


 少なくとも、誰かを犠牲にしなければ達成できないものではなかった。


 協力すれば、全員が条件を達成できる。


 そう思える内容だった。


 しかし、佳子の新しい条件には明確に他の参加者が組み込まれている。


 ゲームの性質そのものが変わり始めていた。


     *


 藤堂も《NEW CONDITION》を開いた。


《2nd STAGE 個別クリア条件》


《HとBのPLAYER TERMINALを破壊してください》


 その文字を読んだ瞬間、藤堂の眉がわずかに動いた。


「……俺も端末か」


 蓮が反応する。


「アルファベット?」


「ああ」


「何?」


 藤堂は蓮を見た。


 少しだけ沈黙した後、端末を閉じる。


「悪い。今は言わない」


 蓮もそれ以上は聞かなかった。


 自分だってAとEを明かしていない。


 条件を隠すという意味では同じだった。


 そして藤堂は知らない。


 自分の条件に表示されているHが、目の前にいる神谷蓮の端末だということを。


     *


 その横で、聡子だけは《NEW CONDITION》を開いていなかった。


 何度も端末を操作し、別の何かを探している。


「あれ……」


 小さな声が漏れた。


「ない……」


 佳子が振り向く。


「どうしたの?」


「ないの……」


 聡子の指が震え始める。


「さっきまで、あったのに……」


「何が?」


 聡子は自分の首輪へ触れた。


「解除……」


 その言葉で、3人とも意味を理解した。


 1st STAGEで聡子はFIRST AID CASEをF-02まで運び、認証を終えている。


 その時、彼女の端末には確かに表示されていた。


《首輪解除権限を取得しました》


 だが、聡子は首輪を外さなかった。


 怖いから。


 もし何かの間違いで、端末を首輪へかざした瞬間に爆発したら。


 そう言って、解除を先延ばしにしていた。


 その権限が今は消えている。


「……消えてる」


 聡子の顔から血の気が引いた。


「嘘……」


 何度も画面を操作する。


 クリア条件。


 ゲームルール。


 別の項目を開いては戻り、もう1度確認する。


 どこにも解除権限は残っていない。


「待って……」


 呼吸が少しずつ速くなっていった。


「待ってよ……」


「聡子さん」


 佳子が肩へ手を伸ばす。


「外せたのに……」


 聡子の声が震えた。


「私……外せたのに……」


 両手で首輪を掴む。


「なんで……」


 目に涙が浮かんだ。


「あの時、外しておけばよかった……」


 誰も言葉を返せなかった。


「怖いとか言わないで……外しておけば……」


 聡子は首輪を握ったまま俯いた。


「もう嫌……」


 佳子がそっと背中に触れる。


「まだ終わったわけじゃないよ」


「でも……」


「2nd STAGEにも条件がある」


 その言葉で、聡子はようやく《NEW CONDITION》へ視線を向けた。


 恐る恐る画面に触れる。


 新しい条件が表示される。


「……」


 聡子の目が止まった。


「聡子さん?」


 佳子が尋ねた瞬間、聡子は反射的に端末を胸へ抱き寄せた。


「……ごめん」


「え?」


「今は……言いたくない……」


 声は小さかった。


 蓮は追及しなかった。


 条件を隠しているのは聡子だけではない。


 自分も藤堂も、すべてを話してはいない。


     *


 拠点では、美月が森から戻ってきていた。


 服にも、手にも、血がついている。


「美月さん……?」


 最初に気づいた詩織が立ち上がった。


 美月は答えない。


 白石、高橋、黒田、葵もすぐに集まってくる。


「佐伯は?」


 黒田が聞いた。


 その名前を聞いた瞬間、美月の唇が震えた。


「……死んだ」


 空気が止まった。


「え?」


 白石の声が掠れる。


「美咲が……撃たれてた」


 美月は自分の両手を見た。


 美咲に触れた時についた血が、すでに乾き始めている。


 そこから美月は、途切れ途切れに説明した。


 目を覚ました時には美咲がいなかったこと。


 森の入口付近に水の容器が落ちていたこと。


 その直後に銃声が聞こえたこと。


 森へ入ると、美咲が倒れていたこと。


 そして直後、端末に表示された。


《参加者の死亡を確認しました》


 黒田は何も言わず拳を握った。


 高橋も黙り込んでいる。


 詩織は美月の隣へ座り、何も聞かずにそっと肩へ手を置いた。


     *


 そこへ蓮たち4人が戻ってきた。


 血のついた美月の姿を見た瞬間、蓮には何が起きたのかほとんど分かってしまった。


「……美咲は?」


 それでも聞いた。


 美月は何も言わず、首を横に振った。


 蓮は目を閉じた。


 最初の死者。


 佐伯美咲。


 そして彼女が死んだ瞬間、1st STAGEが終了した。


 偶然だとは思えなかった。


 参加者が1人死んだこと自体が、次の段階へ進むための何らかの引き金になっていた。


     *


「全員、自分の条件が変わったか確認しよう」


 しばらくして、高橋が言った。


「ただし」


 蓮が続ける。


「内容を全部見せる必要はない」


 高橋が眉を寄せた。


「なんでだ?」


「もう参加者そのものが条件に入ってる」


 佳子が自分の端末を見ながら答えた。


「私の条件もそう」


「どういう意味だ?」


「詳しくは、まだ言いたくない」


 高橋の表情が少し険しくなる。


 1st STAGEとは違う。


 昨日までは、条件を見せ合うことが協力につながった。


 誰かの条件を知れば、手伝うことができた。


 しかし今は、条件を見せること自体が自分や誰かを危険にさらす可能性がある。


「……俺は、ない」


 白石が自分の端末を見ながら言った。


「何が?」


「NEW CONDITION」


 黒田も確認する。


「俺もだ」


「……私も」


 美月にも新しい条件は表示されていなかった。


 3人には共通点がある。


 首輪が外れている。


 ここにはいない三浦も、同じ可能性が高い。


 その直後だった。


 ――ピッ。


 全員の端末が同時に鳴った。


《2nd STAGE 追加ルール》


《個別クリア条件の達成方法に制限はありません》


《参加者間の端末・物資・首輪の譲渡および奪取を認めます》


 白石の表情から笑みが消える。


 さらに次の文章が表示された。


《1st STAGE中に首輪解除済みの参加者には、新たな個別クリア条件は設定されません》


 白石が無意識に自分の首元へ触れた。


「じゃあ、俺たちは……」


 最後のルールが表示される。


《2nd STAGE終了条件は非公開です》


 それを最後に、画面は通常表示へ戻った。


 誰もすぐには口を開かなかった。


 達成方法に制限はない。


 奪取を認める。


 終了条件は非公開。


 それだけで、1st STAGEとはまったく違うゲームになったことが分かる。


     *


 高橋は人目を避けるように身体を少しずらし、自分の《NEW CONDITION》を開いた。


《参加者の首輪を5個回収してください》


《回収した5個の首輪を指定地点D-02で認証してください》


 高橋の目が止まった。


 首輪を5個。


 誰の首輪でなければならないとは書かれていない。


 いつ外された首輪でなければならないとも書かれていない。


 高橋は無意識に顔を上げた。


 白石。


 黒田。


 美月。


 3人とも、すでに首輪が外れている。


 ここにはいない三浦も同じだ。


 そして――美咲も。


 すでに島には、外された首輪が複数存在している。


 その事実に気づいた高橋は、すぐに視線を逸らした。


     *


 少し離れた場所では、葵も自分の新しい条件を確認していた。


《アップグレード済みPLAYER TERMINALを1台破壊してください》


「……」


 葵の指が止まる。


 手にしている端末を見る。


 F。


 自分の端末は、すでにアップグレードされている。


 文章だけを読めば、自分の端末を破壊しても条件を満たせるように見える。


 だが、この端末には【物資情報】だけでなく、【特殊物資情報】と【PLAYER INFORMATION】まで存在する。


 他の参加者にはない情報を得られる、今の葵にとって最も価値のある道具だった。


 しかも条件には、「自分のPLAYER TERMINALを破壊してください」とは書かれていない。


 なぜ、わざわざ「アップグレード済みPLAYER TERMINAL」と書かれているのか。


 葵は岩壁の奥にあった2つ目のアップグレードデータを思い出した。


「……まさか」


 小さく呟き、画面を閉じる。


 まだ自分の端末を壊すべきではない。


     *


 詩織は壊れた端末を手にしていた。


 電源ボタンを押す。


 反応はない。


 もう1度押しても、割れた画面は暗いままだった。


「私だけ……分からない」


 2nd STAGEの条件が設定されているとしても、それを見る手段がない。


 黒田が詩織を見る。


「捨てるな」


「え?」


「壊れてても持ってろ」


「でも、もう動かないですよ」


「端末そのものに意味がある条件が出始めた」


 その言葉に、蓮の身体がわずかに強張った。


 詩織は気づかないまま、壊れた端末をバッグへ戻した。


 A。


 蓮の新しい条件に指定された破壊対象。


 それを詩織は今も持っている。


     *


 夜。


 蓮は1人、自分の端末を開いていた。


《端末アルファベット》


《H》


 この文字は、まだ誰にも教えていない。


 そして藤堂も、自分と同じようにPLAYER TERMINALを破壊する条件を与えられていた。


 対象となるアルファベットは聞いていない。


 もし、その中にHがあったら。


 蓮はそこまで考え、端末を閉じた。


 少し離れた場所では、藤堂もまた自分の条件を確認している。


《HとBのPLAYER TERMINALを破壊してください》


 H。


 B。


 それが誰の端末なのか、藤堂はまだ知らない。


     *


 そして同じ夜。


 島の別の場所でも、1人の参加者が自分の端末を見つめていた。


 新しく表示された条件を、最初から最後まで読む。


 画面には、ある数字が表示されていた。


《TARGET:13》


 しばらく動かなかった人影が、やがて端末を伏せる。


「……ふざけんな」


 誰もいない森の中に、低い声だけが落ちた。


 1st STAGEでは、誰かの条件を知ることが協力につながった。


 しかし2nd STAGEでは、その常識はもう通用しない。


 誰が何を求められているのか。


 自分が誰かの条件に含まれているのか。


 そして、目の前の相手が本当の条件を話しているのか。


 条件を達成するより先に――誰の言葉を信じていいのか。


 2nd STAGEは、そこから始まっていた。

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