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エクストラバレット  作者: ほむら
1章 エクストラバレット

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第31話 疑い



「撃った奴は、どっちへ行った?」


 蓮の問いに、美咲は首を横に振った。


「分からない……。銃声のあと、すぐにいなくなったから」


 まだ声が震えている。


 隣にいる美月も落ち着かない様子で、何度も管理小屋の入口を気にしていた。


「顔は?」


「見えなかった」


 蓮は壁に残された弾痕へ目を向けた。


 撃たれたのは1発だけ。


 美咲も美月も無傷だった。


 狙いを外したのか。それとも、最初から当てるつもりがなかったのか。


 今ある情報だけでは、どちらとも判断できない。


「ここを離れた方がいい」


 高橋が周囲を警戒しながら言った。


「撃った奴が戻ってくる可能性もある」


 美月が不安そうに美咲の腕を掴む。


「私たちも一緒に行っていい?」


「ああ。その方がいい」


 蓮が頷くと、美咲もわずかに安心したようだった。


 誰が銃を持っているのか分からない以上、2人だけで残す方が危険だった。


     *


 拠点へ戻る道中、美咲と美月は蓮たちの真ん中を歩いていた。


 前後を挟むように蓮たちが警戒し、誰かが木々の奥に潜んでいないか確認しながら進んでいく。


 その途中、白石が2人の首元へ視線を向けた。


「そういえば、2人とも首輪外れてるんだな」


「うん。C-04で外れた」


 美月が答える。


「同じ条件だったの?」


「違うよ」


 今度は美咲が説明した。


「私はC-04の認証装置を起動して端末認証。美月は同じ場所に30分間いることが条件だった」


「じゃあ、2人の条件って邪魔し合わなかったんだ」


 佳子が少し驚いたように言う。


「むしろ一緒にいたから安心できたよ」


 美月の答えを聞いて、高橋は何かを考えるように黙り込んだ。


「……やっぱりそうか」


「何が?」


 蓮が聞く。


 高橋は歩みを止めずに答えた。


「これまで俺たちが知った個別条件だ。ほとんど競争になってない」


「いいことじゃん」


 白石が軽く返したが、高橋の表情は変わらなかった。


「だったら、どうして島に拳銃なんて置いてある?」


 その一言で、白石の笑みが消えた。


「15人を拉致して、爆発する首輪をつけて、拳銃まで用意してる。それなのに個別条件は、指定された場所へ行く、物を運ぶ、一定時間待つ……協力できるものばかりだ」


 高橋は森の奥へ目を向けた。


「だったら、このゲームは何のためにこんな仕組みになってる?」


 誰も答えられなかった。


 協力すれば全員で条件を達成できる。


 少なくとも今まで判明した範囲では、そう見える。


 だからこそ、この島に用意された武器や爆発する首輪が、ひどく不自然に思えた。


     *


 しばらく歩いたところで、美咲が蓮の近くへ寄ってきた。


「……1つ、言っておいた方がいいと思う」


「何だ?」


「撃たれる少し前に、男の人に会ったの」


 蓮が美咲を見る。


「誰?」


「相馬直人って名乗ってた」


 まだ蓮たちが直接会ったことのない参加者だった。


「何を話した?」


「私の首輪を見て、どうやって外したのか聞かれた。それから別れて……その後くらいから、誰かにつけられてる感じがして」


 話を聞いていた白石が振り返った。


「じゃあ、その相馬って奴が撃ったんじゃ――」


「分からない」


 蓮はすぐに遮った。


「美咲は撃った人間の顔を見てない。相馬が後をつけていたところも見てないんだろ?」


「……うん」


「なら、今は決めつけない方がいい」


 高橋も小さく頷いた。


 疑う材料にはなる。


 だが、証拠にはならない。


 それでも――相馬直人という名前は、その場にいた全員の頭に残った。


     *


 やがて拠点の建物が見えてきた。


 入口付近にいた詩織が最初に気づき、勢いよく立ち上がる。


「蓮!」


 その声に反応して、藤堂、黒田、聡子も建物の中から姿を現した。


「よかった……」


 詩織はほっとしたように息を吐いたが、蓮たちの後ろにいる美咲と美月に気づき、表情を変えた。


「その人たちは?」


「参加者だ。森で会った」


 蓮が答える。


 少し離れた場所にいた聡子は、初めて見る2人を警戒するように眺めていた。


 美咲と美月が近づいてくると、聡子は無意識に半歩ほど藤堂の後ろへ下がる。


 藤堂がそれに気づいた。


「大丈夫だ」


「……うん」


 聡子は小さく頷いた。


     *


「銃……?」


 管理小屋で起きたことを聞いた途端、聡子の顔色が変わった。


「ほ、本当に?」


「ああ。壁に弾痕も残ってた」


 高橋が答える。


 聡子は反射的に自分の首輪へ手をやった。


「撃った人は……?」


「分からない。顔は見えなかったって」


 佳子が説明する。


「まだ……銃を持ってるの?」


「可能性は高い」


 高橋の言葉を聞いた聡子は、すぐに入口の方を見た。


「ここ……大丈夫なの?」


「今のところはな」


 蓮はそう答えた後、全員を見回した。


「ただ、しばらく1人では動かない方がいい。銃を持ってる奴の目的が分からない」


「……うん。私、1人では行かない」


 聡子は素直に頷き、そばに置いていたFIRST AID CASEを自分の方へ引き寄せた。


 その指には、わずかに力が入っていた。


     *


 全員が落ち着いたところで、高橋はこれまでの情報を整理し始めた。


「参加者ごとに割り当てられてるアルファベットについても、そろそろ考えた方がいい」


 その言葉に、蓮の頭には自分の端末に表示されている文字が浮かんだ。


 H。


 だが、それを口にするつもりはなかった。


「俺は、まだ公開しない方がいいと思う」


「理由は?」


 高橋が聞く。


「アルファベットが何に使われるのか分からないからだ」


 蓮は自分の端末を手にしたまま続けた。


「意味のない情報なら、わざわざ参加者ごとに違う文字を割り当てる必要もない。使い道が分からないうちに全員分を公開するのは危険だ」


 葵も少し考えた後で頷いた。


「私も賛成。今はまだ言わない方がいいと思う」


 聡子は話についていくように、蓮と高橋を交互に見た。


「アルファベットって……そんなに大事なの?」


「分からない」


 蓮が答える。


「分からないから、今は隠しておく」


「……そっか」


 聡子は自分の端末を胸元へ寄せ、それ以上は何も聞かなかった。


     *


「それより、今はこっちの方が問題でしょ」


 葵が自分の端末を取り出した。


 画面には、


《個別クリア条件:達成》


 と表示されている。


 藤堂も同じだった。


 そして佳子も。


 3人とも条件は達成している。それなのに首輪は残ったままだ。


「条件、終わってるのに?」


 美咲が驚いた顔をする。


「解除権限が出ない」


 葵が答えた。


「私は条件達成の表示だけ。佳子はSYSTEM ERROR。藤堂も解除できない」


「俺も条件達成から先へ進まない」


 藤堂が補足する。


 美月は自分の首元に触れた。


「でも、私たちは普通に外れたよ」


 美咲も頷いた。


 黒田。


 白石。


 美咲。


 美月。


 条件を達成し、そのまま首輪を外せた者たち。


 一方で、葵、藤堂、佳子は条件を達成しているにもかかわらず、首輪を外すことができない。


「何が違うんだろ……」


 詩織の呟きに、答えられる者はいなかった。


「聡子は?」


 葵が突然聞いた。


「えっ?」


 聡子の肩がびくりと跳ねる。


「ご、ごめん。何?」


「解除権限。聡子には出てるんでしょ?」


「あ……うん」


 全員の視線が集まっただけで、聡子は少し縮こまった。


「私は……出てる」


「だったら、何で外さないの?」


「それは……」


 聡子は自分の首輪へ触れ、視線を落とした。


「怖いから……」


「でも黒田も白石も――」


「葵」


 蓮が止めた。


「外すかどうかは本人が決めることだ」


 葵はまだ何か言いたそうだったが、結局口を閉じた。


「……ごめん」


 聡子が申し訳なさそうに呟く。


「謝らなくていいよ」


 佳子が柔らかく言った。


「怖いのは普通だから」


「……うん」


 聡子は小さく頷いた。


 それでも、首輪に触れている手をなかなか離そうとはしなかった。


     *


 午後。


 高橋は建物の外で、1人自分の端末を確認していた。


《RULE MARKER 1/3》


「あと2つ……」


 自分の条件は、まだほとんど進んでいない。


 他の参加者が次々と条件を達成していることを考えれば、そろそろ自分も動くべきだった。


「た、高橋さん?」


 突然後ろから声をかけられ、高橋は勢いよく振り返った。


「っ……!」


 そこにいた聡子が驚いて肩を跳ねさせる。


「悪い」


「う、ううん」


 聡子の手には空になった水の容器があった。


 どうやら水を取りに来ただけらしい。


 高橋はもう1度自分の端末へ視線を落とした。


「……おかしいな」


「え?」


「このゲームだよ」


 聡子の動きが止まった。


「最初から、全部おかしい」


「や、やめてよ……」


 聡子は不安そうに周囲を見る。


「何かいるみたいな言い方……」


「そういう意味じゃない」


 高橋は少し考えてから、自分の中にある違和感を言葉にした。


「15人を島に閉じ込めて、爆発する首輪をつけて、拳銃まで置いてある。それなのに、今まで分かってる条件は協力できるものばかりだ」


 聡子は自分の首輪を押さえた。


「……」


「これだけで終わると思うか?」


 その質問に、聡子の表情がさらに曇った。


「私に聞かれても……分かんないよ」


 声が小さくなる。


 高橋はすぐに息を吐いた。


「悪い。怖がらせるつもりはなかった」


「……ううん」


 聡子は水を汲もうとしたが、手元がわずかに震え、容器から水がこぼれた。


「あっ……」


「大丈夫か?」


「だ、大丈夫」


 慌てて容器を持ち直すと、聡子は高橋を見た。


「私……戻るね」


「ああ」


 聡子は足早に建物へ戻っていった。


 高橋はその背中をしばらく見送っていたが、やがて小さく息を吐く。


「……考えすぎか」


 答える者はいなかった。


     *


 夕方、美咲は水を汲むために建物の裏へ出ていた。


 美月は中で休んでいる。


 ほんの数分。


 それだけのつもりだった。


 ――ガサッ。


 美咲の手が止まる。


「……誰?」


 森から返事はない。


 また、あの感覚だった。


 誰かに見られている。


「やめて……」


 美咲は水の容器を握ったまま、1歩後ろへ下がった。


 木々の奥に、何かがいる。


 人影のようにも見えた。


「誰なの?」


 影がわずかに動いた。


 その瞬間、建物の中から声が聞こえた。


「美咲?」


 美月だった。


 森の人影が動きを止める。


「どこ?」


 美咲は一瞬だけ振り返った。


「ここ!」


 すぐに森へ視線を戻す。


 しかし、そこにはもう誰もいなかった。


 美月が裏口から姿を現す。


「どうしたの?」


「また……いた」


「誰が?」


「分からない」


 美咲は水の容器を強く握りしめた。


「でも、絶対に誰かいる」


     *


 その夜。


 島から遠く離れた場所に、窓のない暗い部屋があった。


 壁一面に並んだ無数の画面には、島で過ごす参加者たちの姿が映し出されている。


 蓮。


 佳子。


 詩織。


 黒田。


 白石。


 美咲。


 美月。


 そして、まだ蓮たちと出会っていない参加者たち。


 その中の1つに、佐伯美咲の情報が表示されていた。


《PLAYER 14 佐伯美咲》


 隣の画面では、数字が静かに動いている。


 さらに別のモニター。


《INTERVENTION》


 その下には複数の項目が並んでいたが、暗い室内からでは詳細までは読み取れない。


 ただ1つだけ、はっきりと表示されている文字があった。


《PURCHASED》


「反応いいな、この子」


 画面の前から声が聞こえた。


 続いて、何人かの小さな笑い声が重なる。


「次は?」


「まだいい」


 別の声が答えた。


「もう少し見よう」


 モニターが切り替わる。


 今度は拠点だった。


 何も知らずに過ごしている参加者たちが映っている。


 その中には、FIRST AID CASEをそばに置き、小さく身体を丸めている聡子の姿もあった。


 だが、画面はすぐに次の参加者へ切り替わっていく。


 島にいる者たちは、まだ知らない。


 自分たちの行動が、こうして誰かに見られていることを。


 そして、その画面の向こう側から――ゲームそのものへ手を伸ばす者がいることを。

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