↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エクストラバレット  作者: ほむら
1章 エクストラバレット

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/171

第30話 銃声の先



 ――パンッ。


 森の向こうから響いた乾いた音は、たった1発だった。


 その後は何も聞こえない。


「……銃だよな」


 白石が呟いたが、誰も答えなかった。


 蓮は銃声が聞こえた方向を見つめていた。


 頭に浮かんだのは、葵のアップグレード端末に表示されていた拳銃だった。特殊物資として存在していたそれは、ある時突然、地図上から姿を消した。


 誰かが回収した。


 分かっているのは、それだけだ。


「行くの?」


 佳子に聞かれ、蓮はすぐには答えなかった。


 拳銃を持っている人間がいるかもしれない場所へ、自分たちから近づくことになる。当然、危険なのは分かっている。


「……確認するべきだ」


 高橋が言った。


「待て」


 蓮はすぐに止めた。


「全員で行く必要はない」


「でも、誰か撃たれたかもしれない」


 佳子の言葉に、蓮は彼女の首元を見た。


 佳子は条件を達成した。それでも首輪は外れていない。


「だからこそだ。銃を持ってる奴がまだ近くにいる可能性がある」


 白石は無意識に自分の首へ触れた。


 そこにはもう、首輪がない。


「だったら俺が行く」


「1人では行かせない」


「でも俺なら、首輪は――」


「首輪だけが危険じゃないだろ」


 蓮に遮られ、白石は黙った。


「俺も行く」


 高橋も続く。


 佳子は蓮を見た。


「蓮も行くんでしょ?」


「ああ」


「じゃあ私も」


「佳子は――」


「嫌」


 迷いのない即答だった。


「また私だけ置いていくつもり?」


「そういう話じゃない」


「だったら行く」


 しばらく視線をぶつけ合った末、蓮の方が折れた。


「……分かった」


「最初からそう言えばいいの」


 そこへ葵も端末を手にして立ち上がった。


「私も行く」


「葵は戻った方がいい」


「拳銃について何か分かるかもしれない」


 蓮は彼女の端末を見る。


「回収された拳銃を追跡できるのか?」


「それはできない」


「だったら――」


「でも、他の物資情報は見られる。近くに何かあるかもしれないし、持っていった方がいいでしょ」


 確かに、アップグレードされた葵の端末から得られる情報は多い。


 結局、蓮、佳子、高橋、白石、葵の5人で銃声が聞こえた方向へ向かうことになった。


     *


 古びた管理小屋の中では、佐伯美咲が目を閉じたまま動けずにいた。


 耳鳴りがひどい。


 何も聞こえないと思っていたが、少しずつ周囲の音が戻ってくる。


 荒い呼吸。


 自分のものだけではない。


「……美月?」


 美咲は目を開けた。


 少し離れた床に、橘美月が座り込んでいる。


「美月!」


 慌てて駆け寄ると、美月は震えながらも顔を上げた。


「大丈夫!?」


「……うん」


 撃たれてはいない。


 美咲も自分の身体を確かめたが、血はどこにもついていなかった。


 では、弾はどこへ行ったのか。


 2人が恐る恐る周囲を見ると、すぐ横の壁が大きく抉れていた。


「外れた……?」


 美咲は入口を見る。


 そこにはもう誰もいなかった。


 拳銃を持っていた人影は、銃声の後に姿を消している。


「何だったの……」


 美月の声は震えていた。


 美咲にも分からない。


 あの距離だ。


 本当に殺すつもりだったのなら、外したのは偶然なのか。


 それとも、最初から当てるつもりがなかったのか。


 考えたところで答えは出ない。


「ここから出よう」


 美咲が言った。


「でも、まだ外にいるかもしれない」


「ここにいる方が怖いよ」


 美月は少し迷った後、壁に手をつきながら立ち上がった。


 2人は正面の扉を避け、裏口から出られないか確かめることにした。


     *


「こっち」


 葵の声に従い、蓮たちは森の中を走っていた。


 手掛かりは銃声が聞こえた方角だけだった。木々に囲まれた森では音が反響し、正確な距離までは分からない。


「まだ?」


 走りながら白石が聞く。


「分からない」


「分からないって――」


「音しか手掛かりがないんだから仕方ないでしょ!」


 葵の声にも焦りが滲む。


 その時、高橋が突然足を止めた。


「待て」


 全員が止まる。


「何?」


 佳子が聞くと、高橋は地面を指した。


 複数の足跡が残っている。


 蓮もしゃがんで確認した。


「新しいな」


 踏み崩された土がまだ湿っている。


「こっちに向かってる?」


 白石が足跡を目で追う。


「いや、逆もある」


 高橋は首を振った。


 足跡はいくつかの方向に交差している。


 誰かがここを通った。


 そして、別の誰かが逆方向へ移動した可能性もある。


「2人以上ってこと?」


 佳子が尋ねる。


「それも分からない。同じ奴が往復した可能性もある」


 蓮は立ち上がり、森の奥を見た。


「急ごう」


     *


 その頃、拠点では藤堂が自分の端末を見つめていた。


《個別クリア条件:達成》


 何度確認しても表示は変わらない。


 解除権限は与えられていなかった。


 藤堂は無意識に首輪へ触れた。


「まだ出ない?」


 詩織が心配そうに聞く。


「ああ」


「葵も同じだったんだよね」


「らしいな」


 藤堂は端末を伏せた。


「今は待つしかない」


「システムの処理が遅れてるだけかもしれないし」


 聡子がそう言うと、藤堂は彼女を見る。


「だったらいいが」


「きっと大丈夫」


 聡子は小さく笑った。


 少し離れた場所にいた黒田が、そんな彼女を黙って見ている。


 やがて聡子もその視線に気づいた。


「何?」


「いや」


「さっきから私のこと見てない?」


「気のせいだ」


 聡子は少しだけ笑った。


「葵にも同じこと言ってたね」


 黒田の表情が、ほんのわずかに変わった。


 そのやり取りを見ていた詩織が、ためらいながら口を開く。


「黒田さん」


「何だ」


「本当に何も知らないんですか?」


「何の話だ」


「このゲームのこと」


 黒田は答えなかった。


「葵さんが言いかけたことも気になってて……」


 詩織は黒田の顔を見る。


「『あなた、前にも』って。あれって――」


 ――ピッ。


 突然、電子音が響いた。


 会話が途切れ、全員が自分の端末を確認する。


 藤堂ではない。


 黒田でもない。


 詩織が持っているのは、壊れた端末だけだ。


「……私?」


 聡子が自分の端末を取り出した。


 画面には、


《SYSTEM MESSAGE》


 と表示されている。


「何だ?」


 藤堂が立ち上がった。


 聡子は画面を見つめたまま、しばらく何も言わなかった。


「聡子?」


 詩織に呼ばれ、ようやく聡子は端末を伏せる。


「……何でもない」


「見せろ」


 黒田の声が低くなった。


 聡子が彼を見る。


「どうして?」


「今まで個人にそんなシステムメッセージが来たことはない」


「解除権限についての確認だっただけ」


「なら見せられるだろ」


 空気が一気に張り詰めた。


 藤堂が2人の間へ入る。


「やめろ」


「だが――」


「今の時点で疑う材料はない」


 黒田はそれでも聡子を見ていた。


 聡子も視線を逸らさない。


 やがて黒田の方が引いた。


「……そうだな」


 聡子は何も言わず、端末を胸元へ戻した。


 その画面に何が表示されていたのかは、誰にも見えなかった。


     *


 管理小屋にいた美月が、不意に顔を上げた。


「……聞こえた」


 美咲も息を止める。


 外から足音が近づいてくる。


 しかも1人ではない。


「また……?」


 美月は壁際へ下がった。


 美咲は足元に落ちていた木片を拾い上げる。武器と呼べるようなものではないが、何も持たないよりはましだった。


「誰!」


 美咲が叫ぶ。


 外の足音が止まった。


 短い沈黙の後、男の声が返ってくる。


「参加者だ!」


 知らない声だった。


 美咲は美月と顔を見合わせる。


「名前!」


「神谷蓮!」


 美月が小さく息を吐いた。


「神谷……」


 名前だけなら聞いたことがあった。


 美咲は警戒を解かず、さらに聞く。


「他は!?」


「夢篠佳子、高橋健吾、白石悠真、水野葵!」


 5人。


 少なくとも1人ではない。


 美咲は少し迷ってから、もう1つ確認した。


「武器持ってる!?」


「持ってない!」


 返事を聞いた美咲は、ゆっくりと扉へ近づいた。


 慎重に開く。


 外に立っていたのは、蓮たち5人だった。


 白石が美咲と美月の姿を確認し、ほっとしたように息を吐く。


「無事……?」


「今のところは」


 美月が答えた。


 蓮はすぐに小屋の中へ視線を向けた。


 壁には新しい弾痕が残っている。


「撃たれたのか?」


「外れた」


 美咲が答える。


「誰に?」


「分からない」


「顔は?」


「見えなかった。銃を撃ったら、すぐにいなくなった」


 葵も小屋の中へ入り、抉れた壁を確認した。


「これ……拳銃だよね」


「たぶん」


 美月が答える。


 葵は自分の端末を取り出し、【特殊物資情報】を開いた。


 以前存在していた拳銃のマーカーは、当然ながら消えたままだった。


「やっぱり追えない」


「撃った奴が持って逃げたなら、ここにいても分からないな」


 高橋は入口付近から周囲を警戒していた。


 蓮は美咲を見る。


「ここへ来る前に、誰か見なかったか?」


「相馬って人に会った」


 その名前に、全員の表情が変わる。


「相馬直人?」


「たぶん。そう名乗ってた」


「そいつに撃たれた?」


「分からない」


 美咲は首を振った。


「別れた後から誰かにつけられてる感じがした。でも、それが相馬だったのかは分からない。ここに来る前にも、別の気配があった気がする」


「別の?」


「分からないの。私にも……」


 美咲自身、混乱しているようだった。


 蓮はそれ以上追及しなかった。


 相馬が怪しい。


 そう考えることはできる。


 だが、それだけで銃を撃った人間だと決めつけることはできない。


「とにかく戻ろう」


 蓮が言った。


「ここに残る方が危険だ」


 美月もすぐに頷いた。


 美咲は最後にもう1度、銃弾で抉れた壁を見た。


 あの人影は誰だったのか。


 なぜ自分たちを撃ったのか。


 そして――なぜ外したのか。


 答えは何1つ分からなかった。


     *


 蓮たちが戻ってくるより少し前。


 拠点で1人になった聡子は、先ほど届いたシステムメッセージをもう1度開いていた。


 画面を見つめる。


 しばらくして、聡子は何も言わずに表示を閉じた。


 廊下の向こうから藤堂の声がする。


「聡子?」


「今行く」


 返した声は、いつもと変わらない。


 聡子は端末をしまい、普段と同じ表情に戻って立ち上がった。


 何が表示されていたのか。


 なぜそれを他の参加者に見せなかったのか。


 その理由を知る者は、まだ誰もいない。


 そして同じ頃、島のどこかでは別の端末が短く震えていた。


《SYSTEM ERROR》


 一瞬だけ表示された文字は、持ち主が確認する間もなく画面から消えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。