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エクストラバレット  作者: ほむら
2章 RE:side

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第132話 小さなお墓

 中央広場へ戻ってきた蓮は、周囲を見回した。


 以前と変わらない建物が並び、その向こうには深い森が広がっている。


 千尋と澪も後ろから続いていた。


「とりあえず、ここまで来たな」


 蓮は端末の地図を確認する。


 広場は見通しがいい。だが、建物の陰や森の中に誰かが潜んでいても不思議ではなかった。


「誰か来てるかな?」


 千尋が尋ねる。


「分からん。少し調べてみよう」


 蓮はそう答え、歩き出そうとした。


 その時、視界の端に小さな土の盛り上がりが入った。


 広場の片隅。


 そこには、以前自分が作った墓があった。


 莉奈の墓だ。


 蓮は一瞬だけ視線を向けた。


 そして、すぐに顔を逸らす。


「……行くぞ」


「ねえ、蓮」


「ん?」


 千尋が足を止めていた。


 視線の先には、あの墓がある。


「そこ、前に蓮が誰かを埋めたところだよね?」


「ああ」


 蓮は短く答えた。


 千尋も埋葬したこと自体は知っている。


 今さら隠すような話ではなかった。


「……ねえ」


「何だよ」


「もしかして、莉奈?」


 蓮の足が止まった。


「……知らん」


「え?」


「知らない」


 千尋は蓮を見つめた。


「莉奈だよね?」


「何でそうなるんだよ」


「だって、今あそこ見たじゃん」


「そりゃ見るだろ」


「でも、すぐ目を逸らした」


「別に」


「莉奈じゃん」


「違う」


「莉奈でしょ?」


「知らんって」


 千尋は一歩近づいた。


「ねえ、蓮」


「何だ」


「莉奈だよね?」


「…………」


「莉奈じゃん」


「何回聞くんだよ!」


 千尋は引き下がらなかった。


「だって、蓮がちゃんと答えないから」


「答えてるだろ」


「知らないって言ってるだけじゃん」


「それが答えだ」


「じゃあ、何でそんなに焦ってるの?」


「焦ってない」


「焦ってるよ」


 蓮は顔を背けた。


 千尋はそんな蓮を見て、ますます確信したようだった。


「……やっぱり莉奈なんだ」


「だから――」


「莉奈じゃん!」


「声がでかい!」


 蓮は慌てて周囲を見回した。


 こんな場所で大声を出していれば、他の参加者に居場所を知らせるようなものだ。


 少し離れたところにいた澪も、困ったように2人を見ていた。


「あの……千尋さん」


「何?」


「あまり大きな声を出すと、誰かに気づかれるかもしれません」


「……あ、そっか」


 千尋は口元に手を当てた。


 蓮は小さく息を吐く。


「ほら、行くぞ」


「待って」


「まだ何かあるのか?」


 千尋は声を落とした。


「……莉奈なんでしょ?」


「…………」


「ねえ」


 蓮はしばらく黙っていた。


 千尋の目は真剣だった。


 ふざけているわけではない。


 ただ、どうしても確かめたいらしい。


「……そうだよ」


 蓮は諦めたように答えた。


「莉奈だ」


 千尋は墓へ視線を向けた。


「……そっか」


 さっきまでの勢いが嘘のように、声が静かになる。


 千尋はゆっくりと墓に近づいた。


 蓮はその後ろ姿を見つめる。


 千尋は墓の前でしゃがみ込んだ。


「……莉奈」


 小さく名前を呼ぶ。


「ここにいたんだね」


 返事はない。


 ただ、風が吹き、墓の周りの草が揺れた。


 千尋はしばらく墓を見つめていた。


 やがて、ぽつりと言った。


「蓮、ちゃんと埋めてあげたんだ」


「……まあな」


「ありがとう」


「別に、礼を言われるようなことじゃない」


 蓮は視線を逸らした。


 千尋はもう一度、墓を見た。


「でもさ」


「何だよ」


「何で莉奈だって隠したの?」


「隠してない」


「さっき知らないって言ったじゃん」


「…………」


「莉奈、怒るよ?」


 蓮は返事をしなかった。


 代わりに、墓をちらりと見た。


 その瞬間だった。


「……ん?」


 蓮は目を細めた。


 何となく、違和感があった。


 土の盛り上がり。


 以前より、少し高くなっていないか。


 蓮はもう一度確認した。


 やはり、そんな気がする。


 目印に立てた木片も、わずかに傾いて見えた。


 蓮の背筋が冷たくなった。


 ――やばい。


 莉奈が怒ってる。


 もちろん、そんなわけがない。


 分かっている。


 分かっているのだが。


 よりによって千尋が「莉奈、怒るよ」と言った直後に、墓の土が盛り上がって見えるのは、あまりにも気味が悪かった。


「……千尋」


「何?」


「そろそろ行こう」


「え?」


「ここに長居するのは危険だ」


「でも、まだ莉奈と話してるんだけど」


「後にしろ」


「後って、いつ?」


「……とにかく行くぞ」


 蓮は歩き出した。


 千尋が不思議そうに振り返る。


「蓮?」


「何だよ」


「何でそんなに急いでるの?」


「急いでない」


「急いでるじゃん」


「周囲を警戒してるんだよ」


「……ねえ」


「今度は何だ」


「もしかして、莉奈が怒ってると思ってる?」


 蓮は立ち止まった。


「……は?」


「違う?」


「そんなわけないだろ」


「じゃあ、何でお墓をチラチラ見てるの?」


「見てない」


「見てたよ」


「気のせいだ」


 千尋は蓮の顔をじっと見た。


 そして、少しだけ口元を緩めた。


「……蓮、怖いんだ?」


「怖くない」


「莉奈に怒られるのが?」


「だから違うって!」


 千尋が小さく笑った。


 澪も思わず口元を押さえる。


 蓮はそれに気づいた。


「……澪まで笑うな」


「す、すみません……」


 澪は慌てて顔を伏せた。


 だが、肩が小さく揺れている。


 蓮は深くため息をついた。


 今はゲームの最中だ。


 いつ誰が襲ってくるかも分からない。


 こんなところで墓を相手に怖がっている場合ではない。


 そもそも、死んだ人間が怒って墓の土を盛り上げるなんて、あるはずがない。


 蓮はそう自分に言い聞かせた。


 そして、最後にもう一度だけ墓を見る。


 やっぱり少し盛り上がっている気がした。


 ――悪かった、莉奈。


 心の中で謝る。


 ――知らないって言ったのは悪かった。


「……よし、行くぞ」


 蓮は今度こそ歩き出した。


 千尋は墓へ向き直る。


「じゃあね、莉奈」


 小さく手を振った。


「また来るね」


 澪も静かに頭を下げ、千尋と一緒に蓮の後を追った。


 蓮は振り返らなかった。


 振り返りたくなかった。


 しばらく歩いたところで、千尋が隣に並ぶ。


「ねえ、蓮」


「……何だよ」


「莉奈、本当に怒ってたかな?」


「知らん」


「また知らないって言った」


「もう勘弁してくれ……」


 千尋が楽しそうに笑う。


 蓮はその笑い声を聞きながら、周囲へ目を向けた。


 広場の向こうには、古びた建物が並んでいる。


 他の参加者が近づいている可能性もある。


 いつまでも気を抜いてはいられない。


 蓮は表情を引き締め、歩く速度を少し上げた。


 その背後で、莉奈の墓を覆う草が、風に揺れていた。

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