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エクストラバレット  作者: ほむら
2章 RE:side

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第131話 1台目

 銃声が聞こえた方角を見つめたまま、雨宮紗良は動かなかった。


 篠原琴音も白川結衣も、その横顔を見ている。


「……紗良」


 篠原琴音がもう一度呼ぶ。


「何を探してるの?」


「……」


「さっきから変だよ。銃声がすると必ずそっちに行きたがるし」


「別に」


「別にじゃないでしょ」


 篠原琴音の声には、明らかな警戒が混じっていた。


 雨宮紗良はそれに気づいている。


 だからこそ言えない。


『死亡したプレイヤーが所持していた端末を三台回収してください』


 死者が出れば、自分の条件は進む。


 それを二人に知られれば、どう思われる。


 誰かが死ぬことを期待していると思われるかもしれない。


 もっと悪ければ。


 端末を手に入れるために、自分が人を殺すかもしれないと疑われる。


「……行かない」


 雨宮紗良が言った。


「え?」


「もういい。戻ろう」


 そう言って歩き出す。


 篠原琴音と白川結衣が顔を見合わせた。


 だが。


 三人が十数メートルほど進んだところで。


 雨宮紗良の足が止まった。


「……何?」


 白川結衣が尋ねる。


 雨宮紗良は答えない。


 鼻を動かす。


 僅かに。


 鉄のような臭いがした。


「……血?」


 篠原琴音も気づいた。


 三人の表情が変わる。


 雨宮紗良がゆっくりと木々の間を見る。


 地面。


 血痕。


 まだ新しい。


「やだ……」


 白川結衣が後退する。


 雨宮紗良は血痕の先を見た。


 行くべきではない。


 分かっている。


 さっきまで銃を持った人間がいた可能性が高い。


 それでも。


 足が動いた。


「紗良」


「ちょっとだけ」


「またそれ?」


「本当にちょっとだけ」


 雨宮紗良が血痕を辿る。


 篠原琴音は止めようとした。


 しかし、一人で行かせることもできず、結局あとを追った。


 白川結衣も二人から離れない。


 数十メートル。


 木を一本回ったところで。


 三人の足が止まった。


「……っ」


 白川結衣が口元を押さえる。


 男が倒れていた。


 早瀬陸。


 身体は動かない。


 周囲には血が広がっている。


 少し離れた地面には端末が落ちていた。


「死んでる……?」


 篠原琴音が呟く。


 誰も近づかない。


「確認しない方がいいよ」


 白川結衣が言った。


「撃った人がまだ近くにいるかもしれない」


「……そうだね」


 篠原琴音が頷く。


「行こう」


 二人が引き返そうとする。


 だが。


 雨宮紗良だけが動かなかった。


「紗良?」


 視線の先。


 早瀬陸ではない。


 その横に落ちている端末。


「……」


 雨宮紗良の心臓が速くなる。


 一台。


 あれを拾えば。


 三台のうち。


 一台。


「紗良」


「……先に戻ってて」


「は?」


 篠原琴音が振り返った。


「何言ってるの?」


「すぐ行くから」


「何するの?」


「……」


 雨宮紗良は答えなかった。


 早瀬陸へ近づく。


「ちょっと!」


 篠原琴音が腕を掴んだ。


「やめなよ!」


「離して」


「危ないって!」


「分かってる!」


「じゃあなんで!」


 雨宮紗良が篠原琴音を見る。


 言えない。


 だが。


 ここで端末を置いていけば、次に戻ったとき残っている保証はない。


「……必要なの」


 篠原琴音の表情が変わった。


「何が?」


「……」


「紗良」


 雨宮紗良は篠原琴音の手を振りほどいた。


 早瀬陸のもとへ行く。


 しゃがむ。


 まず首元を見る。


 首輪が残っている。


 それから胸元。


 動いていない。


 呼吸もない。


 雨宮紗良は震える手を伸ばした。


 地面に落ちている端末を拾う。


 その瞬間。


 端末が短く振動した。


「……っ」


 雨宮紗良が画面を見る。


『TERMINAL L』


 端末L。


 早瀬陸が所持していた端末。


 死亡したプレイヤーの端末。


 条件を満たす一台。


 雨宮紗良は自分の端末も取り出した。


 画面を確認する。


『2nd STAGE CLEAR CONDITION』


『死亡したプレイヤーが所持していた端末を三台回収してください』


 そして。


 表示が切り替わった。


『回収数 1 / 3』


「……」


 一台目。


 雨宮紗良は息を呑んだ。


「紗良」


 背後から声がした。


 振り返る。


 篠原琴音。


 白川結衣。


 二人とも。


 見ていた。


 雨宮紗良が死者の端末を拾うところを。


「……それ」


 篠原琴音が言う。


「欲しかったの?」


「……」


「だから銃声のところに行きたがってたの?」


 雨宮紗良は端末Lを握りしめた。


「……うん」


 もう誤魔化せない。


「条件?」


 白川結衣が尋ねる。


 長い沈黙のあと。


 雨宮紗良は頷いた。


「……死んだ人の端末が必要なの」


 篠原琴音の表情が強張る。


「何台?」


「……三台」


「三台……」


 白川結衣が早瀬陸を見る。


 そして雨宮紗良を見る。


「じゃあ……あと二人、死なないと駄目ってこと?」


「違う」


 雨宮紗良がすぐに否定した。


「私が殺す必要はない」


「でも死んだ人の端末なんでしょ?」


「そうだけど……」


「同じじゃん」


「同じじゃない!」


 雨宮紗良の声が響いた。


「私は殺してない!」


 二人が黙る。


「この人だって私が殺したんじゃない。私はただ……」


 言葉が止まる。


 ただ。


 何なのか。


 死んだ人間の端末を拾っただけ。


 それは事実だ。


 でも。


 あと二台必要。


 つまり。


 あと二人以上の死者が必要になる。


「……私だって、こんな条件欲しくなかった」


 雨宮紗良が俯く。


「でも、これやらなきゃ私がクリアできないんだよ」


 篠原琴音は何も言えなかった。


 自分も同じだからだ。


 首輪の外れている人間を一人殺す。


 雨宮紗良より。


 自分の条件の方が直接的だった。


「……ごめん」


 篠原琴音が小さく言った。


「責めるつもりじゃなかった」


「……うん」


「ただ、怖かっただけ」


「分かってる」


 白川結衣は二人を見ていた。


 雨宮紗良の条件が分かった。


 これで。


 三人の中で条件を隠しているのは。


 自分と篠原琴音。


 白川結衣は端末へ触れそうになり。


 やめた。


 一度しか指定できない。


 まだ決められない。


「ここ離れよう」


 白川結衣が言った。


「撃った人が戻ってくるかもしれない」


 雨宮紗良も頷く。


「うん」


 端末Lを持つ。


 篠原琴音がそれを見る。


「それ……持っていくんだよね」


「持っていかないと条件にならないから」


「そっか」


 三人は早瀬陸の死体から離れた。


 その途中。


 白川結衣が立ち止まる。


「ねえ」


「何?」


「廃屋に戻る?」


 三人が顔を見合わせる。


 雨宮紗良が首を横に振った。


「……もう、あそこにずっといても何も分からないと思う」


「じゃあどうする?」


 雨宮紗良は自分の端末を開いた。


 地図。


「人がいる場所を探したい」


 篠原琴音が少し警戒する。


「また端末のため?」


「それもある」


 雨宮紗良は隠さなかった。


「でも、それだけじゃない。今、島で何が起きてるのか全然分からないから」


「人が集まりそうな場所……」


 白川結衣が地図を覗き込む。


 篠原琴音も近づく。


 三人の視線が。


 一つの場所で止まった。


「中央広場……」


 白川結衣が呟く。


 ゲーム開始時。


 誰もが一度は意識した場所。


 島の中央。


「危なくない?」


 篠原琴音が言った。


「危ないと思う」


 雨宮紗良が答える。


「でも、人に会うなら一番可能性高いんじゃないかな」


 篠原琴音は考える。


 人に会う。


 その中に。


 首輪が外れている人間がいるかもしれない。


 自分の条件を達成できる相手。


「……」


「琴音?」


「ううん」


 篠原琴音は首を振った。


「私も行く」


 白川結衣も頷く。


「私も」


 三人の目的は同じではない。


 雨宮紗良は、情報と死者の端末。


 篠原琴音は、首輪が解除されているプレイヤー。


 白川結衣は。


 まだ選んでいない。


 たった一人の指定相手。


「じゃあ行こう」


 三人は中央広場へ向かって歩き始めた。


     ◇


 別の場所。


 朝倉悠斗も森の中を歩いていた。


「……誰もいねえな」


 人を探すため海岸を離れてから、まだ誰とも会っていない。


 手には端末。


『PLAYER13を殺害してください』


「PLAYER13……」


 もう何度口にしたか分からない。


 顔も分からない。


 名前も分からない。


 だから。


 まず誰かを探す。


 PLAYER番号について知っている人間を見つける。


 朝倉悠斗は端末の地図を開いた。


「人がいそうなところ……」


 指を動かす。


 そして。


 止まった。


「中央広場か」


 危険なのは分かっている。


 だが。


 人を探すなら。


 ここしか思いつかなかった。


 朝倉悠斗は地図を閉じる。


「……行ってみるか」


 進路を変えた。


 中央広場へ。


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