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エクストラバレット  作者: ほむら
2章 RE:side

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第129話 2人目の死亡者

 森の中を歩きながら、藤崎奈緒は小さく鼻歌を歌っていた。


 先ほどまでの銃撃など、もうどうでもいいらしい。


 神谷蓮たちを追いかけることもやめた。


 逃げられたから。


 ただ、それだけ。


「次、誰いるかなぁ」


 右手には拳銃。


 それを軽く振りながら、藤崎奈緒は木々の間を進んでいく。


 本来なら。


 探さなければならない。


『2nd STAGE開始時点で1st STAGEをクリアしているプレイヤーを全員殺害してください』


 対象となる人間。


 つまり、2nd STAGE開始時点ですでに1st STAGEをクリアしていた者。


 誰が該当するのかを調べ、その人間を殺す。


 それが藤崎奈緒の条件だった。


 だが。


「いちいち聞くのも面倒なんだよね」


 藤崎奈緒は拳銃をくるりと回した。


「クリアしたー? してないー? なんて聞いて、してませーんって嘘つかれたら終わりじゃん」


 だから。


 見つけた人間から殺す。


 対象なら条件が進む。


 対象でなくても。


 別に構わない。


 藤崎奈緒の中では、それだけの話だった。


「次は逃げない人がいいなぁ」


 笑いながら歩いていた、そのとき。


 前方から草を踏む音がした。


「ん?」


 藤崎奈緒が止まる。


 木々の向こう。


 誰かが歩いてくる。


 向こうもこちらに気づいたらしい。


 足音が止まった。


「……誰だ?」


 男の声。


 藤崎奈緒の口元が緩んだ。


「いた」


     ◇


 早瀬陸は、中央広場へ向かっていた。


 地図を確認しながら山道を下り、人と接触できそうな場所を目指している。


 目的は一つ。


 PLAYER13。


『PLAYER13が所持する端末を破壊してください』


 PLAYER13を見つける。


 端末を破壊する。


 それだけでいい。


 人を殺す必要はない。


 そう考えれば、まだ自分の条件はましなのかもしれない。


「……まずPLAYER番号知ってる奴探さないとな」


 早瀬陸が端末を閉じる。


 そのとき。


 前方に女が立っていた。


「……」


 早瀬陸が足を止める。


 拳銃。


 最初に目へ入ったのは、それだった。


「おい」


 早瀬陸の声が低くなる。


「それ……下ろせよ」


 藤崎奈緒は答えない。


 ただ。


 笑っている。


「聞こえてんのか?」


「聞こえてるよ」


「だったら――」


「ねえ」


 藤崎奈緒が遮った。


「1st STAGE、クリアした?」


 早瀬陸の表情が変わった。


「……何でそんなこと聞く」


「あー」


 藤崎奈緒が面倒そうに首を傾ける。


「やっぱ聞くの面倒だわ」


「は?」


 拳銃が上がった。


 早瀬陸が目を見開く。


「待――」


 銃声。


 早瀬陸が咄嗟に身体を横へ投げた。


 弾丸が木の幹を抉る。


「お前、何してんだ!」


「殺そうとしてる!」


「見りゃ分かる!」


 早瀬陸が走った。


「あははっ!」


 藤崎奈緒も走り出す。


 銃声。


 早瀬陸のすぐ横で土が弾ける。


「クソッ!」


 逃げながら端末をしまう。


 武器はない。


 まともに戦えば勝てない。


 木を盾にしながら森の奥へ走るしかなかった。


「待ってよー!」


「待つわけねえだろ!」


「話したいだけだから!」


「撃ちながら言うな!」


 もう一発。


 木の枝が折れる。


 早瀬陸は歯を食いしばって走った。


 速い。


 だが。


 地形が悪い。


 山側から中央へ向かう斜面。


 木の根。


 岩。


 湿った土。


 足元を確認しながら走らなければ転ぶ。


 一方、藤崎奈緒は追いかけながら笑っていた。


「結構速いね!」


「来んな!」


「無理!」


 銃声。


 今度は近かった。


「ぐっ!」


 早瀬陸の身体が傾く。


 左腕。


 服が裂け、その下から血が流れ出す。


「……ッ!」


 撃たれた。


 それでも止まらない。


 止まれば殺される。


 早瀬陸は右手で左腕を押さえながら走った。


「当たった!」


 背後から藤崎奈緒の嬉しそうな声。


「クソ女……!」


 前を見る。


 斜面の先。


 木々が少なくなっている。


 そこまで行けば。


 何かある。


 隠れられる場所。


 逃げられる道。


 早瀬陸は速度を上げた。


 だが。


 その瞬間。


 足が木の根に引っかかった。


「――っ!」


 身体が前へ投げ出される。


 地面へ激しく倒れた。


 端末がポケットから飛び出す。


「……ッ、くそ……」


 起き上がろうとする。


 左腕に力が入らない。


 右手を地面につく。


 その視界に。


 靴が入った。


「捕まえた」


 早瀬陸が顔を上げる。


 藤崎奈緒が立っていた。


 拳銃が向けられる。


「……やめろ」


「なんで?」


「俺は……お前に何もしてねえだろ」


「うん」


「だったら……」


「でもゲームだし」


 あまりにも軽かった。


 早瀬陸の顔が引きつる。


「お前……頭おかしいぞ」


「よく言われる」


 藤崎奈緒が笑う。


 早瀬陸は周囲を見る。


 逃げ道。


 ない。


 拳銃との距離。


 数メートルもない。


「……待て」


「ん?」


「俺を殺しても……お前の条件になるとは限らないんだろ」


 藤崎奈緒の眉が少し上がる。


「さっき聞いただろ。1st STAGEをクリアしたかって」


「うん」


「だったら俺が対象か確認しろよ」


「……」


「対象じゃなかったら、殺す意味ないだろ」


 藤崎奈緒は数秒黙った。


 早瀬陸は、その沈黙に僅かな希望を感じた。


 話が通じた。


 そう思った。


 しかし。


「やっぱり面倒」


「……は?」


「確認するの」


 藤崎奈緒の人差し指が引き金へかかる。


「待て!」


「じゃあね」


 銃声。


     ◇


 森から鳥が一斉に飛び立った。


 一発。


 少し間を置いて。


 もう一発。


 そして。


 静かになった。


     ◇


「……死んだ?」


 藤崎奈緒は倒れた早瀬陸を覗き込んだ。


 反応はない。


 拳銃を下ろす。


「まあ、いっか」


 早瀬陸の端末が少し離れた場所に落ちている。


 画面には、まだ条件が表示されていた。


『PLAYER13が所持する端末を破壊してください』


 藤崎奈緒はそれを拾った。


「PLAYER13?」


 数秒眺める。


「知らなーい」


 そのまま端末を地面へ放り投げた。


 興味はなかった。


 藤崎奈緒は早瀬陸の首元を見る。


 首輪。


「……あ」


 しゃがみ込む。


 確認するように指で触れる。


「首輪あるじゃん」


 2nd STAGE開始時点で1st STAGEをクリアしていた者。


 クリアしていても、必ずしも首輪が外れているとは限らない。


 逆に首輪だけを見ても、確実な判別はできない。


 藤崎奈緒は少し考えた。


「まあいいや」


 立ち上がる。


「次いこ」


 それだけだった。


 早瀬陸が何者だったのか。


 自分の条件対象だったのか。


 そんなことを確かめることすらしない。


 藤崎奈緒は鼻歌を再開すると、その場から離れていった。


 森に残されたのは。


 早瀬陸の死体。


 血。


 そして。


 一台の端末。


     ◇


 しばらくして。


「……また聞こえた」


 雨宮紗良が足を止めた。


 廃屋へ戻る途中だった。


 篠原琴音も振り返る。


「銃声?」


「うん」


 白川結衣の表情が強張る。


「さっきより近くない?」


 三人が黙る。


 雨宮紗良は銃声がした方角を見る。


 胸の奥で。


 自分でも嫌になる考えが浮かんでいた。


 ――誰か死んだかもしれない。


 そして。


 その死体が端末を持っているなら。


 一台。


 自分の条件に近づく。


「……紗良」


 篠原琴音が呼ぶ。


「また行くつもり?」


 雨宮紗良は答えない。


「ねえ」


「……」


「やっぱり銃声と紗良の条件、関係あるんでしょ」


 雨宮紗良の視線は、森の奥から動かなかった。


 死者の端末を三台回収する。


 その条件を達成するには。


 誰かが死ななければならない。


「……少しだけ」


「また?」


「確認するだけだから」


「さっきもそう言ったよね」


 篠原琴音の声が険しくなる。


「今度こそ危ないよ。近いんだよ?」


「だから今なんだよ」


 雨宮紗良が言った。


「……え?」


 篠原琴音が聞き返す。


 雨宮紗良自身も。


 口に出してから気づいた。


 今だから。


 撃った人間が離れた直後かもしれない。


 死体があるなら、まだ誰にも端末を取られていないかもしれない。


 篠原琴音の目が変わった。


「紗良」


「……」


「何を探してるの?」


 雨宮紗良は答えなかった。


 答えられなかった。


 白川結衣は二人を見つめている。


 そして。


 数百メートル先。


 木々の間には。


 早瀬陸が倒れていた。


 その傍らに。


 端末Lが落ちている。


 PLAYER14――早瀬陸。


 二人目の死亡者。


 ゲーム開始時十五人。


 残り。


 十三人。

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