第117話 鍵
森の中を吹き抜ける風が、木々の葉を揺らしていた。
久我拓真の襲撃から逃れた三人は、当初の予定よりも大きく南へ迂回しながら、澪の端末に表示された指定地点を目指していた。
あれから、もう一時間近くが経っている。
背後から追跡者の足音が聞こえることはなくなったものの、蓮はまだ安心していなかった。あの男がどれほど執念深いのか、身をもって知ったばかりだからだ。
以前、指定物資を回収した建物で遭遇したときには、突然殴りかかってきた男を取り押さえただけだった。あの場にいたもう一人の参加者が止めに入ったこともあり、それ以上の争いにはならなかった。
蓮にとっては、それで終わった出来事だった。
ところが相手は違ったらしい。
たった一度、自分が負けたというだけで、わざわざ武器を手にして襲ってきた。
しかも、自分だけではなく、一緒にいた千尋や澪まで巻き込んで。
「……蓮」
後ろから声をかけられ、蓮は足を緩めた。
「何だ?」
「また難しい顔してる」
振り返ると、千尋が呆れたような表情でこちらを見ていた。その隣では澪が包帯の巻かれた左腕を庇いながら歩いている。
「元からこういう顔だ」
「それ、便利な言い訳だよね」
「事実だろ」
「自分で言っちゃうんだ」
千尋は小さく笑ったが、すぐに澪の方へ視線を向けた。
「それより澪、本当に腕は大丈夫?」
「うん。さっきより痛くないよ」
「無理してない?」
「してないってば」
「ほんとに?」
「千尋、それ六回目」
「えっ、数えてたの?」
「途中から」
澪が笑うと、千尋は少しだけ頬を膨らませた。
「だって心配なんだもん」
「ありがとう。でも、本当に大丈夫だから」
そう言いながら、澪は左腕を軽く持ち上げてみせた。
傷そのものは浅い。矢が皮膚を掠めただけで、腕の動きにも大きな支障はなさそうだった。それでも蓮には、彼女が無理をしているように見えて仕方がなかった。
「……痛くなったら言えよ」
「蓮も七回目」
「俺は一回目だろ」
「千尋と合わせて」
「何で合算するんだよ」
千尋が吹き出し、澪もつられて笑った。
その笑い声を聞きながら、蓮は小さく息を吐いた。
ほんの少し前まで、三人は命を狙われていた。
それなのに、もうこんな会話をしている。
昨日の湖畔でも感じたことだったが、千尋と澪が揃うと、どうしても場の空気が軽くなるらしい。
もちろん、それ自体が悪いわけではない。
むしろ今は、ありがたいと思っていた。
ただし、二人が笑っている間も、蓮は周囲への警戒を解かなかった。
木々の間に人影はないか。足元に新しい足跡は残っていないか。遠くからこちらを窺っている者はいないか。
そんなことを考えながら歩いていると、澪がふいに口を開いた。
「ねえ、蓮」
「ん?」
「あの人、また来ると思う?」
千尋の笑顔が消えた。
蓮は少し考えてから答えた。
「……来る可能性は高いな」
「やっぱり?」
「あれだけ俺に執着してたからな。簡単に諦めるとは思えない」
「そっか……」
澪は包帯の巻かれた腕を見下ろした。
その表情に、先ほどまでの明るさはなかった。
「怖いか?」
蓮が尋ねると、澪は小さく頷いた。
「……うん。怖い」
意外なほど素直な返事だった。
「走ってるときはね、あんまり考える余裕がなかったんだ。とにかく逃げなきゃって、そればっかりで」
澪は歩きながら、右手で左腕の包帯にそっと触れた。
「でも、逃げ切ってから急に怖くなっちゃって。もし矢がもう少しずれてたらって考えると……」
その先は言わなかった。
言わなくても、二人には分かった。
腕ではなく、胸や首に当たっていたら。
あるいは、蓮の顔の横を通り過ぎた最初の矢が、ほんの少しでも違う方向へ飛んでいたら。
今、こうして三人で歩いてはいなかったかもしれない。
「……私さ」
澪が続けた。
「ここに来るまで、本当に人が人を殺そうとするところなんて見たことなかった」
「普通はそうだよ」
千尋が静かに答えた。
「私だってないもん」
「うん。でも、テレビとか映画だと、そういう場面ってあるでしょ?」
「ああ」
蓮が頷く。
「だから、怖いものだっていうのは分かってたつもりだったんだけど……実際は全然違った」
澪は少し俯いた。
「矢が飛んできたとき、痛いとか怖いとか思うより先に、何が起きたのか分からなかった。腕から血が出てるのを見て、ようやく自分が撃たれたんだって気づいたの」
千尋が何も言わずに聞いている。
「それでね、急に思ったんだ」
「何を?」
「……死にたくないなって」
その言葉は、風に紛れてしまいそうなほど小さかった。
蓮は澪の横顔を見た。
彼女はまだ高校二年生だ。
学校へ通い、友達と遊び、気になったことを調べては楽しそうに話す。昨夜だって、湖に映った星を見て無邪気にはしゃいでいた。
そんな少女が、たった数時間後には、自分の死を想像している。
この島では、それが当たり前になってしまう。
「……帰りたい」
澪が呟いた。
「学校にも行きたいし、友達にも会いたい。まだやりたいこと、いっぱいあるんだ」
「うん」
千尋が頷いた。
「帰ろうよ」
「……」
「せっかく三人でいるんだからさ。みんなで帰ろう」
澪が顔を上げる。
「千尋……」
「私なんて、もう首輪ないんだよ? 澪の鍵を取って、保管庫を開けて、蓮の条件も終わらせれば、三人ともゲームクリアできるんだから」
千尋は自分の首元を指差しながら、いつもの調子で笑ってみせた。
「そう考えたら、結構順調じゃない?」
「……そうだね」
「でしょ?」
澪の表情が少し和らぐ。
だが、蓮だけは簡単に頷けなかった。
確かに、千尋の条件は達成された。
澪も鍵を入手できれば、残るのは保管庫を開けることだけになる。
自分の条件だって、指定物資を届ければ達成できる。
しかし、それで本当に終わるのか。
前回のゲームを経験した蓮には、そう思えなかった。
首輪が外れた者が安全だとは限らない。
むしろ、次の段階ではそれが別の危険を招く可能性すらある。
だからこそ、自分は条件を達成しても、すぐには首輪を外さないつもりでいる。
だが、その判断を今ここで二人に説明することはできなかった。
「……蓮?」
千尋がこちらを見る。
「何だよ」
「また考え事?」
「まあな」
「三人で帰るんでしょ?」
蓮は返事をしなかった。
その沈黙に、千尋が少しだけ眉を寄せる。
「……蓮」
「分かってる」
「本当に?」
「帰るつもりがなかったら、こんなところ歩いてないだろ」
蓮はそう言って、再び前へ向き直った。
「とりあえず鍵だ。話はそれからにしよう」
千尋は何か言いたそうだったが、それ以上は追及しなかった。
澪も頷き、端末の地図を確認する。
「うん。もう少しだと思う」
三人は再び歩き始めた。
*
指定地点が近づくにつれて、森の様子が少しずつ変わっていった。
それまで不規則に生えていた木々の間に、古い人工物が見え始めたのだ。
地面には苔に覆われたコンクリート片が転がり、朽ちかけた木製の柵がところどころに残っている。かつて何らかの施設があったのかもしれないが、長い間手入れされていないらしく、周囲の植物にほとんど飲み込まれていた。
「何だろう、ここ」
澪が周囲を見回す。
「昔、何かあったのかな」
「管理施設とか?」
千尋が答える。
「湖も近いし、観光用の建物だったとか」
「それなら案内板とかありそうだけど」
「もう壊れちゃったんじゃない?」
二人の会話を聞きながら、蓮は地面に残された痕跡を調べていた。
この島には、前回のゲームでも使われた施設がいくつもある。
今回も同じ建物が利用されているのか、それとも新たに配置されたものなのかは分からないが、指定地点がある以上、運営が何らかの準備をしていることだけは確かだった。
「澪、あとどれくらいだ?」
「えっと……」
澪が端末を操作する。
「もうすぐ。たぶん、この先の建物だと思う」
彼女が指差した先には、小さな平屋の建物があった。
外壁は灰色にくすみ、窓の一部には板が打ち付けられている。入口の上にはかつて何かの看板が取り付けられていたらしい跡が残っていたが、文字までは読み取れなかった。
蓮は二人をその場で止めた。
「ここで待ってろ。先に確認してくる」
「また一人で?」
千尋が尋ねる。
「三人まとめて襲われるよりいい」
「でも、さっきみたいな人がいたら危ないよ」
「だから確認するんだろ」
「……それはそうだけど」
千尋は納得しきれない様子だったが、澪の隣へ戻った。
蓮は二人にその場から動かないよう伝えると、建物へ近づいた。
入口付近に人影はない。
周囲の草が踏み荒らされた様子もなく、窓の向こうから物音が聞こえることもなかった。
それでも慎重に扉を開け、中を覗き込む。
薄暗い室内には、古い机や棚が残されていた。
床には埃が積もり、天井の一部には雨漏りの跡がある。奥には小さな部屋があり、壁際には金属製の収納箱が置かれていた。
蓮は建物の内部を一通り確認し、誰も潜んでいないことを確かめてから外へ戻った。
「大丈夫そうだ。入るぞ」
「よかったぁ」
千尋が安堵の息を漏らす。
「こういう建物、毎回誰かいたらどうしようって思っちゃう」
「それくらい警戒してた方がいい」
「蓮は警戒しすぎだけどね」
「足して二で割ればちょうどいいな」
「じゃあ澪は?」
「……普通?」
澪が首を傾げると、千尋が笑った。
「それ、私だけ警戒心ないってこと?」
「自覚あるなら直せ」
「ひどい!」
三人はそんな会話を交わしながら建物へ入った。
もっとも、蓮は笑いながらも、奥の部屋から目を離していなかった。
指定された鍵があるとすれば、おそらくあそこだ。
*
「これかな?」
奥の部屋へ入った澪が、壁際の金属箱を指差した。
端末に表示されている位置と、ほぼ一致している。
箱は小さく、持ち運ぶこともできそうだったが、蓋には簡単な留め具が取り付けられていた。
「開けてみてもいい?」
「ちょっと待て」
蓮が近づく。
「……また?」
千尋が呆れたように言った。
「確認するだけだ」
「蓮って、私たちが何か触ろうとすると絶対止めるよね」
「知らないものをいきなり開ける方がどうかしてる」
「はいはい、先生」
「その呼び方やめろ」
蓮は箱の周囲を調べ、特に不審な点がないことを確認した。
「……いいぞ」
「じゃあ、開けるね」
澪が箱へ手を伸ばす。
蓋は思ったより軽く、ほとんど抵抗もなく開いた。
中に収められていたのは、小さな金属製の鍵だった。
銀色の表面には細かな傷があり、持ち手の部分には数字とアルファベットが刻まれたタグが付いている。
「……あった」
澪が呟いた。
千尋が隣から覗き込む。
「本当に鍵だ」
「鍵を探しに来たんだから当たり前だろ」
「いや、もっとこう……特別なものかと思って」
「特別な鍵って何だよ」
「金色とか」
「それはお前の想像だろ」
「宝箱の鍵みたいなやつ!」
千尋が両手で大きさを示すと、澪が笑った。
「それ、持ち歩くの大変そう」
「確かに」
澪は二人の会話を聞きながら、箱の中の鍵をそっと持ち上げた。
その瞬間。
ピッ。
端末から電子音が鳴った。
「……!」
三人の視線が画面へ集まる。
表示が切り替わっていた。
『指定鍵の回収を確認しました』
続いて、新たな文字が現れる。
『指定保管庫を解錠してください』
澪はしばらく画面を見つめ、それから手の中の鍵へ視線を落とした。
「……本当に取れたんだ」
「ああ」
蓮が頷く。
「これで残るのは保管庫だけだな」
「そっか……」
澪の声が少し震えた。
千尋がその顔を覗き込む。
「どうしたの?」
「ううん。何でもない」
「嬉しくない?」
「嬉しいよ」
澪は笑った。
けれど、その目にはわずかに涙が浮かんでいた。
「ただ、さっきのことがあったから……」
言葉を探すように、澪は鍵を握り直した。
「もう駄目かもしれないって、ちょっと思っちゃったんだ」
千尋は何も言わなかった。
「腕を怪我したとき、もしこのまま逃げられなかったらどうしようって。鍵も取れないまま終わっちゃうのかなって……」
澪は包帯の巻かれた腕を見た。
「だから、ちゃんとここまで来られてよかった」
その言葉を聞いて、千尋は澪の肩へそっと手を置いた。
「まだ終わってないよ」
「うん」
「保管庫もあるし、蓮の条件もある」
「そうだね」
「だから、ここで泣くのは早いって」
「……泣いてないよ」
「ちょっと泣いてる」
「泣いてない」
「目、赤いよ?」
「千尋!」
二人が笑った。
蓮はその様子を少し離れたところから見ていた。
澪が鍵を手に入れた。
それは間違いなく、一歩前進だった。
しかし、運営が彼女を特別に気にかけている理由は、まだ何も分かっていない。
なぜ九条澪なのか。
なぜGAME MASTERにまで、彼女との合流を優先させようとしたのか。
そして、誤送信に気づいたはずの運営が、その後も自分へ訂正を送ってこないのはなぜなのか。
蓮は澪を見る。
包帯の巻かれた腕を気にしながらも、千尋と笑い合っている普通の高校生。
少なくとも、今のところはそれ以上の何かがあるようには見えなかった。
「……蓮?」
澪がこちらを向いた。
「どうしたの?」
「いや、何でもない」
「またそれ」
千尋がすかさず口を挟む。
「蓮の『何でもない』は絶対何かあるんだよ」
「本当に何でもないときもある」
「じゃあ今回は?」
「……鍵が取れてよかったと思っただけだ」
澪が目を瞬いた。
そして、嬉しそうに笑う。
「うん!」
その笑顔を見て、蓮は一瞬だけ言葉を失った。
どうやら千尋だけではないらしい。
この少女もまた、こちらの警戒心を妙なところから崩してくる。
「……さて」
蓮は話を切り上げるように端末を取り出した。
「次の場所を確認するぞ」
澪も頷き、地図を開く。
指定された保管庫は、現在地から少し離れた場所にあった。歩いて行けない距離ではないが、森をいくつか越える必要がありそうだった。
「今日中に行けるかな?」
澪が尋ねる。
「時間的には行けるかもしれない。ただ、無理はしない」
「私の腕?」
「それもある」
蓮は地図から顔を上げた。
「さっきの男がどこにいるか分からないからな。あいつがこの辺りを探してる可能性もある」
千尋の表情が引き締まる。
「……また会ったら?」
「今度も逃げられるなら逃げる」
「逃げられなかったら?」
蓮はすぐには答えなかった。
拳銃もある。
ナイフもある。
山小屋で手に入れた武器だって、荷物の中に収まっている。
自分一人なら、取れる手段はいくつもあるだろう。
だが、今は二人を連れている。
それも、一人は首輪が外れたばかりの大学生で、もう一人は腕を負傷した高校生だ。
守るべきものが増えれば、それだけ選べる行動も変わる。
「……そのとき考える」
蓮は答えた。
千尋は不満そうだったが、何も言わなかった。
代わりに澪が、手にした鍵を見つめながら呟いた。
「ねえ、蓮」
「ん?」
「この鍵ってさ、普通の鍵だよね」
「見た感じはな」
「なのに、これ一つで私の命が決まるんだね」
蓮は澪を見た。
彼女は笑っていなかった。
「さっきまで、ただの金属の鍵だったのに。これがなかったら、私は首輪を外せないんだよね」
「……ああ」
「変なの」
澪は手のひらに鍵を乗せた。
「こんな小さいものに、こんな大事な意味があるなんて」
千尋もその鍵を覗き込んだ。
「でも、逆に考えたらさ」
「逆?」
「その小さい鍵があれば、澪も助かるってことでしょ?」
「……うん」
「だったら、いい鍵じゃん」
千尋は笑った。
「私の医療箱なんて結構重かったんだよ? 澪はそれ一個で済むんだから、ちょっと羨ましい」
「でも保管庫まで行かないと駄目だよ」
「それはそうだけど」
「しかも、どんな保管庫か分からないし」
「じゃあ開けたら宝物入ってるかも!」
「また宝物?」
「金塊とか!」
「賞金あるのに?」
「じゃあお菓子!」
「保管庫に?」
「チョコとか」
「溶けてそう」
澪が笑い、千尋もつられて笑った。
蓮は呆れながら二人を見た。
「お前ら、何の話してるんだよ」
「保管庫の中身予想」
「鍵を開けるのが条件だろ。中身は関係ない」
「夢がないなぁ」
「ゲームの条件に夢を求めるな」
「蓮って本当にロマンないよね」
「昨日も言われたな、それ」
千尋が笑う。
澪も笑った。
そして蓮は、そんな二人を見ながら、ふと思った。
前回のゲームでは、他人の条件を知ること自体が大きな意味を持っていた。
条件を明かすか。
隠すか。
協力するか。
疑うか。
その選択一つで、参加者同士の関係が大きく変わった。
今回も、それは同じはずだった。
けれど千尋と澪は、まるで学校の課題でも一緒に進めているかのように、互いの条件について話している。
この二人だからこそ生まれる空気なのだろう。
蓮はそう思った。
同時に、その空気がいつまでも続くとは限らないことも知っていた。
もし最初の死者が出たら。
もし条件が変わったら。
もし二人のどちらかが、もう一人を危険に晒すような条件を与えられたら。
そのときも、今と同じように笑っていられるだろうか。
答えは分からない。
だからこそ、今は少しでも先へ進むしかなかった。
「……そろそろ出るぞ」
蓮が言った。
千尋が頷き、澪も鍵を大切そうにしまった。
「次は保管庫だね」
「ああ」
「今度こそ、誰にも襲われないといいなぁ」
千尋がぼやく。
「それは俺も同感だ」
「蓮もそう思うんだ」
「当たり前だろ」
「戦うの得意そうだから、平気なのかと思ってた」
「得意だからって好きなわけじゃない」
蓮の返事に、千尋は少し驚いたようだった。
「……そっか」
「そういうことだ」
蓮は入口へ向かう。
澪もその後に続いたが、扉の前で一度だけ立ち止まった。
「蓮」
「何だ?」
「ありがとう」
「……今度は何だよ」
「ここまで連れてきてくれて」
「まだ終わってないぞ」
「分かってる」
澪は笑った。
「だから、保管庫までよろしくね」
蓮はその顔を見て、少しだけ肩をすくめた。
「……ああ。任せとけ」
千尋が横から顔を出す。
「私もいるんだけど?」
「千尋もよろしく」
「よろしい!」
「何でお前が偉そうなんだよ」
三人の笑い声が、古い建物の中に響いた。
やがて蓮が扉を開けると、外には昼の光が広がっていた。
森の向こうに何が待っているのか、まだ分からない。
先ほどの男が再び現れるかもしれないし、別の参加者と遭遇する可能性もある。
それでも、澪の手には確かに鍵がある。
ゲームクリアへ繋がる、小さな鍵が。
蓮は周囲を確認してから歩き出し、千尋と澪もその後へ続いた。
次に目指すのは、指定された保管庫。
九条澪の首輪を外すための、最後の目的地だった。




