↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エクストラバレット  作者: ほむら
2章 RE:side

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

104/176

第103話 いちゃもん

木々の向こうから現れた二人は、蓮たちの姿に気づくと同時に足を止めた。


 一人は背が高く、短く刈った髪に険のある目をした男だった。もう一人はそれより細身で、前を歩く男ほど敵意を露わにはしていないものの、突然出会った蓮たちを警戒していることは表情を見れば分かる。


 二人とも首には金属製の首輪があり、手には端末を持っていた。


 今回のエクストラバレットに参加させられたPLAYERで間違いない。


「そこ、どけよ」


 挨拶もなく、背の高い男が言った。


 蓮は建物の入口から動かなかった。室内には自分のクリア条件に指定されている物資があり、まだ回収を終えていない。相手がここへ来た目的は分からないが、言われるまま場所を譲る理由もなかった。


「何しに来た?」


「お前に言う必要あるか?」


「だったら、俺たちがどく理由もないだろ」


 男の眉が吊り上がった。


 後ろにいる細身の男が「おい、別に揉める必要ないだろ」と声をかけたが、背の高い男は振り返りもせずに「うるせえ」と吐き捨てる。


 そのやり取りを見ただけで、蓮は相手への警戒を一段階引き上げた。


 条件が何なのかは分からない。単純に物資を探しているだけかもしれないし、蓮と同じようにこの建物そのものが指定地点になっている可能性もある。それなら互いの目的を確認すれば済む話なのだが、目の前の男には最初から話し合う気がないらしい。


「ここがお前の指定地点なら、先に確認した方がいい。同じ場所でも、必要な物まで同じとは限らないだろ」


「馬鹿じゃねえの」


「何?」


「こんな島に放り込まれて、首に爆弾までつけられてんだぞ。仲良く相談して一緒に頑張りましょうってか?」


「少なくとも、いきなり殴り合うよりはマシだ」


「俺はそう思わねえな」


 言い終わるより先に、男が地面を蹴った。


 距離を詰めて放たれた拳を、蓮は身体を捻ってかわす。


「蓮!」


「千尋、下がってろ!」


 驚いて駆け寄ろうとした千尋を制しながら、蓮は続けて飛んできた拳を腕で受けた。鈍い衝撃が骨まで響き、相手がただ勢いに任せて殴っているだけではないことが分かる。


 喧嘩慣れしている。


 男はすぐに三発目を振るったが、今度は軌道が読めた。蓮は半歩踏み込みながら腕を外へ流し、崩れた体勢を利用して相手を地面へ転がした。


 土埃が舞う。


 男はすぐに身体を起こそうとしたが、蓮は追撃しなかった。


「……てめえ」


「もうやめろ。こんなところで怪我しても、お互い損するだけだ」


「余裕ぶってんじゃねえぞ!」


 男は立ち上がるなり腰へ手を回した。


 取り出したものを見て、蓮の表情から僅かな余裕が消える。


 ナイフだった。


「おい、そこまでやる必要ねえだろ!」


 後ろの男まで慌てて止めようとしたが、背の高い男は聞こうとしない。


「邪魔すんな。こういう奴は最初に潰しといた方がいいんだよ」


 男がナイフを構えた瞬間、蓮の右手は反射的に服の内側へ動いていた。そこには、先ほど古い建物で見つけた銃が隠してある。


 相手が刃物を持ち出した以上、こちらも武器を使うこと自体に躊躇する必要はない。まして蓮の後ろには千尋がいる。自分が避ければ済む状況ではなくなっていた。


 それでも、銃を掴みかけた手が止まる。


 もし撃って死なせたらどうなる。


 前回のエクストラバレットでは、最初の死亡者が出たことを境に1st STAGEが終了し、生き残った参加者たちへ新しい条件が与えられた。あれと同じ仕組みが今回も採用されている保証はないが、違うという保証もない。


 ここで一人目の死者を出した結果、再び2nd STAGEが始まる可能性がある。


 蓮が迷った一瞬を狙い、男が踏み込んできた。


 刃をかわしながら距離を取り、二度目は腕を掴んで軌道を逸らす。力任せに押し込もうとしてくる男に耐えていると、後ろにいた細身の男がとうとう駆け寄り、背後から相方の肩を掴んだ。


「いい加減にしろ! 本当に殺す気か!」


「離せ!」


「今こんなことして何になるんだよ!」


「だったらなんだ! こいつらが先に俺たちを殺さない保証でもあんのかよ!」


 男の怒鳴り声が森へ響いた。


 その言葉に、蓮はナイフだけでなく男の顔そのものを見る。


 恐怖がないわけではないのだろう。むしろ逆なのかもしれない。何をされるか分からないから先に相手を潰す。自分が生き残るためなら、相手が何もしていなくても排除する。


 前回にも、そんな考えへ追い詰められていった人間はいた。


 相馬直人の姿が脳裏をよぎる。


 あの男も最初から皆殺しを望んでいたわけではなかった。ただ生きて帰りたかっただけなのに、条件を達成しても首輪が外れず、SYSTEM ERRORという理不尽な表示を突きつけられ、その後に与えられた条件によって完全に追い詰められていった。


『……俺は……生きたかった……だけなのに……』


 最期の声まで、蓮は覚えている。


 だからこそ死者は出したくない。誰か一人の死が2nd STAGEへの引き金になるのなら、可能な限りそれを遅らせたい。


 しかし、だからといって全員の1st STAGEクリアを無邪気に手伝えばいいのかと問われれば、それにも答えられなかった。前回は条件を正しく達成した者さえ、運営か観客の介入によって認証を妨害された。


 SYSTEM ERROR。


 あれが今回も起きない保証はない。


 誰も死なせないように走り回り、参加者同士を協力させ、全員の条件を達成させたところで、運営が気に入らなければ盤面そのものをひっくり返してくるかもしれない。


 前回より多くを知っているはずなのに、その知識があるせいで下手に動けない。


 蓮にとって、それは初めてこの島へ連れてこられた時とは違う種類の恐怖だった。


「……蓮?」


 千尋の声で意識を戻す。


 細身の男はまだ相方を押さえていた。


「悪かった。俺もこいつとはさっき会ったばっかりなんだ。仲間ってわけじゃない」


「だったら、離れた方がいいんじゃないか?」


「俺も今そう思ってるよ」


 疲れたように答えた男は、なおも睨みつけてくる相方を引っ張った。


 背の高い男は最後まで納得していない様子だったが、二対二の状況でこれ以上続けるのは不利だと判断したのか、やがてナイフを下ろした。


「次は避けんなよ」


「次も避けるに決まってるだろ」


 蓮が返すと、緊張していた千尋が思わず小さく吹き出した。


 二人が森の奥へ消えてからも、蓮はしばらくその方向を見ていた。足音が完全に聞こえなくなったところで、ようやく建物へ戻ろうとすると、千尋が横から顔を覗き込んでくる。


「蓮って、何者?」


「なんだよ急に」


「いや、だって普通じゃなかったでしょ。あの人、明らかに喧嘩慣れしてたのに」


「必死だっただけだ」


「ナイフ出されても?」


「死にたくなかったからな」


「それだけかなあ……」


 千尋は疑わしそうに見ていたが、蓮は相手にしなかった。


 前回のことを説明するつもりはない。千尋が本当にただのPLAYERなのか、まだ判断できていないからだ。


 古瀬聡子も最初は普通の参加者にしか見えなかった。あの経験がある以上、明るく話しかけてくるというだけで信用するほど蓮は楽観的ではない。


 建物へ戻り、奥に置かれた箱を開ける。


 中には端末に表示されていたものと一致する指定物資が収められていた。


「……これか」


 物資を手に取った直後、端末が短く振動する。


『指定物資を確認しました』


『回収した指定物資を納品地点まで運搬してください』


 続いて地図を開くと、新しい地点が表示された。


 ここまで来れば、あとは運ぶだけだ。


 自分の1st STAGE条件については先が見えた。


 だからこそ蓮は、端末を閉じる前に考えを変えた。


 自分だけなら、条件を達成したあとも首輪を外さずに様子を見るつもりだった。前回の2nd STAGEでは、首輪が外れていることそのものが他人の条件へ組み込まれていたからだ。


 しかし今は一人ではない。


 千尋がいる。


 少なくとも当面は、自分についてくるつもりらしい。


 ならば二人とも首輪をつけたまま動き続ける必要はない。片方だけでも安全な状態にできるのなら、その方がいい。


「千尋」


「ん?」


「お前のクリア条件、教えろ」


 あまりに突然だったため、千尋は目を丸くした。


「え? 蓮、自分から聞かないって言ってなかった?」


「状況が変わった」


「十分くらいで?」


「うるさいな」


 蓮は指定物資を持ち直しながら彼女を見る。


「お前、このまま俺についてくるんだろ?」


「そのつもりだけど」


「だったら条件が分からないと動きにくい。俺の用事だけに付き合わせて、お前の方が時間切れになったら意味がないからな」


 千尋はしばらく蓮を見つめたあと、少し嬉しそうに笑った。


「なに。結局優しいじゃん」


「そういう話じゃない」


「はいはい」


 千尋は端末を操作し、自分のクリア条件を表示した。


『指定地点で医療物資を回収してください』


『回収した医療物資を指定地点まで運搬してください』


『指定地点への納品完了後、クリア条件達成となります』


 蓮は画面を読み終えると、そのまま地図も見せてもらった。


 医療物資の回収地点は、現在地からそれほど離れていない。納品地点については、物資を回収したあとで表示される仕組みらしく、今の地図にはまだ目的地が一つしか示されていなかった。


「これなら先に取りに行けるな」


「蓮のはいいの?」


「俺の物はもう確保した。納品は後回しにできる」


「じゃあ、私のを手伝ってくれるってこと?」


「ああ。一緒に行動するなら、お前の首輪は先に外しておきたい」


 千尋は自分の首元へ手を当て、少し意外そうに蓮を見た。


「蓮は?」


「俺は条件を達成しても、すぐには外さない」


「……なんで?」


「二人とも同じ状態にする必要はないからだ。お前は外す。俺は残す。それで何か違いが出るのかを見る」


「なんか私、実験台みたいじゃない?」


「首輪を外す方の実験台なら悪くないだろ」


「それは……まあ、そうだけど」


 千尋は首輪を指で摘まむように触ったあと、少し考えてから笑った。


「じゃあ任せる。正直、こんなの一秒でも早く外したいし」


 その反応を見ながら、蓮は自分の考えをもう一度整理する。


 千尋には1st STAGEをクリアさせ、可能ならすぐに首輪を外させる。自分も条件そのものは達成しておくが、首輪はあえて残す。


 その状態で何が起こるのかを見る。


 もし前回と同じように、最初の死者をきっかけとして2nd STAGEが始まるのなら、首輪の有無が次の条件へどう影響するかを確かめられる。


 もちろん、千尋を危険に晒す可能性がないとは言えない。前回は首輪を外した参加者が条件の対象にされたからこそ、自分は外さず、何かあった時に動ける側へ残るつもりだった。


 一方で、SYSTEM ERRORが起きれば、千尋は条件を達成しても首輪を外せなくなるかもしれない。


 どちらが正しいかは分からない。


 だから運営が動く前に、まず千尋の首輪を外してしまう。


「行くぞ」


「うん」


 蓮たちは建物を出ると、千尋の端末に表示された回収地点へ向かった。


 森の中を進む間も、蓮は周囲への警戒を解かなかった。先ほどの二人が戻ってくる可能性もあれば、別のPLAYERと遭遇する可能性もある。


 千尋はそんな蓮の緊張とは対照的に、しばらくするとまた普段の調子へ戻っていた。


「ねえ蓮」


「今度は何だ」


「医療物資って何だろうね」


「知らない」


「救急箱とか?」


「たぶんな」


「めちゃくちゃ大きかったら持ってくれる?」


「お前の条件だろ」


「一緒に手伝うって言ったじゃん」


「回収するところまでは自分で持て」


「ケチだなあ」


「お前、さっきナイフ持った奴に襲われたばっかりなのに元気だな」


「暗くなっても状況変わらないでしょ?」


 千尋はそう言って前を向いた。


 単に能天気なだけではないのかもしれない、と蓮は思う。怖いものは怖い。それでも、それを表へ出し続けない。そういう人間なのだろう。


 やがて端末の現在地と指定地点が重なり始め、木々の向こうに小さな倉庫らしき建物が見えてきた。


「ここ?」


「地図を見る限りはな」


 千尋が先へ行こうとしたため、蓮は肩を掴んで止めた。


「待て。先に周りを見る」


「また?」


「さっきのこと忘れたのか」


「あ、はい」


 建物の周囲を一周し、人影がないことを確認する。窓から内部を覗いても動くものはなく、入口にも不自然な痕跡は見当たらなかった。


 それでも蓮は先に中へ入り、安全を確認してから千尋を呼んだ。


「もういいぞ」


「ありがと」


「礼は首輪外れてからにしろ」


 二人で倉庫の中を探すと、奥の棚に白い箱が置かれていた。側面には番号が記され、その番号は千尋の端末に表示されている指定物資の識別番号と一致している。


「あった!」


 千尋が箱を持ち上げた瞬間、彼女の端末が振動した。


 画面を開く。


『指定医療物資を確認しました』


『指定された納品地点まで運搬してください』


 地図へ新たな地点が表示される。


「これを持ってけばいいんだ」


「ああ」


 蓮も横から位置を確認すると、周囲の地形と移動距離を頭の中で照らし合わせた。自分の指定物資も抱えている以上、無駄に島を往復するわけにはいかないが、今は千尋の条件を終わらせることを優先すると決めている。


「まず、その医療物資を運ぶぞ」


「了解。じゃあ――」


 千尋が端末を閉じようとした、その時だった。


 ――ピロン。


 乾いた電子音が倉庫の中に響いた。


 二人の動きが同時に止まる。


 千尋が自分の端末を見る。


「……私じゃない」


 蓮はゆっくりと、自分の端末を取り出した。


 画面上部に、新しい表示が浮かんでいる。


『メールボックス 未読1件』


 蓮はその文字を見つめた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。