↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
33/34

第32話「知ってるつもり?!」

 数年ぶりに再会したレイトは、何も変わってはいなかった。

 僕はそれに恐怖を覚えた。


 変わっていないというのは、内面的なことではない。

 いやに目立つ白い外套も、一人ぼっちで囚人を連れているのもそうだが、もっとも変えるべき部分が変わっていなかった。


「噓勉くん、久しぶりじゃん」


 レイトは僕の目を覗き込んで、にたりと笑う。


 その口元──模擬魔導戦で見た、ボロボロに折れた歯のままだった。


 意味が分からなかった。この異世界ならば治癒魔法で治せる代物。

 だから、容赦なく下顎へ打ち込めたし、罪悪感もなく戦えた。

 しかし、彼の歯はあの日のまま、前歯も犬歯も折れて尖ったまま。その笑みが当て付けに見えた。


「レイ、ト……」


「へぇ、名前覚えてたんだな。フィルム」


 真顔で言うので余計に恐ろしい。


 両者にらみ合っていると、後ろからアイリンが顔を出した。


「誰?」


 そう言うので、一応だけ紹介しようとしたら、レイトがその歯をカチカチ鳴らして笑った。


「あれれ。人間にモテないからって、亜人と恋愛か?」


 せめて茶化すように言えば良いのに、抑揚もなく言う。


 こいつ、まだ怒っている。模擬戦で負けたこと。


 あの後、レイトは一回戦負けのため卒業できず、僕の方だけが卒業。

 壇上から見えた彼の黒い視線を、僕は今の今まで忘れていた。


 そして、それは漆黒となって僕と相対した。

 まるで、ブラックホールが生み出す引力のように出逢った。


 そんな僕らの過去など知らないアイリンは、強気に言い返す。


「はぁ、違うわ。ただの友達よ」


 友達──それは彼にとって、耳の痛い言葉であった。


「ハハ、そうか。友達、ね」


 喉を振るわせて、笑った真似(・・)をする。明らかに様子が変である。


 これは……アイリンが余計なことを言ったか。

 そもそも友達ではない。道すがら案内しているだけであって、仲も決して良くはない。


 しかし、レイトがそんなことを知るはずがない。

 否定しようにも、喉が痛んで長くは喋れないし、かえってわざとらしい。


 僕が口ごもっていると、彼は大手を広げて言った。


「それはそうと見ろよ、オレは近衛兵になったぜ。お前は何してんだ?」


「テレビ……」


「あぁ~言ってたな、そういえば。忘れていたよ」


 嘘だ。そのテレビに脅かされて土をつけたのだ、忘れるはずがない。

 忘れていたのなら、こんな歯のまま生きるわけがない。


 それに、白々しく近衛兵になったというが、彼の身なりを見れば明らかだ。

 そう分かれば、当然として浮かぶ言葉がある。先ほどから、反復させていた。


 彼が僕に言った、「衛兵になったら、城の牢獄で一生を過ごさせる」という宣告。

 テレビも覚えていないと言った彼は、当然のようにそれを覚えていた。


「そいや、言ったよな。一生牢獄だって」


「ちゃんと……戦った、だろ」


「……そうだな。その上、オレに勝った。約束は守らないとな」


 彼は僕の耳元へ首を伸ばし、歯をからからと舐めながら囁いた。


「でも、お前の家族と友達はどうかな」


 その言葉に形容しがたい感情が噴き出す。

 レイトの目を睨みつけると、彼は乾いた笑いを吐いて通り過ぎた。


「バブーク!」


 引き寄せ魔法、レイトに呼ばれるように、囚人が引き寄せられる。


 その囚人は、粗い羊毛で作られたボロ切れのような服を着ていた。素肌に身に着けているので、体中が赤く腫れている。

 それでも、捕縛魔法の魔手にかかれば掻くことさえ出来ない。


 そして、最も僕を凍り付かせたのが、その囚人の顔であった。

 別に殴られているとか、大きな傷があるとかではない。


 一つたりとも表情が動かないのだ。


 つまり、レイトの捕縛魔法〈トゥレカ〉は改良《???》を重ね、顔の表情一つすら変えられないようになっていた。


「じゃあな、噓勉くん。また、な」


 振り向きもせず言った。囚人が近くまで寄ると、まるで友のように肩を組む。

 そして、賑やかな街中へと消えて行った。


 僕はやっぱり、そんなんだから友達が居ないんだと思った。


◇   ◇   ◇


 診療所での治療も終わり、数年ぶりの王立図書館。

 僕はアイリンに聞かれるがまま、レイトとの出来事を語った。


「──だから、レイトは僕のことを酷く恨んでいると思う」


 抱えた頭を上げ、アイリンの方を見た。

 彼女は僕に目もくれず、ピーカントの伝記を読み漁っていた。


「へーそういうことがあったんだー。そうなんだー」


 こいつ、今まで適当に返事をしていたな。長々と語った時間を返しちゃくれないだろうか。


 ま。なんて言っても仕方がないし、僕にも調べたいことがいくつかある。

 僕は彼女が積んだ本から一つ手に取り、適当にページをめくった。


 その本のタイトルは、「ピーカントVSオリハルコンドラゴン」。

 ピーカントが伝説の鉱物オリハルコンを求め、北の山脈を単独で旅した伝記だ。


 僕が開いたのは、丁度ピーカントが洞窟でオリハルコンを見つけた箇所。

 その一部を読み進める──




 その洞窟は星のような輝きを見せ、宙に打ち上げられたのかと錯覚した。


『これ全てが、伝説のオリハルコン? なんて美しさなんだ』


 私は足元に転がる一つを手に取って、〈ラバイト〉で照らし透かす。中では小さな光が集い、舞踏会を開いていた。

 角度をくるくると変えて眺める。これが、かの君主が追い求めた伝説の結晶──


 その刹那、右眼に鋭い痛みが這った。

 それより前に、身体だけは後ろへ反っていた。培ってきた経験の賜物だと思う。


 頭上を通り過ぎる巨影は、洞窟の奥でゴロゴロと音を立てて静止。

 土煙のなか、私は果敢にも風魔法〈ザーフ〉を唱えた。


『その姿を現せ!』


 土煙は晴れ、その姿を露わにする。

 それはハッキリとした輪郭の翼を掲げ、良くできた冠のような角を被り、その大きな瞳をこちらに向けていた。


 私はそれを、オリハルコンドラゴンと名付けた。


 右眼に垂れた血が、剣の柄に落ちる。

 私はそれを振り払うように、聖剣カンデライオンを抜き放った。




 まるで売れないWEB小説家のような駄文だが、彼は商人であって作家ではない。

 まぁ仕方がないと本を閉じると、裏表紙を見てぎょっとさせられた。


 すっと通った鼻筋に、尖ったあご。

 大きな傷があるものの、ぱっちりとした眼。

 右手にオリハルコンを持ち、赤い花を咥えている男。


 これってまさか、そのまさかだよな?


 そう思っていると、アイリンが閉じた裏表紙を見ながら言った。


「はぁ……ピーカント様って、カッコイイわよね!」


 そうかぁ、そっかぁ……。

 まぁ、かのナポレオンも自分を長身に描かせていたし、こういうことは往々にしてあるだろう。


 とはいえ、ここに勘違いしてしまった人が居るわけで──


「村に来た太った商人が、世界樹を使う対価としてくれたんだけどね。もう読み進めると面白くって面白くって──」


 え、待って。


「もしかして、こんなの(・・・・)で世界樹の使用権あげちゃったの?!」


「はあ?! こんなのって何よ。とっても素敵な本だったから、お母様にお願いして許してあげたわ。それでね、ピーカント様は──」


 っざっけんなよ、おい。

 な、なんでテレビより、こんな陳腐でチンケな嘘くさい伝記に負けるんだよ。

 どうなってるんだ、この世は一体。


「まぁ、世界樹に来た商人……商産業大臣だったかしら? 彼は気色悪いおじさんだったけど──」


 アイリンが不意に口走った。


 商産業大臣?

 あれ、なるほど、そういうことか。




 僕は────小さな復讐をした。


「アイリン。その商産業大臣が、ピーカント・カンデリーだよ」


「……へ?」


 アイリンが泡を吹いて倒れたのは、そのすぐあとであった。

リアクションや☆での応援、フォロー。

特に、コメントしていただけると励みになります!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。