第21話「クイズ、異世界でSHOW③」
僕らテレビスタッフは音声が入らないよう、アイコンタクトだけで会話をすることがある。それは異世界においても同じだったようだ。
ずっと項垂れているアイリンが不憫であったので、バルクスにアイコンタクトを送った。初めは何のことやらと首を傾げていたわけだが、首を振ったり口を歪ませたりしているうちに、何をすべきかを理解してくれた。
そうしてバルクスが選択したジャンルがエルフ。到底、彼には答えられるものではない。それでもアイリンのため、番組のために彼は選択したのだ。
「母后様の年齢は?」
アイリンの祖母の年齢、彼女が答えられぬはずもなく、容易に正解する。
「千三百二十五歳!」
「正解! 一点が入ります」
ほとんど流れ作業のようなやり取り。それでも残り四問で点差は一点になり、番組としての体をなんとか保つことが出来た。
「では、次は魔法ジャンルということで──」
アイリンは既に、魔法ジャンルを選び続けると宣言しているので、それに合わせて進行しようとする。
だが、それはアイリンのプライドが許さなかった。
「いいえ、こんなおこぼれみたいな得点……次のジャンルは、ケンタウロスよ!」
なんて高慢ちき、自分の点数よりも誇りを優先させると言うのか。そのアイリンの対応に、エルフ達は「さすが姫様」といった声を上げる。
一体、どこがさすがなのか知らないが、そのプライドの高さ──
良い。それでこそ、演者としてのキャラが立つというものだ。
そこから先は、クイズによるインファイトだった。お互い相手の得意ジャンルを選択しては失点、その繰り返し。一体どういった種類のやらせだろうか。
気付けば二十問目時点、九と十でバルクスが一点リードしていた。
「ということで、二十問目ですが……アイリンさん、どうされますか?」
アイリンのジャンル選択。
当然だが、ここでケンタウロスを選べば負け濃厚である。ここで一点を逃せば、次の二十一問目を答えたとしても負け。
アイリンは顎に手をやって、しばらく考えた後、ぽつりと言った。
「さすがに……魔法で」
まぁ、そうだよな。賢いアイリンなら、ちゃんと勝ちに来る。その上で、エルフではなく魔法。そこに微塵のプライドを感じた。
しかし、僕は出題者側である。
「では第二十問、テレビ魔法からの出題です」
ここに来て、自作魔法からの出題である。
その出題内容に、大きく息を呑むアイリン。そして、僕へ咎めるような視線を投げかけた。その目は語らずとも、この卑怯者と訴えていた。エルフ達もざわめき立ち、その横暴に呆れ返っている様子。
だがしかし、僕はテレビマンである。公平公正な勇者ではない。
それらの反応は気にも留めず、出題を続ける。
「私、フィルム・マイブリッジが開発した、鏡に映像を映し出す魔法の名前は──」
「ちゅぴんっ」
ここで押したのはバルクスではなく、アイリン。
答えられるぐらいならば、先に押してしまおうという魂胆である。
それにこの問題、バルクスが絶対有利とは言えない。なぜなら、テレビ魔法はアイリンの前で一度は唱えている。それを覚えていれば答えられる。
そして恐らく、賢いアイリンなら覚えているはず。
しかし、問題が一つ。
アイリンの呟きを、録音魔法〈ディング〉が拾った。
「ですが──か」
そう、一度大敗を喫した「パラレル問題」、その警戒を怠っていた。問題の途中で早押しをしてしまった。
恐らく、彼女の中では三択。〈レコー〉〈ディング〉〈テ・レヴィジョン〉のどれか。番組開始前に僕が唱えた、その三つである。
「ですが」と続く可能性がある以上、そこから三分の一で当てなければならない。
彼女は数刻だけ考えたあと、キッと僕を睨みつけて答えた。
「テ・レヴィジョン!」
僕は彼女と、視線を交わす。本当にそれでいいのか、変えた方が良いのではないか、揺さぶりのアイコンタクトを送る。
アイリンの額や首筋から汗が流れ、その襟を濡らす。僕は固唾を食んで、その緊張を隠した。
しかし、彼女は一歩も引くことはなく、顎をくいっと動かす。
まったく──驚いたものだ。
「…………正解!」
エルフ達から、今日一の歓声が上がった。くすくすとした陰険なものではなく、喝采の声。こんな声を上げられるのかと驚き、耳をふさぐほど。
そんな賞賛の中をアイリンは駆け、僕の居る司会席まで詰め寄った。
「ちょっと、こんな問題。あまりにも卑怯じゃない?!」
鼻息が頬に掛かるほど近づき憤る。すぐ謝るべきかもしれないが、司会として聞いておかなければならない。僕は人間ではなく、司会なのだ。
「でも、どうして答えが分かったんですか。適当に当てたとか?」
その言葉に彼女は地団駄を踏むと、怒りの感情をむき出しにして答えた。
「だって、私の前で唱えた魔法は三つ。そのうち効果が分かってるのは、目の前で唱えた〈テ・レヴィジョン〉だけでしょ」
確かに、番組開始前は一斉に唱えたので、それぞれの効果は分からない。
しかし、〈テ・レヴィジョン〉だけは謁見や映像問題のとき、何度か唱えていた。
「それでもし、他の魔法が答えなら回答不可能。単なる知識不足に収まらない、最低な問題。そんなの、破談必至だわ」
なるほど……恐ろしいものだ。こちらの考えを完全に理解している。
やらせは不公平でも、公平に見えなければならない。もし不公平だと文句を言われれば、それだけでクレームになる。
しかし、何度か見せて説明もした魔法であれば、向こうの落ち度となる。
でも──
「そこまで分かってるなら、なんで文句言ってくるんですか」
その逆ギレとも言える失言に、彼女の神経を逆なでしてしまう。
「うるさい! たまたまアタシが賢かったから良かったけど、これで不正解になったらどうするつもりだったの!」
いやいや、ちゃんと考えてある。
そもそも渡した台本にも書いてあった。それに見向きもしないで、真剣にクイズに取り組んでいたのは彼女の方である。
僕は詰め寄られている最中、そっと自分の台本へ手を伸ばし、それを押し付けた。
「これ、この最後の部分。見てください」
「はぁ?」
台本の下側。番組後半に関わる僕の台詞を、彼女が読み上げた。
「二十一問目は、特別問題につき……二十点?!」
その言葉に人波が立ち、エルフ達がやいのやいのと騒ぎ立てる。指差しながら指摘する姿は、もはや雛壇に座る芸人さんで、高尚なエルフ族の姿は無くなっていた。
アイリンも納得いかないようで、台本を投げつけ憤りを見せる。
「じゃ、じゃあ……今までの問題はなんだったの!」
「い、いえ。アイリンさんが全問正解すれば、こちらに勝ちは無かったんです」
でも──
そう言いかけた僕を、アイリンは平手打ちした。
なぜなら、彼女が全問正解できなかった場合の負い目、それを皮肉っている点数だからだ。
とても性格の悪いことをしている自覚はあったが、番組の展開を考えると圧勝は避けたい。その折衷案として、バルクスが一つでも得点すれば勝てるようにしていた。
「あーもういいわよ!」
彼女は頬を赤らめ、肩を何度も揺らしながら出題者席に戻ると、机を指でトントンしながら頬杖をつく。
自分にある程度の落ち度、圧勝できなかった事実を突きつけられ、何も言えなくなってしまったのである。
そうそう、そのプライドの高さが「唯一無二のキャラ」である。そう来なければ。
「さて、二十一問目は難問です。特別に何度も回答して頂いて構いません」
それでは──問題。
出題リストの最後のページをめくり、読み上げた。
「過去、母后様が呼ばれていた、実際の異名は何?」
その出題に、方々《ほうぼう》から失笑が起きた。
なにせ母后様は、千年前に魔王を封印した勇者パーティの一員であり、その異名を知らぬエルフなど存在しない。あまりのイージー問題に失笑を買っているのだ。
そのあっけない出題にアイリンも困惑、こちらの顔色を伺いながら回答した。
「ちゅぴん」
「閃光の、魔法使い……」
確かに、そう呼ばれている。光魔法を操る閃光の魔法使い。
だが──
「惜しい、不正解!」
ここからが本当の問題だ。
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