第19話「クイズ、異世界でSHOW①」
落ち着かない、立っているのに貧乏ゆすりをしてしまう。胸の奥がぶわっと浮くような感覚。下顎もぶるぶると震えている。
それもそのはず、クイズ番組の司会をしなければならないのだ。裏方なのに。
しかも、見渡す限りの大衆。エルフの御姫様が参加するわけで、思った以上の観客動員があった。これが余計にプレッシャーを生んでいる。
「さぁ始まりました、クイズ正解樹! 司会は私、フィルムがお送りいたします!」
早速やらかす。本当は世界樹と言いたかったのに、正解樹って言っちゃった。だから、素人に司会などやらせてはいけないのだ。
しかし、生放送は始まっている。テレビ魔法を組み合わせた〈レコー・ディング・イゾム・テ・レヴィジョン〉で、村全体に放送してしまっている。
「次、えーっと、あっ。本日の回答者はこのお二人です!」
ぐだぐだである。なんでこの世界には、司会の出来るタレントが居ないのだ。
だが幸い、シェノンはカメリハ通りに動いてくれている。僕が回答席を指すと、カメラはバルクスへ向かった。
「ケンタウロス代表、バルクス・リング選手~!」
「どうもお。世界樹目指して、頑張りますう」
バルクスも台本通りの台詞。
うん、この場で出来ていないのは僕だけだな。
「そしてお次はエルフ代表、アイリン・ハーウィー選手~!」
「…………」
アイリンにカメラが向けられるが、一向に喋らない。一応、台本は渡しておいたけれど、喋ってなるものかと口を噤む。
微妙な空気が流れる中、すぐさま切り替えてルールを説明することにした。
ルールは簡単。一問につき基本一点の早押しクイズで、回答権は一度だけ。
初めに5つのジャンルからランダムに出題され、その後はクイズに正解した者がジャンルを選択。
二十一問これを繰り返し、点数の多かった者が勝利となる。
ジャンルは「歴史」「魔法」「動物」「エルフ」「ケンタウロス」。
一見、アイリンに有利そうに見えるが、出題内容は僕が握っている。つまり、どうとでも出来る。
僕はテレビマンであって、品行方正な勇者ではない。
そんな腹積もりを隠しつつ、僕は司会進行を続けた。
「そしてなんと、ゲストとして女王陛下と母后様に来ていただいておりますっ」
司会席の後ろには大花のパラソルと、数人の護衛。
そして、煌びやかな椅子に座る女王陛下と母后様──アイリンの母と祖母である。
ゲストなんて体の良い呼び方をしているが、お目付け役だ。
事前に出題内容と答えを紙に書いて、二人に提出。番組中に齟齬が無いかを確認する役目。
向こうは不正行為に対して敏感になっており、昨日の夜から本番前まで、バルクスと会話する猶予も無かった。
むしろ、徹底してくれたからこそ、言い訳無用の真剣勝負である──
「それでは早速、第一問! ジャンル「魔法」からの出題です」
一問目のジャンルは魔法。森やケンタウロスを選べば不正っぽいので、あえて選ばなかった。
「魔法の基となる魔元素、全て答えよ」
「ちゅぴーん!」
早かった。アイリンがパップロップの尻尾をつまんで答えた。
「月、火、水、木、金、地、天。あと無、変」
「アイリン選手…………正解! おみごと」
アイリンがみごと先取するも、まばらな拍手。
それもそのはず、この「七行+無変」は魔法の基礎。エルフ族なら誰でも知っていることだった。
「問題が簡単すぎませんかー?」
観客からそんなヤジが飛び、笑いが起きる。それも大笑いではなく、くすくすとした含み笑い。つくづく嫌な感じである。
そもそもクイズ番組での第一問は、簡単な問題からと相場が決まってる。そんなことも分からないで……。
まぁ、そんな相場知るはずもないので仕方ないけど。
一方、アイリンは野次にも表情一つ変えず、次のジャンルを選択。セオリー通りか、選んだのは魔法であった。
「ではジャンル魔法で、第二問。世界で初めて使用された魔法は?」
「ちゅぴーん!」
またもアイリン、そしてさらりと答える。
「引き寄せ魔法〈バブーク〉」
「正解っ! さすがはエルフの姫様だあッ」
僕のおだてにも顔色一つ変えない。それどころか、「こんなものなの?」といった表情で僕らを見下している。少しでも懐柔して隙を作りたいのに、僕の言葉を屁とも思ってくれない。
ならば、結末Bの台本だ。
「いやぁ。ちなみにコレ、理由はお分かりですか?」
その言葉にフンと鼻を鳴らす──来た。
「大魔導師様が赤子だったころ、ミルク瓶に手を伸ばして無意識に使ったそうよ。そんなことも知らないの?」
やはり、人間の戯言には耳は貸さないものの、一つ質問すればベラベラと喋り倒す。知識を披露するのがよほど好きなよう。
相も変わらぬ減らず口だが、言わせておけばいい。僕は気にせずおだてた。
「わーそうなんですねー。博識だー」
僕はこっそりシェノンに指示を出し、カメラでアイリンをクローズアップ。シェノンの横に置いてある姿見に、その姿が大きく映る。
「……っ」
それに気づいた彼女は目を見開き、そして逸らした。
だが、エルフのその長い耳、ぽうっと赤らめればすぐに分かる。照れている。
僕の言葉に反応しないなら、エルフ達に見られていることを意識させる。今も村の家々では、小さな子から大きな大人まで、鏡に映る彼女の勇姿を見ているのだ。
賢い彼女なら、それが分かる。
次のジャンル、賢いアイリンは魔法を選び、当然のように正解。
気付けば、第四問目まで連続正解を重ねていた。
「いやぁ、四問連続正解、さすがの強さですね~!」
「っ……別に」
冷静さを装っているが、耳はほくほくになってゆく。まるでイカ焼き。
反面、バルクスの顔は青ざめる一方。まるでイカそうめん。
そんな中、次に選んだのも魔法ジャンル──そろそろかな。
「アイリンさん、ここで御相談なんですけど~」
低姿勢で滑り込んだその言葉に、アイリンがムッとして応える。
「なに、文句あるの?」
「いえ、文句ではないんです。ただ、観客の方々もそろそろ飽きてくる頃なので、ジャンル変更をしていただけると『みなさま』のためかなぁと」
そう言って、観客の方へ手を広げる。見渡せば、あふれる退屈がそこにあった。
「また魔法かよ」という倦怠感と、得意ジャンルに対する食傷。姫であるアイリンが、これを無視できるはずがない。
「はぁ……仕方ないわね。じゃあ、動物で」
その言葉に、観客たちは姿勢を正し始める。どれだけ長命な種族でも、同じようなものが続けば飽きる。この現象を待っていた。
動物ジャンルであれば、バルクスにだって答えられる。
僕が目線を送ると、彼は頷いた。次こそが勝負だ。
「かしこまりました~! では第五問、動物ジャンルからの出題です!」
僕はあえて、ゆっくり読み上げた。
バルクスが答えられるような速度、考えを巡らせられる時間を稼ぐ。
「どの森にも生息するパップロップ、彼らが主に食べ──」
「ちゅぴーん!」
問題を読み上げている途中。押したのは──
「樹液よ」
アイリンだ。
「せ、正解」
嘘だろ。
早押しクイズの文化なんて無いはずだが、問題を読み終わる前に押してきた。
僕が進行も忘れて驚嘆していると、彼女は机にばんと手を叩きつけて問い詰めてくる。
「フフ、どうせ他ジャンルなら勝てるとでも思ったんでしょ。お見通しよ」
その台詞に、観客が今日一の盛り上がりを見せる。とは言っても、くすくすと笑う声が増えただけで、「うぉおおお」という歓声はない。アイリンは見下ろすように睨みつけ、後ろで女王陛下がふっと鼻で笑う。すべてが不快だ、こいつら。
「さすが、エルフの御姫様ですね。次のジャンルはどうされますか」
「もちろん、動物。魔法ジャンルは封印してあげる」
調子づきやがって。
けれどそれは、僕にとっては朗報だった。
「では、動物ジャンルから出題。第六問」
これなら、奥の手が効く──僕はとっておきの問題を出題した。
「リングの森の中に住むゲインツバードは、魔物の声を聴──」
「ちゅぴーん!」
またも問題の途中、押したのはアイリン。観客も勝ちを確信したのか、小さく拍手を起こす。
「ウフフ、リングの森から問題を出すなんて、節操も無くなったみたいね」
押し黙る。確かにこんな方法、節操ないかもしれない。
だが、番組を盛り上げるためには、こうするしか無かった。
「正解は『虹色の、吐瀉物』よね?」
その答えは──
「不正解!」
「はぁ?!」
得意気になったシニカルな顔が、ぐぅっと歪む。その顔には、高潔な種族の面影は無かった。
観客からは非難轟轟。とは言っても、叫ぶわけでもなく「間違ってますよ」という訂正スタンス。どこまで行ってもムカつく奴ら。
だが、僕は一つも間違っていない。何故ならこれは、「パラレル」だからだ。
「皆さん、問題は最後までお聞きください」
僕の低くなった声が、村に静寂を呼ぶ。
僕はまた、問題文を読み始めた。
「リングの森の中に住むゲインツバードは、魔物の声を聴いて出すのは虹色のゲロ」
「合ってるじゃ──」
「ですが……歌声を聞いたらどうなる?」
パラレル問題。早押しクイズが普及して生まれた、出題テクニック。
「AはBですが、Cは何でしょう?」のような、後半で別の項目にすり替わる問題形式。こんな方法、クイズ初心者には節操がない。
だが、番組を盛り上げるためには仕方が無かった。
「ちゅぴん」
バルクスがゆっくりと、パップロップの尻尾をつまんだ。答えて良いのかと、迷いのある手つき。それに僕は、微笑みかけた。
君はあくまで演者、君が出すべきなのは──
「歌に合わせて、鳴いてくれる?」
正解だ。
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