↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
11/34

第10話「異世界一受けたい授業」

 早朝の森は空気が澄んでいる、誰も土を踏み荒らしていないから。その清澄のなか、僕は人間の文化を教えていた。


「先生! どうしてニンゲンのオスは、女みたいに服を着てるんだ?」


 良い質問だった。たしかに女性のケンタウロスは胸衣をしているが、男性はみな裸。こちらからすればその方が異常だが、彼らにとってはそれが常識なのだろう。


「逆にイヅマさん、なんでだと思いますか?」


「えーと……乳首が黒くて恥ずかしいから?」


 いや、お前も黒いだろ。


「じゃあ、実は巨乳だったり」


 それは…………嬉しいかも。いや、そうではなくて。


 あのときの補助係、イヅマ。そんな気はしていたが、コイツかなりお調子者。こちらが人間界のルールを真面目に教えているのに、ふざけてばかり。クラスでも居たな、こんなヤツ。


「それとも──」


「あ、もういい。もういいです!」


 とめどなく押し寄せるボケと訂正の応酬に、終止符を打つ。こちらは真剣なのだから、付き合ってはいられない。


 そうしてやっと解説が出来ると思えば、今度はオーサが割り込んだ。


「あー。ニンゲンのオスは、我々に比べて体が弱い。だから、外傷や寒さから身を守るためにも、服が必要なのだ」


「……あ、ありがとうございます。オーサさん」


 居たなぁこんなヤツ。教師の解説を横取りして知識ひけらかすヤツ。


 彼らと一緒に居ると、人間とケンタウロスの間に境が無いことがよく分かる。良い意味でも、悪い意味でも。


 というか、さっきから気になっている事がある。何度も出ているワード、それにも終止符を打たねばならない。


「皆さんその、人間をオス・メスと呼んでいらっしゃいますが、やめましょうか」


「何故だ? まさか、ニンゲンにはオス・メスの概念が無いのか」


 いやまぁその、前世ではLGBTQとかあったけど、そういうことではない。


「そうではなく……逆に、オーサさんに聞きます。『ケンタウロスのオス』と言われたら、どう思いますか?」


「殺す」


 えっと、どう思うか聞いてるんだけど。


「そ、そうですよね。人間も同じく、尊厳を守ってほしいわけです」


「ふむ、なるほど……ニンゲンに、ね」


 おい、なにか言いたげだな。まあ仕方ない、徐々に変えていくしかない。


 実際あれから数日経っているが、人間とケンタウロスとの溝は埋まり切っていない。バルクスも街に馴染んできたけれど、偏見は未だ根強い。相変わらず『例の変装』は続けているし、森と街を往復する日々。


 その彼もいま、ピーカントでケンタウロス文化を伝えている最中だった。


◇   ◇   ◇


「なので、ケンタウロスの後ろには立たない方が良いんですねー!」


 広場の中央。バルクスが黒板を立てて、ケンタウロスの文化を語っている。

 初日こそ閑散としていた野外授業だったが、今では十数人ほど集まるようになっていた。


「バル先《せん》! 背中に乗ったら怒られますか?」


「あーそうですねえ。人間にも合う人と合わない人がいるように──」


 あれ、なんか愛称も付いてる。ちょっと羨ましいぞ。


 この授業。初回は僕も出席したのだが、知らないことばかりだった。例えば、言語などを聞き取るのは人耳、遠くの音を聞き取るのは馬耳だとか。


 普通に面白い。ただ文化を伝えるだけでなく、豆知識も付け加えてくれる。僕も見習わないとな、そう感心して眺めていたらバルクスと目が合った。


「それに──あ。じゃあ、今日はここまで、ありがとうございました!」


 バルクスが腰を曲げて一礼する。

 お辞儀文化ないんだよなぁ、僕の良くないクセが移ってしまった。


「おつかれさま、バルクス」


「ねぇ聞いて。今日は、私服の守衛さんが来てくれたんだよお!」


「そっか……うん、良かったね」


 嘘だ。あれだけ警戒していた守衛たち、敵情視察の可能性が高い。手放しで喜べはしないが、バルクスがこんなに喜んでいるので言えるはずがない。


 その罪悪感を紛らわせるように話題をそらす。


「そうだ。僕も今日、良いことがあったんだ」


「え、なになに?」


 ポケットから、ちいさな麻袋を取り出す。赤いシミの着いた袋。


「じゃーん、何だと思う?」


「えー分かんないよお」


 まぁクイズ形式にしてみたけど、答えられるわけがない。だって──


「正解は、パップロップの鼓膜でした!」


「……え? こ、鼓膜?」


 なぜ鼓膜でも鼓膜。僕が要望したらオーサ達が分けてくれた。この鼓膜でどうしても作りたいものがあるのだ。


 それが録音魔法〈ディング〉。

 鼓膜に響いた音を情報化し、羊皮紙に転換する魔法。つまり、念願のマイクパーツである。


 水晶体はアクセサリーなどにも需要があるため、市場に多く出回っている。だから値段も安く、魔導カメラにも組み込めた。


 だが、鼓膜に関しては需要なし。屠殺の段階で捨てられてしまうため、市場には出回らない超希少部位だった。


「これがあれば君の声や自然の音、音楽だって流せるんだよ!」


「ほえ、そうなんだあ」


 絶対に理解してないな。そういえば魔法学校では僕もこんな感じだった。未知の存在や技術は、なんか解った気がする感じで良いんだよ。多分。


 そうお互い適当に流していると、遠くから少女が走ってくる。この街を変えた、小さな英雄ちゃん。


「ばるくしゅ~!」


「アテチちゃん!」


 アテチちゃん。これは少女の一人称「あてち」から取って付けた名前で、本名ではない。この街では謎の迷子少女として親しまれ、有志の大人達で支援していたらしい。お恥ずかしながら、ここ数年ぐらい引きこもりだったので知らなかった。


 名前も出身も親も分からない。気付けば街に出現し、あちらこちらで迷惑をかけ、愛情をかけられている存在。わがまま妖精とも呼ばれている。


 ところであれ以降、二人の仲はとても良い。今も彼の背中に乗り上げたところで、上で胡坐をかいては、持ってきた紙袋をブンブンと振り回している。


「そうだ、アテチちゃん。例のモノは?」


「あー。うん!」


 バルクスの言った、例のモノ。一体なんだろう。

 そう思っていると、アテチちゃんが紙袋をぐいと差し出してきた。


「はい、あげりゅよー」


「え? いや、僕じゃなくてバルクスに──」


 彼に目をやると、小さく首を振る。


「違うよお。これは、フィルムへのプレゼントなんだあ」


「プレゼント?」


 さっき振り回してたけど?

 そう戸惑いながらも、くしゃくしゃになった紙袋を受け取る。

 なんか分厚い、重さからして──本かな。


 自慢ではないが、この世界の言語を覚えるために、色んな本を見てきた。辞典はもちろん、嘘八百並べた下らない伝記まで。まぁ内容は覚えてないけど。だから、ダブっていなければいいけどなぁ。と、袋の中を覗いた。


 「って──これ、羊皮紙!?」


 え、え。何十枚も重ねられて入ってる。紙袋に手を突っ込めば、底に二段目があるのが分かった。つまり、いま外から見えている羊皮紙の倍はある。いやでも。


「どこに、こんなお金が?!」


 だって週五のバイトで七枚だぞ。どうやってそんなお金──


 ふと、バルクスが広場の向こうへ目をやっているのに気付く。そこは香水屋。その店主が腕組みをして、こちらを眺めている。


「まさか、リングパルファム?!」


「え。よく分かったねえ」


 あの森の湖水。いやいや、いつの間に事業展開してたんだ。まったく油断も隙も無いな、ピーカントの住民ってのは。


「大丈夫? 騙されたりしてない? ちゃんと売り上げ、折半してる?」


「んーなんかあ。ウリアゲの四割が、俺の取り分らしいよお」


 つまり向こうが六割。ちゃんと得しようとしてるな、さすがピーカントの住民。ただ、騙しているわけではなさそう。良かった。


「そっか……でも、良いの? こんなに貰っちゃって」


「うーん、特に欲しい物も無いからなあ」


「嬉しい……ありがとう!」


 願ってもない展開。てか、しばらくバイト入れなくて済む。羊皮紙を溜めるのに半年ぐらいと考えていたが、これならすぐ取り掛かれるぞ。


 僕があれこれ思案していたら、バルクスが嬉々として問いかけて来た。


「フィルム。次も、てれびで何かホウソウするんだよね?」


 おぉ、良い質問だ。


「もちろん、次に目指すのは全国放送だ!」


 この世界最大の国『アスタロフ』。その全土に渡って放送することが、第一の目標。


 いまの僕らは云わば地方局……よりも規模の小さいケーブル局でしかない。

 だが、僕が目指すのはキー局。やれることなら、国際放送まで行きたい。


「でもさ、そのためには必要なことが山積みなんだよ」


「ほえ、そうなんだあ」


 やっぱ、あんま分かってなさそうだな。


「例えば、何が必要なの?」


「そうだなぁ、まず必須なのが『アンテナ』かな」


 魔法なんだからアンテナは不要──だと思ったら大間違い。〈テ・レヴィジョン〉には限界がある。それが効果範囲だ。


 僕の魔力と練度じゃ、水泳プールぐらいの広さが限界。だから、魔法を増強・拡散させられる『アンテナ』が必須となる。


 そして、その目星はある────エルフの村にそびえ立つ世界樹だ。


「この世界の魔元素を管理する世界樹なら、アンテナとして使えるはずなんだ」


「ほえ、そうなんだあ」

「ほえぃ、そなんだー」


 いやアテチちゃんまで…………まぁいいや。

 とにかく世界樹ならば、〈テ・レヴィジョン〉を世界中に届けられる。


 だが、それにも問題が二つある。世界樹が海を越えた先にあること。管理しているエルフ族の許可を得ること。これらをどうにかしないとならない。


 バルクスも同じような結論に至ったようで首を傾げた。


「それってどうやって行くの? そもそも使ってもいいの?」


「さぁ……船賃は高いし、そう簡単に使わせては貰えないだろうね」


 僕の計画性のなさに、アテチちゃんが首をかしげる。バルクスまで肩をすくめる始末だ。いや気持ちは分かるけどさ。


「何とかなるって、それに他にもやり方は沢山あるし──」


「はぁ……分かったよ。それに、森に来た時も同じだったでしょお?」


 うーん図星だ。行き当たりばったり、ばっかり。申し訳ない。

 本当は「僕のシナリオ通りだ!」みたいな事したいけど、それを描《えが》く台本もない。


 さて……説得方法は現地で考えるとして、どうやって行こうか。船賃を稼ぐためにも、やっぱバイトしないといけないかぁ──


「あの、それ。私から提案があります!」

リアクションや☆での応援、フォロー。

特に、コメントしていただけると励みになります!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。