月夜の繭 5
戦いが続き、陽が沈み始めた頃、遂に繭が動きを見せる。繭が上部から段々と光の粒子へと溶け始め、その粒子が天へ昇り始めたのだった。繭が欠け始め、全体の1/4が消えると、遂にその中に居た者が姿を見せ始めるのだった。繭が溶けていくとその中に居た者は縮んでいた羽を広げ始める。その正体は虫、形容するならば蝶であった。しかしただの蝶とは違い、身体の全身に鎧の様な外皮を纏っているのだった。全容が見えた蝶。その翼はまるで色鮮やかに光り輝く宝石の様であり、その顔はどこか優しさを秘めた顔立ちであった。そして、その美しさ、神秘的な光景は、思わず皆手を止め見入ってしまうほどのものであった。
だがしかし、そんな中オルタロスは動き始めた。ヴァリエンデを押し退け、キャトルタイタンで蝶へと近づいたのだ。
近付いて来たキャトルタイタンに蝶は必死に威嚇をする。しかし、まだ羽を乾かしている最中なため動けなかったのだ。
「美しい。だが、もしこれが話に聞く次元龍である可能性があるならば」
キャトルタイタンは手に持って斧を思い切り振り上げる。
「残念だが、ここで潰させてもらう!」
キャトルタイタンが蝶に斧を振り下ろそうとした時、後ろから近づいたヴァリエンデがしがみついてくる。
「これだけはダメ!」
「邪魔をするな!」
すると遠くからこちらへ走ってくる人が居た。ハヤタと、そしてハヤタを追いかけるカグヤであった。ハヤタは息を切らしながら繭へと近づくと、大きく手を広げ、視線をキャトルタイタンへと向けた。
「おやめください!これはカグヤが、娘が月へ行くために必要なのです!」
その声にオルタロスは手を止める。
「月?月だと?」
「それはカグヤさんを月に連れて行くために来た者なの!」
「意味の分からんことを!」
キャトルタイタンは自身にしがみついていたヴァリエンデを振り放す。そしてもう一度斧を構え振り下ろそうとした時、ハヤタが蝶の前で膝をつき、そして額を地面へ擦りつけるのだった。
「お願いします。どうか」
それは土下座であった。ハヤタのルーツである東の方の国ではこれを懇願や謝罪の場面で使うものだとオルタロスは知っていた。その姿を見て、オルタロスは斧を一度下ろすのだった。
「月に連れて行くというのは本当なのだな?」
「はい、満月の夜、恐らくは今夜には」
「そうか」
するとオルタロスは全体に向け声をかけた。
「ゴート、張梁、勇者達、ここは一時休戦だ」
その発言にゴートと張梁は驚き、手を止めた。
「オルタロス、正気か?」
張梁は問いかける。
「正気?フン。そうではないかもな。ただこの子ために危険を顧みず頭を下げる父親の、そうまでする男の姿勢を信じてみようと思ってな。それに、本当に月へ行くのであれば興味深い話ではないか」
「子を思う親か・・・」
ゴートはコックピットの右上を見上げた。そこにはある一枚の小さな絵が貼ってある。それはゴートの愛娘が描いたゴートの似顔絵であり、彼はこれをお守りとしていつも持ち歩いているのだ。
「いいだろう」
そう口にすると、ゴートはエムリアーナへ呼びかけた上でシャッサールの動きを完全に止める。そして、それを見た張梁も、続けて動きを止めるのであった。
「おい、なんだよ」
「休戦と言っていましたが、信じて良いのでしょうか」
「エムリ、どうしよう」
「とりあえずこっちも一度降りよう。シャル、ウォード、それでいい?」
エムリアーナの声にヴァリエンデとソムニュームのそれぞれが答えた後、シャル達はフレームゴーレムから降りてそれぞれを元に戻すのだった。そしてそれを見たオルタロス達も、フレームゴーレムから降りるのであった。シャル達は警戒しながらもオルタロス達へと接触をする。すると、オルタロス達もカグヤの話に興味がある様だったので、シャル達は知る限りの情報を伝えるのであった。
そして、段々と空は暗くなり、夜空に月が大きく輝く時間となった。気付けば他の村人もその蝶の美しさに惹かれてか、続々と集まってくるのであった。
蝶の羽は完全に乾ききった様であり、その羽は皺の無い、とてもハリのある物へとなっていた。そしてそれは、カグヤの別れを告げる時が来たという事でもあった。
カグヤとハヤタは一度ギュッと抱きしめ合う。
「来年も、再来年も、夏には絶対戻ってくるからね」
「あぁ、いつでも戻ってきなさい」
二人は離れると、ハヤタは激励を込めてカグヤの肩を軽く二回ほど叩く。そして次にカグヤはミリアムの方へと向かう。
「ミリアム、ありがとう。最後の一日だけだったけど、私の友達になってくれて」
「カグヤさん、元気でね」
「もちろんよ。それにまたいつか帰ってくるからさ、夏には遊びに来てよ」
「分かった、約束する」
「絶対よ?」
するとカグヤはミリアムの左頬にそっと口づけをする。急な事に周りは驚き、ミリアム本人もビックリしている様子であった。
「じゃあ、またね!」
「へっ?あ、うん!」
カグヤは蝶の前に戻ると、最後に村のみんなへ向けて挨拶を済ませた後、蝶が残していた繭の残りに包まれていく。蝶がカグヤを包み終わると、皆が見守る中それを抱えながら蝶は羽ばたき始める。辺りに突風を巻き起こしながら蝶は空へと向かっていくのだった。誰もがその姿を見つめている。敵も味方も、人間も魔族も関係なく、誰もが争いを止め、その神秘的な光景に目を見張るのだった。
「シャル、もう一度だけヴァリエンデを使うよ」
「いいよ」
「ヴァリエンデ!」
ミリアムは、まるで空に浮かぶ満月に重なる様に水晶玉を掲げ、ヴァリエンデを呼び出す。
ヴァリエンデにミリアムとシャルが乗り込むと、ミリアムはヴァリエンデを飛ばし、蝶と並ぶ様に飛ぶのだった。
「泣かないなんて、アンタ強いんだな」
「泣きませんよ。だって、またいつか会えるんですから」
蝶と共に飛ぶヴァリエンデ。それは、辺りに雲が見えるほど高くまで飛んでいた。そこでミリアムはヴァリエンデを空中へ静止させる。すると、少しずつ蝶と距離が出来始める。
「カグヤさん、またね!」
ミリアムはヴァリエンデのスピーカーで最後の挨拶をした。その声がカグヤに届いたのか、それはミリアムには分からない。ただきっと届いただろうとミリアムは思うのだった。
蝶の姿は次第に小さくなっていき、目の前で大きく丸く輝く月の中に消えていくのであった。
「で、貰った不死の薬を天に一番近い山で焼いたから、その山は富士山って名付けられたんだって」
「へー」
いつの間にか遊んでいたメラとメルとリュードまでサクヤの話す御伽噺を聞いていた。リーナ達は思った。竹から生まれた子供がその時代の偉い人達に求婚され、最後には月に連れて帰られる。本当にそんな話があるのだろうかと。
「サクヤ兄さんの世界には月に人が居るの?」
「いや、居ないよ。正確には月の傍の宇宙衛星に住んでる人や月面基地に住んでいる人は居るけど、月に元から住んでいる人間は居ないよ」
「じゃあなんでそんな話が大昔にあるのよ?」
「分かんないけど、きっと昔の人も今の人と変わらず月に夢を持ってたんじゃないかな?だって、夢のある話じゃん」
「まあ昔話なんてそんなものよね」
サクヤ達は空に浮かぶ満月を見上げる。この世界の月はどうなのだろうか。もし人が住んでいる浪漫がこの世界にもあるのならきっと夢のある話ではないだろうか。各々、あの夜空の月に思いを馳せるのであった。
今回の話はこの作品の様々な話を考えている時に最初から予定していた一本でした。
ミリアムの回にする事までは決まっていたのですが、どうやって話の軸にするかを考えた際、これまで設定していなかったミリアムの背景を改めて考えるなどをしたのです。また、カグヤの父親の元ネタは、きっと皆さん御存知なあのキャラクターです。
今回の話では本来登場する予定だった今後の展開に繋げるための新しいロボットの出番が無くなったり、敵側が戦いを止め共に蝶を見るなど書いて行く内に最初の予定とは違う形になった部分もありました。新しいロボットの方は今後の話で出せればいいのですがどうなることか....。




