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月夜の繭 2

その夜、シャル達はススムの厚意で家に泊めてもらえる事となった。二人暮らしの家に急に5人と3匹も入ると相当狭く、少ないスペースでの雑魚寝を余儀なくされた。しかし、シャル達はそういう状況で寝るのも慣れているため、難なく眠る事が出来るのであった。

夜も更け、日付が変わった頃、ミリアムはふと目が覚めてしまった。するとその時、誰かが家の扉から出ていくのを目撃する。その姿、ミリアムの見間違えでなければカグヤだろう。ソレを見たミリアムは、物音を立てない様に慎重に扉へと向かい、カグヤを追って家の外へと出るのだった。外へ出るとカグヤは一人で夜道を歩いていた。ミリアムはそれの後を追うようについていくと、あの繭の場所へと辿り着く。ミリアムはカグヤの様子を暫く物陰から観察していると、カグヤは繭に寄り添うように全身を寄せるのだった。その光景はミリアムにとって神秘的な情景に思えた。まるでこの世ならざるものの様な美しさであり、手で触れようとすると消えそうなものだと思うほどだ。

そんな光景に惹き込まれる様に、ミリアムは踏み出し、カグヤに近づき始める。その物音をカグヤは気にも留めなかった。

「カグヤさん、何をしてるの?」

「音を聞いてるの」

「音?」

「この子の音。こうして身体を当てると、この繭の中で動く鼓動が伝わってくるの」

その言葉にミリアムは興味を持ち、カグヤと同じ様に繭に身体を当てる。すると、中でモゾモゾと巨大な物体が蠢く音が全身に響き渡る。その音にミリアムは驚くも、しかし不思議と不快には思わなかったのだった。

暫く繭の音を聞いた後、二人は夜風に当たりながら月を見上げる。夜になっても暖かさが肌身に感じられ、しかしその暖かさに不愉快さ無い季節となっていたため、二人は非常にリラックスした状態であった。

「私さ、本当は月になんて行きたくないんだ」

「え?」

「だってそうじゃん。私は月で生まれた月の人間かもしれないし、月に行けば私の血縁のお父さんと赤さんに会えるかもしれないけど、小さい頃からここで父さんと一緒に過ごしてきたんだもん。ずっと父さんと一緒に暮らしたいし、ずっとこの世界に居たいよ。だいたい、私にとっての本当の親は育ててくれた父さんなんだし。だからさ、あなた達があの繭をどうにかしようとした時、「もしこのまま見過ごせば月に行かなくて済むかも」って思っちゃったりしてさ」

「じゃあ何で止めたの?」

「止めても多分また月から迎えが来ると思うから、かな?結局、今逃げても変わらない気がしたんだ」

「ふーん」

しばらく二人の中に沈黙が流れる。すると、ミリアムが次の話を始める。

「カグヤさんが月に行くって話聞いた時、私、叔父さんの顔が浮かんじゃって」

「叔父さん?」

「私さ、両親が居ないんだ。お父さんはまだ私が赤ちゃんの頃に事故で死んじゃって。お母さんも小さい頃には病気でもうずっと寝たきりで、結局良くならなくって。だから叔父さん、お父さんの弟に育てられたの。本当のお父さんみたいに優しくて、でも時々厳しくってさ。そして、叔父さんの家に住む様になってから近所に居たシャルと友達になってさ」

「なんか、私に似てるね」

「でしょ。そんな叔父さんさ、シャルが旅に出る日に私が「私も旅に出る」って言った時、その我儘を許してくれたんだ。でも本当は止めたかったと思う。だから今もきっと心配してるだろうなって」

一呼吸置き、ミリアムは続ける。

「だからさ、大切なのは血が繋がってるとかじゃないんだと思う、きっと。家族って言うのは」

「そうよ。きっとそう」

「でも、本当の両親に会えるのって正直ちょっと羨ましいな」

「そう?15年も会ってない、顔も覚えてない人を今から親と思わないといけないのって怖くない?」

「それは確かに」

二人はお互いに笑い合う。夜の空気や暗闇を照らす月明かりの暖かさ、自身との共通点の様なものあって意気投合したのだろう。

「ねえ、カグヤさん。私達友達にならない?」

「友達?」

「そう、友達。一日だけだけど」

「いいわ、なってあげる」

ミリアムの提案を飲んだカグヤは手を差し出し、ミリアムはその手を強く握り返すのであった。


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