月夜の繭 1
サクヤとリーナが旅を始めて早数ヶ月。季節は変わり始め、日中は薄着でも活動でき、夜も暖を取らずとも過ごせる気候へ変化していた。
そんな日のある夜、サクヤとリーナは遊んでいるメラ、メル、リュードを見守りながら夕涼みをしていた。満天の星空には満月が輝いており、その大きさと共に存在感を放っていた。その輝く月を見たサクヤは、メラ達の遊ぶ姿を被写体としながら月をカメラの画角に収めシャッターを切る。シャッターを切った後カメラから用紙が排出され、しばらく待つとその紙にメラ達が遊ぶ姿と満天の星空に浮かぶ満月の画が浮き上がってくるのだった。
「どう?いい画でしょ」
「うん、いいんじゃい」
サクヤはその満月を見上げなら、スープを飲み一呼吸置く。
「月ってさ、いいよな」
「そう?」
「こっちの世界に来てもさ、月は変わらず綺麗なんだ。この世界に飛ばされて何にも分からなくて不安だった時も、月を見れば自然と落ち着けてさ」
月を眺めるサクヤのその目は、元居た世界を思い出しているからなのか、哀愁が漂っていた。
「そうね」
サクヤはひとしきり月を眺めた後、カラッと表情を変えある話をし始める。
「月と言えば俺の世界に現存する最古の物語ってものがあってさ」
時間は少し巻き戻り、シャル達の話となる。
エルフの森を超え、エルフの女・エムリアーナを新たな仲間と迎えたシャル達はその日も旅を続けていた。すると、ある村に差し掛かった頃、巨大な何かをシャル達は目撃するのだった。村の傍に鎮座している巨大なソレはフレームゴーレムほどの大きさがあり、まるで虫の繭の様な見た目をしている。シャル達は近くの村に寄り村人に話を聞くと、「三日前に空から降ってきた」との事であり、同時に巨大なソレを邪魔だと思っている様子である。その話を聞いたシャル達はソレが次元龍に関係する可能性もあると考え、早々に駆除する事にするのであった。
ウォードがソムニュームを召喚し、ソムニュームの能力である分解を使ってソレを処理しようとしたその時、村から一人の少女が飛び出し、ソレの前でまるでソレを守るかの様に立ちふさがる。
「お願い!この繭に触れないで!」
突然現れた少女、少女と言っても見た目から推測するにシャルやミリアムと年齢は変わらなそうなその少女にシャル達は戸惑った。
「どうして?」
シャルはウォードを一度止め、その少女に話かける。
「それは・・・」
少女はソレについて何か知っている様子であったが、物怖じをしているのか中々喋り始めなかった。
「話してくれないと分からないよ」
「・・・分かったわ。話すから私の家に来て」
その少女はハヤタ・カグヤと名乗った。カグヤの家に着くと家には男性が一人、家事をしていた。彼はカグヤの父、ハヤタ・ススムだと名乗ったのだ。この時シャル達は、「名前の雰囲気がサクヤと似ている」と思うのだった。その理由はこの村が遠い東の国からやってきた人たちにより開拓された村であり、その子孫達が今も暮らしているからなのである。
ススムはカグヤが連れてきた客人であるシャル達を席に着かせ、茶を振る舞う。その茶の色は澄んだ薄緑色であり、シャル達にとっては初めて見る茶の色であった。
「それで、アレは何なんです?」
シャルは振る舞われた茶を口にした後、早速本題に入る。その話題にハヤタ親子は少し沈黙した後、カグヤが説明を始める。
「あの繭は、私を月へ連れて帰るために来た者です」
その発言に皆顔を見合わせた。
「月って、まさかあの空にある月の事を言ってるんじゃないよな?」
「その月です。これについては娘の、カグヤの出生からお話しないといけません」
ススムはカグヤの出生を話し始めるのだった。15年前、ある夏の満月の夜に推定2歳の少女の入ったカプセルが空から降ってきた。そこには「月より迎えが来る15年後の夏の満月の夜まで頼む」という旨の手紙も添えられていた。ススムはその子をカグヤと名付け、大切に育てたのだった。
とても信じがたい話ではあるものの、それを話すススムの目は嘘をついている物ではない、そうシャル達は思うのだった。
「ねーねー、ライオン達の世界にも月に人が住んでるの?」
「いや、そんな事はないライ」
「レーメネ、そういう話はあと」
「なあ、満月の夜ってよ」
「えぇ、ここ数日の月を見るに、恐らく明日の夜でしょう」
ディナルドの王城の一室、ゴートの部屋。そこではゴートと部下のオーエン、エルス、ダラが食事をしながら先日の反省会をしていた。机の上には大量の食事が並べられており、ゴートはその飯を作法の則って紳士的に、対して部下の三人は作法などを気にせずガツガツと食べていた。
「つまりだな、あの作戦自体は悪くなかった。だが、未知のフレームゴーレムに遭遇してしまった事。そしてそれに対してルウーボで正面から戦った事が敗因だったのだ」
「でもこれからどうします?」
「ルウーボの修理が終わらないとどうしようもないですよ」
「いやでも、またルウーボで戦ったって負けるだけだぞ」
「ダラの言う通りだ。このままでは我々が手柄を立てる事は出来ん」
そうこう話をしていると、突然部屋のドアをノックする音が聞こえる。「開いてるぞ」とゴートが声をかけるとノックの主がドアを開く。そこに立っていたのは大男が二人。片方はキャトルタイタンのパイロットのオルタロス。そしてもう片方は全身に漆黒の鎧を纏い、マントを羽織った仮面の男であった。
「張梁。それにオルタロスまで」
全身を漆黒の鎧で覆った大男、鉄面の張梁。彼は素顔も、本名すらも謎の男である。顔を隠している仮面は目元と鼻先、そして口回りのみが開いているものの、その隙間から彼の表情を汲み取るのは難しいほど、常に表情が変わらず、彼が他人と世間話をしている姿は他の誰も見た事が無いほどである。しかし、そんな彼もまたその強さを認められた存在であり、一部隊の隊長を任せられている存在である。
張梁とオルタロスが適当に席に着く。大男が二人も無言で座っている事に対し、ゴートは威圧感と圧迫感を覚えるのだった。
しばらく無言のままであったが、突然張梁が口を開く。
「聞いたぞ。勇者に挑んで負けたんだとな」
「なっ、いきなり失礼な奴だな」
「だが、事実だろう?」
「あぁ・・・。だがな、作戦自体は悪くなかったんだ!あのフレームゴーレムの事も知ってれば、俺達のフレームゴーレムがルウーボじゃなければ勝てたんだ!」
「なら、次はどうするつもりだ?」
「それは・・・、それを今からこうして考えようとだな!」
「それでいい。例え負けたとしても、大切なのはその負けを活かし次の一手を考える事だ。それが出来ず、他責の言い訳ばかりを続ける者はいつまでも敗者のままだからな」
「それで、何をしに来たんだ」
「ある村に落ちてきた物の調査をエルピロに頼まれてな。まあそれだけなら我一人でも問題ないのだが、そこに勇者達も居る様だ」
「なっ!」
「そこでオルトロス、そしてゴート、お前の力を貸してほしい」
「そんな事、私に頼まれてもだな。大体、ミレーヌやストルツ、アーノルド居るだろう。それに、お前達の部下だって」
「お前が先日交戦したエルフのフレームゴーレム、アレが勇者の仲間になっている様でな。アレと戦ったお前だからこそ頼めるのだ。それに、無駄に部下を使うよりも、我ら三人で組み、挑む方が確実だろう」
「それに、私のフレームゴーレムは今無いのだぞ!それはどうするんだ」
「それもエルピロが用意している。ついてこい」
そう言うと、張梁とオルトロスは立ち上がり、部屋を後にする。ゴートと部下の三人は、それを見失わい様に後を追うのだった。
張梁とオルタロスが向かった先はフレームゴーレムの格納庫であった。そこではエルピロがフレームゴーレムの修理や調整する現場の指揮をしていた。
「来られましたか」
エルピロのそばには三機のフレームゴーレムが立っていた。一機はオルタロスのキャトルタイタン。もうもう一機は各部に龍の意匠がある張梁のフレームゴーレム・九頭龍。そしてもう一機はゴートのために新たに用意されたフレームゴーレム・シャッサールである。
「おぉ、これが!」
「えぇ。名はシャッサール。腕部にある拡張腕を応用し使用するフレームゴーレムです。ルウーボと近い感覚で操縦出来るでしょう。それと背部には第二試作型アルタードを装備してあります」
「それは私に使いこなせるのか?」
「自動で動く追尾兵器ですので。不安なら試運転をしてみますか?」
「あぁ、頼む」
「分かりました」
エルピロは近くの職員に声をかけ、シャッサールを出す準備をさせる様に指示を出す。すると、現場は慌ただしくなり、シャッサールへ人員が移動し始める。
「それとオルタロス様のキャトルタイタンですが、前回の損傷を踏まえ、関節部を強化軟質素材で覆っておきました。それと各部に推進器を増やしたので前よりも速度が出せる様になります。関節を覆ったため可動に少々難があり、癖が増えてしまいましたがオルタロス様なら問題ないでしょう」
「問題ない、扱ってみせよう」
「期待しています」
エルピロは続ける。
「改めて説明をしますが今回貴方方には謎の落下物の調査、そして可能ならばその近辺に居るであろう勇者の無力化です。奪われたソムニュームを含めた勇者達の持つフレームゴーレムまで持ち返れればお願いしたいですが、まあそこまでは難しいでしょう。フレームゴーレムの調整に時間がかかるため、明日の昼に出撃をお願いします。よろしいでしょうか?」
その言葉にゴート、オルタロス、張梁が答える。すると、エルスが突然エルピロへ近づく。
「なあなあ、俺達はどうすりゃいいんだ」
「あなた方は先日ルウーボを壊したばかりでしょう。アレの修理はまだ終わってないんですよ」
エルスに続き、オーエンとダラもエルピロへ近づく。
「でもでも、まだルウーボはあるだろう?」
「グリフでもいいんだぜ!俺達も行かせてくれよ!」
「ダメです。ルウーボやグリフだって有限なんです、また壊されたらどうするんです」
珍しくエルピロが強く答える。その態度にオーエン、エルス、ダラは気圧されてしまい、それ以上何も言えないのであった。




