13.ミアとの修行 ④
「水生成!」
こたつでの一件後、わずか30分で初級水魔法の発動に成功した。
掌2センチほど先の何もない空間から、
チョロチョロときれいな水が流れ出ていた。
あの7時間は何だったのかと思うところはあったものの、
初めての魔法発動に感動していた。
「母さん!できたよ!水魔法が発動した!」
「やったわね!ロイ!」
親子でパァーンとハイタッチする。
おしめの赤ちゃんが母親とするその様はなんとも微笑ましい限りだ。
しかし、当然これで修業が終わりではない。
ようやく初級水魔法のスタートラインに立ったばかりなのだ。
「ロイ。次は、水を生成しながら魔力操作の感覚で右手に魔力を集めるようにするの。
そして、集めた魔力のうち魔力の半分を掌から放出する水に、
残り半分は身体を循環するように振り分けて操作するのよ。」
ここぞとばかりにミアの指導が入る。
言われた通りに魔力の操作をすると水の勢いが増した。
まるで水道の蛇口を思いっきり捻ったようだ。
「いいわ!よくできているわよ!
次は、今流れている魔力回路に沿って逆方向の流れを作りなさい。
体への反動を減らし、持続力と精密さ、魔法によっては爆発力が増すわ!」
「むぐぐっ。」
初級魔力操作は習得し終わっているが、この操作は難しい。
まったく同じ量の魔力を体の中で右回転・左回転を行うのだ。
魔法発動時に発生したエネルギーの反動を体内で相殺するのに必要で、
これができるとできないのでは体にかかる負担がまるで違うらしいのだ。
魔力が身体を一周するのにかかる時間が長ければ長い程魔法そのものの効果もより高いものとなるため、
俺は螺旋を描くように魔力の流れを展開してみたが、
それに逆回転操作が加わると頭がパンクするほどに難易度が上がる。
しかしそれでも、何とか1割ほどの逆回転を生み出すことに成功すると、
水の勢いが高圧に変化した。
ヨーロッパの洗浄機メーカーも拍手物の高圧水噴射だ。
(スキルが解けた生身の赤ん坊では発動は控えたほうがいいだろうな…。)
そう自重するほどに強力な水噴射だった。
「素晴らしいわ、ロイ!これで初級水魔法の修行、完了よ!」
なんと、初級水魔法を習得してしまった!
最後は呆気ないような気もするけど、
無事に終われてホッとしている。
「母さんのおかげだよ。本当にありがとう!」
「ふふふ。何度でも言うわよ。
あなたの頑張りが実を結んだの。あなたの努力の成果よ。
おめでとう、ロイっ。」
「母さん…。」
ミアは目いっぱいの愛情をこめて抱きしめながら俺の頑張りを褒めてくれた。
うれしい。本当にうれしい。
この人の子で良かったと心から思う。
自分のスキルイメージの存在だけど。
◆
それからしばらく感覚を定着させるために練習をした後、
俺は修行塔から出ていくことにした。
「それじゃ、行くね。
って言ってもすぐに家で会うんだろうけど。」
「ふふ。そうね。
現実世界に戻っても練習頑張るのよ。」
そう言って俺は回れ右をして塔の出口へ歩いていく。
とても誇らしい気持ちだ。
「あ、そうそう。ロイ。
大事なことを言い忘れたわ。」
「えっ?」
ミアに呼び止められた俺は、
すぐに振り返らずになぜか背筋をピンと伸ばして立ち止まった。
(大事なことを忘れてる、気がする…。あれ?なんだっけこの悪寒…?
待て待て!振り返る前に何か覚悟を決めておかなきゃならない気が…っ?)
思考がまとまらないうちに体が勝手に後方に向き始める。
冷汗が止まらない。
動機もする。
(ま、まさか!この底冷えのするような圧力の塊は…ッッッ!)
今日覚えたこと、悪いことに使ったらどうなるか……。
よく考えて行動しなさいね? ねぇ、ロ~イ?
振り向いた先に女神はいなかった。
いたのはミアの声をした恐ろしい般若だった。
鬼の顔をした母からぶっとい釘を刺されたことを最後に、
泡を吹いて気絶しながら初めてのスキル発動が終わった。
その直後、スキルから目覚めた俺がミアの顔を見て泣き喚いたのは言うまでもない。