12.ミアとの修行 ③
「さあ、いよいよ初級水魔法の修行に入るわねっ。」
「はい!よろしくお願いします!」
初級魔力操作を覚えた俺は、一度エマさんのところに行って寛いだ後、
目当ての水魔法を修行するために塔へと戻ってきた。
ちなみにさっきエマさんが出してくれたおやつは緑茶とはっさくだった。
はっさくのプリプリした触感と、少し感じる酸味と苦みが絶妙だった。
自信のスキル空間とはいえ、こんな贅沢ができるとは!
前世の自分とその記憶に改めて感謝したい!
そんなふうに余韻に浸っていると、
先ほどまでのにこやかな雰囲気とは打って変わって、
真剣な表情でミアが話し出した。
「初めに言っておくわ。
おそらくロイが魔法を発動するのはすごく大変だと思うの。」
「大変とはどういうことですか?」
いつもと違う雰囲気に飲まれそうになりながら質問する。
「それはね。あなたが前世の記憶を持っているからこそ予想されることなんだけどね。
無から何かを生み出す感覚って…地球人だったロイに分かるかしら?」
「…。」
無から有を…なんだって?
そんなの、ほとんどの地球人には無いはずの概念だろう。
国民的イベントで商品を売り出して新たな利益を生み出すぜ!
みたいな話なら聞いたことあるんだが。
バレンタインのチョコとかね。…そういう話じゃないんだろうな。
猫型ロボットが水と空気からハンバーグを作る機械をポケットから出してたが、
それだって元になる物があってこその話だ。
にわかには理解できかねまする。
「その…空気中の水分を集めるとか、そういう事ではないのですか?」
「違うわね。言ったでしょ?無から何かを生み出すんだ、って。
もちろん、魔法を使って既にあるものに力を加えて放つ物もあるけどね。
イメージを強く持ってそれ自体を具現化させるのよ。
火魔法なら物が燃えて発生した炎ではなくて火そのものを―。
風魔法なら気圧や温度差なんかによる空気の移動ではなく風そのものをイメージするの。」
ふむ。
さすがはミアだ。すごく丁寧な教え方だ。
言葉では…なんとなく理解できたような、そんな気がする。
それにしても地球知識のメカニズムで指導してくれるとは。
ミアから『気圧』とかの言葉が出てくると違和感しかないけどな。
ウダウダ言ってても仕方ない。
当たって砕けろ精神だ!
「…水魔法なら、H2Oがどうとか考えずに、単純に…!」
◆
「んもぉ~、分かんないですよ。エマさん~っ。
無から有って何なんですか、一体。」
あれから7時間ほど水魔法の訓練をしたがさっぱりだった。
無から有ってのがまったく理解できない。
塔からエマさんの元へ戻って、
こたつに突っ伏しながら泣き言を言っている最中だ。
俺は前世で、お菓子が食べたいと駄々をこねたとき、
「無いものを食べたいとは不思議な事を言うもんじゃ!アッハッハ!」
と、じいちゃんに盛大にバカにされたことがあった。
それが物凄く悔しくて大泣きしたあの時の事は、その後も頭にこびりつき、
目の前に無いものや手の届かないものへの羨望が無くなってしまった。
そのイメージが今も付きまとっているからだろうか。
はっきり言って水魔法を発動できる気がしない。
そんな俺に、エマさんは極めて冷静に諭すように語り掛けてくる。
「まあ何度も言うが、修行なぞ困難で当たり前なのだ。
意識改革だと思って前向きにやってみろ。」
「そうは言っても、これが思いのほか難しいんですよ…。
この世界の人たちは普通にできる事なんですか?」
「大体は無我夢中でやったらできた、というのが多いらしいな。
よく聞くのは弟の大怪我を治したいと必死になったら治癒魔法が発現したというものだな。」
「ああ、ふとした時にというやつですか。」
「そうねぇ、でも母さんの時は少し違ったかな。
なんか水を出せそう、って思ったからやったらできたのよ。」
「人それぞれという事だな。」
「そうか~…。」
…。
…ん?
「か、母さん!?なんでここに!?」
ミアがこたつに入って寛いでいるではないか!
ど、どういうこと!?
「別に塔から出られないというわけではないぞ?
ミアだから特別という事でもない。
たとえスキルの師が極悪人であろうとこのスキルでイメージ化された存在だからな。
ロイや我に危害を加えるような真似はさせぬよ。」
「そ、そうなんですか。
何でもアリなんですね…ビックリしましたよ。」
「もう、ロイったらそんな細かい事いいじゃない。
それよりその後ろの羊羹取ってくれない?」
「あ、ああ。はい……エッ?」
会話をしながら後ろを向くと、
何もなかった場所に皿に乗った羊羹5切れが3人分現れたのを見た。
「できたじゃない、ロイ。」
「そうじゃな。それが無から有だ。」
「これって、母さんかエマさんがやったんじゃ…。」
「どちらがやったとしても、それはお主の力じゃ。
なんせここはお主のスキルの中なのだからな。
そこにあるのが当たり前。もう大丈夫だろう?」
かなり強引な話じゃないか?これ。
ものすごく納得したくない…。
「でも、まさか母さん。このために塔から出てきて…。」
そう言いかけて、俺は言葉を途中で切った。
お茶と羊羹を美味しそうに食べているミアの顔がすべてを物語っていたからだ。
(おやつ、食べたかったんだな…。)
ミアの幸せそうな顔を見ていたら、
自分のもやもやした気持ちなどどうでも良くなってきた。
「美味しい羊羹ね、ロイ。」
「う、うん。そうだね。とっても美味しいよ。」
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