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悪役令嬢だったのでダッシュで隣国へと逃げ出そうと思います。 〜自由に生きたいので溺愛とかは結構です〜  作者: そらいろさとり


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14/16

14.無意識的


 ***



 ソフィアがいなくなって二ヶ月。セントリック王太子は頭を痛めていた。

 婚約してから少しずつ、彼の公務の仕事の半数近く……いや、それ以上を受け持っていたソフィアがいなくなり、明らかに増えた仕事量。

 それどころか勝手に婚約解消までしようとしていたことで、王である父に身限りをつけられそうで、せめて仕事ができることくらい見せてみろと申しつかり、誰かに任せることも出来ない。

 

 ならばせめて王太子妃を予定していたミシリーに仕事の一部だけでも任せようとしたが、国の重要な仕事をぽっと出の少女に、しかもソフィアを陥れようとした少女なんかに任せるわけにいかないと王をはじめ、国の重鎮に咎められたのは当たり前のこと。

 しかし彼からすれば突然仕事量が一気に倍どころでは無いほどに増え、ストレスが募っていた。



 そんな時、やってきた家臣からの言葉にセントリックは眉を顰める。

「税収の見込みが落ちている……だと?」

「はい」

「住民が減ったわけでも大きな災害があったわけでもなし、そんなわけが無いだろう」


 セントリックが呆れたように言い返すが、報告を上げてきた家臣の顔は真実だと物語っている。


「……そんなわけがないだろう?」

 繰り返しその言葉を口に出せば、家臣はそっとその紙の束を差し出し、不満気に彼はそれに目を落としパラパラと捲る。そして一枚捲るごとに顔色が悪くなっていくと、突然、


「カルナルディ家を連れ戻せ!! 今すぐにだ!! 」


 怒りに染まった顔で机を叩き、叫ぶようなその声は廊下まで響き渡った。




 *****




 そんな頃、隣国では美丈夫がなにごともなかったように爽やかに微笑む。

「やぁ、ソフィア。久しぶり、元気だった?」

 美丈夫がソフィアに声をかければ、彼女はそちらを見ることもなく目の前の露天から商品を受け取る。

 あの闇オークションから二週間ほど。ソフィアにとって久々の街歩きにも関わらず、相変わらず神出鬼没にも彼はその前へと現れた。


「えぇ……お陰様でね」

 ふと予定外に立ち寄った露天に彼が現れたことにも今更動じずに、そう言葉を返すソフィアの目も口元も笑っていない。

「うん? 久々のお出かけなのにご機嫌斜めだね。どうかしたのかい?」


 慣れたようにエスコートの手を出されるが、ソフィアは無視して串を一本追加して買うとその両手は塞がっていると見せられ、彼は笑ってベンチへと共に向かうと、せめてもとその椅子にハンカチを敷けば、ソフィアは刺繍の入った高そうなソレの上に遠慮なく座った。


「ふむ。帰るのが遅くてご両親に怒られて、暫く外出禁止だったってとこかな?」

「……もっと最悪よ」

 そう告げれば、彼は少し驚いた顔を見せると真剣な顔になる。

「すまない。協力してくれたのがバレたか?」

 真面目なトーンで彼女の顔を真っ直ぐに見つめる姿に彼女は、急いで目を逸らす。


「ある意味ソレより最悪ね」

「……ッ、まさか家の方にまで何か……⁉︎」

 慌てるその様子に、彼女は彼の口に肉串を一本突っ込むと、


「そんなんじゃないわ! 家族にッ、あの、バニーガールの衣装が見つかったのよ!!」

「ンフッ!」

「お父様は大爆笑だし、お母様は何かいうわけでもなく頭を抱えて、お兄様には『趣味は尊重するが……購入先とか聞いていいのか?』とか変に気を使われるし、私のじゃないって言っても誰も聞いてくれないのよ!!」

「ンフフフフフハッ」

 

 ソフィアの必死な訴えも、美丈夫は串のせいで変な笑いになり、なんとか一口だけ食べて串を口から離すと、今度こそ爆笑を始める。


「はははっ、あはははははははは!! それで、どうしたんだい!?」

「パックに着させようと買ったけど、サイズが合わなくて断念したってことにしたわ!」

「それッ、なんの、フォローにもなってないんじゃ!?」

「わ、わたしが着てたことがバレるよりマシでしょう!?」

「マシかなぁ!!?」



 笑いが止まらないと、ソフィアは彼から串を受け取ると、不満げに、しかしその頬は赤いまま自分の分を口に運んだ。


「今日は……そのパックはどうしたんだい?」

「今そこのお店で買い物して、荷物包ませてるから持って出てくるのを待ってるとこよ」

「そうかぁ。……はははっ、しかし、それはご両親も心配しただろうねぇ」

「そうだわ。サンプル品てことにすればよかったんだわ。わたしとしたことが……」


 二週間もたった今、自分の生業が商売だということに気づいて彼女が呟けば、

「俺は君なら万一見つかってもそう言うのかと思ってたんだけど……そうか、パックくんに…ふふふふふっ」

 彼はまだ堪えきれないと笑い続けるのに、彼女は串で汚れた手をハンカチで拭うと、彼の脇腹をギュッと摘んだ。


「悪かったよ。協力させた上に笑ってさ」


 その遠慮のない行動に降参とばかりに両手を挙げて謝れば、ソフィアは年相応……いや、幼くも見えるほどに頬を膨らませて怒っている様子に美丈夫の顔が緩む。


「本当に悪かったわよ。あんな格好までするなんて聞いてなかったわ」

「すまなかった。君があそこにいてくれたからこそ、人身売買に関わったにも関わらず、パック君も君も早々に逃げ出せる手筈だったからさ」


 素直に頭を下げられ事情を言われると、ソフィアもそれ以上は責めなくいていいかと一つ息を吐いて正面を向く。


「それで、どうなったの?」

「あのことで取引先の一つと出て、孤児院行ってみれば出るわ出るわの人身売買の記録に国からの支援金のちょろまかし。当然孤児院は解散」

「そう。子供たちは?」

「国が改めて孤児院建設に取り掛かるそうだよ。それまでは今までの施設で代表者を変えてひとまず過ごすが……今までとは違うから安心して」

「そう」


 彼女はそう言って安堵の息を吐くとその視線は、大荷物で前も見えなさそうに店のドアから出てくる、成長期前の小柄な少年へと優しい瞳が向けられ、

「あの子も苦労した甲斐があるわね」と呟いた。

「君の苦労は?」

「恥こそあっても、わたしにとって苦労なんて呼べるほどのことじゃないわ」


 何がおかしいのか、彼女の笑う口元と、反面伏せられた視線に美丈夫の視線は固まる。

 それに気づいたソフィアが「……何?」と視線を彼に向けたところ、その唇に柔らかなものが重なった。


「なっ!!?」

 それと同時にパシンと響く音に、驚いたような彼の顔。


「えっと、ごめん……?」

「なんで疑問系なんですの!?」

 真っ赤に染まる頬と、その手の甲で唇を拭い、赤く引かれたルージュが不恰好に横へと流れる。


「今のは……本当に悪かった」

「この前の格好といい、こんなことしてッ……、いえ、パックの希望を叶えて下さった事と、今の平手で手打ちにしてあげますのであなたもお気になさらずわたしも犬にでも噛まれたと思いますわ!」


 ソフィアは動揺のあまりか早口で、しかも後半になるにつれ更に慌てたように早々と終わらせると、立ち上がり離れようとすればその腕を掴まれた。


「あなた……じゃなくてベル。俺のことはベルって呼んでくれるか?」

「ドライフルさん」

「それは偽名ってわかってるだろ?」

「呼ぶほどの親しい関係ではございませんわ」

「キスしても?」


 ベルの怪しげな笑みにも、ソフィアは一度目を見開くが一つ息を吐くと、

「躾けのなってない犬に噛まれただけといいましたでしょう?」と目を細める。


「手厳しいな。俺の主人は」

「いいえ。わたし、ブリーダーでもないもので、もうよその子を育てる気はありませんの」

 そう言うと手を振り解き、振り向くこともなく荷物を持ったパックの手を取り、

「今はこの子の世話で手一杯ですわ。さようなら」


 まるで感情のない笑みを浮かべて、それから振り向くこともなく美丈夫の前から去っていった。




 ***




「……おいっ!おいってば、リベルタ!!」

「ん?」


 どこかの訓練場で、リベルタと呼ばれたと呼ばれた美丈夫はその顔に流れる汗を袖で拭くと、そのまま着替えのために乱雑にその服を脱ぎ捨てる。


「お前、今朝出かけた後から変だぞ? なんかあった……っと、そう言うことか。悪ぃ、なんでもねぇよ」


 そう言って親しげな男はニヤニヤと笑って彼の元を去ると、リベルタは自分がどれくらいぼうっとしていたのかと周りを見渡せば、十名以上はいたはずだったのに一人もその場にいないことに気がつく。


「俺がこんなにも呆けていた……?」


 信じられないとばかりにもう一度周りを見渡して、ふと最後に去った彼に向けられた視線の先に目を向ければ、そこは脇腹。

 怒ったソフィアの小さな指でつままれたそこは赤く小さなアザとなっていた。

 改めて見てみれば、それは確かにキスマークにも見える。


「……誤解だ。なんて言うほど、何もしなかったわけでもない……か」


(あの時悪かったと反射的に謝ってしまったが、俺があんなにも無意識に唇を奪うなんて……)

 

 自分のしたことが信じられないと、そんな誰もいなくなった更衣室で座り込んだ彼の顔は、家族すら見たこともないほどに真っ赤に染まる。


 それから今度はなんとも幸せそうに笑うと、

「可愛いな」と、小さく呟いた。




 

 


 

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