13.悪趣味面
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ソフィア達がそれぞれの場所に着いてすぐ。オークション会場の薄暗い明かりは一度消え、まるでオペラ会場のような舞台の上に現れた男だけに突然まばゆいばかりに光をあてれば、その男は手を広げて大きな声を上げた。
「レディ〜スエェ〜ンドォ〜ジェントルメェェ〜ンッ」
そんな耳障りの悪い発音でオークションを始めた司会者だが、会場はそんなこと気にした様子もなく、そのまま続ていく説明にまるで浮足立つように会場の熱気は上がってゆく。
この会場では司会者も客も悪趣味な仮面をつけて、その顔も身分も隠して出所のしれぬ物を買おうと平気でする人間に、まるで嫌気が差したとばかりにソフィアの顔が歪む。
勿論、彼女をはじめ舞台の端で何人か立つ女性アシスタント達の顔にも仮面はつけられている。
その身につけている服と呼ぶにはいささか布の足りない格好も相まって怪しさは増す。ソフィアは普段以上に高いヒールのせいで背筋を伸ばしておかないと倒れてしまいそうだと凛と背を伸ばした。
「今日のバニーはいいねぇ。特に端の……肉付きもいいし、アレは売り物じゃないのかい?」
「えぇ残念ながら。まぁオークションに彩りをつけるには、いいでしょう? あのボリュームのある胸も、それに金髪も豪勢さを増しますし。後ほど今日のメインと一緒に立たせる予定ですよ」
そんな舞台袖から聞こえる声にソフィアは視線を向けもしない。
しかし彼らの言っているのは間違いなくソフィアのこと。彼女の父似の燃えるようなその赤髪は、美丈夫の魔法によって金髪に変えられ、顔も隠した今ではそうそう身元はバレないとはいえ、こうして不躾に向けられる視線は辱めでしか無いと、あの青年のいるであろう客席に睨みを効かせるが、向こうからは明るいソフィアの様子見は見えているだろうが、明るい舞台からは客席の人の判別は出来ない。
ソフィアは改めてまた姿勢を正しても袖からの下世話な視線は変わらず向けられる。
「そうか残念だな。あの背筋の伸びた女を勘弁してと泣かすのが楽しいのに。またアレが商品として出るようなら教えてくれよ」
「えぇ、今日はお貴族の坊ちゃんが今日の花を添えるのにと、自分のお手付きを出してきましてね。まぁすぐ飽きて……こちらに並ぶのも時間の問題でしょうしね」
勝手な想像だ、しかし言いたいことは言わせておこうという気持ちと、やはり言い放題なその口黙らせたい気持ちが入り混じりソフィアが無意識に拳を握った時、司会者の挨拶が終わり舞台が暗転する。
ソフィアは手筈通り舞台袖に降り、そこからは他のアシスタントが次から次に商品を運び、舞台中央でオークションにかけられるのは、美術館から盗まれたと新聞に出ていた品に、歴史的な芸術品。それに明らかなまがい物、それに宝石、魔石、まがい物……。
(よくもまぁ、あんなに品の悪い物までも混ぜるわね)
宝石に偽の鑑定書までつけて、しかし信じさせるにしては遠目で見ても質が悪い。魔石に至っては魔力の魔の字も放っていない。彼女から見ればただの色付きの石だと思うが、元より客に目利きがいないのか、はたまたノリか、買ったという思い出作りなのかと次々と落札される様子に呆れた視線を向けている。
そうこうしているうちに、彼女の横へと布の被された大きな大きな四角いもの。
出番だと言われ、ソレに軽く手をかけ彼女が歩き出せば、客席からは見えないように、後ろから屈強な男が真っ暗な中舞台の真ん中へと運んでいく。
「さて……! 次が最後の品となります!! この美しき子を見て下さい…! 宝石が霞むばかりの少女……いえ、これが少年であることを、ワタシも驚きが隠せない……美しく輝く金の髪!!それに瞳は溢れんほど大きく緑色に輝くのは、どこかの貴族の血が入っているのか……!? そんな気高き少年を、今、アナタの手でどのようにでもお好きになさる権利をお買い求め下さい!!」
そう言われて当たるライトの真ん中にはソフィアとその後ろの大きな布で隠された箱。
布へと手を伸ばしその先にある風の魔石に力を込めれば、檻の真ん中から風が起きて舞うようにその布が空へと舞い、真ん中から金髪碧眼の、みょうちくりんに宝石に彩られた着飾られ立つ……パックが現れた。
「……気に食わないわ」
わたしのそんな声は歓声に掻き消されて、そんな中で始まったオークションによって、十万、百万と次から次に値は上がってゆく。
「こちらを見ないのよ」
「……はい」
熱気に押されたパックの視線に口元をほぼ動かさずに告げれば、パックはまた視線を前へと移す。
「なんなのその姿は」
「……あの方が、終わった後に困らないようにと、ソフィアさんと同じように髪も瞳も魔法で変えてくれました」
パックはその口元を見られぬように押さえながら言うことに、わたしからはただ腹正しさが買ってしまう。
「150万!」
「こちらは300万!」
「500出すぞ」
「一千万だ!!」
そんな二人の会話など誰も聞こえないほどにその目の前では釣り上がってゆく金額。
黙って聞いていれば五千万まで上がり、そんな見ず知らず奴隷を手に入れるにしてはやり過ぎだと、白熱した感情と理性の失った人々の姿に、思わず呆れ顔になりそうなところを引き締めた時、
「十億」
白熱したオークションの最中に突然出た桁違いのソレに、会場は突然水を打ったような静けさが訪れた。
「じゅ……十億?」
「あぁ、十億だ」
「……っ!!」
間違いがないと繰り返される89のプレートを持つ男に、会場主何度か確認を取ると『カァァァン』と大きく木槌を鳴り響かせて落札を知らせると、会場からは大きな歓声が上がる。
「では……、これで人身売買は成立だな」
その男は立ち上がり大きな声でそう言うとニヤリと笑う。
「お客様、これは人身売買などではなく、オークション。あくまで……」
「では紳士淑女の皆さま、痛い目見たくなければ是非大人しくなさってくださいませ。……突入っっ!!!」
丁寧に下げられた頭と、最後の言葉と共に突然全ての扉が開くと、警備兵が勢いよく飛び込んでくれば、その場の人々を誰彼構わず拘束してゆく。
「パック。逃げるわよ」
「はっ、はいっ!!」
予定通りだと彼女はパックの牢の鍵を開けてその手を掴んで駆け出せば目の前に警備兵が立ちはだかる。
思わずわたしはパックにかけられていた宝石を上へと投げて、見上げたところで、今度はパックの腰回りにつけられていた真珠を糸を切ってばら撒けば、「うわぁっ!?」と屁っ放り腰で転んでくれる。
「って、きゃぁっ!」
そんな人のこと言ってられないと、ピンヒールで真珠を踏んで転びそうになれば、手を伸ばしてくれるパックよりも先に、飽きれたようにマスクをつけた美丈夫がわたしの腰を持ち上げて抱き抱える。
「……パックの見た目はいつもの方が素敵だわ。地味な薄緑色の髪と青い瞳へとちゃんと戻してちょうだい」
「助けてあげて、最初にそんなクレームから入るかね」
「あなたが来なくとも、うまく逃げたわ」
「そうかな。そうかもね」
抱き抱えられたまま運ばれて、裏口に出ると同時に彼がソフィアの額にキスをすると髪も瞳も赤く戻り、そのまま目の前の馬車へと入れられた。
「流石にその格好ではご両親も驚かれるだろうしね。中に着替えも準備してある。……うん、君もやはり情熱的な赤が一番似合うよ」
そう言って扉を閉めて、「忘れ物だ」と、もう一度扉を開けて馬車へパックを放り込むと、従者に行って馬車を走らせ、わたしたちはそのまま屋敷へと向かった。
随分空いてしまいましたが、再開いたします。
お待ちくださっていた読者様方、ありがとうございます!!




