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金色の箱庭  作者: たかまち ゆう


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第312話 東山王百合香-5

 話がまとまりそうになっていることについて、大河原先生は不満そうな顔をした。


「お待ちください、吹雪様。玲奈ちゃんを殺そうとしたことに正当性があって、美樹さんも御倉沢も、雅や百合香を許そうとしていることは理解しました。ですが……この2人は、黒崎君に催眠術をかけて、玲奈ちゃんを殺させようとしたんですよ? そのことについても許すのですか?」

「お姉ちゃん、それは……!」


 先生の言葉を聞いて、桃花は焦ったような反応をした。

 百合香さんはビクリと震えたが、雅はそれらしい反応を示さなかった。


「そうですね。理由はどうであれ、和己に無断で催眠術をかけたことは事実です。何らかの処罰をしないと、御倉沢の内部で問題になってしまいます」


 生徒会長はそう言ったが、その顔は、ちょっと笑っているように見えた。


 この人のこんな表情は、見たことがある。

 これは……生徒会長が、何かを企んでいる時の顔だ……!


「吹雪様。処罰であれば私が受けます」


 雅はそう言った。

 理由はどうであれ、暗殺計画を立てて実行したのだから、処罰される覚悟はしていたのだろう。


「良い心がけです。しかしながら、催眠術をかけたのは百合香さんです。貴方だけを処罰すれば済む話ではありません」

「吹雪様……。雅ちゃんと百合香さんを罰するなら、美樹さんと話し合った方が良いと思うのですが……」


 桃花は心配そうに言った。

 雅のことを親友だと思っており、百合香さんの美しさに惚れ込んでいる桃花としては、2人が処罰されるのは嫌なのだろう。


「安心しなさい。相談は済ませてあります」

「……そうだったのですか?」

「もちろんです。ところで……花乃舞は、藤田萌を臨時の代表として、御倉沢や神無月との交流を深める予定なのですね?」

「仰るとおりですが……美樹さんからお聞きになったのですか?」

「はい。ですが、残念ながら……現状では、御倉沢として、花乃舞からの提案には慎重な立場です。もしも、今すぐに御三家が合併するようなことになれば、御倉沢にとって不都合なことが多すぎます。魔力に恵まれないメンバーが多数所属しているので、相当な配慮をしていただかないと、恋愛も結婚もできなくなってしまいますから」

「……」


 予想された反応だった。


 御倉沢に花乃舞のメンバーが加わると、魔力量の関係でいきなり幹部級になってしまう。

 神無月と合流したりすれば、大半のメンバーが格下になってしまう。


 魔力の乏しいメンバーが大半を占めている御倉沢は、他の家と合併することが困難なのだ。


「しかし、貴方たちの動きを無視するわけにもいきません。美樹さんは晴人さんと結婚する予定で、藤田萌は白石利亜と密接な関係があります。貴方たちが和己と良い関係であっても、このままでは、花乃舞のメンバーの多くが神無月と合流するかもしれません」

「では、花乃舞の動きを阻止するおつもりですか……?」

「いいえ。御倉沢にはその手段がありませんから。現実的な対応として、和己を中心に、花乃舞との交流の拡大を図るつもりです」

「このような状況になったからには、私も可能な協力はしていきたいと思っていますが……」


 先生は複雑な表情を浮かべた。


 御倉沢には、魔力が少ないメンバーが多い。

 そんなメンバーに対して、先生は存在価値を否定するような暴言を吐いていた。

 謝ったとはいえ、歓迎される可能性は低いし、水沢さんとの関係も良好ではなさそうだ。


 俺の子供が欲しいと言っているので、どちらかといえば御倉沢寄りの立場になっているが、今さら仲良くするのは難しいと考えているのだろう。


「私も、必要としていただける形でご協力いたします」


 俺の様子を窺いながら、桃花が言った。


 俺と桃花は、子供を作る約束をしていない。

 だが、俺以外の男と結婚するつもりはなさそうなので、御倉沢寄りの立場であることは間違いないだろう。


「良いでしょう。和己と貴方たちとの間に子供が生まれて、御倉沢のメンバーの魔力量が改善するのは望ましいことです。ですが……我々と神無月の間には、花乃舞に残っているメンバーの大半を味方にしなければ埋められないほどの格差があります」

「生徒会長、まさか……俺に、花乃舞の女を、片っ端から口説けなんて言うつもりじゃ……!?」

「そのようなことは言いません。貴方の体力が持たないでしょうし、反感を抱く人が現われるでしょうから。何よりも、御倉沢で魔力量が豊富なメンバーのうち、大半が貴方の子孫になってしまうと弊害が大きすぎます」

「……」

「そこで……和己、貴方は百合香さんとお付き合いしなさい」

「はぁ!?」


 俺は叫んでしまった。

 今までの理不尽な命令と比較しても、最も唐突で意味不明な命令だったからだ。


「喜びなさい。貴方は、百合香さんと交際した最初の男性になれるのです。たとえ結婚できなかったとしても、この世で二番目に幸せな男になれるでしょう」

「意味が分かりません! 俺には、百合香さんと交際する資格がないって言ったのは生徒会長ですよね!?」

「その意見は今でも変わりませんが、仕方ないことです。百合香さんご自身が、和己との交際を望んでいるのですから」

「えっ……!?」


 俺が驚いて百合香さんを見ると、耳まで赤くなって俯いていた。

 生徒会長の言葉を否定しようとする様子がないので、どうやら事実のようだ。


「百合香さんって……やっぱり、お兄ちゃんのことが好きだったんですね……」

「桃花、貴方……知ってたの?」


 かなり困惑した顔をしながら、先生は尋ねた。

 百合香さんが俺に惚れていたというのは、先生にとっても意外だったらしい。


「知ってたわけじゃないの。ただ、女の勘っていうか……百合香さんの様子が、女としてお兄ちゃんを気にしてる感じだったっていうか……。それに、私とお兄ちゃんの関係について確認されたことがあったから」

「……桃花ちゃんと和己さんが一緒に寝ているのを見て、ショックを受けたので……」

「えっ……!? まさか……俺の布団に桃花が潜り込んだ後で、俺の部屋の前に来たのって百合香さんだったんですか!?」

「……あれは、和己さんとお話をできればと思って伺っただけです。決して、夜這いに行ったわけでは……」

「でも、会ったばかりの黒崎君が気になったことは事実なのよね?」


 先生は、警戒しているような様子で言った。

 百合香さんまで俺に対する好意を抱くなんて、想定外だったのだろう。


「私は、男性と交際した経験がないので……美樹さんが義弟と認めた男性が、どのような人なのかが気になったのですが……」

「交際した経験がないって……そんなに綺麗なのに……?」


 そう言ってから、百合香さんが美樹さんの屋敷にいた理由を思い出した。

 どれだけ綺麗な人でも、絶対に防げない魔法を暴発させるような人に言い寄る男なんていないだろう。


 百合香さんは、ストレートに褒められる機会が減っているからなのか、一瞬だけ驚いた顔をした後で、真っ赤になって俯いた。

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