表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
金色の箱庭  作者: たかまち ゆう


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

314/314

第313話 東山王百合香-6

「交際の経験がないのは当然です。百合香さんには、誰も近寄れない環境でしたから」


 生徒会長は、なぜか自慢気な口調で言った。


「誰も近寄れなかったって……どういう意味ですか?」

「百合香さんの近くには、常に私がいたという意味です。私に対して、気軽に声をかけられる者などいません。ましてや、男が話しかけるなど論外です」

「それって……生徒会長のせいで、百合香さんの交友関係を狭めたんじゃ……?」

「否定はできません。しかしながら、百合香さんは小学校に入学した時点で、学校の誰よりも注目を集める存在だったのです。百合香さんが男性と話すことは、それだけで大きなニュースになるほどの事件でした。あのような状況で、異性との交際などできるはずがありません」

「……注目されてたのって、御倉沢家の人間である生徒会長だったんじゃないですか?」

「いいえ。多賀城楓だって、百合香さんと一緒にいると、視線が集中して怖いと言っていました。同級生だけでなく、上級生も、皆が百合香さんの様子を見に来たほどです。進級してからは、下級生も教室を覗きに来ていました。そちらは、ほとんど女の子でしたが」

「……」


 それは、とてつもない環境だ……。

 百合香さんって、小学生になったばかりの頃から、そこまで美少女だったのか……。


「……さすがに、あの頃は、吹雪様の方が目立っていたと思うのですが……」


 百合香さんはそう言ったが、生徒会長は首を振った。


「いいえ。私が注目されていたのは、百合香さんが近くにいない時だけです。その証拠に、百合香さんがチューリップを見て微笑んだことが学校中の話題となって、小学校の花壇にチューリップを移植しようとした人がいました」

「……お花を乱暴に扱う人は嫌いです」


 百合香さんにとってはショックな出来事だったらしく、ちょっと悲しそうな顔をした。


「百合香さんは優しい人です」


 そう言って百合香さんを見た生徒会長の表情は、女子を褒める時の早見と似たものだった。

 この人が百合香さんに向ける表情は、他のシチュエーションでは見られないものである。


「黒崎君、吹雪様が仰ったことは事実よ。百合香が入学した時は、私たちの学年でも、その話題で持ちきりだったもの。愛様が小学校に入学してから、最初に会いに行ったのは百合香だったわ。春華さんやあかりさんだって、百合香に会うために、芽里瑠に紹介を頼んだほどよ」

「そこまでですか……!?」

「ええ。百合香があまりにも目立つから、当時は中学生だった美樹さんが、なるべく登校に付き添っていたわ」

「……」


 俺が知っている百合香さんは、異次元の美女ではあるが、ずっと美樹さんの屋敷や生徒会長の屋敷にいる引きこもりである。

 まさか、この町でも中心的な立場だった人たちが、百合香さんに会うために動いていたとは……。


「百合香さんが義理の姉になったら嬉しいです! お兄ちゃん、百合香さんと結婚して!」


 桃花は、有無を言わせない態度である。

 あまりにも必死な形相に驚かされてしまった。


「まだ交際を申し込まれただけで、結婚を申し込まれたわけじゃないだろ……。それに、経緯はどうであれ、百合香さんは宝積寺を殺そうとしたんだぞ?」

「お兄ちゃん、まさか……さっきの話を聞いても、百合香さんや雅ちゃんが悪いと思ってるの!? 美樹さんがいなかったら、何人の人が死んだか分からないのに……!」

「その事情は、大っぴらに説明できないんだが……」


 俺と桃花の会話を聞いて、生徒会長はため息を吐いた。


「和己、宝積寺玲奈のことは忘れなさい」

「忘れろって……無理に決まってるでしょう!?」

「それが貴方のためです。美樹さんの能力について説明しなくても、宝積寺玲奈が自分で、御倉沢家を滅ぼそうとしていたのだと宣言したことに変わりありません。私が百合香さんを保護したのは、友人だからというだけの理由ではなく、御倉沢にとっての恩人だからです」

「……」


 それについて指摘されると、反論するのが難しい。

 大半の人にとって、宝積寺が危険人物だったことは事実なのだ。


 過去を改変していなければ御倉沢家の人間を虐殺していた、ということまで明らかにされたら、宝積寺を庇う俺は間違いなく異常者である。

 あんな女は見限って、百合香さんに乗り換えるのは、まともな感覚だと言ってもいい。


「ていうか、百合香さんって、ビックリすると魔法が暴発するんですよね……? そんな人と交際したら、命がいくつあっても足りないんですけど……」

「和己。その話はデマです。ちょっと驚いた程度で、百合香さんが魔法を暴発させることはありません」

「あっ……やっぱり、そうだったんですね……」


 それについては、さすがに察していた。

 本当に百合香さんが魔法を暴発させるのだとすれば、皆に緊張感や慎重さが不足していると感じたからだ。


「百合香さんは、天井から下りてきた蜘蛛に驚いて、魔法を放ってしまっただけです。ちょっと驚いたからといって、魔法を暴発させたりしません」

「いや、駄目でしょう!? 蜘蛛に驚いたって……その程度で魔法を暴発されたら、近くにいる人は木っ端微塵になっちゃいますよ!」

「大袈裟ですね。魔法を放ったといっても、全力で放ったわけではないのですよ? ちょっと壁に穴が空いただけです」

「生徒会長……ひょっとして、百合香さんが好きすぎて、事件の重大性を過小評価してませんか!?」

「あ、あの……あの出来事から、虫が突然現われた程度では、魔法を放ったりしてませんので……」


 百合香さんは、潤んだ目をしながら言った。

 その目を見たら、百合香さんを責められなくなってしまう。


「黒崎君。吹雪様は、百合香の危険性を過小評価しているわけではないわ。蜘蛛に魔法を放ったのは、小学校を卒業する頃の話だもの。その後では、ちょっと驚いた程度で魔法を暴発させたことはないわ」

「そうだよ、お兄ちゃん。いきなり後ろから抱き付いたり、お尻を触ったりしなければ、魔法で攻撃されたりしないよ?」

「エロいことは厳禁なのかよ……」

「当たり前でしょ? 茜さんだって、百合香さんにはそういうことをしないように、ずっと注意してたんだから」

「……」


 そういえば、茜さんは同性愛者で、女性に対して痴漢行為を繰り返したために謹慎していたのだ。

 茜さんが、百合香さんの頬を撫でたりしていたのに無事だったのだから、いきなり押し倒すようなことさえしなければ問題ないのか……?


「……不安なので、男性と交際する経験をしておきたいのです……」

「百合香さん……不安なんですね……!?」

「……男の人が、どのような時に、女性の身体を触りたくなるのかが分からないので……」

「和己、貴方なら問題ないはずです。性的な行為を拒んでいた宝積寺玲奈と、何ヶ月も交際していたのですから」

「……」


 俺にお鉢が回ってきたのは、宝積寺と性行為をせずに交際した実績があるからなのか……。

 まるで実験台みたいで、とても嫌なのだが……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ