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金色の箱庭  作者: たかまち ゆう


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第311話 館腰雅-6

 一瞬だけ納得しそうになったが、すぐに疑問が湧いてきた。


「……だが、どうして、百合香さんが首謀者だと装ったんだ? いくら、美樹さんにショックを与えないためでも……そのせいで、百合香さんは宝積寺に殺されかけたんだぞ?」

「それは、お姉様の能力によって、玲奈さんの暗殺が失敗するリスクを抑えるためです。お姉様は、1回しか過去を改変できませんから」

「……!」


 さすがに、美樹さんについて熟知している雅だ。


 美樹さんには、過去を何度も改変して、理想的な未来を生み出す能力がないのだろう。

 そのことは、宝積寺による異世界人の抹殺や、あかりさんの負傷を改変しなかったことから察していたが……何度も経験していなければ確信できないはずだ。


 だが……雅が自分の能力を研究して暗殺を企んでいることに、美樹さんですら気付けなかったのか……。

 雅は恐ろしい女だと思った。


「……ちょっと待て。雅、お前……美樹さんの能力をバラしてもいいのか?」

「お姉様から許可を受けております。計画の全貌を明かさなければ、経緯を正確に説明できませんから。ですが、お姉様の能力については言い触らさないでください」


 雅は念を押すように言った。


「そうですね。美樹さんが過去を変えられると知ったら、安易に命を捨てる者が現れて、取り返しのつかない結果になりかねません」


 美樹さんの能力については、生徒会長も察していたようだ。

 桃花も、美樹さんの能力によって助けられた経験があったからなのか、あまり驚いている様子はない。

 百合香さんは、暗殺計画を立てた時に、美樹さんの能力を教えてもらっていたようである。


 首謀者が百合香さんだと錯覚すれば、美樹さんが百合香さんの暗殺計画を妨害しても、雅が代わりに計画を進めればいい。

 そのために、雅は操られているフリをする必要があったのだろう。


 俺は、少し納得できない気分になって言った。


「だったら、計画が失敗した時に、すぐに百合香さんは悪くないってバラさないと駄目だろ……」

「計画への協力を求めた時に、失敗した場合には、百合香さんが私の代わりに殺されるという条件を提示されました。私としては、その条件を受け入れるのは気が進まなかったのですが……催眠術を使うことができるのは百合香さんだけなので、条件を呑んだ上で協力していただきました」

「……百合香さんは、暗殺が失敗したら、自分が殺されるつもりだったんですか?」


 念のために確認すると、百合香さんは頷いた。


「はい。計画が失敗したら、とても生きていられないと思いました。それに……雅ちゃんがあの子を殺そうとしたことが発覚するよりは、私が死んで終わった方が、綺麗に解決すると思ったので……」

「……」


 雅が宝積寺を殺そうとしたことが明らかになれば、美樹さんはショックを受けるだろう。

 それに、2人の関係が険悪になって美樹さんに迷惑をかけてしまうかもしれない。


 百合香さんが、宝積寺の魔法で惨たらしい死に様を晒していたら、トラウマになるどころの話ではなかったのだが……。

 本当に、この人が美しい姿のままで生きていることに感謝したい気分だ。


「雅……経緯は分かったんだが、お前と百合香さんは、結局、宝積寺が危険だって決め付けて殺そうとしたんだよな? それって、何を根拠に判断したんだよ?」

「玲奈さんは快楽殺人者です。抹殺するべきだと判断したのは当然です」


 雅の言葉に、しばらく反論できなかった。

 まさか……こいつの口から、こんな真っ当な言葉が出てくるとは……。


「……だが、あいつは春華さんの指示に従って、大人しくしてただろ?」

「春華さんがいなくなった後で、玲奈さんは御倉沢家を滅ぼそうとしました。実行しなかったのは、お姉様が能力を用いて過去を変えたからです」

「……!?」


 宝積寺は……美樹さんが予知能力で止めなかったら、御倉沢を滅ぼしていたのか……!

 あまりにも衝撃的な話だった。


「この事実を説明するためには、お姉様の能力を明かさなければなりません。お姉様は自分の能力を隠すことを望んでいらっしゃいました。ですから、事情を説明する相手は、どうしても協力していただく必要のあった百合香さんに限定しました」

「……」

「そういうことですか。ようやく、百合香さんが、あのような言動をした理由が腑に落ちました」


 生徒会長は、全ての事情を聞いたわけではなかったらしく、雅の言葉に納得した様子だった。

 その目に、この場にはいない者に対する激しい怒りが宿っている。


 宝積寺が、御倉沢家の殲滅を実行していたはずだというのは、生徒会長にとって絶対に許せないことであるはずだ。


「しかしながら、少々疑問がありますね。美樹さんは、この町にいらっしゃらない期間があるはずです。そのような時に、宝積寺玲奈が私たちを殺そうと思い立ったらどうするつもりだったのか……御倉沢としては、それを説明していただきたいです」

「玲奈さんのことは、なるべく私が見張っていました。他にも、玲奈さんの家に行ってくださる方へ声をかけて、協力していただきました。お姉様がいらっしゃらない時期だけ、普段は来ない方々が顔を見せたので、玲奈さんは慎重になったはずです」

「宝積寺玲奈の家を訪問するなんて、大抵の人は嫌がるでしょう? 当時、あの子と長町あかりさんとは絶縁状態だったはずです。早見アリスや北上天音の他に、どなたが行ったのですか?」

「楓さんや梢さん、利亜さん、そして平沢麻由里さんです」

「……」


 確かに、そんなメンバーがいきなりやって来たら、宝積寺は驚いたはずだ。


 おそらく、美樹さんの差し金だということは勘付いただろう。

 見張られている自覚があったから、美樹さんがいない時期にも動けなかったに違いない。


「麻由里さんが……? そのような報告は受けていませんが?」

「それは、私が口外しないように頼んだからです。玲奈さんとの個人的なつながりを保つことは、御倉沢では歓迎されないことなので、麻由里さんは秘密を守ってくださいました」

「……事情は分かりました。我々の襲撃を計画していた宝積寺玲奈を、監視していただいたことについては感謝いたします。宝積寺玲奈の暗殺未遂についても、御倉沢としては感謝しております。あの子が、この町からいなくなったのは好都合だと言うべきでしょう。百合香さんは、美樹さんの屋敷に戻っても問題ないと思います」


 生徒会長がそう言うと、百合香さんは不安そうな顔で言った。


「……美樹さんは、実の妹を殺そうとした私のことを、どのように思っていらっしゃるのでしょうか?」

「お姉様は怒っていません。私や百合香さんの考えを理解して、尊重してくださっております。とても悲しんでいらっしゃいますが……」

「……そうですか」


 百合香さんは安心したようだ。

 美樹さんから嫌われたら、生徒会長の庇護を受けられたとしても、この町で生きていくのは難しいのだろう。

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