第308話 館腰美樹-14
「私たちのことは、お気になさらないでください。いつまでも美樹さんに頼るのではなく、自分たちで出来ることをしようと話し合ったばかりなのです」
十条先輩がそう言うと、美樹さんはとても嬉しそうな顔をした。
「まあ! それは、とても頼もしいです! ひょっとして、萌さんのご提案でしょうか?」
「……!?」
藤田先輩が提案したことを……当てた!?
美樹さんは、あれほど藤田先輩を子供扱いしていたのに……どうして分かったんだ……?
「仰るとおりです」
「やはり、そうでしたか。であれば、話が早いですね」
そう言ってから、美樹さんは藤田先輩に微笑みかけた。
「萌さん。これからの花乃舞を、貴方に託してもよろしいでしょうか?」
「私に……?」
藤田先輩は戸惑った顔をした。
美樹さんが、こんなことを言い出すとは思わなかったのだろう。
「お待ちください、美樹さん……。萌に、花乃舞を……任せるのですか?」
双葉さんは、美樹さんの言葉に戸惑っている様子で言った。
「はい。萌さんであれば、今の困難な状況であっても託せると考えました」
「……」
美樹さんが自信に満ちた表情で言ったので、双葉さんは反論できなくなった。
「あの、美樹さん……。萌さんでは、玲奈さんの指摘に応えられないのではありませんか?」
美樹さんに異を唱えるのは気が進まない様子ではあったが、栗橋が言った。
「それは、家を率いるのであれば、自ら最前線で戦うべきだという指摘のことでしょうか?」
「……そうです。それができなかったから、御三家の当主である方々は、この町の皆様からの支持を受けにくくなったというのが、玲奈さんのお話の趣旨だったと思うのですが……?」
栗橋は、美樹さんや御三家の当主に配慮しながら話した。
それを聞いて、美樹さんは頷いた。
「確かに、リーダーが最前線で戦うことによって、皆様からの支持を受けるのは分かりやすいです。ですが、萌さんについては、その必要がないと考えております」
「……今回のケースについては、当てはまらない指摘だということでしょうか?」
「仰るとおりです。梅花様がいなくなり、花乃舞家は事実上の終わりを迎えてしまいました。私もいなくなったら、誰かが花乃舞を背負わなければなりません」
「萌さんは、抱えている魔力は莫大ですが……それだけで花乃舞の代表にするのは、大変な負担になってしまうと思うのですが……?」
「もちろん、皆様が萌さんを支えて、全面的に協力することが前提の話です。いかがでしょうか? 萌さんであれば、応援できると思いませんか?」
「私は、萌ちゃんが花乃舞の代表になったら嬉しいです。微力ではありますが、全力で支えます」
真っ先にそう言ったのは、藤田先輩の姉である芽里瑠さんだった。
立ち上がって藤田先輩に歩み寄り、正面から抱き締めた。
「萌ちゃんは、こんなに可愛いのですもの。きっと、皆様に歓迎していただけます」
「お姉ちゃん……可愛いかどうかは、今は関係ないと思う……」
「可愛いことは重要ですよ。可愛いから、守ってあげたいと思うのです。もちろん、私は妹が可愛くて仕方ありません」
「……」
「私も萌ちゃんを応援します。今の花乃舞を任せられるのは、萌ちゃんしかいません」
十条先輩も、嬉しそうな顔をしながらそう言った。
「そうね……こんな状況だったら、萌に任せるのがいいかもしれないわ」
意外なことに、大河原先生も藤田先輩を支持する発言をした。
美樹さんがいなくなったら、先生が花乃舞を代表するつもりなのだと思っていたので驚いた。
「先生は、藤田先輩を花乃舞の代表にすることに賛成なんですか?」
「だって、萌は、アリスと正面から撃ち合っても勝てるのよ? 百合香もいないんだから、萌に任せるしかないじゃない」
「早見と、正面からって……そもそも、藤田先輩って戦えるんですか?」
「そこは重要じゃないわ。アリスは、自分を脅かす可能性のある相手のことは、決して軽く扱わないのよ。この前の話し合いでも、アリスが萌のことを評価していたのを覚えてるでしょ?」
「……」
そういえば、藤田先輩が選挙に立候補したら、桐生にとって脅威になると早見は言っていた。
あの時は、お世辞だと思ったのだが……早見にとって、藤田先輩が高く評価するべき対象になっていることは確かだろう。
皆の話を聞いていた桃花は、納得した様子で頷きながら言った。
「私も、萌さんにリーダーになってもらったらいいと思います。明確なプランがあるのは素晴らしいことだと思いますし、神無月の主要なメンバーは、萌さんを攻撃するような方々ではないはずです」
「そうね。桐生さんもあかりさんも利亜も、萌から仲良くしたいと言われたら断るようなメンバーじゃないわ。アリスは絶対に断らないし、北上さんや片岡さんだって異を唱えるタイプじゃないから、話はすんなりと進むと思うわ。愛様やあきらちゃんは、不満を抱くかもしれないけど……」
「さすがに、全員からの支持を、今すぐに受けるのは難しいでしょう。しかしながら、萌さんが頑張っていれば、次第に理解が広がっていくはずです。御倉沢にも神無月にも敵意を抱いていないことが明らかなのも、理解を得る時にプラスになるでしょう」
美樹さんがそう言っても、双葉さんは心配そうな顔をしている。
そして、栗橋はこちらをチラチラ見ながら言った。
「神無月の方々は、魔力量が多く、人員も豊富なので問題ないのかもしれませんが……御倉沢のことは、どのように説得するおつもりですか? 黒崎さんか松島さんに、仲介していただくのでしょうか?」
「御倉沢を今すぐに説得するのは難しいと思います。花乃舞のメンバーを受け入れたら、魔力量の関係で、御倉沢の方々とのバランスを保てませんから。当面は、婚姻関係を拡大して、御倉沢の方々が嫌がらないようにしていく必要があるでしょう」
「婚姻関係を……拡大するのですか? ということは……黒崎さんに、そのような役割を期待していらっしゃるのでしょうか?」
「和己さんだけでなく、他の方々との縁談も進めるべきだと思います。もちろん、強要するべき話ではないので、自分が好きになった方と結婚していただきたいですが……」
「だったらぁ、黒崎君は私や梢ちゃんと子供を作ったらいいと思うわぁ」
「おまっ……!?」
あまりにも軽い口調で言われたので、激しく動揺してしまった。
先生や桃花は、ちょっと嫌そうな顔をしている。
「円……私を巻き込むのはやめて……」
「いいでしょぉ? もう、玲奈ちゃんはいないんだからぁ」
「玲奈さんがいなくなったからといって、黒崎さんと結婚するなんて……考えられないわ」
「でも、黒崎君は美樹さんの弟なのよぉ?」
「……」
矢板に指摘されて、栗橋は深刻な顔をしたまま黙り込んだ。




