第8話 目の上のたんこぶ
昼休みにカツ丼の出前をとったら玉子丼をとった体育教師に怒られた卒業生がいる奈良県立橿原高校には出前禁止の校則はない。
そんな橿原高校の文藝研究部の部室。
「雄略天皇の事績の不自然さと妃の血統と木材資源の枯渇問題を見ると、葛城氏はしばらくは勢力を保っていましたが、資源枯渇により徐々に勢力を落とし、蘇我氏に権力が受け継がれていったと見るのが前回までの結論でしたね」
シノブがそう言ってノートから視線を上げた。
「木材を燃料資源として見たときは下市までは吉野川、そこから先は高取を経由して飛鳥に入るルートが考えられるんよなぁ」
「でも、建築資材はどうでしょう?」
リカの疑問に、
「丸太をそのまま陸路で運ぶのはかなり大変でしょうね」
シノブが珍しく議論に参戦した。
「じゃあ、どないしたん?」
ヒロミがリカを促すように。
「最初は手段がなかったんだと思います」
「最初は?」
「はい、最初は、です」
「そのうち運ぶ手段ができたってこと?」
「はい。
水運です」
リカは事もなげに言った。
「水運って、あんな峠に丸太を運べる川なんかないやん」
ヒロミは高取付近の峠道を想像しているように上を見上げながら言った。
リカはホワイトボードに紀伊半島の絵を描いた。
「だから、吉野川を下って、和歌山に入ったら紀ノ川ですけど」
リカはホワイトボードに紀伊半島の絵を描いた。
そこに赤い線で物流ルートを描きながら。
「紀ノ川から紀伊水道、大阪湾、河内湖を経て大和川を遡ります」
「あっ、なるほど」
「でも、大和川の水運は長髄彦の時代から物部氏が握ってたんとちゃうん?
おいそれと簡単に『お通りください』とはいかんかったやろ?」
「はい、だから丁未の乱なんですよ、きっと」
「ん?丁未の乱って、仏教を受け入れるかどうかの争いやったんとちゃうの?
仏教を入れる派の蘇我氏と入れない派の物部氏の争いやろ?」
ナオコが授業で習った知識を引っ張り出した。
「世間一般ではそう言われていますが、当時の仏教は今みたいな信仰というよりも大陸の先端知識と言って良いものですよね?」
「そうやな。
授業でも、建築とか、律令制とか、最先端の技術・知識の受け入れが目的と言ってたわ」
「だったら、蘇我氏も物部氏も受け入れないという選択肢はそもそもなかったんじゃないですかね?」
リカの疑問に、
「確かにそうやな」
みんなが頷いている。
ただ一人を除いて。
「だから、物流を押さえるために物部氏を滅ぼしたってか?」
タカシが納得いかないというふうに。
「権益争いで一族滅ぼすか?」
タカシは首を傾げた。
「権益さえ奪えればいいんやったら、そこまでする必要ないんとちゃう?」
ヒロミもそれに乗る。
「物流権益は吉野の木材だけじゃないですよ?」
リカが反論する。
「日本各所からの物の流通も外交も海外の先進技術も全部交通ルートがないと入ってきませんから」
「確かにそう考えたら、こだわるのもわからんではないけど」
「多分、権益も重要ではあるんですが、これも補助的というか本来の目的はもっと別にあったんだと思います」
「別って何?」
「大王家の後ろ盾としての物部氏が邪魔だったとか」
「でも、この頃の大王家って、葛城氏・蘇我氏系の妃が多くて、物部系の妃はほとんどいてへんよね?
物部氏が後ろ盾やったら、もっと妃が多くてもいいんとちゃうの?」
「そこなんですけど。
それが物部系が一番の後ろ盾だったということじゃないですかね?」
「どういうこと?」
ヒロミにはリカの考えがよくわからない。
「物部系の妃が嫁ぐ必要がないほど、物部系と同化していたんじゃないでしょうか?」
「大王株式会社物部支社みたいな?」
「どちらかというと逆な気がしますが」
「物部株式会社大王支社って事?」
「はい、そうじゃないかと思います」
リカはそう言ったが、まだ何か隠しているような様子だ。
「何はともあれ、丁未の乱で物部氏を滅ぼしたんよな」
「はい、それで、しばらくは蘇我馬子が管理していましたが、その後、聖徳太子に管理を任せて、聖徳太子は斑鳩宮に拠点を構えました。
その頃には、推古天皇と聖徳太子と蘇我馬子のトロイカ体制だったけど、聖徳太子が邪魔だった蘇我馬子が中央から聖徳太子を締め出すために斑鳩に追いやったのかもしれませんね」
「うわ、なんか久々に追放系ラノベみたいな話やな」
マサルが久しぶりにラノベ脳を発揮した。




