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第7話 山が禿げたから

校歌の歌詞の漢字の当て方が妙に厨二病ラノベっぽい奈良県立橿原高校。

そんな橿原高校の、中二病はいないがラノベオタクの巣窟の文藝研究部の部室。


「なぁ、雄略天皇に滅ぼされへんかったとしても、葛城氏って、勢力弱なっていったんよなぁ?

なんでなん?」

ヒロミが素朴な疑問を口にした。

「さぁ?」

マサルは皆目見当もつかなかったが。

「政治的な理由とか軍事的な理由やったら、正史が無視してるはずないよな」

と真っ当なことを言った。

「だとしたら何?」

「三輪氏の時は崇神天皇が陶邑を押さえたことで権益を失って弱体化したと推理したよな。

だったら、葛城氏もそうなんちゃうの?」

マサルの推理に、

「でも、葛城氏は渡来系との直接交流をして、製鉄とかしてたんやろ?

それが奪われた形跡はどこにも出て来んやん」

ナオコが穴を指摘した。

マサルは推理が苦手らしい。

「じゃぁ、利権を失ったわけじゃないんか……」

ヒロミは考え込みながら言った。

「祟りで人が死んだという話もないし、飢饉の情報もない」

マサルは日本書紀にそれらしい記述がないことを不思議そうにしている。

「本宗家は焼き討ちにあって滅びたけど、まだ雄略天皇に対抗できるだけの勢力を持ってたということやろ?

この時代の勢力って何?」

ヒロミの疑問に、

「文明が発達してない時代の勢力は人口かな」

「あぁ、数は力か」

タカシの考えにヒロミが相槌を打った時。

「それですよ!」

リカが目を見開いて言った。

「リカちゃん、そんな目ぇ開くんや」

マサルが失礼なことを言ったので、リカはいつものジト目に戻った。

「で、何がそれなん?」

「……」

リカが拗ねてしまった。

「マサル、どないしてくれんの?」

ヒロミがマサルを睨みつける。

「ごめん」

「リカちゃんに謝り!」

「リカちゃん、ごめん」

「マサルはリカちゃんが好きやからなぁ」

ナオコが呆れ顔でマサルを見ながら言った。

マサルは赤くなっている。

リカは……再び目を見開いてマサルを見ている。

「好きな子を揶揄いたくなるって、小学生か」

ナオコの容赦ない攻撃でマサルは黙ってしまった。

「で、リカちゃん、何がそれなん?」

「人口です」

「人口が減ったってこと?」

「違います。

増えたんですよ、きっと」

「えぇ?人口が増えて勢力が弱なるん?

さっきの話と逆やん」

「あぁ、なるほど。

リカちゃんの言いたいことはわかった」

タカシが納得したような顔で呟いた。

「どういうことなん?

勿体ぶらんと言いや」

「人口を支えきれんようになったんや。

そういうことやろ?リカちゃん」

「はい、そうじゃないかと思います」

「あのな、一人の人間が1年間生活するのに必要な木材は大体1.2トンなんや。

毎年、それだけの木材が消費される」

「なんで?そんなに木材使う?家とか家具とか?」

「いや、燃料の薪や」

「あっ」

「なんでそんなこと知ってんの?」

「ちゃんとした世界観を描くファンタジー小説では、資源と人口のバランスをちゃんと考えてあるもんなんよ」

「ほえー、そやったんか」

「ある程度の人数までなら森林の再生能力が大きいから持続的に発展できるんやけどな、人口が増えて一定の人数を超えたら森林の再生が追いつかんようになって徐々に木が減っていってな、そのうち禿山になるんや。

葛城氏の場合、生活用だけやなくて、土師器やら須恵器やらの土器とか、製鉄とか、産業用に大量に薪、炭を消費するやろ。

そうすると、多分、金剛・葛城山系の山は100年足らずで丸裸や」

「ほんまかいな」

「ちゃんと計算できるんやで」

「どうやって?」

「金剛・葛城山系の森林面積がなんぼぐらいかな?

ざっくり20,000ヘクタールぐらいか」

タカシがホワイトボードに書き出す。

「そこに、生活用と産業用を合わせて一人当たりざっくり年間2トン消費するとするやろ。

1ヘクタールあたりの森林再生が年間3トンぐらいやねん。

そしたら……」

タカシが計算する。

「人口3万人でバランス取れるやろ?

つまり、3万人を超えたら資源枯渇に向けてまっしぐらやねん」

「むっちゃ詳しいな」

「都市構築ゲームなんかでも資源量無視して人口増やしたら都市崩壊するやん。

あれと一緒」

「私の思いつきをちゃんと数字で説明できるなんて、タカシ先輩、すごいです」

リカが尊敬の視線を向けた。

「マサル、残念やったなぁ」

ナオコがマサルの胸を抉るツッコミを入れた。

「でもさぁ、森林資源枯渇やったら、どこででも起きたんとちゃうの?」

「まあ、そうやな」

「でも、森林資源言うたらすごいとこあるやん」

「どこに?」

「吉野」

「あぁ」

「でも、吉野から木材運ぶのって大変とちゃうの?」

「丸太のまま運ぶと大変やろな。

でも、薪とか炭にして運ぶんなら、丸太と違うて小分けで運べるやん」

「そうか、だから蘇我氏なんですね」

リカがまたすっ飛んでる。

「だからって?」

「吉野の木材資源を運ぶルートです。

下市から高取町のあたりを通って飛鳥に入る。

このルートを押さえて木材権益を確保したのが蘇我氏なんじゃないですか?」

「今で言うと、国道169号線あたりか」

「なるほど、そういうこと」

「そして、武内宿禰の長男が葛城襲津彦でその弟が蘇我石川宿禰で、蘇我氏は葛城本宗家からすると分家筋です。

だから、蘇我氏は葛城の地が資源枯渇状態になって没落していくのを放っておかず、葛城氏の外交・製鉄技術などを受け継ぎつつ、新しい木材権益を手に入れて急速に大きくなったんじゃないでしょうか」

リカがいろんなピースを繋ぎ合わせて一つの仮説を紡いでいく。

「なるほど、これなら、雄略天皇が葛城氏を討ち損なっても葛城氏が衰退していく流れが自然にできてくるわな」

ヒロミが納得したように言った。

「確か、蘇我馬子の母親も葛城の女性で、馬子自身も幼少期に葛城で育ったって書いてあったなぁ。

単にルーツが一緒なだけやなくて、割と最近まで血縁があったんやろなぁ」

「割と最近って、1300年以上前の話やで」

ナオコが突っ込んだが。

「奈良県民にとっては、1300年はつい最近なんやで」

「嘘やぁ〜」

ナオコが言いながら見回したが、他の部員は当然というような顔でナオコを見ていた。


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