第3話 カッコよくキメようと思ったら相手にされなかった件
グラウンド前に全校生徒一斉に記念写真を撮れる雛壇がある奈良県立橿原高校。
そんな橿原高校の文藝研究部の部室。
「昨日の話ですけど」
シノブがノートを開いた。
「スサノオは最初、イザナギが出雲にいるからそこに行きたいと言って泣いていた。
そして、天照と勝負する。
勝負で天照に勝って、狼藉を働く。
その結果、高天原を追放され出雲に向かう。
出雲で八岐大蛇を倒してクシナダヒメを妻にする。
そこから出雲の国造りを始めるという流れですけど」
そこまで言って一息ついて。
「そもそも人が住んでいたことから国造りしなくても最初から国があったはず。
とすれば、スサノオは婚姻を通じて出雲に同化していった。
八岐大蛇は出雲権力の象徴で権力に武力で挑んだのではなく酒を飲ませて眠らせた。
つまり、権力に取り入って内部から徐々に地位を固めていった。
おそらくスサノオという一人に圧縮されているけど、何代にもわたる物語だったと推測されます。
そして、最終的には軍を掌握するようになる。
その象徴が天叢雲剣だった。
もう一点補足すると、大国主はスサノオの子孫とされていますが、これは嘘ではないものの書いていないこともあるんだと思うんです」
「書いてないことって?」
「大国主は地位を表す称号であって、個人名ではなかった可能性です。
だから、スサノオの子孫が大国主になったのは事実だとして、スサノオの子孫以前に大国主がいた可能性はあると思います」
「なるほどなぁ」
マサルが納得したように言った。
「要は、スサノオの俺つえー系ラノベやなくて、大国主を頂点とする出雲の政治システムにスサノオの一族が入り込んで成り上がっていく成り上がり系ラノベに近いっちゅうわけか」
「やっぱりラノベ脳やな」
ひろみが茶化した。
「けど、それやったら神武東征こそ典型的な俺つえー系ラノベのストーリーやと思わへん?」
「なにがなんでもラノベにしたいんやな」
ナオコが笑った。
「だって、日向を出発して、瀬戸内を進んで、難波について、河内でナガスネヒコに撃退されたけど、熊野から再び上陸して、現地の味方を得て、不思議な力を得て最終的に大和入りして大王になったんやで。
これこそ、俺つえー系ラノベやん。
しかも、ヒーローズ・ジャーニーのテンプレそのままやん。
旅立って、順調に進んで、ナガスネヒコにやられるという試練にあって、八咫烏っちゅう仲間を得て、金の鳶ちゅう不思議な力を得て、勝って大王になる。
まさにラノベの王道やん」
マサルが一気に捲し立てた。
「それなんやけどな」
タカシが申し訳なさそうに口を挟んだ。
「普通に考えたらあり得へんと思うねん」
「どういうこと?」
「兵站がおかしいんや
東征っちゅうて軍を率いて移動するゆうたら、どんだけの物資運ばなあかんと思う?
そんな長距離長期間不可能やから、必ず途中で補給が必要になるねん。
でも他所から来た武装集団に『はいそうですか』て、補給さしてくれるかなぁ?」
戦記ものが好きなタカシらしい意見。
「そしたら、タカシやったらどう考えるん?」
「補給と言えば聞こえはいいけど、まあ、略奪やな。
各地で恐喝、略奪を繰り返してたんやと思う。
それで補給が足りる程度の集団やったということや。
けど、略奪するためには武器がいるやろ。
つまり、武装移民集団やわ」
「そしたらナニか?東征やなくてファンタジー世界の盗賊?」
マサルが呆れ顔でつぶやく。
「盗賊というか、海賊やな」
タカシがサラッと言った。
「ひでぇ!」
「じゃあ、そんなのが上陸してきたら……」
ナオコが言葉を濁す。
「全力で撃退するわ」
タカシが得意そうな顔で言った。
「まあ、丁重にお迎えするはずがないもんなぁ」
ヒロミも頷く。
「撃退されて物資も底をついて、何が何でも上陸せんわけにはいかんかったんや」
タカシの話が続く。
「だから、撃退されても帰るという選択肢がなかったんですね」
シノブが納得したように言った。
「ヒーローやと思ってたら海賊でしたと。
しかも、ハーロックみたいなカッコええ海賊と違うて、盗賊そのものみたいなならずもの集団やったと」
マサルがしみじみと。
「そら、正直には書けんなぁ」
ヒロミが呆れたように言った。
「でも、天照の子孫がなんでそんな海賊まがいのことを?」
ナオコが疑問を口にした。
「それなんですけどね」
リカが小さく手を上げた。
「神武天皇が出発する前の日向三代があまりにも何もしていないんです」
また話が飛躍してる。
「どういうこと?」
ヒロミが促した。
「先日のイザナギとイザナミの話に戻るんですけど、推理をやり直してみたんです」
さらに話が飛躍してる。
「どういうふうにですか?」
シノブが興味深そうにノートを広げた。
「えっとですね、イザナギとイザナミは博多湾沿岸で共同して国造りをしていた集団だったという仮定です
そして、大陸との交易や日本海交易の巨大な利権を持っていた。
一方で、大陸の脅威にもさらされていた」
「なるほど」
マサルが頷いた。
「当初、イザナギ陣営とイザナミ陣営が共同して利権を独占していたけれど、大陸の脅威に対抗するためにイザナミ陣営は日本海連合との同盟を模索する。
日本海連合というのが出雲を中心とした勢力ですね。
それを知った利権独占派のイザナギ陣営はイザナミ陣営を引き戻すためにイザナミ陣営を追った。
イザナギ陣営が出雲に着いた時には、すでにイザナミ陣営は利権の一部譲渡を条件に出雲との同盟を成立させていた」
「それから?」
「イザナミ陣営と決別したイザナギ陣営は博多湾沿岸を追われ南下して日向に流れ着く。
結局そこにもいられなくなり、瀬戸内海を東に進むことになった」
「あっ、それが神武東征?」
「あくまでも妄想ですが、出雲地方については妙に具体的な地名が出てくるのに高天原の位置についてはすごく曖昧なんです。
これは、一箇所に定着していなかったからじゃないかと」
「なるほど、各地を転々として結局武装移民集団に身を落として生き残りをかけて東へ向ったっちゅうわけか」
タカシがなるほどという顔をした。
「あくまでも妄想と想像ですよ」
「でも、そうして考えると、日本の昔話とのつながりも面白そうやんなぁ」
ナオコがまた変なことを言い出した。
「どういうこと?」
「神武軍は吉備で数年過ごしてるやん。
吉備で外来の武装集団が略奪してたら」
「あっ、桃太郎か!?」
「神武軍が鬼として描かれてるんとちゃうかなぁ?」
「なるほどなぁ」
マサルもなるほどという顔をした。
「そんでさぁ、神武軍は難波で撃退されたやん。
その後、和歌山でも上陸を試みて再度撃退されてるねん。
そんで熊野に流れ着いたんやけど、ここで八咫烏の導きで吉野を超えて大和に入ってるやん?
せやけど、八咫烏って、鴨氏の先祖やて言われてるやろ?」
ヒロミが話を戻した。
「そういう伝承があるなぁ」
タカシが答える。
「それに紀伊は紀氏の勢力基盤やん。
どっちも三輪・鴨系とちがうん?
だったら、なんで紀ノ川付近で受け入れんかったん?」
「それは多分、徹底的に疲弊さして、戦意を奪うためや。
八咫烏は、神武軍が戦意を失って服従するとこまで追い込んだんや。
助けたるから言うこと聞けって」
さすがタカシだ。
「えげつないなぁ」
マサルが嫌そうな顔をする。
「でも、外敵やろ?
そのまま殺してしもうた方が手っ取り早かったんちゃうの?」
ナオコは物騒なことを言った。
「そこは、何かしら利用価値があると思ったんちゃうか?」
戦闘から離れるとタカシは急に頼りなくなる。
「長髄彦陣営の饒速日と同じじゃないでしょうか」
リカがボソリと言った。
「ん?」
少し考え込むようにして続けた。
「長髄彦陣営は饒速日を担いでいた。
それと同じ神輿が欲しかったんじゃないかと思うんです。
しかも、饒速日は神輿であって、実権がなかった。
だから、長髄彦を排除して、実権も握りたかった。
鴨氏は大和の北を支配する長髄彦が邪魔だった。
神武は大和に定着したい。
こうして3者の思惑が一致したのではないかと思うんです」
リカが一気に考えを口にした。
「それで長髄彦を謀殺したと」
タカシの声が低くなる。
「聞けば聞くほど、えげつない話やなぁ。
最初は神武の英雄譚やと思ってたのに、えげつない話ばっかりや」
マサルがうんざりした声で言った。
「で、神武は鴨氏に担がれて橿原で宮を開いて即位したと」
ヒロミがそう言ったところで。
「いや、それもおかしな話でな。
饒速日と長髄彦との確執を見ていた鴨氏が単純に神武を担いだと考えるのはなんか変なんよ。
それに、熊野で徹底的に追い込んで神武を拾ったわけやから、神武は鴨氏に頭が上がらんかったはずや。
だとしたら、神武は鴨氏に飼われてた可能性があるねん」
「あっ」
シノブが何か思い当たったという声を上げた。
「どうしたん?」
「うちの地元、御所なんですけど、そこに面白い伝承があって。
橿原市じゃなくて御所市柏原で神武天皇が即位したと」
「えっ?どういうこと?」
「柏原に神武天皇社と嗛間神社いう神社があって、神武天皇社が橿原宮跡で嗛間神社が妃の吾平津媛を祀ってるんです。
しかも、それらの近くに鴨都波神社もあって、こちらが天武天皇の皇后である媛蹈鞴五十鈴媛命のお父さんを祀っています。
もう少し南に行くと高鴨神社があって、ここが全国の鴨社、加茂社のルーツとされています。
この地域は、鴨氏の本拠地のど真ん中なんです」
「そしたら、そこにある橿原神宮って一体何?」
マサルが北東方向を指差した。
「地元の請願でできたって聞いたことある」
ヒロミが答えた。
「明治に入って、橿原神宮造営の請願が出るよりも前に、明治政府が初期天皇の宮跡や御陵の正確な位置を特定する調査をしていて、これに指定・特定されると、政府に強制収用され、先祖代々の土地を奪われるケースがあったらしくて、それを恐れた柏原の人たちが、古文書とか資料を全部燃やしたって伝えられています」
「うわぁ、なんて勿体無い」
「検証の機会を永遠に失ってもうたんか」
マサルとナオコが天を見上げた。
「つまり、神武天皇は鴨氏に囲われとったっちゅうことや」
タカシがそう言ったところで。
「さて、ええ時間やし、今日はそろそろ終わりにしよか」
ヒロミが終了を告げて、全員揃って、学校を後にした。
「なぁ、ちょっと橿原神宮に寄って行かへん?」
ナオコの提案にみんなで頷いた。




