第2話 追放されたので新天地で成り上がってみた
新沢千塚古墳群の中に建つのに校歌では「千余の丘に囲まれて♪」となぜか古墳を暈す奈良県立橿原高校。
そんな橿原高校の文藝研究部の部室。
「昨日、あれから本屋さんに寄って、日本書紀の解説本を買って読んだんやけど」
「何で解説本やねん?」
切り出したタカシにナオコが即突っ込む。
「いや、だって原文なんか読めへんわ。わけわからん漢字の羅列やん」
「せめて、現代語詳訳ぐらいにしときぃや」
ナオコのツッコミが容赦ない。
その時。
「先輩」
シノブが口を開いた。
「昨日のリカちゃんの推理を整理してみました」
「ん?」
全員がシノブの方を見た。
「あっ、ごめん、おったんや」
ナオコが失礼なことを言う。
「先輩、ひどいです」
ナオコが少し悲しそうな顔をした。
「いやいや、忘れてへんよ」
タカシがすかさず慰めるが。
「それ、フォローになってないです。
先輩も忘れてたって言ってるみたいじゃないですか」
シノブが頬をふくらませた。
「そんなことないから。で、まとめてくれたんだって?」
ヒロミが話の流れを変えた。
「はい」
シノブが一息ついて。
「リカちゃんが言ったことを補足してまとめるとこんな感じですよね?
まず、舞台設定としては、出雲には神在月に全国の首長を集めて神議りを行う連合勢力があった。
イザナギとイザナミは筑紫代表としてそこに呼ばれていた。
ところが、会議に参加できたのはイザナミだけ。
これは、何か会議が始まる前から、お膳立てというか、陰謀があったように思われます。
そして、イザナミは出雲側に取り込まれる。
どこかの首長との縁組だったのか出雲に取り込まれたのかはわかりませんが、後にスサノオが母のいる出雲に行きたいと言い出したことから、出雲に取り込まれたと考えるのが妥当と思われます。
そして、イザナミを取り返そうとしたイザナギは失敗し逃げ帰る。
出雲の国境まで逃れて、出雲の首長連合から脱退を宣言する。
そうすると、イザナミを取り込んだ出雲は筑紫に宣戦布告する。
これが、毎日一千人殺す、というやつですね。
イザナギは毎日千五百人産むと返す。
これは、出雲以上の軍勢を集めるという宣言だと思われます。
そうして、イザナギは筑紫の国に戻った」
そこまで説明して、シノブはノートを閉じた。
シノブがノートを閉じても、しばらく誰も言葉を出せなかった。
「生々しい政治劇やなぁ」
ようやくヒロミが口を開いた。
「想像がかなり入ってるけど、辻褄はあってるんよね」
ナオコもそう言った。
「日本書紀って、8世紀の人が、日本の正史を遺すことを目的に編纂したんやろ?
だったら、ただの神話のわけないよな。
政治的な意図が必ずあるはずや」
軍記を読んでいるタカシらしい感想。
「ということは、この後に続く、スサノオの話も追放系ラノベみたいに?」
「スサノオが母のいる出雲に行きたいと言って駄々を捏ねてアマテラスと勝負するというのは……」
僕の言葉にナオコが。
「出雲の首長連合に復帰したいスサノオと独自路線を目指すアマテラスが対立して、スサノオが追放されて出雲に逃れたんとちゃうかなぁ」
考え込みながらそう言った。
「追放系ラノベやな。
ナオコの得意分野や。
で、その後は?」
「うーん、出雲についた後は……」
「八岐大蛇を倒してクシナダヒメを妻にして国造りするんや」
マサルが言葉を引ったくった。
「そうそう、でもおかしくない?」
ヒロミが疑問を挟む。
「なにが?」
「だって、母のいる出雲に行きたいってスサノオは言ってたわけやろ?
そして、そこには先住民のアシナヅチとテナヅチとクシナダヒメが住んでいた。
ということは国造りしなくてもすでに国があるやん」
ヒロミが矛盾を指摘する。
「それに、イザナギとイザナミの時に、すでに出雲に国がある前提で話してるやん。
だったら、スサノオは……」
「外来勢力の若いのが出雲で成り上がる俺つえー系じゃないの?」
マサルの言葉に。
「いや、あんたほんまにラノベ脳やな。
けど、それは違うと思うで。
外来勢力が婚姻を手段とした同化の話ちゃう?
外来勢力が居住権を獲得するために、地元の人と婚姻して親戚関係になる。
そうして居住権を得た上で何代かに渡って地元の有力者との関係を深めていく」
ヒロミは得意分野になると早口になる。
「それこそ、ヒロミの悪役令嬢系でよく出てくる貴族同士の政略結婚ラノベ脳やんけ」
マサルも言い返す。
「ちょっといいですか?」
リカが可愛く手を上げた。
「スサノオは出雲に流れ着いてクシナダヒメと結ばれる。
その後、何代にも渡って有力者の親族と婚姻によって結びつきを強め出雲に同化していく。
そのプロセスを象徴しているのが八岐大蛇じゃないでしょうか?」
「なんでそうなんの?」
ヒロミが面白そうに聞いた。
「八岐大蛇を武力でやっつけたんじゃなくて、酒を飲まして骨抜きにしてるでしょう?
これって懐柔工作じゃないですか。
八つの頭と八つの尾は、出雲で懐柔した有力者か氏族を表してるんじゃないかと。
しかも最後に天叢雲剣を手に入れていますから、軍事力を手にしたということじゃないかと思ったんです」
「リカちゃん、今日も冴えてるなぁ
怪獣退治やなくて懐柔工作て、洒落も効いてるわ」
ヒロミが笑った。
「いや、そんなつもりじゃ……」
リカは困った顔で黙ってしまった。
「ヒロミ、あんまりイジったらあかんで」
ナオコに言われてヒロミはペロッと舌を出した。




