第16話 古墳に囲まれて掘った墓穴を埋める
「私らのやってたことをラノベにして公表したらどうなると思う?」
ヒロミがそう言ってイタズラな笑顔を見せた。
「それって、日本書紀をラノベ視点で解釈したら……ってやつ?」
「そう。
あくまでもそういう読み方ができるっていう思考実験やし」
「けど、そんなんで鎮火する?」
「わからんけど、炎上しようが何しようが、これがうちらの真実やっちゅうて発表してしまうんや」
「何もせんかっても、まずい状況は変わらんか」
「そういうこと」
「しゃないな、やろか」
一同が頷いた。
「よっしゃ、そうと決まったら、これは時間勝負やから、今日中に書き上げるで」
「はぁ?今日中?」
一同が目を丸くした。
「炎上鎮火なんやから、タイミング逃したら意味ないやろ?」
「それは無茶や。
どんだけ時間かかると思ってんの?
書くだけでも1週間は最低かかるやろ」
「何いうてんの。
コンテスト投稿作品とちゃうねんから、全部自分で書く必要なんかあらへん。
幸い、シノブちゃんがメモとってくれてたよね?」
ヒロミはそう言ってシノブを見た。
「はい」
「それをスマホで写真撮ってOCRソフトで文字起こしして、必要最低限だけ追記して、“こんなラノベにしてください”って、AIに投げたらええねん」
「ひでぇ、クリエイターの風上にもおけんやつや」
「非常事態なんやからええねん」
「それにしても……」
「ごちゃごちゃ言うてんと、さっさとやるで」
「シノブちゃん、パートごとに文字起こし出来たものから他のメンバーに送って。
他のメンバーは肉付け頼む。
できたものから、私に送って。
編集・校正するから」
「はい」
「前後の整合性はとらんでええよ。
考察が深まって解釈が変わったことにするから」
「ますますひでぇ!」
「うるさい!早さが正義や」
「ナオコ先輩、今送りました」
「了解!」
猛烈な勢いで作業が進んでいく。
キェー!
「あっ、雉が鳴いとる」
「あれ、雉の声なん?」
「そうやで」
窓の外は暗くなり始めていた。
「ちょっと、職員室に行ってくる」
「ん?」
「一応泊まりの許可もらっとく」
「まじか」
作業を開始してから5時間あまり。
「各パートの作業終わった?」
「今ので最後です」
シノブが疲れた声で答えた。
「さすが文藝研究部員やな。
書きかけたら早い」
「一段落したとこやし、ちょっと休憩して晩御飯にしよか」
「晩御飯って、この辺食べるとこないで」
「コンビニがあるやん」
「コンビニって、駅のそばやん。
誰が買いに行くん?」
「タカシ、頼むわ」
「なんで俺?」
「あんた、毎朝駅から走ってるやん。
それを活かすのがクロカンだけって勿体無いと思わん?」
「わかったよ。
おにぎり適当でいい?」
「ええよ」
タカシを見送って。
「なんか文化祭みたいやな」
「昨日終わったけどな」
「さっきまではなんとかせなあかんちゅう焦りみたいな感じやったけど、こうなってくるとなんか楽しいな」
「秘密結社的な?」
「なんやそれ」
「シノブちゃんとリカちゃんは、家に連絡した?」
「はい、さっき電話しました」
「うちはお父さんが迎えにくるって言ってましたけど断りました」
「心配かけて悪いなぁ」
「いえ、楽しいからいいんです」
コンビニ袋を持ったタカシが戻ってきた。
本当に走ってきたのかハアハア息を切らしている。
「美女を前にしてハアハアしてたら変質者みたいやで」
「誰が美女や。
お前は食わんでええ」
「ごめん、それは勘弁や」
部員たちはおにぎりを食べながら雑談を楽しんだ。
「あっ、そうそう、各自食べたおにぎり代ちょうだいや。
割り勘やから」
割り勘請求は忘れないタカシであった。
食事が終わって作業に戻る。
ヒロミの所に集まった原稿をつなぎ合わせて編集していく。
「ここ、もうちょっと言葉を足した方がわかりやすいと思う」
「ここもちょっと説明足しましょう」
リカのパートが思考の飛躍が多いため、文章を足す量が増えた。
「すいません」
リカがすまないなさそうに言った。
「いや、ええんよ」
「ちょっとトイレに行ってくる」
マサルがトイレで席を外した。
「なあ、ちょっと内容が真面目すぎん?」
「青春っぽさ入れよか?」
「マサル……はおらんな。
今のうちに」
ヒロミはニヤニヤしながら文章を加えていく。
「なあ、これタイトルなんにする?」
「なるべくラノベっぽい不真面目な方がええよなぁ」
「真面目なタイトルつけたらガチ勢が更に攻撃してくるで」
「チョイッと自虐入ってる方がええよな」
「ラノベオタクとか?」
「そうそう」
「やり始めたのが日本書紀はラノベやったからやし」
「よっしゃ、じゃあ、これでいこ。
“ラノベオタクが日本書紀を読んだら、成り上がりラノベすぎて消されそうになった件”
今のWeb小説の流行りを取り入れたんやけど、どうよ?」
「エンタメ感出すためにファンタジーも入れよ」
“ラノベオタクが日本書紀を読んだら、成り上がりファンタジーラノベすぎて消されそうになった件”
こっれで良くない?」
「よっしゃ、それで行こ」
「各話タイトルもちょっと笑える感じにしよ」
「各話の最初に小ネタも入れへん?
橿高あるあるなやつ」
「それおもろいな」
「一応フィクションやから、個人名は変えといた」
「ほんなら、これで投稿するで」
「ポチッとな」
「昭和生まれかw」
夜を徹して完成させたラノベがついに公開された。
「さて、ここからや」
「えっ?
まだなんかすんの?」
「当然やん。
炎上現場に燃料投下したる」
>みんな 橿高文藝研究部だよ
>こっちも読んでくれると嬉しいな
>https://ncode.syosetu.com/n7824mu/
「さて、どうなるかな?」
ヒロミがニヤニヤしている。
>何?
>橿高文藝研究部やて?
>当事者キタ━━ヾ(゜∀゜)ノ━━!!
>なんかURL貼り付けよったで
>小説投稿サイトや
>小説?
>なんや?
>小説読めってか?
>宣伝ぶっ込んできたんか?
>ふざけんな!
「ちょっとこれで様子見よか」
>ラノベ
>なんやこれ ラノベ?
>ラノベやな
>文藝研究部って書いてあるで
>歴史研究部と違うの?
>橿高って考古学研究部あるからてっきりそっちかと
>これ、エンタメ?
>日本書紀をラノベとして読んでみたっておもろすぎるやろ
>いや、この発想はなかったわ
>ラノベの設定資料w
>マジギレしたやつ乙w
>これ、最初から仕込んどったんかな?
>昨日の今日で小説一本なんてありえへんやろ
>もしかして、全員橿高文藝研究部に乗せられてた?
>ネトウヨ乙w
>このラノベ、作品としても結構面白いで
>こいつら完全に遊んどるな
「ちょっと思ってたんと違うけど、なんかマジギレしてた人ら、拍子抜けしたんとちゃう?」
「なんとなく、危機は去った……?」
部員たちの顔にようやく安堵の色が広がった。
「ちょっとこっち、すごいことになってるで」
「何が」
「小説投稿サイトのページビューが……」
「よかったやん」
「よかった……のか?」
「ほんまにすごいことになってるな」
「AIに書いてもろたんが……」
「まあ、次は自分らで書こな」
「それより、授業始まる前にちょっと仮眠とっとこ」
「せやな」
部員たちは机に突っ伏した。
と、同時に眠りに落ちた。
2時限目の授業のチャイムでシノブが目覚めるまで。




