第14話 ウケを狙わないなんて橿高生じゃないよね
スマホの普及で、駅から遠すぎて受験生が「もしかして通り過ぎた?」と不安になる風景も今は昔の奈良県立橿原高校。
そんな橿原高校の文藝研究部の部室。
期末試験も終わり、久しぶりの部活動。とはいえ、夏休みを間近に控え、どこか落ち着きがない。
というか浮ついている。
「なぁ、夏休みどうすんの?」
「別に予定ないわ」
「僕も」
「私も」
「うちも」
「ないですね」
「お前ら、くたびれサラリーマンか」
「そういうタカシはなんかあんのか」
「いや、ないけど」
「ないんかいっ!」
「ほら、アニメとかやったら水着回とか浴衣回とかあるやん。
せやから、ちょっとそういうのしたいなと思て聞いてみたんや。
予定ないんやったら…」
「うちの男子に水着見られんの嫌」
皆を言わせずヒロミが即答。
「やらしい目つきに決まってる」
ナオコも大きな胸を隠すような仕草で拒否した。
「……」
リカとシノブは無言のジト目で抵抗した。
「……」
なぜかマサルまで胸と股間を隠してくねくねしているのを見て女性陣は大笑いした。
「ちょっとそのリアクション傷つくわぁ」
タカシだけが不貞腐れている。
「アホなこと言うてんと、夏休みの活動の打ち合わせやで」
ヒロミが部長らしく話をリードした。
「とは言うても、クソ暑い時にフィールドワークはしとうないよなぁ」
「日焼け嫌。すぐ皮剥ける」
リカが腕をさする仕草で答えた。
「脱皮したら綺麗な蝶になれるで?」
「誰がサナギですか?」
マサルが“しまった”という顔をした。
「学校も夏休み中はエアコン入らへんからなぁ」
「……」
しばらくの沈黙の後。
「ホームワークで文化祭の準備しよか」
ヒロミが妥協案を出した。
「でも、文化祭何するかまだ決まってへんやん」
ナオコが現実を突きつける。
再びの沈黙を破ったのはマサルだった。
「僕、アイデアあんねんけど」
「おっ、マサル、なんや?」
「去年もそうやってんけど、オリジナル小説の展示とか文藝研究の発表とか、地味やんか?
あんまり人入ってなかったやろ?」
「そやなぁ」
「せやから、ラノベの設定資料集作らへん?」
「はぁ?
ラノベの設定資料集なんか、作者が作るもんやんか。
非公式ファンブックみたいなもんか?」
「ちゃうって、日本書紀や」
「あっ」
一同が声を上げた。
「作んのはええけど、それをどうすんの?」
ヒロミが食いついた。
「ポスターサイズで作るんや。
それを貼り出す」
「それ地味ちゃう?」
「そやから、アニメ化作品の設定資料集みたいに、キャラクタービジュアル付きでポスターにするんや。
これやったら宣伝ポスターも目を引くで」
「それ、面白そうやな」
「ほんでな、表設定と裏設定の対比表形式にすんねん」
「表と裏って?」
「表は公式の日本書紀の設定、裏は僕らが推理した設定」
「神武天皇やったら、東征して大和を平定した英雄、裏は武装海賊移民集団みたいなんか?」
タカシが具体例を挙げた。
「そうそれ!
それを、各自2枚ずつ作れば10枚のポスターができるやろ?」
「なんで?
6人やから12枚ちゃうん?」
「いや、ラノベ版日本書紀のストーリーボードを作らなあかんから、一人はそっちの担当で、キャラポスター10枚とストーリーボード2〜3枚ぐらいでいええやろ」
「なるほど、マサル、珍しく冴えてるやん」
「珍しくってなんやねん。
いつも冴えてるわ」
「で、対比表はええとして、キャラクタービジュアルは誰が描くの?」
「それは、生成AIに生成させて、拡大したらいいと思います」
シノブも乗って来た。
「どうせやったら、展示だけやなくて、物販もせぇへん?
ポスターを縮小したようなトレカとか。
うまくいけば活動資金稼げるで」
タカシも乗ってきた。
「キャラクター10人って、誰にする?」
「神武は決まりやろ」
「崇神も決まりちゃう?」
「雄略も外せへんよな」
「蘇我馬子と入鹿も外せへんで」
「中大兄皇子も」
「天武天皇もな」
「個人的には、神話からは素戔嗚は入れたい」
「女帝枠は推古天皇?」
「推古天皇は表裏ないから面白みがなぁ……」
「でもバリキャリOLっぽいとこはウケ狙えるで」
「有名どころで聖徳太子入れとこ。
追放系成り上がりキャラなとこあるし」
完全にウケ狙いである。
「ストーリーボードはどうするん?」
「シノブちゃん、記録とってくれてるから、お願いして大丈夫?」
「はい、大丈夫ですよ。
でも、私もキャラクターポスターも作りたいです」
「そしたら、キャラクターポスター私とシノブちゃんで1枚ずつにして、ストーリーボード分担しよか」
リカがシノブと分担することになった。
こうして文化祭の出し物とホームワークの内容が決まっていった。
8月第1週のある日。
「あ゛〜あ゛つ゛い゛〜〜〜」
部室はサウナのようになっていた。
窓を開けて風を通す。
風に乗ってミンミンゼミの声が響く。
「みんな、準備は進んでる?」
ヒロミの声に一同俯く。
「ちょっとあんたら、まだ手付かずとは言わんよな?
うちの学校、夏休みの宿題ないからな?
時間はたっぷりあったよな?
で、言い出しっぺのマサル?」
「まだ模造紙に書いてはないけど、一応構想はできてる」
「ならいいか。
とりあええず、夏休み中集まれる日が少ないから、相談事があるなら今日中にな」
「はーい」
「シノブちゃん、キャラ絵はどうしたらいい?」
「プロンプトを細かく指定してくれたら、こちらで統一感出すように調整します」
「オッケー、ありがとう」
こうして、文化祭に向けた準備は進んで行った。
2学期が始まってしばらくして。
「いよいよ文化祭、明日やな」
「一応、展示物も終わってるし、物販も準備は終わってるで」
「宣伝は?」
「あっ……」
「あかんやん、忘れてたんかいな」
「今からポスター何枚も書かれへんで」
「一枚でかいの描いて、目立つとこに“バーーーーーン!!!”と貼ろか」
「目立つとこって?」
「玄関の上」
「上?」
「そんなとこ貼ってええん?」
「禁止はされてへんやろ」
「四の五の言うてんと、模造紙貼り合わそ」
模造紙を縦横3枚の9枚貼りあわせで4畳半より少し大きいサイズになった。
「これなら目立つやろ」
「目立つけど、誰が描くん?」
「マサル、頑張ってな」
「なんで僕?」
「知ってるで、教科書に萌えキャラ落書きしてんの」
「えっ、いやっ、それは…‥」
部員たちの視線に負けて。
「わかったよ、描くやん」
下書きとキャラ絵はマサルが担当し、背景は他の部員が手分けしてポスターを仕上げた。
その時、いつの間にかいなくなっていたタカシが長い竹の棒を持って戻ってきた。
「タカシ、その竹どうしたん?」
「先生にノコギリ借りて切ってきた」
「どこから?」
「まあ、ええやん。
荒れた竹藪やし」
枝を払った竹にポスターのトップとボトムを巻き付けてガムテープで固定した。
「あとは、みんなが下校したあと、こっそりぶら下げに行かな」
「天気は大丈夫か?」
「予報では降らへんみたいやで」
ほとんどの生徒が下校したあと、玄関の上にポスターをぶら下げた。
「校章にかかったら怒られるから、校章はちゃんと見える位置にしといたで」
タカシとマサルがポスターを掲示して、文化祭準備は終了した。
翌朝。
「あれ何?」
「文藝研究部が、なんか面白いことやってるみたいやで」
「文藝研究部って普段何してんの?」
「読書とちゃうの?」
登校してきた生徒たちが、玄関上の巨大ポスターを見て騒いでいる。
「つかみはバッチリやな」
マサルはニヤリとした。
文藝研究部の部室は盛況だった。
「日本書紀って面白そうやな」
「へー、こんな解釈あるんや」
「このキャラ、カッコええやん」
「けど、神武天皇の武装海賊移民団って、ウケる」
「トレカちょうだい」
「キャラクター人気投票もやってんねんて」
「おもろすぎるやろ」
「なぁ、トレカ買わな投票できへんの?」
「なんちゅう商売しよんねん」
カシャ。
カシャ。
そこかしこでスマホカメラで撮影する音が聞こえる。
写真を撮るぐらいウケたのなら大成功である。
昨年と打って変わった大盛況ぶりに部員たちは終始上機嫌だった。




