第12話 どっちに転んでもおトクです!
他校の生徒が交流に来るのを嫌がる駅から遠い奈良県立橿原高校。
そんな橿原高校の文藝研究部部室。
「リカちゃんの推理だと血統の統合はなくなって、血統は途絶えて皇統だけが残ったということですよね?」
「シノブちゃん、身も蓋もないまとめ方やね」
「いえ、一応メモっていますが、全部振り返ったら、それだけで今日の部活終わっちゃいますよ?
なので、今北産業的にまとめてみました」
「何それ?」
マサルは知らないらしい。
「シノブちゃん、歳いくつ?」
「そういうヒロミ先輩も知ってるってことじゃないですか」
「えへへ。
で、今日は白村江の戦いに行こうと思うんやけど。
タカシ、軽く説明して。
あんた、戦記物好きやろ」
「戦記ものは好きやけど、めんどいのは嫌い」
「そういうのええから早く」
タカシが白村江の戦いについて説明した。
「……という感じや」
「なるほどなぁ。
今回は特にラノベっぽい要素もないなぁ」
マサルはつまらなさそうに言った。
「本当にそう思います?」
「えっ、なんで?」
「大敗を喫した記録をわざわざ残した理由、気になりませんか」
「確かに気になる」
ヒロミが同意した。
「でもそれって、日本国内だけの話じゃなくて朝鮮半島も絡んでるから隠しきれないと思っただけじゃないんですか?」
シノブが記録の残り方の観点で指摘した。
「そういう見方もできるんだけど」
リカが引っかかっている。
「日本書紀って、統治の正統性を主張するために編纂された文書だから、負け戦でも正統性に関わるなら積極的に残そうとするんじゃないかと」
「つまり、負けた後どうなったかを見るということやな?」
「はい」
「唐が攻めてくるんじゃないかと怯えて、朝鮮式水城を各地に作ったり……」
ナオコが授業で習った知識を引っ張り出す。
「そういうんじゃなくて、リカちゃんが言いたいのはもっと大きな動きと違う?」
「というと?」
「この後、急に中央集権化が進んでいったよな。
これは歴史的大変革やで」
「それです!
タカシ先輩、白村江の戦いの軍の構成をどうみます?」
「大和は地上部隊中心やから、戦力としては大したことないやろな。
兵力の中心は水軍で、戦場から考えて九州北部から山陰の戦力を動員したんちゃうかな」
「動員ですか……」
「何か変か?」
「いえ、唐と新羅の連合で、百済を落としたとして、日本の利害関係はどうかなと思って。
豊璋を預かっていたとはいえ、百済とのパイプが切れて一番困ったのは通商利権を握っていた九州と交易ネットワークだったんじゃないかと」
「まあ、それはそうやろな」
「動員されなくても、むしろ第一当事者ですよね」
「あぁ、そういうことか。
九州と山陰の人らは動員されたんじゃなくて当事者として事にあたってたということな。
だとしたら、大和からは豊璋を護衛していく最低限の兵力しか出してないかもな」
「私もそう思ったんです。
そして大敗を喫して、一番ダメージを受けるのは第一当事者ですよね?」
「そうやな。
おそらくネットワークは壊滅的になったんとちゃうかな」
「そんな時に“唐が攻めてくる”なんて言ったら?」
「非常事態やから、とにかく軍勢を集めなあかんわなぁ。
でも、自前の軍はボロボロやからどこかから……
あぁ、そんな軍勢を動員できるのは大和だけか」
「そうですよね?やっぱり火事場泥棒的に九州・山陰の国を支援する名目で軍を送って配下に収めていったんだと思います」
リカとタカシの議論を聞いていた部員は目を見開いて二人を交互に見ていた。
「もしかして、最初から負け戦を見越してたってこと?」
ナオコの疑問に、
「それはどうかな。
普通は負け戦とわかってたらせえへんやろ」
タカシは当然の戦略を口にした。
「勝っても負けても良かったんじゃないでしょうか?」
リカが物騒なことを言った。
「勝てば、戦勝国の将です。
その功績をもって政治的発言力を強められる。
他の豪族にも睨みが効くようになる。
そうなれば堂々と即位できる。
負ければ歴史の通り、ダメージを受けた九州・山陰の国の支援名目で兵を送り傘下に収めていく。
どっちに転んでも損はないから参戦を決めたんだと思います」
「そこまで考える?」
「中大兄皇子ですよ?」
「あーー」
「これなら、敗戦で傷ついた地域を支援、立て直すために中央集権化を押し進めた。
その功績で即位したという統治の正統性を主張できます」
「なるほど、中大兄皇子の即位にはクーデターというイメージが付きまとうけど、戦功を挙げた、あるいは政治的改革を推し進めたという功績があれば豪族たちも認めざるを得なくなるということか」
「多分そうだと思います」
「リカちゃん、下剋上狙ってる?」
マサルの一言で、ヒロミは、
「ヒッ」
と妙な声を上げた。




