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「契約の絆」――奴隷商人から解放された少女たちが、俺の『約束』で世界を変える  作者: 悠々


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第94話 セリアとアルトの連携

中央コアの最下層は、想像していたよりも広大だった。


白く輝く壁面が無限に続く廊下を、アルトはセリアを抱きしめたまま進む。彼女の体温は次第に冷たくなり、胸元を濡らす血の量も増えている。だが、セリアは意識を失わない。むしろ、その目は異常なほど熱く輝いていた。


「アルト。左に三十メートル進んで、右の壁面に手をかざして」


セリアの声は弱々しいが、指示は明確だ。アルトは迷わずに従う。彼女の右手がアルトの肩に置かれ、小さな魔力が放出される。その魔力は中央コアの構造を一瞬で読み込み、セリアの脳へと情報をフィードバックする。


「感知スキル『構造解析』か」


アルトが呟く。セリアはかすかに微笑した。


「ああ。銃撃傷を受ける前に、このスキルを搭載させておいてよかった。ただし、精度の維持は三十分程度。その間に『核』までたどり着かないとダメ」


三十分。


アルトは周囲の状況を瞬間的に判断する。背後では皇帝直属の親衛隊がシステムのルーティンに従って進撃を続けているはずだ。約束の鎖を通じて、ニナたちの位置を感知する。獣人軍は地上三階層下にいる。時間がない。


「行くぞ」


アルトは走る。通常の人間では到達不可能な速度で。セリアを抱きしめたまま、彼は廊下の壁を蹴り、次の転角を曲がる。


「左手の壁をスキャン」


セリアの指示に応じて、アルトは走りながら左手をかざす。魔力が壁面に触れ、構造情報が流れ込む。セリアの脳がそれを処理し、新しい指示が飛ぶ。


「その二十メートル先。下り階段がある。但し、封鎖されている。アルト、契約スキル『約束の鍵』を使って」


「了解」


アルトは左手を階段の入口に置く。魔力が流れ込み、閉ざされた鉄製の扉に対して「この扉は、セリアと俺の通過を阻まない」という約束を押し付ける。契約スキルが成立した瞬間、扉はゆっくりと開く。


軋音が響き、塵が舞う。


「四階層下。核はそこだ」


セリアの声が、更に弱くなった。アルトは彼女の脈を指で確認した。心拍数が低下している。出血量が予想以上だ。


「セリア、もたせるか」


「ああ。但し、あと十五分が限界。その時点で構造解析が崩壊する。それまでに核にたどり着いて、改革プログラムを直接投入する必要がある」


十五分。


アルトは階段を降りる。一段につき一メートルの高さがあり、階段は螺旋状に下へと続く。光源は不明だが、白い光が常に周囲を照らしている。それは生きているライティングのようであり、同時に生命体のような輝きをも持っていた。


「アルト」


セリアが声を出す。


「なんだ」


「ごめんなさい。こんなことになって」


アルトは走るのをやめず、答える。


「謝るな。お前は正しい判断をした。皇帝を止めるには、これ以外に方法がない。それに、俺たちはまだ終わっていない」


「ああ。そうだな」


セリアは胸元の銃傷を見つめた。血液が衣服に染み込み、苦い臭いが立ち上る。だが、彼女の表情には恐怖がない。むしろ、静かな覚悟があった。


階段を降り終わると、そこは広大なホールだった。


直径百メートルはあるだろう。天井は見えず、床も見えない。その中央に、ただ一つの構造体が浮遊している。


それは、球体だった。


純白の光を放つ直径十メートルの球体。その表面には無数の回路のような紋様が走り、定期的に脈動している。その脈動に応じて、周囲の空間そのものが揺らぐ。


「あれが、核だ」


セリアが呟く。


「あの中に、システムの全論理が集約されている。処理能力、判定機構、契約データベース、歴史修正ログ。全部」


「どうやって投入する」


「あの球体に直接接触して、俺の改革プログラムを流し込む」


「接触か。簡単じゃないな」


アルトが言う。実際、ホール内に降り立つと、彼は異常を感知した。魔力が異常に濃い。その濃さは、ウェスタリア帝国全体の魔力資源を集約したそれだ。そして、その魔力は積極的に外部からの侵入を拒んでいる。


球体の周囲には、見えない壁がある。


「セリア。あの壁は」


「約束の反発だ。システムそのものが、人間による不当な改変を防ぐために構築した防御機構。俺たちを排除する『約束』が、あの球体に組み込まれている」


「なるほど。つまり、先制してそいつを契約で上書きする必要があるわけだ」


「そういうこと。しかし、その強度は相当だ。下手をしたら、俺たちの契約スキルがはじき飛ばされて、逆にバックラッシュを食らう」


アルトはセリアをゆっくりと地面に置く。彼女の体は既に立つことができない状態だ。彼は彼女の上半身を壁に寄りかからせ、動きやすい体勢を作った。


「大丈夫か」


「ああ。この位置なら、投影スキルで改革プログラムをお前の脳に流し込める。お前が核に接触すれば、お前の意思を通じてプログラムが投入される。その方が成功率は高い」


アルトは頷く。


「了解した。行く」


彼はホールの中央へ向かって走った。


球体が彼に反応する。その脈動が早くなり、周囲の空間が激しく揺らぐ。魔力が、純粋な圧力として、アルトに襲いかかる。


だが、アルトは止まらない。


彼は走りながら、両手を前に出す。そして、最も基本的な契約スキルを発動させた。


「約束の壁」


自分と球体の間に、透明な壁を作る。それは相互の契約を一度リセットさせ、対等な立場に置く魔法だ。球体からの圧力は、その壁で一度阻まれた。


だが、その圧力は即座に壁を削り始める。


アルトはホールの床を蹴り、跳躍する。球体まであと二十メートル。だが、その間に壁の耐久度がゼロに近づく。


「セリア。投影を開始しろ」


「了解」


セリアの右手が光を放つ。その光がアルトの背中に到達し、彼の脳に直接データが流し込まれる。改革プログラムのコードが、アルトの思考に組み込まれていく。


複雑な論理式。過去数千年にわたるシステムの歴史修正記録。そして、その全てを「相互選択型」の契約体系へと再構築する革新的なアルゴリズム。


アルトは着地する。


球体まで、あと五メートル。


「約束の壁」が消える。背後から皇帝直属の親衛隊が辿り着き、光の槍を放つ。


アルトは前へ跳ぶ。


球体が、彼を受け入れた。


白い光が、彼を包み込む。

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