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「契約の絆」――奴隷商人から解放された少女たちが、俺の『約束』で世界を変える  作者: 悠々


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第93話 皇帝親衛隊との激戦

中央広場から地下へと続く階段を、ニナは駆け下りていた。狼族の敏捷性を最大限に引き出し、石造りの階段を三段飛ばしで降りていく。その後ろを、獣人軍の精鋭たちが続いた。


「前方、敵兵確認!」


先行していた斥候が悲鳴を上げた。同時に、階段の下から黄金色の光が爆発的に噴き出した。


ドドドドッ


光の束が階段を埋め尽くし、獣人兵たちの何人かが吹き飛ばされた。落下する兵士たちを見て、ニナは即座に判断を下した。


「回り込め!側道を使う。急げ」


訓練された獣人軍は疑問を挟まず、別の通路へと身を翻した。階段での正面衝突は避け、帝国の地下構造を熟知していた者たちの知識を生かすしかない。


一方、中央コアの最下層。


アルトはセリアを抱いたまま、薄暗い通路を進んでいた。セリアの呼吸は浅く、銃撃傷からの出血はとっくに止まっていたが、彼女の肉体は限界に達していた。


「セリア。もう少しだ」


「ああ……わかってる」


セリアは微かに笑った。その表情は、苦痛よりも使命の達成への執念に満ちていた。


突然、通路の奥から複数の人影が現れた。


それは兵士ではなく、何か別の存在だった。全員が同じ銀色の甲冑を纏い、その瞳には蒼白く輝く光が宿っている。甲冑の胸部には複雑な紋章が刻まれていた。


「システム直属親衛隊」


セリアが呟いた。その声には、珍しく動揺の色が混じっていた。


「何それ」


「皇帝が……システムから直接力を引き出すために作られた兵士たち。理論上は存在するはずだったが、実際に目にするとは」


親衛隊の兵士たちは、音もなく通路を塞いだ。彼らの動作は正確で、無駄がなく、どこか機械的だった。


先頭の親衛隊員が口を開いた。その声は人間のそれではなく、複数の声が重ねられたような不自然さを持っていた。


「通行禁止。皇帝陛下の命令である」


アルトは深呼吸をした。約束の鎖を通じて、ニナやリリアたちの戦闘状況が感知できた。皆、同じような敵と対峙しているようだった。


「わかった。でも、俺はここを通す」


親衛隊員たちが一斉に動いた。


彼らの速度は、通常の兵士とは比較にならなかった。光速に近い動きで、アルトへと迫る。その瞬間、アルトの周囲に淡い光が展開した。


「約束の盾」


新しく習得したスキルだ。複数の契約を統合することで、相手からの攻撃を『約束によって無効化する』というもの。しかし、その効果の持続時間は限定的だった。


親衛隊員の刃が光の盾と衝突し、激しい音を放った。火花が散る。


「嘘だ。防御した」


別の親衛隊員が呟いた。彼らはシステムから直接力を得ているため、『システム以外の力』に対する想定が不十分だったのだろう。


しかし、その隙は一瞬だった。すぐに別の親衛隊員がアルトの側面から突撃してきた。


アルト自身の体術は、一般人レベルである。契約を通じた力なくして、彼は凡人に等しかった。


「ッ」


セリアを抱いたままでは、防御すらできない。アルトは咄嗟に身を捻り、刃を寸前のところでかわした。冷たい金属が頬をかすめる。


「セリア。システムへの接続は」


「も、もう少し。後三分あれば……」


セリアはそう言いながらも、アルトの腕の中で何かを呟いていた。その唇の動きは極めて素速く、複雑な魔術式を口にしているようだった。


親衛隊員たちが再び襲い掛かってきた。今度は三人同時だ。


アルトは後ろへと下がった。階段を降りるような足運びで、敵との距離を稼ぐ。セリアのための時間を、何とか確保しなければならない。


「『約束の軛』」


新しいスキル。敵の動きを『約束によって制限する』というもの。しかし、効果範囲は限定的で、親衛隊員の一人にしか作用しなかった。


制限を受けた親衛隊員の動きが、一瞬だけ鈍くなった。その隙に、アルトは更に距離を取った。


「くっ。本体に直結しているのか。システムからの干渉が強い」


セリアが嘆いた。その表情には、明らかに焦りが見えていた。


親衛隊員たちの進撃は、容赦なく続いた。彼らはシステムから直接エネルギーを供給されているため、疲労という概念がないのだろう。対するアルトは、複数の契約を同時に駆動させているため、精神的な負荷が急速に増加していた。


「あと二分」


セリアが呟いた。


その時だった。


中央広場の方からは、獣人軍とシステム親衛隊との衝突音が、低い音となって響き渡っていた。ニナたちも、同じような敵と対峙しているに違いない。


アルトは判断を下した。


「セリア。もう一つ頼む」


「何を」


「全契約を統合する。『万約の盟約』を発動させてくれ」


セリアが目を見開いた。


「ばか。それをしたら、お前は完全に契約に支配される。自我が残らない可能性が」


「わかってる。でも、ここを通さなきゃ、全てが終わる」


親衛隊員たちが更に速度を上げた。もはや目で追うことすら困難な速度だった。


アルトの身体が淡い光に包まれた。


それは今までの光とは違う。複数の光が重ねられ、万華鏡のような複雑な色彩を放っていた。ニナ、リリア、イザベラ、シャーロット、そしてセリア自身との契約が、全て一つに統合された瞬間だった。


親衛隊員たちの攻撃が、その光に吸収された。


音もなく、火花も散らず、敵の動きが『約束によって停止』した。それは世界そのものが止まったような、不気味な光景だった。


「いける。通路を急いで」


セリアの声に、アルトは走った。


光に包まれた身体で、親衛隊員たちを押し分けるようにして、通路を駆け進む。その背後では、停止していた親衛隊員たちが、徐々に動きを取り戻そうとしていた。


中央コアの最奥部が見えた。


その中心に、巨大な水晶体が浮遊していた。その表面には無数の光が瞬いており、その光が、皇帝マクシミリアンへと繋がっているのが感じられた。


そして、その水晶体の真下に、皇帝自身が両手を拡げた状態で浮遊していた。


「来たか。約束の契約者よ」


皇帝の声が、辺り一面に響き渡った。その声には、喜悦と狂気が混在していた。


「遅い。既に、システムの支配権は、我が手の中にある」


その瞬間、中央コアの光が、更に激しく輝き始めた。

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