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「契約の絆」――奴隷商人から解放された少女たちが、俺の『約束』で世界を変える  作者: 悠々


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第92話 帝国首都進撃

馬蹄の音が大地を揺らしている。


ニナは騎馬隊の先頭に立ち、北大陸から南下してきた獣人軍団五千を率いていた。狼族の本能が疼く。前方に見える帝国軍陣地への突撃まで、あと数刻だ。


「姫様、敵陣が動きます」


側近の熊族戦士ギュスターヴが指をさした。帝国軍の左翼が槍兵部隊を整列させ始めている。数は三千。数値だけ見れば、獣人軍が優位だ。だが帝国軍には魔力砲がある。


「避難路を確保。死傷者が出たら即座に後方へ」


ニナの命令は鋭い。かつて奴隷として虐げられた獣人たちも、今は戦士だ。命令を聞き間違える者はいない。


獣人軍の横を、東大陸からの騎馬隊が疾駆していく。リリアの商人ギルド兵士たちだ。彼らは戦士ではなく、本来は荷物を運ぶ人たちだ。だが、奴隷商人に立ち向かった経験がある。この戦いでも、彼らの決意は固い。


「リリア殿、兵力充足は?」


ニナが馬を寄せると、リリアは馬上で笑顔を作っていた。その表情の奥に、重い責任を感じている。


「東大陸の全ギルド支部から千五百の戦闘員を集めました。本来なら商人ですが、剣の一つや二つは握ります」


「頼りにしている」


ニナはそう言って、リリアの肩を軽く叩いた。かつての奴隷。今は統領。ここまで来られたのは、アルトの「契約」があってのことだ。だが、この戦いに勝つかどうかは、もう契約ではなく、彼女たち自身の選択次第だ。


帝国首都アウレリウスはもう見える。高い城壁に囲まれた都市。数百年の時を超えて、帝国の中心として君臨してきた場所。


その城壁の向こうから、魔力砲の砲撃音が響いた。


ドン、ドン、ドン。


三発。四発。五発。


「伏せろ!」


ニナが叫ぶと同時に、西大陸からの援軍が魔力盾を展開した。イザベラの指示で派遣された孤児院出身の若き魔術師たちだ。彼らは魔力砲の直撃を避けるため、低い盾を編成している。


砲撃の炎が盾に当たり、弾き返される。帝国の魔力砲は強力だが、同じく魔力を操る者たちが盾になれば、被害は最小限に抑えられる。


「前進!」


ニナが叫ぶ。馬が加速する。獣人軍が、商人ギルド兵が、西大陸の魔術師たちが、一斉に帝国軍陣地へ殺到する。


帝国軍の槍兵部隊が立ちふさがる。だが、その兵士たちの表情は揺らいでいた。


「待てよ」


帝国軍の槍兵の一人が、突然、槍を地面に置いた。その兵士は中年の男だ。西大陸の豪族に属していたが、昨日、イザベラの檄文を受け取った。


「俺たちは何を守ってるんだ? 奴隷制度? 獣人差別? そんなもんのために、子どもたちを殺すのか?」


その言葉が、連鎖する。


槍兵の二番目が、三番目が、次々と武器を置いた。帝国軍三千の半分以上が、既にシャーロット王女の宣伝文を読んでいた。彼らの多くは、奴隷制度が正しいとは思わない。ただ、帝国の秩序に従っていただけだ。


だが、秩序が揺らげば、人間は選択する。


残る千五百の帝国兵が、逃げ出した。


「突撃!」


ニナの声が響く。獣人軍が帝国軍陣地を蹂躙する。だが、彼らは無差別に殺さない。投降した兵士は後方へ。抵抗する者だけが戦う。


リリアの商人ギルド兵は、すぐさま陣地を占拠し、遮蔽物を構築し始めた。彼らは戦士ではなく、戦う商人だ。陣地の確保、物資の配置、次の戦闘への準備―それが彼らの真価だ。


「首都への門が開いています」


西大陸からの魔術師の一人が報告する。帝国首都アウレリウスの城門が、自動的に開いた。


それは、内側から誰かが開けたのだ。


ニナは馬を止め、リリアを見た。


「行くぞ」


「了解」


二人が並んで、城門へ向かう。その後ろを、五千の獣人軍、千五百の商人兵、そして西大陸の魔術師たちが続く。


帝国首都の中心には、中央コアへ向かう階段がある。その階段を下れば、地下の最奥部に辿り着く。そこで、皇帝マクシミリアンが待っているはずだ。


だが、城内は静かすぎた。


帝国の兵士たちの姿が見えない。商店は閉ざされ、民間人の気配もない。まるで廃都のようだ。


「これは罠では?」


リリアが呟く。その直感は正しい。帝国皇帝は、既に戦うことを捨てていた。最初から、帝国の都市防衛を期待していない。


皇帝が望んでいるのは、ただ一つ。


中央コアでアルトと対峙すること。


そこで、システムの支配権を奪うこと。


ニナは城内の大通りを疾駆し、中央広場に到達した。そこには、帝国皇帝マクシミリアンの城がある。その地下が、中央コアへの入り口だ。


「城門を開け」


ニナの声は冷たい。帝国城の鉄門が、内側から開く。


地下へ続く階段が現れた。その先は、暗闇だ。


リリアが懐から魔法石を取り出し、それを照らす。かすかな光が階段を照らす。


「行きましょう」


「ああ」


ニナが最初に階段を下りる。商人ギルド兵たちが続く。獣人軍も続く。


階段を下りるほど、温度が上がる。魔力の濃度も濃くなっていく。それは、システムが近いことを意味する。


階段の最下部に着くと、広大な地下空間が広がっていた。


そこは、宮殿のようだ。


古い魔力の痕跡が壁全体に刻まれている。それらの文字は、セリアが解読した「システムの言語」だ。


「あそこだ」


リリアが指をさした。


地下宮殿の中心に、巨大な光の球体がある。それが、中央コアだ。


そして、その前に。


皇帝マクシミリアンが立っていた。


その腕には、既に光が集まり始めていた。彼は、中央コアに接続しようとしている。


「来たか」


皇帝の声は、不可思議な響きを持っていた。それは、人間の声ではなく、システムそのものから発せられているような音だ。


「貴様、システムに接続しているのか?」


ニナが叫ぶ。だが、返事はない。


皇帝の身体が、光に包まれ始めた。


「まずい。アルトに伝えろ」


リリアが通信用の魔力石を握る。だが、地下深くでは通信が途絶えている。


ニナは剣を抜いた。


「進め。中央コアへ」


獣人軍が前に出る。だが、皇帝の周囲に、光の壁が生成された。


それは物理的な壁ではなく、魔力の壁だ。接近する獣人兵の剣が、その壁に弾かれる。


皇帝マクシミリアンの声が、再び響く。


「遅い。既に中央コアの接続は完了した。これからは、この世界の運命も、人間たちの自由も、全て俺の手のものだ」


その時。


地下宮殿の天井から、激しい音が響いた。


何かが、破壊されている。


それは、アルトが中央コアへ向かう別のルートを、力ずくで切り開いているのだ。


セリアを抱きながら、絶望的な状況の中で、前へ進む。


ニナはその音を聞き、剣を構え直した。


「皇帝よ。お前の勝利はまだ決まっていない」


ニナが叫ぶ。


皇帝は、その言葉を聞いて、初めて笑った。


「ならば、全て焼き尽くしてやろう」


中央コアが、爆発的に輝き始めた。

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