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「契約の絆」――奴隷商人から解放された少女たちが、俺の『約束』で世界を変える  作者: 悠々


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第67話 ヴァルデスとの決着

遺跡の地下機械室から脱出する最短ルートは、北側の通路を経由して帝国軍の進路と交差する場所だった。その広大な空間で、俺たちは予想外の人物に出くわした。


ヴァルデス。


かつて奴隷商人以上の規模で活動していた敵対勢力の首魁が、黒い鎧に身を包んで立っていた。だが、その視線はリリアたちではなく、まっすぐに俺を向いていた。


「待ってたぜ、アルト。こんなところでお前に会えるとはな」


ヴァルデスの声には、いつもの傲慢さが欠けていた。むしろ、何か追い詰められたような切迫感が込められていた。背後には彼の部下たちが十数名立ち並んでいたが、警戒の色が濃かった。


「ヴァルデス。お前ここで何を」


シャーロットが剣を抜こうとしたが、俺は手を上げて制した。約束の鎖ネットワークを通じて、彼女に指示を送る。まだ待つ。ヴァルデスの左腕が微かに震えているのが見えた。それは怖れではなく、何か別の感情だった。


「帝国軍が来てる。お前たちはそれを知ってるはずだ」


ヴァルデスが身体を斜めにして、通路の向こうを指した。確かに、装甲靴の音が近づいてくるのが聞こえた。


「なぜ、ここに?」


セリアが問いかけた。彼女の目には、好奇心と警戒が混在していた。ヴァルデスは苦笑した。


「お前たちが遺跡に向かってるって知った時から、俺も同じ方向に動いてた。理由は簡単だ。この場所が何であるか、俺も知ってたからだ」


その言葉で、俺の背筋が走った。やはりそうか。ヴァルデスもシステムについて何か知っていたのだ。


「エミリアの次は、お前か。どうしてこんなことに詳しい」


俺が問うと、ヴァルデスは深く息をついた。


「俺の一族は、何百年も前からシステムに関わってた。お前の前の契約者のうちの何人かは、実は俺の血族だ。奴隷商人の仕事も、本当の目的を隠すためのカムフラージュにすぎなかった」


その瞬間、帝国軍の先遣隊が通路を曲がって現れた。槍と盾を構えた兵士たちが、俺たちを包囲するように展開を始める。


「くっ。時間がねえ」


ヴァルデスが剣を抜いた。だが、その剣は帝国軍に向けられていた。


「ここで決着つけるならお前たちだ、帝国野郎ども」


彼の部下たちも戦闘態勢に入った。俺たちは一瞬、その光景を呆然と見つめた。


「何のつもりだ」


俺が声をかけると、ヴァルデスは肩越しに振り返った。


「決着だ。お前と。だけど、まず帝国を片付けねえと話にならん」


彼と帝国軍の兵士たちが激しく交錯し始めた。ヴァルデスの動きは、奴隷商人ギルドの頭領とは思えない洗練されたものだった。ガウンの下に見えるのは、明らかに職業戦士の筋肉である。


一方、俺たちは身動きが取れずにいた。帝国軍も混乱している隙に脱出できるはずだ。だが、俺の足は止まったままだった。


ニナが俺の顔を見た。


「アルト。あの男を助けるつもり?」


「分からん。だが、あいつが言ったことが本当なら」


その時、ヴァルデスの動きが一瞬遅れた。帝国軍の槍が彼の肩を掠めた。血が流れた。


「くそったれ」


彼が呻いた。俺の中で何かが決断された。


「リリア、シャーロット、ニナ。そっちの兵士たちを片付けろ。セリア、エミリアと一緒に奥へ進め。中央コアへの道を開く」


「アルト、お前は」


シャーロットが問う。


「話をつける。あいつとな」


俺は前に踏み出した。契約能力のない状態で、この兵士たちを相手にするのは無謀だ。だが、俺は本能的に知っていた。ヴァルデスの話を聞く必要があった。


約束の鎖スキルを発動させた。四本の鎖がシャーロット、リリア、ニナ、セリアへと伸びる。彼女たちの力を一点に集中させる。帝国軍の包囲網が破られた。


ヴァルデスがその隙に、近い兵士たちを素早く排除した。二人の間に、一瞬の沈黙が生まれた。


「話が長くなりそうだな。あと五分で帝国軍の主力が到着する」


ヴァルデスが息をついた。彼の肩の傷から血がじわじわと流れている。


「お前の一族が契約者だったなら、なぜ奴隷商人なんかやってた」


「簡単だ。ゼニになるからだ。そして、人を支配する仕組みを理解したかったからな。お前がやってることと本質は同じだ」


その言葉は俺の胸に刺さった。支配。本当にそれなのか。約束の鎖ネットワークを通じて、シャーロットたちの戦闘状況が流れ込んでくる。彼女たちは帝国軍を押し返していた。だが、増援が来ている。


「システムを壊すつもりなのか。それとも、改革するつもりなのか」


ヴァルデスが急に問いかけた。


「まだ、分からん」


「そっか。なら、一つ教えてやる。システムを完全に壊したら、この世界は十日で崩壊する。経済も、政治も、全部が。魔力供給の大半がシステムを通じて行われてるからな」


その衝撃的な真実が、俺の思考を一瞬止めた。


帝国軍の足音が、さらに近づいてくる。ヴァルデスは剣を握り直した。


「お前と戦うのは後でいい。今は、一緒に逃げようぜ。そしたら、存分に話してやる。お前の前の契約者たちが、なぜ消滅したのか。そして、このシステムを本当に改革できる方法が、本当に存在するのかってことをな」


その提案を、俺は受け入れるべきなのか。敵対勢力の首魁の言葉を、信じるべきなのか。


だが、約束の鎖ネットワークを通じて、セリアが叫んでいた。


「アルト。中央コアへの扉が開いた。でも、ここから五分で帝国軍に囲まれる」


判断の時間はない。俺はヴァルデスに手を差し伸べた。


「約束しろ。お前の力で、帝国軍の追跡を五分間止める」


ヴァルデスは、その手をじっと見つめた。


「約束か。面白ぇな」


彼が手を握った瞬間、既知の感覚が走った。契約成立の快感。だが、その奥底には何か別の違和感があった。ヴァルデスの本心が、複雑に絡み合っていた。


彼が本当に何を望んでいるのか。それは、まだ見えていなかった。


「行け。答えはコアの中にある」


ヴァルデスが後ろを向いて、帝国軍へ歩み始めた。その背中から、わずかな迷いが感じられた。


俺たちが中央コアへ向かう通路に入った時、背後で激しい戦闘音が響いた。ヴァルデスは、本当に約束を守るのか。それとも、別の何かを企んでいるのか。


「アルト。あの男の言葉が本当なら」


シャーロットが側で呟いた。


「そうだ。なら、改革しかない。壊すことはできない」


だが、その言葉を口にした瞬間、俺は気づいた。本当の選択肢は、まだそこにはないということに。


中央コアの扉の向こうから、古い魔力の共鳴音が聞こえていた。

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