↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「契約の絆」――奴隷商人から解放された少女たちが、俺の『約束』で世界を変える  作者: 悠々


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
68/110

第68話 敵の本質への理解

地下遺跡の崩落する通路を駆け抜ける中、背後から轟音が響き渡った。帝国軍の魔導砲の炸裂音だ。ヴァルデスの身体が、その爆発の中心で光に包まれていく。


「ヴァルデス!」


シャーロットが叫ぶ。しかし、その声は途中で途絶えた。セリアが彼女の腕を掴み、先へ進むよう促していた。逃げるしかない。そう判断して、俺たちは走り続けた。


だが――次の瞬間、崩落する石壁を突き破ってヴァルデスが現れた。その身体は無傷。むしろ、彼は落ち着いた表情で俺たちの前に立っていた。


「逃げる必要はない」


低い声だ。いつもの傲慢さはなく、単なる陳述だった。


「奴らは一時的に足止めされている。俺が五分の約束を与えた。その間、俺たちは話す時間を得た」


リリアが息を切らしながら問いかけた。


「なぜ……帝国軍を足止めしたの?」


ヴァルデスは、くすりと笑った。その笑顔は悪意に満ちていた。


「理由?簡単だ。アルト・ソルヴェン」


彼は俺を見つめた。その目は、深い洞窟のように暗かった。


「お前の『救済』という名の欺瞞を、最後まで見届けたい。その欲望に従っただけだ」


「欺瞞……?」


「そうだ。お前は何だと思っている?奴隷たちを『解放』していると?」


ヴァルデスが一歩前に出た。その動きは流れるように自然だった。


「俺は商人だ。だからこそ、取引の本質を知っている。『等価交換』、『因果の循環』。世界はそうして回っている」


エミリアが警戒の姿勢を取った。しかし、ヴァルデスは彼女を無視した。


「お前の契約とは何か。知っているのか?」


彼は歩きながら話し続けた。


「相手の自由意志を奪い、その代わりに『約束の安全性』を与える。それだけだ。違うか?」


「違う。俺たちは──」


「違わない」


ヴァルデスが手を上げた。その仕草で、俺の言葉は遮られた。


「奴隷商人は何をしているか知っているか?相手の自由を奪い、その代わりに『食事』『住む場所』『生存の確実性』を与えている。お前と同じだ」


ニナが吠えるような声を上げた。


「ふざけるな!全く違う!」


「本当にそうか?」


ヴァルデスの声に、奇妙な静けさが含まれていた。それは、彼が本気で俺たちに理解させようとしていることを示唆していた。


「リリアを見ろ。お前の『約束』がなければ、彼女は自分の足で立つことができるのか?セリアは?」


セリアが前に出た。その顔は怒りで紅潮していた。


「論理のすり替えだ。奴隷制度と救済は根本的に異なる」


「異なるのか?」


ヴァルデスが頭を傾げた。


「具体的に説明しろ。どこが違うのか。どこが『根本的に』異なるのか。詳細にだ」


セリアが言葉を失った。その瞬間、俺は何か重く、冷たいものが心に沈むのを感じた。


「システムについて、お前たちは何を知っている?」


ヴァルデスの質問は、話題を唐突に転換させた。


「古い文明が作った『救済装置』だ。人類を『最善』へ導くために」


「それが真実だと思うのか?」


彼は嗤った。


「世界中に十二個のコアが埋設されている。それらはすべて同期している。つまり、世界全体は一つのシステムとして機能している。そのシステムの中で、人類は何をしているか知っているのか?」


シャーロットが答えた。


「『最善の状態』を保つために操作されている。ただし、その操作は『自由意志の侵害ではない』という名目の下で」


「正解だ」


ヴァルデスが拍手した。その音は、石室に冷たく反響した。


「つまり、システムとはこういうことだ。人類全体に対して、古い文明が与えた『契約』である。個々の人間に『自由』を与えるふりをしながら、全体としては『最善の状態』へ強制する装置だ」


「そして、お前は何だ?」


彼の指が俺を指した。


「第七番目の契約者。新しいシステムの『管理者候補』だ。つまり、お前が『解放』していると思っているのは、単にシステムの支配形態を『個人的な契約』から『大規模な強制装置』へ段階的に移行させているだけなのだ」


ニナが怒って叫んだ。


「違う!アルトは俺たちに本当の選択肢を与えた!」


「選択肢?」


ヴァルデスが眉を上げた。


「では、聞くがいい。もし、アルトが『俺たちとの契約を破棄する』と言ったら、お前たちはどうする?本当に、その『選択肢』を受け入れられるのか?」


その言葉は、俺たちの中に深い沈黙をもたらした。


リリアが、ゆっくりと口を開いた。その声は、震えていた。


「俺たちは……アルトを信じている」


「信じている。つまり、依存しているということだ。信頼と依存は紙一重だ。そして、システムが求めるのは、その『依存』なのだ」


ヴァルデスの言葉が、次々と俺たちを刺していく。


「お前たちの『自由』は、アルトという名の別の『枠』へと移動しただけだ。奴隷商人の鎖から、『約束』という見えない鎖へ。それ以上でも以下でもない」


俺は、その言葉に反論する言葉を探した。しかし、見つからなかった。心の奥底で、何か黒い疑問が蠢いていた。


本当に、そうなのか?


俺が与えた『契約』は、本当に解放なのか?それとも、別の形の支配なのか?


「時間だ」


ヴァルデスが立ち上がった。


「五分が経過する。奴らが突破してくる。逃げろ。そして、よく考えるんだな。お前たちが『自由』だと思っているものが、本当に自由なのかどうかを」


彼は身を翻した。帝国軍の方へ向かっていく。


「ヴァルデス、待て」


俺は、思わず声を上げていた。


「お前は何がしたい?」


ヴァルデスが振り返った。


「教えてやるよ。俺は『システムの真の支配者』になりたい。お前みたいな甘い『救済』ではなく、完全な『支配』を。そのためなら、お前たちの『約束』などどうでもいい」


「それは……」


「悪だと思うか?そうかもな」


彼が嗤った。


「だが、少なくとも『正義』という名の欺瞞には包まれていない。その点では、お前より誠実だ」


彼の身体が、次の爆発に包まれた。今度は、本当に消える気がした。しかし、その中から、最後の言葉が聞こえてきた。


「考えろ、アルト。お前の『約束』が、本当に何であるのかを。そして、その時、お前は初めて『真の選択肢』を得られるだろう」


爆発が、遺跡全体を揺さぶった。


俺たちは、無言で中央コアへ向かい続けた。しかし、心の中には、ヴァルデスの言葉が深く刻まれていた。


リリアの淡紫の糸は、震えている。シャーロットの銀色の糸は、迷いに満ちている。ニナの深紅の糸は、怒りと悔しさに染まっている。セリアの蒼白の糸は、知識の追求と矛盾の間で揺らぎ続けている。


そして、エミリアの黒紫の糸は――微かに笑っているように見えた。


俺たちは本当に、『解放』しているのか?それとも、別の『支配』へと導いているのか?


その答えは、中央コアの奥に隠されているのだろう。


だが、その答えにたどり着く前に、俺たちは一つの決定的な真実と対面することになるはずだ。


帝国軍の足音が、次々と迫ってくる音が聞こえ始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。