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「契約の絆」――奴隷商人から解放された少女たちが、俺の『約束』で世界を変える  作者: 悠々


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第43話 セリアとの小さな冒険

帝国の追手をかわすため、アルトたちは迂回ルートを急いでいた。三日でアルテミスに到着するという予定だったが、セリアの「ちょっと寄り道をしたいことがある」という一言で、予定は変わった。


「本当に大丈夫なのか?」


アルトが不安げに尋ねると、セリアは馬上で片手をひらひらさせた。


「大丈夫。ここから北東に五キロのところに、古い遺跡がある。魔力の痕跡がね。多分、帝国の追手は南西に向かってるはずだから、北に行くなら逆方向だ」


銀髪の魔術師は妙な自信を持っていた。リリアがアルトに目配せをした。《この人、本当に大丈夫?》という無言のメッセージだ。


でも、セリアの言葉には説得力があった。事実、彼女の予測通り帝国騎士団は南西方向へ展開していた。アルトたちが北に迂回してから、帝国からの追跡は途絶えていた。


「どうやって古い遺跡の位置を知ってるんですか?」シャーロットが聞いた。王女らしく、警戒心を忘れていない。


「魔力の波動だよ。現在の魔力とは違う、古い時代のシグネチャーがね。どこかに集中してる場所がある。それが遺跡の場所ってわけ」


セリアは説明しながら、懐から古びた羊皮紙を取り出した。そこには何か記号が描かれていた。アルトには読めない言語だったが、セリアは自分で書きつけたメモがあるようだった。


「前から気になってたんだけど、この大陸のあちこちに、同じ波動のポイントがいくつもあるんだ。多分、どれも古い魔力の痕跡。そしてね、君の『契約』という力も……その古い魔力の一種なんじゃないかって、考えたわけ」


アルトは馬の手綱を止めた。


「その古い魔力が、俺の能力と関係あるってことですか?」


「多分ね。だから調べたいんだ。もし古い遺跡に何か手がかりがあれば、君の正体、いや、君の力の正体がもっとはっきりするかもしれない」


セリアの目が輝いていた。彼女は純粋に学問的な興味で動いているようだった。でも、その興味が本当に『純粋』なだけなのか、アルトには判断がつかなかった。


やがて一行は、見覚えのない森を抜けた。そこに、古い建造物が現れた。


それは……城なのか、寺院なのか、判別がつかない形をしていた。白い石で作られていたはずなのだろうが、今は苔とつるに覆われ、壁には深い亀裂が走っていた。ところどころ、崩れ落ちた石の塊が地面に散らばっていた。


「これ、どのくらい古い建造物なんですか?」


ニナが警戒しながら周囲を見回った。獣人の鋭い嗅覚が、何か違う匂いを感じているのかもしれない。


「少なくとも……千年以上。多分、それ以上」


セリアは呟いた。彼女は建造物の壁に手を触れ、瞳を閉じた。何か感じ取ろうとしているのかもしれない。


「魔力だ。古い魔力が、壁に染みついてる。しかも……」


セリアは目を開いた。その表情は真摯だった。


「現在の魔力とは、質が違う。より高度な、より複雑な構造をしてる。これは……」


「何です?」


アルトが促した。


「これは、現在の魔術理論では説明がつかない。現在の魔力は、簡潔で、ある意味『単純化』されてる。でも、これは違う。もっと多層的で、もっと……」


セリアは言葉を探すように沈黙した。その瞳には、何か重大な認識が生まれようとしていた。


「もっと何ですか?」シャーロットが促した。


「もっと、『完全』に見える。現在の魔力には欠陥がある。わかります? 現在の魔術師たちは、その欠陥に気づいていない。でも、この古い魔力には、そういう欠陥がない。もし……」


セリアは森の中をゆっくり進んだ。アルトたちも後に続いた。


建造物の内部は、より一層荒廃していた。床は破れ、壁には大きな穴が開いていた。そこからは、古い空気が漂ってきた。


「ここに何があったんでしょう?」リリアが尋ねた。


「わからない。でも、この建造物は『重要な何か』だったはずだ。ここまで手をかけて建造するなら、ただの家じゃない。多分、研究施設か、それか……」


セリアは建造物の最深部へ向かった。階段が下に続いていた。


「危険では?」グレッグが警告した。


「大丈夫。このくらいの古さなら、崩落の危険はまだ少ない。石造の建造物は、千年程度なら持つ」


セリアの科学的知識は、時に信頼を置けるものだった。アルトは決めた。


「俺たちも行こう。でも、気をつけろ。何があるかわからない」


一行は、暗い階段を下って行った。アルトはリリアの手を取った。彼女の手は冷えていた。恐怖で。でも、彼女は歩みを止めなかった。


階段の底に、大きな室が現れた。そこには……円形の何かが、床に刻まれていた。


セリアが懐から光石を取り出した。その光が室全体を照らした。


「あ……」


セリアが息を飲んだ。


床に刻まれていたのは、複雑な幾何学模様だった。その中心には、大きな円があり、その周りに、無数の小さな円が配置されていた。それらの円は、複雑な線で結ばれていた。


「これは……契約の図式だ」


アルトが呟いた。理由はわからないが、直感的に理解できた。この複雑な模様は、アルトが『約束の鎖』で感知する感情のネットワークと、似ていた。


「そうだ」セリアが頷いた。「これは契約システムの理論図だ。複数の契約者が、複数の対象と結びついている状態を表してる。そして、この円形の配置は……」


セリアが指差した。中心の円の周りには、十二個の大きな円が配置されていた。


「十二人の契約者が、複数の対象と結びついていた時代があったってことです?」


シャーロットが推測した。


「そしてね」セリアは壁を指差した。壁には、古い文字が彫られていた。アルトには読めなかったが、セリアは瞳を細めた。「この文字は……古い言語だ。現在の言語の祖形かもしれない」


セリアは懐から小さな手帳を取り出し、精力的に文字を写し始めた。


「いったい、いつの時代のものなんですか?」リリアが尋ねた。


「千年以上前。でも、多分それ以上。もしかして、数千年前かもしれない」セリアの声は、興奮と確信に満ちていた。「そしてね、重要なことが一つ。この遺跡には、『古い文明の痕跡』がある。つまり、君たちの『現在』より、はるか前に、もっと高度な魔力文明があったってことだ」


「つまり……」アルトは言葉を探った。「俺の『契約』という力は、その古い文明の遺産ってことですか?」


「多分ね。そして、もう一つ」セリアは、床の円形の模様を指差した。「この模様から推測するなら、古い契約者たちは、複数存在していた。十二人いたかもしれない。そして、彼らは何らかの理由で、その役割を『放棄した』か、それか『消滅した』」


「消滅?」


「死んだ、ってことじゃなくてね。多分、システムそのものから『隔離された』か、それか『契約者という地位を失った』んだと思う」


セリアの推論は、筋が通っていた。そして、恐ろしい可能性を示唆していた。


「セリア」アルトが尋ねた。「もし、俺がそういう古い文明の『遺産』なら、なぜ今、俺が目覚めたんですか?」


セリアは壁に寄りかかった。その表情は、真摯だったが、同時に疲れていた。


「それが、わからない。でも、推測はできる」


「推測?」


「古い契約システムは、多分『自動的に機能する仕組み』だったんだと思う。つまり、その仕組みが必要とされる時代になると、自動的に新しい契約者が『生まれる』か、『目覚める』。君は、後者なんじゃないかってね」


アルトは、その言葉の重さを感じた。自分は『選ばれた』のではなく、『必要とされた』から目覚めたのかもしれない。それは、救いなのか、それとも呪いなのか。


「そして、もう一つ」セリアは、アルトをしっかりと見た。「君の『約束の力』は、君の個人的な能力じゃない。多分、『システムそのもの』の力が、君を通して現れてるんだと思う。つまり、君は……」


「俺は、何ですか?」


「君は、『システムの手足』なのかもしれない」


セリアの言葉は、アルトの心に、深い疑問を植えつけた。


その時、ニナが警戒の声をあげた。


「上から、誰か来てる。複数」


獣人の聴覚が、建造物の上の地上で、何かの動きを感知していた。


「帝国の追手か?」グレッグが剣を握った。


「わからない。でも、急ぐべきだ」


セリアは急いで手帳をしまった。古い遺跡からの脱出が急務だった。


だが、アルトの心の中には、新しい疑問が芽生えていた。


『俺は本当に、自由に選択しているのか?それとも、システムの一部として操られているのか?』


その問いは、これからのアルトの運命を揺るがしていくことになるだろう。

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