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チートなジョブで転移無双  作者: 綾瀬 律
第2章 王立学院

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153.ブランシェの憂い

 私は項垂れた。


「ご、ごめんなさい…」

「あんな場所で気を失ったら置いて行かれても仕方ない。お前が王族だから助かっただけだ。それに、お前のために戦力が裂かれたことで、他のメンバーは苦戦した。そのことを忘れるな」


 その通りだわ。私は王女だから助けられた。もしただの生徒だったなら、置いて行かれても仕方ない。

 命を賭けて私を助けなさい、そんなことを学生には言えない。


 騎士だって今回は生徒の護衛であって、私個人の護衛では無い。まさか気を失うなんて。王族として恥ずかしい。


 後で聞いた話では、ダンジョンの発生のまさにその時に…私を助けるためにクリス君とリグさんはカスミのそばを離れた。彼の従者なのに。


 そしてこれもレオに聞いた。

 彼らは私を安全な場所に置くと、また森に戻ろうとしたって。周りが止めていたら森から異常な魔力が溢れて…森の入り口からさらに撤退せざるを得なかったと。


 クリス君と先にレオたちを出口に導いたトーカ君も退避に抵抗したと聞いた。

「主、主ー!」


 彼の叫び声がこだましたと聞いた。クリス君もリグさんも「「主…どうかご無事で…」」

 そう呟いて泣いていたと聞いた。

 私とレオが王族だから…カスミは自分の従者を私たちに付けて。


「わ、私…もっと強くなるわ」

 でもカスミは

「立場を考えろ。周りはいつだって振り回されるんだ」

 そんなこと考えた事も無かった。私はわがままなんて言わない。常に王族として、考えて行動していた。

 なのに、周りが振り回される?

 呆然としていたら、カエサル先生が入って来た。


「一時限は自習だ」

 そう言ってまた出て行った。

 どういう事?私は…分からないわ。今まで言われたこと無かったわ。


 私はまたカスミの所に行く。

「周りが振り回されるって…どういう事?私はわがままなんか」

「わがままを言わなくとも、その存在が特別なんだ。リグがブランと組んだのはリグの力を当てにしたからだ。ブランを守る為に」

 そんな?!

「トーカがレオを組んだのも同じ理由だな。トーカがいたから外まで迷わず進めた。そう言う事だな」


 存在自体が特別。そうなのね…分かっていた筈なのに。

「そうね…私は強くなるのではなく、強くある必要があるのね」

 その呟きにカスミは反応しなかった。


 いつの間にかそばに来たレオは

「私も…私が不用意に動けば、動かざるを得ない人が居ると認識した。守られる側の我々は、動いてはいけなかったと反省した」


 カスミはそのレオの言葉にも何も返さなかった。それが彼なりの激励だと私たちには分かった。でも、分からない人もいた。


「おい、パルシェン公爵令息!その言い方はなんだ。殿下方が優しいからと付け上がって」

 エルサダ様が声を上げた。

「そうだ、流石にその言い方は無いだろ」

 ガイ様も追随する。


 カスミは特に彼らを見ずに

「なら同じ場面で命を差し出すんだな、お前たちは。ハッキリ言う。俺以外なら全員死んでたぞ。驕りでもなんでもなく事実だ」


 その言葉に2人は口を噤んだ。

「俺だって生きてたのが奇跡だ。そんな場所で俺は王族のために命を落としたりは出来ないな。自分と、騎士様を守るのに必死だった。同じことをしたらお前らなら確実に死んでたぞ。なるほど、立派だな」


 私も知らなかった。カスミは死にかけたの?カゲツ兄様も…?


「そ、それはしかし…」

「そんなのは後からなんとでも言える」

 カスミは顔を上げるとエルサダ様に

「そうだな、その場に居なかった奴が後からなんとでも言えるよな?」


 ぐっと詰まった。微妙な空気が流れる。

「カスミが生きているのは奇跡だと、ロイナス魔導師から聞いていた。カスミと、従魔の力だと…」


 私は聞いてないわ!

「レオ?聞いてないわ…」

「言わなかったんだよ」

 私、私は…本当に何も見えていなかった。


 なのにカスミは当たり前って顔で、助けたとも思っていない。それが凄く悔しかった。

 彼が守りたいものは私じゃ無い。そのまま打ちひしがれて席に戻る。

 カスミは呼び止めれくれなかった。




 私がカスミと会ったのは今から3年と少し前の12月。

 セイル兄様から紹介されたカスミは今よりさらに小さくて細くて頼りない見た目の子供だった。

 その見た目は守られる側なのに、彼はすでに守る側の人間だったのに驚いた。


 我々王族は呪術使いの一族だ。直系には特に色濃く出る。呪術と聞くと呪いを人にかけるイメージだが、実際には反対の解呪がより得意だ。さらには魔術にも似通った力である。



 呪いは解けてこそ意味がある。



 これは呪術を扱う際に最も先に教え込まれる。

 解けない呪いは無い。もし、解けない呪いがあったとしたら…その呪いは必ず呪者に返される。

 自分の能力を超えた力は身を滅ぼすのだ。


 私のように人を操る呪術が得意な者もいれば、暗示のように人の気持ちを導く者、能力を使えなくしたり、体に制限をかけたりするのも呪術だ。

 もちろん、自然の力に働きかけ超常現象を起こすのも呪術。有名なのは雨降らしだ。


 そして、その派生スキルは鑑定系のスキルや天候感知系スキルなどだ。相手を知らなければ効率的な呪術は不可能だし、天候感知が出来て初めて天候を操れる。

 それは大きな力だ。


 セイル兄様のように、傍系になるとスキルの方が強くなる。触診と祝福のスキルは特に有能なスキルだ。


 残念ながら私には鑑定のスキルはなく、読心スキルだ。

 でもこのスキルも万能じゃ無い。少なくとも、カスミの心の内は読めたことがない。

 自分より能力が高い人の心は読めないのだ。セイル兄様もカゲツ兄様も読めなかったし、レオも読めない。


「ダンジョンで不可思議な呪いを受けた。呪いのことを知りたい」

 セイル兄様から相談されたのはそんな内容。


 黒いモヤには取り憑いたものを腐らせる呪いがあり、それは凄く強い呪いだった。

 呪われた人はどうなったか知らされていない。ただ、解呪は出来た。


 魔法が使えないダンジョンでは治癒系のジョブ持ちで解呪が可能だったのだ。


 呪いと闇魔法を融合させたそれは、光魔法である治癒魔法でなら治せる。でも魔法が使えないダンジョンだと、ジョブ持ちにしか治せないから、危険だ。

 そのダンジョンは結局、閉鎖された。


 目立ちたくないと公言するカスミが、王族に接触してまで解明したかった呪い。呪われたのは誰?

 セイル兄様も何も仰らなかった。聞いてはいけない雰囲気を感じて…私も聞けなかった。


 私から見ても彼の能力は同じ年の私たちと比較しても突出していると思う。そのカスミが死にかける。どれほどの脅威だったのか、後でカゲツ兄様からも聞いて唖然としたものだ。


 カゲツ兄様も実力で騎士になったお方。憧れの兄様だった。その兄様をして、

「カスミがいなければ確実に死んでいた」

 と言う。


 それほどまでにダンジョン誕生の時には膨大な魔力が溢れ出すのだと。たった2人で魔力を他に漏らさないよう吸収しながら自らを守る。


 どれほどの困難なのか、想像もつかない。そして、カゲツ兄様はその後遺症で騎士を退団することになっている。本当に?

 カスミがそばにいてなお…なのか。分からない。

 兄様のその後については極秘とされ、誰も口を開かないから。


 私は王族としてどうあるべきなのか…悩みは尽きない。そして、助けられて言うことではないが、カゲツ兄様が騎士を辞めるその原因がカスミにあるような気がして納得出来ないでいた。




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