141.実技試験その後
う、体が重い…ふう。
気絶していたのか?回帰は持続していたのだろうか…。肩でぽよんと揺れるスイ。
(魔力圧が収まる少し前に気絶しちゃって…僕が治したー!)
スイ、ありがとう。ツルツルの体を抱きしめる。
収まった、んだよな?
それにしても、危なかった。後少し早く意識を無くしていたらと思うとゾッとする。体の内側から壊れるような、そんな魔力圧だったから。
腕の中の騎士は…俺が結界を維持し切れなかったからやっぱり相当酷いことになっていた。それでもスイが治療したからか、生きていた。
(ケガを少し回帰…)
全部治すのは不自然だからな。俺も自分は完治させていない。
ケホッ息苦しいな。
周りを見回す。暗いな。
(ライト)
あれ、魔法が発動しない。目を凝らす。
薄ぼんやりとは見えるが洞窟か?地底湖みたいな場所だ。近くには湖がある。
ただ、なんかヤバそうな気配はするが。
なんとなく、湖から遠ざかった方がいいかと思い騎士を担いでなんとか端に寄った。もちろん透視で安全なのを確認したぞ。
湖は…ザッパーン。
水飛沫が上がる。
はぁ、なんでクラーケンがいるんだよ。俺のトラウマじゃねーか。
(主、主!)
クリスからの念話だ。
(クリスか?無事に森から出たか?)
(はい、ブラン様もレオ様もご無事です)
(ケガは?)
(レオ様が腕にケガしていますが、命に別状は有りません。ブラン様は肩を打ったのと手足に軽いケガです)
(クリスたちは?)
(トーカもリグも私も枝で擦ったり転んだ膝を擦り付いた程度です。主は?ケガは??)
(死にかけたがなんとかな…スイがいなかったらヤバかった)
(主…またそんな事に)
(仕方ないだろ?放っておけないんだから。あの騎士は退く気が無かったし)
(しかし)
(俺たちがあそこにいたからみんなが退避出来たんだ。俺があそこで魔力を吸収してたからな。凄え魔石がゴロゴロ作れたぞ!)
クリスは一呼吸置くと
(後でルキ様とロキ様に怒られて下さい!)
(…っ、それは困る…クリス、どうか秘密で)
(ダメです。ちゃんと自分で謝って下さい)
(分かったよ…。なぁ、魔法が使えないんだ。ここ)
(っ!まさか、ダンジョン?!)
(えぇーいい思い出無いんだけど)
(主はラウラリアダンジョンの事を言ってるんですよね?くれぐれも罠には気をつけて下さいよ)
(あぁ、とにかくクリスとは連絡が取れて良かった。また連絡する。取り敢えず、疲れた)
そこでクリスとは連絡を終えた。ってかほんと回帰して体力は戻っても精神的にはキツいだよな。ただでさえ全回帰してないし。
ひとまず、寝るか。
(チビトーカ、チビクリス、チビリグ、見張り頼む。眠い…)
(畏まりました!テントで寝て下さい)
(騎士もだよな?)
(もちろんだ、この人は大丈夫だ)
トーカが言うならテントっと。
組み立てると騎士のブーツを脱がして中に入れる。浄化したいがバレても困るからこのまま。毛布をかける。
快適な野外装備のマットに毛布を掛けて、俺は取り敢えず水をぐびぐび飲んでから寝た。腹が減ってるんだがそれより眠い。目を瞑るとすぐに睡魔が訪れた。
「…ろ!おい!」
ん、眠い…。また目を瞑ろうとして
「おいっ!」
揺り起こされた。
「ん…兄ちゃんどした?」
俺は目の前にある懐かしい兄ちゃんの顔を見て言った。あれ、兄ちゃん?いつの頃だ…まだ高校生くらいか。懐かしいな。
「はっ?何言ってんだ!起きろっ」
「ん、華月兄ちゃん。もう少し寝させて…」
「…っ香純…香純なのか!?」
「ん、兄ちゃん何言ってんだよ…当たり前だろ。弟のこと忘れたのかよ?香純だよ…」
突然ガバッと抱きしめられた。ん…あれ、えっと…。
「えっ?」
あれ?
「香純、本当に香純なんだな?香純、良かった。生きてたんだ。香純…兄ちゃんだ、華月兄ちゃんだ!」
はっ、はい?!
自称華月兄ちゃんを引き剥がして顔を見る。あっ、何処かで見たことがあると思ったのは、まんま兄ちゃんじゃ無いか。そりゃ散々見てるからな。
色が違うからすぐに分からなかった。
「兄ちゃん?!」
「あぁ、俺だ香純」
その後はお互いになんかパニックになりながらも話をした。
どうやら俺が消えた時、やっぱりたくさんの人が行方不明になったんだと。
で、どうやら俺が買い物したスーパーの防犯カメラに俺が映っていて、俺が行方不明になった場所が凡そ分かったと。
で、兄ちゃんも家族も俺を探していた。
そこで、今度は兄ちゃんが事故に遭った。居眠り運転のトラックに突っ込まれたらしい。
そして、気が付いたらこの世界にいたと。どうやら転移じゃなく転生のようだ。
この世界で生きて来た記憶と、あちらの華月の記憶を持っているんだとか。
「でもな、思い出してから鏡を見たらまんま俺でさ、ビックリしたんだ。顔はそのままだろ?」
確かにな、俺も顔はそのままだ。
「若返ったって言うのか、転生だし時間軸が分からんな」
「あぁ、俺は今18才だ。香純は16か?」
「3月が誕生日だから15だな」
2人とも黙った。だってな、俺たちの歳の差はあちらと同じだったから。
「兄ちゃんはこっちで生まれたならチート能力とか無いのか?」
と聞けば苦笑した。
「それがな、ラノベとか思い出したら色々と出来たんだ」
話を聞くと魔法は賢者並みに使えて鑑定のスキルもある。さらにジョブは教会で剣豪と出たが、自分で鑑定すると魔法剣士らしい。隠れジョブか?
「隠すのが大変でな…」
「騎士になったのは?」
「転生に気が付いたのが2年前なんだ。その時点でもう騎士になることは既定路線だったんだよ」
あーなるほど。
「結婚はしたのか?」
「まだだ。というか、秘密が多すぎて無理だろ?」
「追い回されなかったか?」
正直、華月兄ちゃんは男前だ。俺は地味な顔だが、兄ちゃんは普通に男前なんだ。
キリッとした眉に大きな目、高い鼻に引き締まった口。全てのパーツがハッキリしたザ・イケメンだ。
昔からお兄さん素敵ってまわりの女子が言ってたくらいだからな。
セイとか双子はきれいない顔立ち。俺は女顔だし、ウルグからワイルドさを抜いてアマランの精悍さを足した感じか。
要は普通にカッコいい。
「それはまぁ…な。だからな、俺は自分より強い人が好きだって言った」
「それは性別問わずか?」
苦笑した。マッチョマンに追いかけられたか。
「…まぁなんだ。撃退したからな」
追われたんだな。
「香純は王立学院に通ってるって事は貴族か?転移なのに」
「あぁ、それはまぁ色々あってな。パルシェン公爵家の息子になった」
流石に驚いていた。
「しかし、高位貴族は血と魔力が…あっ」
理解したらしい。何故か顔を赤らめた。
「したのか?」
「したぞ!俺は覚えてないが」
「そうか…」
「兄ちゃん?」
「俺は香純が男好きでも平気だ」
なんだよ唐突に。
「いや、普通に女が好きだが」
結婚したのは男だけどな。ルキとロキは性別を超えて好きだから別枠だ。
「ところで香純、ここは?」
「ダンジョンだな。あ、俺のことを呼ぶ時はカタカナのカスミでな」
「ん、あぁ。俺のこともカタカナのカゲツで。俺はカゲツ・フォン・ルースだ」
フォンは騎士爵に付く称号だ。
「へーカッケーな。おれはカスミ・ド・パルシェンだ。元は何て名前なんだ?」
「カゲツ・リュ・ルクセン」
俺はぽかんと兄ちゃんを見た。
「マジで?」
「マジだ」
「アラシハル先輩は?」
「弟だな」
公爵家かよ!。
「カスミの話は父上から聞いていたんだ。でもな、まさか弟のカスミとはなぁ。似たような名前はこっちにもあるだろ?カミラとかカエラとか。だからまぁあちらに似た名前なんだなって」
「カゲツもありか?」
「珍しいかもしれないが、なくも無いか。カヅキとかカツキなんて名前はごく普通にあるし」
「しかし、そうか…。良かった、本当に。俺も結局は死んだんだろうし親父たちには悲しい思いをさせてしまったけどな。カスミが元気で良かった」
そう言った兄ちゃんはやっぱり兄ちゃんの顔で笑った。
俺は堪えられなくて兄ちゃん縋って泣いた。
俺を抱きしめながらも、周りに目を配ってくれる兄ちゃんの優しさに嬉しくて、切なくて、なかな涙が止まらなかった。
「兄ちゃん、ぐすっ、気がつかなくてごめん。魔力枯渇だな」




