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チートなジョブで転移無双  作者: 綾瀬 律
第2章 王立学院

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133.魔術大会3日目2

 少しの休憩後、五回戦に入った。



 五回戦の第一試合はクリスとガイだ。

 クリスは魔術師の戦い、ガイは剣士だ。

 ガイが押し込んでくる火魔法をまとわせた剣をクリスが杖でいなし、風魔法で刃を飛ばす。

 良い戦いではあるが、クリスも全力を出せない。俺と似た力を使えるクリスは本来なら楽勝だから。


 クリスが退がった所にガイが突きを連続で放ち、華麗に飛んで避けた先に刃が振り下ろされクリスの血が舞った。

 そのまま場外へ出たクリスは足から血を流して倒れ伏した。


 ロイナス魔導士がクリスを抱えて退場する。なるほど、そう来るか。

 まぁ別に反則ではないが、どうやら死にたいらしい。

 決勝戦で足を折るか切断しようと決めた。



 第二試合は俺とトーカだ。

 もちろん俺が勝った。トーカは全ての攻撃をつぶす俺の意志を視て降参した。

 棄権ではなく戦って負けた。ロイナス魔導士が何も言わないので、観客も沈黙した。


 ここでロイナスが

「カスミ公爵令息の隙のないたち振舞いでトーカ子爵令息は負けを認めた」

 端的な説明だった。


 ここで休憩に入る。

 2年生が次から対戦を始め、頃合いをみてお昼の休憩を取り、三年生までの決勝進出者が決まったところで最後の休憩。

 そして1年から順番に決勝戦を行う。


 俺はトーカを連れて救護室に向かった。クリスが寝かされている。その顔は青白い。

 クリスのローブを掛けて抱き上げた。リグもだがクリスも軽いな。


 救護室の外ではガイが待っていた。何か言おうとしたが無視して歩く。次は対戦する相手だ、話すことはない。


(クリス、痛みをとった。少しは楽になったか?)

(不甲斐ないです)

(全力で切り伏せに来ていたからな、仕方ない。手加減しないといけない分、こっちが不利だ)


 控室に迎えに来たセイがクリスを受け取ると、一緒に公爵家の個室に向かった。

 ご飯の時は周りから見えないように幕が降ろされている。


 リグはすでに回帰しているが、ケガをしたフリは必要だ。それはクリスも同じ。しばらくは顔に包帯だな。

 俺自身はもちろん、回帰を使えるのでセイが個室に入ってすぐにクリスに回帰を発動した。


「クリス、大丈夫か?血も戻っている筈だが」

「はい、大丈夫です。セイルール様、降ろしてください」

「却下だ」

 ソファに座ってその膝の上にクリスを大切そうに抱える。雰囲気が甘いな。


 俺はその様子を向いのソファで双子に挟まれて見ていた。

「カスミ、殺していい?」「アイツら屑」

 きれいな顔で過激な発言をする。しかも言葉遣いもちょっとアレだ。


「ルシィ、ロシィ…言葉遣いに気を付けて」

 すかさずお義母様が注意する。

 流石はお母様だ。


「生きるに値しないゴミに気を向ける必要なんてありませんでしょ?不用品は屑籠に放り投げればよろしいわ」

 …丁寧な言葉ながらさらに過激な内容になったぞ?

 諌めるのかと思ったが逆だった。

 

「その通りだ。いつだって言葉は品位を現す。貴族としての価値が底をついたものに気を向ける必要などない。時間の無駄だ」

 …輪をかけてお義父様が辛辣だ。


「でもカスミに売られたけんか」「買う」

「「それはそうだな。カスミ、息の根を止めておいで」」

 いっそ穏やかな2人は僅かに微笑みをたたえてそう言った。手元のカップが凍ってヒビが入ったので、慌てて改修して回帰した。


「はい、息の根は止めませんが…生きてることを後悔させます」

 そう言えばなんかシンとした。

「主、ほどほどに」

「大丈夫だ、ルールの範囲内で無様な姿を晒してやるだけだ」

 爽やかに言ったのに微妙な空気になった。

 なんでだ?



 タウロスが持たせてくれた食事を開ける。クリスはセイが離さないし、ウルグはリグを抱えているので仕方なく俺とトーカ、ニア兄さまとティア姉さまにリヴ兄さまで食事を運んだ。


 あまり腹に溜まりすぎると俺はダメなので、肉団子スープにしてもらった。

 後は昆布のおにぎりとカラスの卵を使っただし巻き卵、そしてから揚げ。

 おにぎりは小さいのを2個とだし巻き卵は2切れ、からあげは中くらいを1個。今はそれくらいでいい。


 クリスとリグにはセイとウルグが世話をして食べさせている。それをじっと見ていたらルキがスプーンを差し出してきた。

 肉団子だ。口に含むには少し大きい。それが伝わったらしいルキは俺の唇にスプーンを近づけながら自分も顔を寄せて2人で同時に両側から肉団子を食べた。


 ルキの唇が俺のそれに触れる。

 なんか甘々な恋人同士みたいだ。もう結婚して2年目なのにな。

 ルキとロキが交互にスプーンを差し出して顔を寄せるので、なんか変な感じだ


 ふと顔を上げるとみんなが顔を赤くして俺たちを見ていた。えっと見られてた?

 クリスが目線が外す。

 恥ずかしくてロキの首元に顔を埋めた。


 そんなカスミをみんなが温かい目でいたことをカスミは知らない。



 デザートはクレープだ。中には果物とカスタードクリーム、そして生クリーム。

 紙で巻いてかぶりつく。一応、女性用にお皿に盛ることも提案したが却下された。


「カスミちゃんと同じように食べたいわ!」

 今、俺の隣にはお母様たちがいる。ルキとロキがうらめしそうな顔をするが流石に引きはがせない。

 なので俺の背後に立っている。可愛いな、おい。


 カトレアお母様は自分が食べていたクレープを俺に差し出す。食えと?顔を見ると期待に満ちた目。

 いただきます、ぱくり。なんか恥ずかしいな。

 すると俺のクレープに目線が。そっと小さな口元に差し出すとかわいらしくかぷりと食べた。


 ほんのり頬を染めてほほ笑む。う、可愛いぞ。

 肘を引かれて反対側のお義母様にも差し出す。なんだろうか、これは何の拷問だ?楽しすぎるだろ!

 まだ決勝戦が残っているのに。


 後ろから双子が俺のクレープを食べる。

 もぐもぐしながら俺の頬を撫でるな。眠くなる。


 …あれ?目を覚ますと目の前にパインがあった。焦っていると

「あら?目を覚ました??もっと寝てていいのよ」カトレアお母様の細い指が俺の髪を梳く。


「でも…」

「たまには構わせて頂戴。末の息子なんだから…」

 それもそうか。心配ばかりかけてるからな。

 頭に柔らかな感触を感じながら目を瞑った。パインご馳走様と思いながら。



 *****



 俺は舞台の上でガイと向き合っている。

 攻撃は不可と言われているが純粋な力の放出は許されている。

 ついでに言えば自衛もオッケーだ。


 今回は攻撃は最大の防御なり、の反対で最大の防御は攻撃なり作戦だ。

 クリスの足から飛び散った血の色は俺の目に焼き付いている。

 例えリグで簡単に治せても、痛みの記憶は消せない。体は元に戻っても記憶は残るのだから。


 本当の意味ですべてを回帰することも出来る。でも俺はそれを選択しない。

 それは人として踏み越えていけない何かを超えてしまうように思うからだ。


 だから痛みの記憶は残る。ギルドのバカ女に殴られた時も、巨大イカの口に噛まれた時も痛みはあった。体がバラバラになるような、千切れるような強烈な痛みが。


 死にかけて頭が割れた事件は、ケガをしたその瞬間の記憶はないが、猛烈な痛みは覚えている。

 リグにしてもクリスにしても、その記憶は残る。そして彼らは自分の分身といえる存在だ。


 痛みも苦しみも共有してしまうのだ。感覚を切ってしまうことも出来るが、俺は感じていたい。

 だから、その痛みを…そしてそれ以上に悔しさを感じた。


 ならば、返してやろう。

「始め!」


 俺はここまでの試合では舞台の上で一歩も歩いていない。攻撃が禁止されているから。

 でも最後の試合は俺から動く。自分に向かってくるガイに自分から。


 ずっと立ったままだったから、俺に対してブーイングもあった。何してるか分からないだろうからな。

 だから特別大サービスだ。

「風よ、吹き荒れろ…」

 と声を出した。


 俺を中心に風が回る。そのまま突っ込めばまぁ剣も千切れるくらいの威力で。

 俺に向かってきたガイは危険を感じたらしく、迂回した。無駄なのにな、全方位風が回っている。


 もちろん俺はそちらに歩みを進める。

 逃げるしか出来ないガイ。それでは観客も楽しくないだろうし、ぶちのめすのは簡単だがせっかくだし、完膚なきまでに心を折ってやろう。


 風を止めた。代わりに舞台の上を凍らせる。

「氷よ…」

 俺の右手には短い杖。先端には紫と透明のマーブル模様の魔石。


 そう、これは俺と双子の魔石を混ぜ合わせて作った魔石。とんでもない魔力を内包している。

 透明な中で紫がゆっくりとゆらめくのだから。まるでオーロラのように。


 その杖でトンと床を突く。伸びた杖は床に当たり、そこから床が凍った。



 パキリ…



 俺はそこでゆっくりと前進する。ガイは剣を振り上げて俺に振り下ろす。それを軽く杖で止めると後ろに跳んだ。

 凍った床に滑らないよう慎重に進むガイの足元に氷を突出させた。躓いて倒れ込む。俺はそれを見てゆっくりと距離を取る。


 相手には、お前にはとどめを刺す価値が無いと分からせるため。ガイの顔が羞恥で赤くなる。

 本番はこれからだ。俺はまた風魔法を展開した。さっきより強く。


 ガイは慌てて体を起こそうとして尻餅をついた。足元をつるつるにしておいたからな、ふはは。

 無様に転がるガイ。

 俺が近づくと尻餅をついたままでなんとか剣を振り上げた。


 風がガイの髪の揺らす。

 俺が近寄ると俺に向かって振り下ろした剣はバラバラになった。手元に残ったのは鍔と柄だけ。


 バラバラになった剣はチリとなって俺の風魔法で上空へ巻き上がり、散った。

 それを呆然と見るガイ。俺のフードが風にあおられて外れた。


 俺の顔を見たガイは顔を引きつらせゆっくりと後ずさろうとして固まった。その足から手から凍り始める。

 逃げるのは許さない。売られた喧嘩は買ってやる。


 そして俺はまた前進する。首を振っていやいやをするように恐怖で顔をひきつらせるガイ。

 ガイの股がら湯気が立ち上る。漏らした様だ。誰にけんかを売ったか、思いしれ。

 俺は最後の一歩を詰めた。


「ぎゃぁ!!」




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