132.魔術大会3日目
第三試合は同じクラスのガイとがっちりした体格の伯爵令息。
ガイは大剣を使う。火魔法をまとわせた威力があってでも鋭い振りで攻める。対して相手はタンク。
盾を構えて応戦する。盾に硬質化の魔法を掛けている。そして盾で攻撃するときは風魔法で速度を出す。
ガイが攻撃し、盾で受け止めすぐさま反撃。完全な近接戦ではあるが距離を取りながらガイは剣の間合いを取ろうとし、対戦者は距離を詰めようとする。
相手が盾で反撃してきた一周の隙をついて側面に回り込み、首元に剣を突き付けるガイ。
体を捻って受け止めようとする相手。しかし、ほんの少しだけ剣先の炎が伸びた。
相手は降参を宣言した。
魔術大会でここまで白熱した近接戦は珍しく、大いに沸いた。こちらの戦いにも惜しみのない拍手が送られた。
第四試合は同じクラスのブランシュとユリウスだ。どちらも見目麗しい少女とあって、注目度が高い。
ブランシェは丈の長いシンプルなドレス。ユリウスも似たような服装で、一見するととても優雅だ。
でも双方火花が散っているのが分かる。
どちらも水魔法が得意とあって、周りは興味深々だ。
水魔法は水鉄砲のように飛ばしたり、水球を飛ばしたりという戦い方になる。
ブランシュは見本のように水魔法を駆使する。対するユリウスは変幻自在だ。相手の攻撃は水の膜で防ぎ、自分は波のようなうねる水を放ったり。
最後はうねらせた水をブランシュにまとわりつかせ、場外へ押し出した。
水に捉えられた状態なのでケガもしていない。
そのまま、また舞台にブランシュをもどしたユリウスは華麗に礼を取った。ブランシュも笑顔で何やら楽しそうに話をしながら舞台を降りた。
この戦いにも惜しみのない拍手が送られた。
第五試合はトーカと魔術師の杖を持った少年だ。小柄できつい目をした子だ。
トーカを睨んでいる。紹介によるとサグラダ伯爵家の嫡男ということだ。
開始の合図の後、トーカを睨みながら杖を掲げた。
「火よ、焼き尽くせ!」
ぎゅんと小さな火の玉が3つトーカに向かう。3方向からだ。後ろには下がれないし、風魔法で誘導している。
なかなか細かな魔力操作だ。
トーカに当たると思った直前に握っていた杖で払った。
杖を振ると同時に細かい水を大量に浴びせたのだ。もやが立ち込める。
次の瞬間に背後からトーカが相手の首元に杖を突き付けた。その足は僅かに浮いている。
風魔法で相手を浮かせているのだ。杖の先端には小さな火が灯っていた。
相手の攻撃を全て読めるトーカはチートだ。
攻撃のタイミングも種類も威力すら視える。
審判がトーカの勝利を宣言しても納得できないのか、その背中に杖を振り上げた。
ロイナス魔導士が止める前にトーカが杖で受けた。振り向きもせずに。
どよめきとざわめき。明確なルール違反に騒然とした。審判はすぐさま彼を魔力で縛り雑に舞台の外に放り投げた。
下手すると退学だ。それでも納得出来ないのか
「攻撃もまともにできない奴が!私に勝つなどあってはいけない」
連れていかれながらも叫んだ。
タン
トーカは素早く風魔法で体を浮かせてそいつの前に立つと魔力を放出した。
俺の力をそのまま使えるトーカは当然魔力が減らない。ピリピリするほどの魔力を放出している。
ちゃんと指方性を持たせてそいつだけに向けて。
そこで、相手が白目を剥いた。トーカは口は悪いが基本冷静だ。多分、クリスとリグよりも。
そのトーカがここまで明確に殺意にも似た魔力を外に出すのは珍しい。
「そこまでにしろ」
ロイナス魔導士に止められるまでトーカは魔力を放出した。
トーカは振り返ることなくフィールドを後にして俺のいる控室に入って来た。
さっと俺の前に跪くと
「申し訳ない…あんな小者につい」
分ってるんだろうな。トーカからは自分ではなく、結果的に俺がけなされたと感じたことが伝わってくる。
怒るのは簡単だがな。
その柔らかい髪の毛をくしゃくしゃとすると
「良く耐えたな」
さらに白い髪をくしゃくしゃしながら言えば、ほんの少し震えた後に
「ウザイわ!」
と返って来た。口ではそう言っているくせに、俺の手をそっと掴むと手の甲に軽く口づけた。
「俺はカスミのスキルであることを誇りに思う」
普段つんつんしている見目は整った子が突然普段と違うことをするとギャップ萌えする。
思わず固まった俺を見てトーカはふっと笑った。
俺はかがんでその頭にキスをして
「頼りにしてる」
真っ赤になったトーカを見て俺はご満悦だった。その俺をクリスがあきれた目でいていたが知らん!
6試合目はリグとナリウスだ。
ナリウスは武器は使わず火魔法でリグを責めた。リグ自体はそれを打ち消しながら風魔法を放つ。
火の軌道を変えてナリウスに向かわせたり、逸らしたり。
しかし、ナリウスは変幻自在に火を飛ばし、背後から来た火の球を避けた先でまた火魔法が向かってきてリグは避けられずに火が当たった。
焦げるような匂いがしてリグの腕と髪の毛が一部燃えた。
ロイナス魔導士がすぐに消化したが、顔に火傷が残っている。しばらくは包帯で顔をぐるぐる巻きだな。
ナリウスは流石に青ざめて声を掛けるがリグはぐったりしてロイナス魔導士に抱きかかえられて救護室に向かった。
別に反則ではないが、明らかに顔付近や髪の毛を狙った攻撃は卑怯だ。
会場からは勝ったナリウスに非難の声が上がった。
特に相手は少女。魔術で着いた火傷は簡単には治らない。これは後々面倒なことになるな。俺は密かにため息をついた。
リグの心配はしないのかって?自分で巻き戻せるからな、ただ、家に帰るまでは痛いか。
クリス、トーカ共に救護室に向かった。
リグは赤く腫れた顔で痛々しかった。ここでは回帰を使うわけにもいかないしな。クリスのローブを掛けると抱き上げた。
部屋を出ると制止する職員を振り切ってナリウスがそばに来た。
「何の用だ?」
「いや、その謝りたくて…」
俺は冷めた目で見ると
「失せろ」
と吐き捨てて控え室に向かった。謝るくらいならするべきじゃない。
リグは少女だ。魔術の傷は治りにくい。跡になることもある。もしくはそれが狙いか。
傷物にしたとなれば、結んでいた婚約はほとんどの場合破棄される。そこで責任を取ると言われれば、大抵の貴族家は断れないし断らない。
余程爵位が釣り合わなければ別だが。
見た目はリグもきれいだ。白い髪に青い目。俺の分身なのに、色は違う。顔立ちは派手ではないが、小ぶりなパーツが品よく収まっている。小柄で細い手足。まぁ庇護欲をそそられる見た目だ。それが狙いなら…ウルグに殺されろと思う。
俺は公爵家のVIPルームまでリグをクリスに連れて行かせて、控え室に戻った。
そんなこんなしているうちに、レオの試合が終わったようだ。もちろん、歓声を聞く限りはレオが勝っただろう。次は俺か。
俺はフィールドに繋がる扉の前に行く。扉は職員が開いた。俺は舞台に向かって歩く。
密かに怒りを抑えながら。そして俺の撒き散らす魔力に当てられて相手が失神して勝った。
少し休憩する。
4回戦の第一試合はエルサダとクリスだ。
エルサダは相変わらず火魔法一辺倒。まぁ連続して繰り出すようにしたのは成長か?
クリスはそれを氷魔法を纏わせた剣で切って行く。追い詰めると相手が魔法を発動するより早く利き腕を切った。骨に当たって骨にまで傷を付ける。
俺が貸したオリハルコンコーティングだからな、威力はある。すぐに飛び退くと火魔法をその腕にむかわせた。
「ぐわぁ!」
叫び声がこだました。
戦闘不能と判断されて、クリスの勝ちが決まった。
火魔法を浴びせたのはクリスの優しさだ。あのままだと傷の内側からだんだんと凍るからな。
クリスは控え室で俺の前に来ると少し緊張した顔で待つ。
「良くやった」
照れくさそうに笑ったクリスは可愛かった。
第二試合はガイとユリウスだが、ナリウスのやったことで非難ゴウゴウだからか、棄権した。
まぁこの状態で、出てもな…居心地悪いだろう。どうせガイには負けるし。賢明だな。
第三試合はトーカとナリウス。
「行ってくる」
トーカに頷く。普段口は悪いながらも1番冷静なのはトーカだ。そのトーカが静かに怒っている。
ナリウスは火魔法を展開する。3方からトーカを攻めるが、もちろんトーカには意味がない。避けながら巧みに相手を誘導する。まるで自分が追い詰められているように。
それを見たナリスが火魔法をトーカの前と後ろに展開し、その火がトーカに迫る。トーカは落ち着いて、前から来る火に手を翳した。
白い煙が立ち上る。
「ぐわっ…」
トン
とトーカが白い水蒸気のもやから横に抜け出る。
トーカの後ろから迫っていた火魔法は床でのたうち回るナリウスに向かった。
トーカが前の火魔法に向けて放ったのは大量の水。高温の水蒸気が発生し、それをナリウスに風魔法で向けたのだ。
動けないナリウスは喉まで水蒸気で焼けて、降参も叫べない。そのナリウスに自分自身の放った火魔法が襲いかかる。
「うぎゃあ!!」
トーカは対戦中なので当然だが静観している。そのまま火に焼かれるナリウスを静かに見ていた。
ロイナス魔導師が水球でナリウスを包み、火が消えた。
そのまま雑に水球を解除すると床にナリウスが崩れ落ちた。
審判は冷静にナリウスを見て
「勝者、トーカ子爵令息!」
観客から割れんばかりの拍車が起きた。トーカは感情を表さずに丁寧な礼をすると舞台を降りた。
自分の火で焼かれるなんてな、俺なら制限をつける。自分の魔力に触れたら霧散するように。もっとも、自分に魔法が向かうようなヘマは俺ならしないが。
圧倒的に実力不足だ。
第四試合は俺とレオ。まぁこれも俺が勝つんだが、ちゃんと花は持たせたぞ!
型通りのしっかりした剣に火魔法を纏わせ、時に風魔法で、時に剣を持たない手から水魔法で攻めるレオ。
どれも美しい魔法だった。彼のあり方のように、洗練された。
負けてやれないのが残念だった。最後は体力が尽きてレオが降参する。凄えブーイングだが、仕方ない。俺は攻撃が出来ないからな。
お互いにしっかりと握手をして、退場した。
少しの休憩後、五回戦に入った。




