130.魔術大会2日目
初日の魔術大会は俺の知ってる人間(少ないが)は全員勝ち進んだ。完全ランダムと言いつつも、魔術の得意なエルサダとかマリアージュは適度に離れたトーナメント表だから、ある程度は散らしてるんだろう。
2回戦でリグとマリアージュが当たる。
「リグ、負けるなよ!いいか、治癒魔法は健全な体に使うと毒だ。ガンガン使え」
「…主」
クリスに諌められるかと思ったら、
「まさにそれです!」
肯定された。
いいのかと思っていると
「あんな腐れは一刀両断です」
あ、そうだ!
「リグ、おいで」
差し出した手を握るリグ。そっと念話を送ればふわりと微笑んだ。
「これで万に一つも負けません」
「信じてるぞ」
リグにとって、自分は役立たずだとひたすら自分を責めたあの時間。自分の幸せの先にあるものを見落として、主を死なせるところだったと。
その後悔も未だに消えない。主の為というよりは、自己満足のために主に付き纏う自分を、主は分かっていてそばに置いてくれる。
その主が、死なせかけた役立たずの私を信じてると言ってくれた。それはリグにおってとても嬉しかった。
主に纏わりつく害虫の駆除はリグにお任せ下さい。決意を胸に、2回戦に臨むリグだった。
2日目からは舞台は一つ。そこで向かい合って立つ美女2人。片や豪華な金髪を縦ロールにしたキツメの美女であるマリアージュ侯爵令嬢。
片や謎の多い公爵家令息の従者である白い髪に金の目をした華奢なリグ子爵家令嬢。
大きな歓声が飛ぶ。
マリアージュが婚約者がいながらもカスミを狙っているのは周知の事実で、だからこそ注目度が高い一戦だ。
「始め!」
審判の声で向かい合った2人に動きがある。魔法さえ使えば良いこの対戦は、時に体術による戦いや、近接戦もある。しかし、圧倒的に遠距離戦が多い。
この美女の戦いも当然そうなると誰もが思っていた。
しかし、マリアージュが動く。拳を土魔法で固めて殴りに来たのだ。
魔法での顔や心臓への直接攻撃は禁止だが、物理に関しては目潰しなど以外は問題ない。
マリアージュは風魔法で加速してリグに接近した。そして胸ぐらを掴む。顔面を固めた拳で殴ろうと振りかざすが、リグは軽やかに抜け出して背後から風魔法で押す。
マリアージュは体勢を崩しつつも立て直し、また向かい合う。場がシンと静まり返る。
今度はその場でドレスの裾を翻して蹴りを繰り出した。風魔法を乗せた勢いのある攻撃だ。それを最小限の動きで躱すとリグが背後に回りみ、膝裏を押した。
ガクリと崩れ落ちるマリアージュ。すかさず、魔法を放とうとしてリグが飛び退く。床から杭が突き出ていた。
すぐさま飛び退いた先に更に杭を突き出し、リグは下から杭に…誰もが危ない!と思ったその時
「ぎゃあー!」
声を上げたのはマリアージュだ。下から出た杭の先端がブーツに引っかかって逆さ吊りとなった。
リグは冷静に手を振って杭を折る。舞台の端にあった杭は根本から折れて、マリアージュごと舞台外に落ちた。
一瞬シンとしたのち、
「し、勝者、リグ子爵令嬢!」
大歓声だ。
「ありえないわ!」
怒りで顔を赤くしたマリアージュが審判にくってかかる。
「あんなことあり得ない!反則よ。ちゃんと確認してるの!!」
魔術師が見間違うわけもないのに、酷い言い草だ。
ただ、会場は騒然とした。そう、何が起きたのか分からなかったから。
ロイナス魔導師が手を挙げ、舞台で話し始めた。
「反則はない。何が起きたか分からないのは、未熟な証拠だ」
キッパリと言い切るとリグを見て小さな声で
「カスミから教わったか?」
「はい!絶対にお前を傷付けさせないからと…」
紅潮した顔で誇らしげに言うリグに軽く笑うと
「以上だ!」
こうして、リグは2回戦を勝ち抜いた。ちなみにクリスもトーカも余裕だった。カスミ?一歩も動かず、相手が降参した。レオハルトとブランシェももちろん2回戦突破。公爵家のVIP席はカスミが長く人目にさらされずに済んだとみんなが安堵していた。
普通はその勇姿を見たい筈だが何から何まで前例を覆すカスミだった。
ちなみにリグは直前にカスミから反魔法を教わった。体得はクリスの手伝いがあれば難しくない。それは自分の体に相手の魔法を返す魔法を展開すること。
ちなみに下から串刺しにする魔法は初級でも本来は危ないので使ってはいけない。
命に関わる攻撃と見做されるからだ。リグが華麗に避けたのはトーカの念話があったからだ。これは魔法ではないが、まぁズルギリギリだ。
こうして、上位間違いないと思われたマリアージュは敢えなく敗退。しかも王族が眉を顰めるような攻撃で結果負けた。さらに、負けを認めようとしなかった。
その印象は最悪と言っていい終わり方だった。
午後からは2学年と3学年の2回戦だ。
しかし、それなりに忙しい王族も公爵家もさっさと帰った。みんな王都にある屋敷に帰り、執務などをこなす。
高い地位にあると言うことは、それだけ忙しさも伴うのだ。
カスミはセイの屋敷に帰り、一息ついた。
「リグ、良くやった」
頬を上気させ
「はい、主が教えてくださった反魔法のお陰です」
「それが無くても勝てただろ?」
「それはまぁ…でも、あの姿。くくっ…」
リグが楽しそうに笑う。
「カスミはいい事した」「あれは痛快」
双子はもちろん、公爵家のVIPルームにいたメンバーは何が起きたか分かっているみたいだ。
「説明した」
ロキが胸を張る。俺の伴侶が可愛すぎる。
ロキが俺の手を握りながら
「明日も勝って」「僕のカスミは負けない」
まぁ負けないだろうけどな。俺の前にクリスがエルサダと当たる。
「クリス、遠慮しなくていいぞ」
「主の前にクズは行かせません!蹴散らします」
頼んだぞ。
で、本日の夕食はカツだ!ゲンカツギと言えばクリスたちも喜んだ。双子は
「僕柔らかいのが好き」「細長いのがいい」
ヒレカツとささみカツだな。俺はロースカツだ。
ハムカツも揚げる。
たっぷりの千切りキャベツにカツを載せ、ソースとゴマを別の皿に用意する。
今日はパルシェン侯爵家の家族もいる。
「楽しみだ」
お義父様も期待してるみたいだな。タウロスととにかく頑張った。リュカに預けていた子供たちはまだカツは食えないから子供メニューだ。
ほくほくのジャガイモをカツ風の形に整形したもの。
子供はこう言うのが好きなんだ。
食堂はほぼ満員だ。
クリスたちは給仕に回る。俺はルキとロキの面倒だ。子供たちはパルシェンの家族が嬉しそうに構ってくれる。助かる。
セイの
「始めよう」
の言葉で次々とワゴンで運ばれる料理。
もっともコースって感じじゃない。
前菜のハムとトマト、チーズのカルパッチョ。味付けはオリーブオイルと塩胡椒。
次がスープ。こちらはエビのビスク風。濃厚なので、フランスパン風のパンを添えて。
次は表面をパリパリに焼いた白身の魚。ハーブを添えて柚子胡椒で味付け。レモンをかけてさっぱりと食べる。
最後はカツだ。色々カツ。これは全種類一つずつ載せてある。お替わりは自由だが、高位貴族がいるので従者に申しつける。
俺?俺たちはお皿ドンで俺が双子に取り分ける。
こうして食べ進んで行く。とかも静かだが、凄え速さでカツが減る。カトレアお母様のどこに入るんだろう?セナリックお父様と同じくらいは食ってる。
俺は相変わらずたくさん食べない。途中からはひたすら双子のお世話だ。それをお義母様が優しい顔で見ていることは気が付かなかった。
もぐもぐ食べる双子は可愛い。中身のおっさんが甲斐甲斐しく世話をする。これはまぁ、なんていうか…俺の特権だな。
「口に付いてるぞ」
とナプキンで拭ったり
「こぼすからゆっくり」
と声を掛けたり。いや、可愛い双子がもぐもぐする様子…マジでご馳走様です。
みんな食べ終えると…ってあれ?皿が空だ。もちろん、ヒルガや使用人の分は取り分けてある。あるが、あんなにあったのに?ちょっとびっくりだ。
溶けたな。
最後に新しいデザートが出される。
ルキとロキは食べたことがあるが、スフレチーズケーキだ。生クリーム添え。
双子の目はキラキラだ。
これは少しだが、子供たちも食べられる。その目はやっぱりキラキラしている。
双子を見る、子供たちを見る、また双子を見る。可愛だろう!
ご馳走様です。拝んだ。
そしてパクリ。うん、美味い。ほろっと口で溶けるチーズケーキ。みんなも満足そうで俺も嬉しい。
俺の居場所を作ってくれたみんなに囲まれて楽しい夕食が終わった。




