129.魔術大会
そして日は過ぎて、今日は魔術大会当日だ。
今日は父であるセナリックお父様とカトレアお母様、セシア兄様にニア兄様、ティア姉様も見に来るという。
直系家族総出だ。
さらに双子の両親であるジェノバお父様にハンナお母様、リヴ兄様も来る。一見するとただの見学だが、当然ながら双子の両親だと貴族は知っている。
麗しの未婚である双子。未だにかなりのお見合い希望が来るそうなので、お父様たちも大変だ。
何故なら、下見だと思われるから。双子の相手を探していると、そう誤解する輩が出るだろう。
ちなみに青い稲妻のメンバーも観にくる。当たり前だが、ルキもロキも。そのために詰め込んで依頼を受けたくらいだからな。
隠蔽の上に認識阻害、目元を隠してフード付きのローブまで着る。俺が全力で作ったから完璧だ。
双子はそれを見て感動でひしっとローブを抱きしめていた。だからな、いや本当に可愛い。
高位貴族であるパルシェン公爵家は王族のすぐ横。王族は一角を占めて、警護も手厚い。
そのすぐ隣。競技場はすり鉢になっていて、底の部分に競技をするフィールドがあり、少し高くなった部分から観客席が段になって上がっていく。
対戦の横からで競技場に近い部分が特等席だ。そこだけはVIP席として囲まれたフラットな空間となっていた。
その左右は公爵家のやはりVIP席、ここは壁で囲まれてこそいないが、横とは壁で区切られている。
フィールドに向かって開放されているので、よく見える。フラットな空間で、カウンターやバーなんかのスペースもある。ソファもあるし、フィールドを望む席ももちろんある。
他とは隔絶された居心地の良い空間で、タウロスと俺が作った飲み物や軽食もある。
ぶっちゃけ俺もそこに行きたいくらいだ。
そこの区画はルキたちの家族もいる。パルシェンのお父様たちが招待した。カミール商会とシュプール商会の結び付きはまぁまぁ知られているから、そこまで不自然ではない。
しかし、対外的には婚約者がいない俺。いやまぁ婚約者は確かにいない。結婚相手がいるからな。
で、婚約者はいない俺とセイは玉の輿の有力候補だ。
だからそのパルシェン公爵家に招待されたシュプラール侯爵家と言うのもなかなか邪推がしやすい。双子とセイまたは双子と俺。
なんとなく周りの貴族の目が真剣なのは多分、それが原因だ。
麗しの双子と独身の美形なセイ。何故か美形枠の俺。後ろから刺されないように気を付けよう。
で、ルキたちの家族の横にはアマランとウルグに守られたルキとロキ。
嫌な思い出の筆頭として聞いたことがある魔術大会。それなのに俺のために観戦に来てくれた2人がとても愛おしい。勝たないとな!
そして青い稲妻の後ろにはセシア兄様とニア兄様。オランジュは俺には会わせないとの事で、留守番だ。
で、奥のゆったりした席にセナリックお父様とカトレアお母様だ。
ちなみに青い稲妻は護衛枠のフリをして参加だ。アマランとウルグ、ルキとロキがいればなんの問題もない。外には警護が別枠で付いてるし。
で、俺はと言うとひとしきり家族に挨拶をした後は控室だ。
ちゃんと公爵家専用のスペースがある。それは王族も同じだ。今回はレオとブランが同じ部屋がいいと言うので、俺とクリスたちそして王族2人の6人で控室を使っている。
とは言え、王子と王女がいるので護衛は部屋の中に俺たちよりたくさんいる。
「カスミ、私は全力で勝ちに行くぞ」
「私もよ、勝てるとは思わないけど…負けるつもりはないわ」
レオとブランだ。俺も負ける気はないぞ!攻撃出来ないだけでな。
魔術大会だから、攻撃は魔法を使ったものに限定される。使えばいいので、純粋な魔法以外にも剣に風の刃をのせるとか、弓に火魔法で火を付けるとかも出来る。
単純な物理攻撃はダメだ。
そして、降参した相手や場外の相手への攻撃は御法度。
これをすると最悪は退学となる。
わざとじゃなく、攻撃体勢に入っていて攻撃を受けたから結果、場外の相手へ放ってしまったなどはもちろん仕方ない。ペナルティはない代わりに、失格扱いとなる。
後、初級魔法しか使えないが、顔や心臓など致命傷となり得る部位への攻撃も禁止だ。
相手が動いて当たってしまった、は問題ない。その辺りは魔術塔の魔導師たちが監視している。
なんせ参加するのは貴族だからな。
いよいよ、大会の始まりを告げる音がした。
控室で俺たちはその声を聞く。魔法による増幅だ。良く響き渡る。
司会者である教師が
「これより、魔術大会を始めます。大会開始の挨拶は学院理事長であるカラマドフ・リュ・ルクセン様よりお願い致します」
リュは王族に付く。確か現王の弟君だ。王籍を離れ、ルクセン公爵家の当主をしている。お父様たちと近いお年だった筈だ。
どうりでスキップ制度がすんなり取り入れられた訳だ。カトレアお母様が現王とカラマドフ様の妹だと知ったのは、家族になってからだいぶ後でめちゃくちゃ焦ったものだ。
物思いに耽る間に、カラマドフ様が話し始める。
「皆さんの勇姿に期待します。日頃の成果を思う存分発揮して下さい。それでは魔術大会の開会をここに宣言します」
低くて聞くものを引き込む吸引力とでも言うのか、場がシンと静まった後に割れんばかりの拍手と歓声が聞こえた。
この魔術大会は各学年行われる。最初は俺たち一学年から。
王族がいる年から後は自然と子供の数が増える。二学年と三学年は全3クラス、総勢で50人に満たない。
一学年は全4クラスで総勢64人だ。
トーナメント方式で、今日から4日間の日程で行われる。
初日は舞台が2ヶ所で、全学年1回戦まで。翌日に2回戦、その翌日に3回戦から決勝戦まで行う。
最終日は表彰式だ。魔術塔の魔術師によるエキシビションもある。
今日は一回戦だけなので気楽だ。人も多いし、分散するだろう。
(主は相変わらずぽけっとしてるな)
(それが良いところでもあります)
(深窓の令息とか、隠された令息とか、瑕疵のある令息とか傷物令息とか…どんだけ興味を持たれてるか…)
(トーカ、大丈夫だ。主は何も考えていない)
(…それもそうだな)
従者たちはそんな会話をしていた。
その日のカスミの相手はか弱そうな女子だった。しかし、トーカが
(チッ、魔術大会で傷物にされたと吹聴して、2番目に収まろうとしてるな。絶対に触れたり攻撃するしたりするなよ)
と吐き捨てるように言ってうげっとなった。
結果は背後に回り込んで後ろから風魔法で軽く押した。なんか嫌な予感がして、審判と直線上に並んでから軽く横に飛ぶと後ろの審判が顔を赤くして踞った。
(魅力系の禁違魔法だな)
バカなのか?ここには魔法に精通した魔術師がいるのに。
で、もちろんロイナス魔導師に頭から袋を被されて縄で縛られ、兵士に担がれて退場した。
(カスミ…大丈夫だよね?)(魅了だね、気分は?)
双子から念話が飛んで来た。
(双子の魅了にずっとかかってるからな、大丈夫だぞ)
(…もう)(…もう)
実際、魅了の魔法であっても掛からないと思う。それ以上の魅力がある伴侶がいるからな。
(おい、やっぱり主は天然じゃないか?)
(本気で思ってるので…)
トーカとクリスの会話はカスミには聞こえなかった。
うん、あっさり終わった。
しかし…チラッと家族のいるVIPルームを見る。デカデカと横断幕が掲げられている。
他のブースや観客席にも横断幕はある。あるんだが、基本は名前(家名)と頑張れとかそんな感じ。
俺のブースは…
―カスミ大好き―
色々と違うだろ!
全力で突っ込んだ俺だ。まず、名前。わざわざ作ったのが分かる。次に文字。
なんで大好きなんだ?普通頑張れとか必勝とか目指せ優勝とかだよな?
何故こうなった。
しかもそれを俺に見せたお父様方、お母様方はどこか誇らしげだった。
「我々のカスミだからな」
「えぇ、本当。カスミですもの」
「愛されてるなぁ」
「ですわねぇ、おほほっ」
双子も満足そうだ。
それを見た時の俺の心境はどこか面映い反面、嬉しかったのは内緒だ。
なぁセイルール、カスミの応援用に横断幕をオーダーしようと思うんだ。
父上、それはいいですね!
名前を入れて…
きっと喜びます
シュプラール侯爵家の商会に依頼しよう
それが良いですね!
カスミの応援のために横断幕を作りたい。リベリアーノ殿。
それは喜びます。文字はどうしますか?
どうしたもんかな?大好きと入れるように妻から言われていたな
でしたら名前と大好きはいかがですか?
斬新過ぎないか?
大丈夫ですよ!
父上、パルシェン公爵家から横断幕の依頼です
どんな文字を?
こんな感じで…
これはまた、喜ぶな
はい、カスミは良くも悪くも表情が乏しいですからね。喜んでもらえたら嬉しいです
当日、横断幕を見たカスミの顔が真っ赤になって俯いたのを見た家族たちは悶絶した。
か、可愛いと。あんなに喜んでくれて。
照れたカスミの儚さに撃ち抜かれた面々だった…
恥ずかしくて俯いたのを誤解されたカスミだった
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