第六章 一時間目②
ハア…ハア…
「ようやくアイツらをまいたか…」
数十分間全力で走り続けて俺達はもう疲れ果てていた。
「アイツらって、(疲れる)って言葉を知らないようだからな…」
本当にbとハサミの少年をまくのには苦労したのだ。足の早さは俺達の方が上だったのだがbの拳銃の弾が顔の横をヒュンヒュンと通ってくるので、俺達はそれにも気をつけなければならなかった。
「これで…私達は自分の人生の運を使い果たしたかもしれないわね…」
「バカ言うなよ、六時間目まであるんだぜ」
「それで…?ここはどこだ?」
逃げるのに夢中だった俺達は今、自分達がどこにいるか分からなかった。
「ここは確か…三階の三年生の教室がある所だな…」
浩二があたりを見渡して言った。
「こんな所にまできちまったんだな…」
俺はしみじみと呟いた。
「ねえ…」
今日子が俺の腕を掴んだ。
「どうした?」
「何か…変な音がしない…?」
俺は目をつぶって耳を澄ました。
ピチャ…ピチャ…
「本当だ…」
「三年一組の教室から聞こえるな」
浩二にもその音が聞こえたらしく、サッと三年一組の教室の扉の前に行った。扉を開けて、何があるのか見るのだろう。
「まて、浩二」
「なんだ、三堂」
「二人でこの扉を開けないか?」
扉を開けた瞬間、今日の朝礼の時の男子生徒みたいにならないとも限らない。
「…いいだろう」
俺達は一、二、三、と小声で言うと、勢いよく扉を開いた。
「う…」
教室の中は地獄絵だった。数体の死体が転がっており、壁や床には血や肉片、飛び出した臓器がこびり付き、異様な臭いを出していた。さっきのピチャ、ピチャという音は天井に飛んだ血が床に滴り落ちている音だった。
「どうしたの?」
今日子が近づいてきて、教室の中を覗こうとした。
「見ちゃダメだ!!」
今日子には相当刺激が強いだろうから、俺達は中の様子を見せまいと、急いで扉を閉めた。
「何よ」
今日子の頬っぺたがプクッと膨らんだ。
「アイツらに…」
浩二が唸るように口を開いた。
「アイツらにこんな事をする権利なんてあるのかよ!!!」
浩二の叫び声が廊下に響いた。
「学校を占領しやがったと思えば次は大量虐殺かよ…!俺達がアイツらに何をしたって言うんだよ!!!」
「もうやめろ浩二、お前の声でアイツらが…」
俺は優しく浩二の肩に手を置いたが、浩二はその手を振り払った。
「ウルセエ!」
浩二の目は赤く充血していた。浩二と俺との間に沈黙が流れた。今日子は手で口を押さえ、浩二の方を黙って見ている。
「…すまない…三堂…」
浩二が下に顔を伏せた。
「勝手に自分勝手な事をいきなり叫んで…」
浩二の声が涙声になった。
「いいんだよ、お前は自分の思ってた事を言っただけださ」
「…ありがとう…」
浩二がそう呟いた時、俺達の後ろの方で慌しい足音がした。
「よしっ!必ず六時間目まで生き残ってアイツらを見返してやろうぜ!」
「…ああ!」
俺達三人はまた再び、廊下を走り出した。




