第四十九章 時間割の真相
殺戮が終わった数時間後…
拠点にしていたホテルに戻り、皆と別れて、Aはチェックインしていた自分の部屋に入った。
壁に愛用している日本刀【夏】を立てかける。
部屋を見渡すとベットの上に、ダンボールが置かれていた。彼には見覚えのない箱だが、何が入っているのか、大体予想は出来た。
そんな…やっぱり…
そう思うと、悲しみがこみ上げてきた。
気を落ち着けようと、床に置いてある小さな冷蔵庫を開け、紙パックの牛乳を取り出す。ストローを刺して口をつけ、中の液体を一気に吸い上げる。
だが、大好きな牛乳のほのかな甘い味も、彼の次から次へとこみ上げてくる悲しみには敵わなかった。
今度は涙が出てくる。それと同時に、部屋の扉が開いた。
「なんだ?」
急いで涙を拭き、牛乳のパックを机に置いた。
Cだった。
「ちょっと話しがあるんだけど…いい?」
「…どうぞ」
Cは扉を閉め、部屋の明りを点けた。そういえば、点けるのを忘れていたような気がしていた。
彼女はAの顔をまっすぐと見つめていった。
「今日の冥王小学校での件だけど、何故あんな事を提案したの?」
「!」
コイツならもしかしたら、自分が仲間を集め、何故あんな意味のほとんどない殺戮を犯したか、分かってくれるだろうと思っていたが…まさか本当に…
だが、ここはシラを切っておこう。
「最初に話しただろう?「日頃のストレスを存分に発散させてくれ」って」
「あなたはそんな事で人を殺す様な人間じゃないこと位、ちゃんと分かっています
さあ、話して。何故あんな事を提案したの?」
「………」
Aは黙ってベットの上の箱をしゃくった。
中身を見てみろ。という事なのだろう。
Cはベットに歩み寄ると、ポケットからナイフを取り出し、ダンボールの口を閉じているガムテープを切り、箱を開けた。
「これは…」
ダンボールの中には、切断された男性の頭部が入っていた。目は見開き、顔は悲痛に醜く歪んでいる。歳は十代半ば辺りだろうか?
「昔のAだよ…」
Aが涙を堪えるように、小さな声でいった。
「よく剣術や、犯罪者としての心得とかを俺に教えてくれた人だよ。けして優しい人ではなかったけど、俺にとってはかけがいのない存在だった」
彼は壁に立てかけていた【夏】を手に取った。
「コイツも、この人がSCYを出る時に、俺にくれたんだ…」
「私が聞きたいのは、何故あなたがあんな…」
痺れを切らしたCが今にもナイフで切りかかってきそうな勢いだったので、
「ああ…すまない。話すよ、話す…」
彼はやっと真の理由を話し始めた。
「今から二週間ほど前辺りだったか…俺のもとに一通の手紙と写真が届いたんだ。
手紙の内容は、冥王小学校の生徒をゲーム形式で一人残らず皆殺しにしろ、さもないとこの男を殺すという内容で、写真には、手足を縛られて、血だらけになったこの人の姿が映っていた」
「…それで?」
「最初は誰か、またはこの人自身の悪戯かと思った。手紙や写真なんか今の技術を使えばなんとでもなる…そう思って、放っておいたんだが…」
Aの暗い声がますます暗くなった。
「数日後…今度はこの人の切断された手首が送られて来た」
「なるほど…それでいてもたってもいられなくなった訳か…でもどうして?」
Aの話しを聞き終えたCがハッとしたようにいった。
「あなたはこの人を救いたかったんでしょ?だけど、なんで最後の三堂一郎の時は、あんな真似をしたの?」
「運に身を任せたんじゃない。神に身を任せたんだよ」
Aは机に置いてあった牛乳を再び一口飲んだ。
「本当はあのままヤツの首を切り落としてもよかったんだがな…」
一郎に話しかけた時、振り向いた彼の目を見てAは度肝を抜かれた。
彼の目は、Aが今まで見た事の無い様な目をしていたからである。
まるで何というか…強いていうなら、今まで数え切れないほどもの悪魔や化け物と戦ってきた、勇者の様な…
そんな勇者を、自分の様な知恵のない、腕力だけで生きてきた様な人間が呆気なく殺してしまっていいのだろうか?だが、その勇者を殺さなければ、自分の大切な人が死んでしまう。
そこで彼が考えたのは、あのコイントスである。
周りが見ればただの気まぐれの運任せかもしれないが、彼にとってはどちらの意が強いかの、神の審判だったのだ。
そして、勝利の審判は、勇者に傾いた。
「…まさかあなたが神にね…」
もう用は無いのだろう。Cはお休みなさいといって、クルリと体の向きを変え、部屋から出ていった。
「俺も、悪魔に命を売った訳じゃないんでね…」
自分以外、誰もいなくなった部屋で、Aは呟き、ベットに足を運ばせる。
ダンボールの中に入っている先輩の首を取り出し、人差し指と中指で彼の目を閉じさせた。
「すみませんでしたAさん…冥王小の皆さん…」
首を置くと、彼は床にうずくまり、自分の顔を手で覆った。




