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エピローグ 謝罪

「三堂一郎」


 名前を呼ばれ、俺は黙って席から立った。


 機械的な足取りで、ステージまで歩み寄る。


 今日は冥王小学校の卒業式だ。といっても、本人が出席しているのは生き残った俺とその日、病気や用事で学校に来れなかった者達。


 その他は代理人として、彼らの遺影を抱えた両親達である。


 そして会場は、学校の体育館ではなく、児童館の体育館を使用して行われた。


 あの事件はいくらテレビや新聞を見ても、少しも報道されなかった。やはり杉下さんのいった通り、ヤツらの事は本当に重大な機密だったのだろう。


 親達の暗い視線が俺に集まる。


「人殺し!」「お前が代わりに死ねばよかったんだ!」等とは、さすがにいわれなかったが、冷たい視線で見られるよりは、そういわれた方が俺にとっては、遥かによかった。


 階段をゆっくりと上がり、台の前に立った。


「三堂一郎殿。貴方は…」


 校長代理はお決まりの言葉を述べると、卒業証書を俺に突き出す。


 俺は残った右手でそれを貰い、再び礼をし、ステージを下りるための違う階段の前に立った。


 ここで卒業する者は、自分の将来の夢を叫ぶのだ。


 俺の夢は…


「僕は、悲惨な事件を起こした悪い人を捕まえたり、悲惨な事件を未然に防いだりする、立派な警察官になりたい!」


 体育館全体に響くように、大声で叫んだ。



「本当に、今日の卒業式までに退院できて良かったわね。一郎」


「うん」


 卒業式が終わり、俺と母さんは家に帰る近道のため、少し人通りの少ない路地を歩いていた。


 あの日の事は、俺に気遣ってくれたのだろう。母さんと父さんは少しも聞いてこなかった。


「それにしても、まさかあなたが警察官になりたかったなんてねぇ」


「まあね…」


 本当は政治家辺りにでもなって、日本だけではなく、世界に貢献出来る仕事に就きたいと思っていたが、あの事件がきっかけで俺はヤツらの様な悪を打ち砕く警察官になりたいと、将来の夢を変更したのだ。


「ちょっと…いいですか?」


 背後でいきなり声がしたので、俺と母さんは驚いて振り返った。


「…お友達?」


 その人物の姿を認めると、小声で母さんは俺に囁く。


「………先に帰っててくれないかな、母さん」



 母さんの姿が見えなくなると、俺はその人物に向かっていった。


「何しに来た…F…」


「それは…」


 今日子を射殺した少女は、震える口から、か細い小さな言葉を漏らした。


「…は?」


 俺は自分の耳を疑った。


 俺が聞いたのは到底、人を殺して逃げた様な人間の口から出る言葉ではなかったからである。


 余りにも信じれなかったので、俺は思わずもう一度いってくれるようにFに頼んだ。


「…分かりました」


 深呼吸をすると、彼女は一回目よりも大きな声でその言葉をいった。



「ごめんなさい…」



「…何かの…冗談か?」


 馬鹿な…


 こんな事が…


「いえ、私はそんなのをいうためにここへきたんじゃありません。

 ただ…私は自分の犯した罪を少しでも…」


「だったら警察に自首するなり、ナイフを自分の胸に突き刺して自殺するなりしろよ」


 そういって、俺は彼女から離れようとした。それを見たFは急いで俺の前に立ちふさがった。


「警察に自首したら私はいいけど、何故か皆が困ります…それに…」


「?」


「あの日…私初めて人殺しをしたわけじゃないんですよね…」


「…という事は、過去にもお前は殺人を犯したのか…」


 Fは黙って頷くと、今度は口元に薄い笑みを浮かべた。


「その度に私は自分の罪を罰するために、自らの命を断とうと思うんですけど、何故か死ぬ事が出来ないんですよ。

 首を吊ろうにも、支えの台を蹴る事が出来ない。

 睡眠薬を大量に飲んでも、結局は全部吐き出してしまう…」


 薄い笑みが、今度は大らかな笑みに変わった。だが、その彼女の目は悲しそうな感じだった。


「本当におかしい話ですよね、一郎さん。

 何人も人を殺す勇気はあるのに、その罪を償う勇気はないなんて」


 そうか…


「だからお前は、唯一出来る罪滅ぼしをしに、再び俺の前に姿を現したんだな」


 Fは黙って頷く。


「だけど…俺に謝った所で、俺は許しても、死んだ今日子や浩二はお前らの事、許してくれないかもしれないぜ」


「それじゃあ…私はどうしろと?」


「んじゃあ、こうしたらどうだ?」


 俺は人差し指を立てて、Fにいった。


「もしも、お前が幽霊とかの存在を信じているんなら、どっかの霊媒師に頼んで、皆の幽霊を呼び出してもらえばいい。

 それで、もしも皆の霊がお前の事を許してくれるのならば、俺もお前の事を許してやる。

 だが逆に、皆の霊がお前を許してくれなかった場合は、俺もお前の事を許さない」


 病院に入院している際に、何気に見ていたテレビであった、幽霊や宇宙人等を扱った、いかにもやらせ番組の様な番組を思い出していってみた。


 最も、俺はそんな幽霊等の事を信じていない。だが、それを聞いたFの目は、きらきらと輝いていた。(案外こういった話は信じているかもしれない。)


「分りました。それでは今度、それを霊媒師の方を雇って試してみましょう。

 それでは一郎さん。失礼します」


 Fは俺に向かっておじぎをすると、建物と建物の間の小さな隙間へと入って行き、闇へと消えていった。



 Fがいなくなったのを見届けると、俺はさっき自分がFに言った死んだ皆を思い浮かべた。


「お前らなら、許してやるよな…アイツの事…」


 そう呟いて、俺はその場を後にした。




 ここからだ 真の時間割は

ご愛読ありがとうございました。

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